笠原一輝のユビキタス情報局

統合型GPUを上回る“付加価値”を提供するAMD「Radeon HD 6000M」



Radeon HD 6650Mを搭載したAcer ASPIRE 7552G

 AMDは1月4日にプレスリリースを発行し、同社が“Vancouver”(バンクーバー)の開発コードネームで開発してきたノートPC向けGPUを、「Radeon HD 6000M」シリーズとして発表した

 AMDは1年前の2010年1月に、Direct3D 11(いわゆるDirectX 11)に対応したGPUであるATI Mobility Radeon HD 5000シリーズを投入したが、Radeon HD 6000Mシリーズはその後継となる。基本的な内部構造などは従来製品を踏襲、ないしは若干の改良にとどまっているが、一部のSKUでHDMI 1.4aやDisplayPort 1.2への対応などの機能拡張や、UVD3に対応することでBlu-ray 3Dに対応するなど新しい機能が追加されているのが大きな特徴となっている。

●Direct3D 11対応だけでなく、HDMI 1.4a、DP1.2、UVD3などの新機能を追加

 AMD モバイル単体グラフィックス 製品マネージャ アシフ・レフマン氏は「昨年(2010年)リリースしたATI Mobility Radeon HD 5000シリーズでノートPC向けGPUで初めてDirectX 11に対応し、DirectX 11対応GPU市場では大きなリードを競合に対してつけた。今回のRadeon HD 6000Mシリーズはその後継製品として、リードを拡大する製品になる」と述べ、AMDのDirect3D 11市場でのリードを今後も維持していき、そのための武器がRadeon HD 6000Mシリーズと説明した。

 レフマン氏によれば、Radeon HD 6000Mシリーズの大きな特徴は以下の4つだという。

(1)上から下までDirectX 11とGDDR5に対応
(2)一部のSKUで機能が強化されたEyefinity(マルチディスプレイソリューション)に対応
(3)一部SKUを除き、AMDがHD3Dと呼ぶ3D立体視をサポート
(4)AMDがEyeSpeedと呼ぶGPGPUソリューションに対応

 Radeon HD 6000MはすべてのSKUがDirect3D 11に対応し、一部SKUでは従来製品に比べて性能が向上しているという。ビデオメモリには全部のSKUでGDDR5ないしはDDR3が選択でき、GDDR5を選ぶとさらなる性能の向上が期待できるという。

 Eyefinityと呼ばれるマルチディスプレイのソリューションはMobility Radeon HD 5000Mでも標準で対応していたが、Radeon HD 6000Mでは一部SKUで機能が強化されている。具体的にはHDMI 1.4aやDisplayPort 1.2などへの対応が明らかにされており、DisplayPort 1.2への対応で従来よりも多くのディスプレイを接続することが可能になっている。

 また、一部のSKUでは、AMDの新しい動画再生エンジンであるUVD3に対応している。UVD3では、MPEG-4 MVCのハードウェアデコードに対応しているため、CPUに負荷をかけずにBlu-ray 3Dのタイトルを再生できる。また、DivX/Xvidのハードウェアデコードにも対応している。EyeSpeedとは、AMDのGPGPUのマーケティング名で、要はOpenCLに対応したGPGPUのソフトウェアを利用できるということだ。この点に関しては前世代と機能は同じだが、対応するソフトウェアは2010年よりも増えている。

●半分は改良版のダイ、半分は従来製品のダイを利用

 ところで、先の段落の中で筆者は“一部のSKUで”という表現を何度も使ったため、具体的にどのSKUが対応しているのか? と疑問に感じた方も少なくないだろう。以下に示した表がAMDが公表した内容に加えて、レフマン氏に取材した内容を追加したRadeon HD 6000MのSKU構成になる。

【表1】Radeon HD 6000MのSKU構成
 Radeon HD 6900MシリーズRadeon HD 6800MシリーズRadeon HD 6700M/6600MシリーズRadeon HD 6500MシリーズRadeon HD 6400MシリーズRadeon HD 6300Mシリーズ
ダイBlackcombBroadwayWhistlerMadisonSeymourPark
トランジスタ数17億10.4億7.15億6.26億3.7億2.42億
対応マーケットハードゲーマーゲーマー性能重視ユーザー薄型・性能重視ユーザー一般ユーザー価格重視ユーザー
Direct3D111111111111
メモリGDDR5/DDR3GDDR5/DDR3GDDR5/DDR3GDDR5/DDR3GDDR5/DDR3GDDR5/DDR3
メモリバス幅256bit128bit128bit128bit64bit64bit
SP数96080048040016080
ビデオ再生エンジンUVD3UVD2UVD3UVD2UVD3UVD2
BD3D対応◎(※6430Mは未対応)
最大ディスプレイ数666644
HDMI1.4a1.4a1.4a1.4a1.4a1.4a
DisplayPort 1.2対応-対応-対応-
VancouverManhattan

