■笠原一輝のユビキタス情報局■
「VAIOの里」の石碑が示すとおり、長野ビジネスセンターはVAIOの基幹事業所として生産を行なっている |
ソニー製品の直販を行なうソニースタイル・ジャパン株式会社は、自社サイトのソニースタイルにおいて、「VAIO Zシリーズ」を購入したユーザーの中から抽選で10名を、VAIOシリーズの企画、設計、製造を行なう拠点となるソニー株式会社長野ビジネスセンター(長野県安曇野市)に招待し、VAIOの組み立て体験や、工場見学、開発者との座談会などを行なうイベントを6月26日に開催した。
通常、こうした工場には、さまざまな機密があることもあり、なかなか一般に公開されることは少ないのだが、今回のイベントは「思い出を一体化した、完全に世界に1台だけのVAIOオーナーメードモデルを提供しよう」という発想の下、ソニースタイルと長野ビジネスセンターが一丸となって実現された。今回は筆者も参加するとともに、特別に撮影許可もいただいたので、その様子をお伝えしていきたい。
●東京-長野の2拠点体制から長野のみの一気通貫体制へVAIOシリーズを生産する工場としての長野テクノロジーサイト(当時は長野テック)に関しては、2009年10月に「VAIO Xシリーズ」が登場した時にも記事として紹介した。長野ビジネスセンターは、VAIOの製造だけでなく、設計や研究開発が行なわれる拠点としても利用されていると紹介した。開発から製造まで、長野ビジネスセンターに集結させることで、関係者すべてが製品開発に携わることができるようになり、より良い製品を生み出すことができるようになるというソニー関係者の言を紹介した。
2010年に入り、この戦略はさらに加速されることになった。というのも、ソニーは今年の4月に、製品の企画担当者を含めほとんどの関係者を同サイトへ移動することを決めたからだ。
ソニー株式会社ネットワークプロダクツ&サービスグループVAIO & Mobile事業本部 副本部長の赤羽良介氏 |
ソニー株式会社ネットワークプロダクツ&サービスグループVAIO & Mobile事業本部 副本部長の赤羽良介氏は「2008年に発生したリーマンショックの後、PCビジネスは非常に厳しい状況に置かれており、効率とスピードを上げていかないと競争に勝ち抜けなくなった。すでに設計、品質保証、サプライチェーンなどは長野にあったのだが、それでも東京側の企画の関係者との一体化が効率良くできていなかった。そこで、企画関係