 6つある製品群のうち、3つはVancouverシリーズのダイであるBlackcomb(ブラックコム、開発コードネーム)、Whistler(ウィスラー、同)、Seymour(シーモア、同)になっており、これらの製品はUVD3、DisplayPort 1.2に対応するなど最新の機能を有しているが、それ以外の製品に関してはManhattanシリーズのダイになっているため、UVD3やDisplayPort 1.2には対応していないのだ。

 なお、レフマン氏は明らかにしなかったが、VancouverシリーズのGPUは、デスクトップPCの製品で言えば、Northen Islands(ノーザンアイランズ、開発コードネーム)に属する製品で、BlackcombがBarts(バーツ)相当で、Whistlerはまだリリースされていないミドルレンジ向けのTurks相当、Seymourは同じくまだリリースされていないCaicos相当になる。

●シームレスなスイッチャブルグラフィックス導入

 Radeon HD 6000Mシリーズは、従来製品と同様にIntel/AMDの内蔵GPUとのスイッチャブルグラフィックスに対応している。なお、現時点でのRadeon HD 6000Mシリーズのスイッチャブルグラフィックスは、従来製品でもサポートされていた2つのGPUのドライバを排他的に切り替える方式で、ACアダプタの有無などをトリガーにして2つのGPUを切り替えて利用する。特に、Sandy Bridge世代では、クアッドコアにもGPUが内蔵され、すべてのCPUが内蔵GPUを利用できるようになっているため、ノートPCの単体GPUにはこのスイッチャブルグラフィックスの機能が必須の機能と言っていいだろう。

 AMDの競合となるNVIDIAは、Windows 7で2つのグラフィックスドライバをロードできる機能を利用して、GPUをあらかじめ用意されたアプリケーションプロファイルによってシームレスに切り替えるOptimus Technologyを導入しているが、レフマン氏によれば「我々は第1四半期に新しいシームレスなスイッチャブルグラフィックスを導入する。しかし、現時点ではOEMメーカーの準備が整っていないため、導入はもう少し先になるだろう」との通り、AMDもOptimusのような新世代のスイッチャブルグラフィックスを導入する計画であるとのことだ。ただし、現時点ではそのシームレスなスイッチャブルグラフィックスがどのような機能を持つのかに関して、レフマン氏はコメントできないとした。

Acer Aspire 5253GはBrazosプラットフォームのノートPC。内蔵のRadeon HD 6310とRadeon HD 6490Mを切り替えて利用できる

●すでに100以上のデザインウインを獲得、順次OEMメーカーから登場予定

 すでに別記事でも述べているとおり、IntelのSandy Bridgeこと第2世代Coreプロセッサ・ファミリーに内蔵されている内蔵GPUは従来製品に比べて処理能力が上がっており、Intelのムーリー・イーデン副社長の言葉を借りるなら「現在市場にある単体型GPUの40%を性能面で上回っている」というほど性能が上昇している。

 レフマン氏はSandy Bridgeの内蔵GPUの処理能力が上がっていることを認めつつも、単体型GPUの魅力はまだまだあると述べる。レフマン氏は「DirectX 11、MPEG-4 MVC、DivX、DisplayPort 1.2など、内蔵GPUがサポートしていない機能はまだまだある。そういう意味では、これからも単体GPUのニーズは減っていくわけではないと考えている」とする。すでにRadeon HD 6000Mシリーズで100以上のデザインウインを獲得しているといい、今後数カ月の間に搭載製品が多数登場することになるだろうと述べた。

Radeon HD 6900Mを2つを搭載したデスクトップリプレースメントノートPCAcer Aspire 8950GはCore i7-2720QMとRadeon HD 6850Mを搭載している18.4型ノートPC

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(2011年 1月 7日)

[Text by 笠原 一輝]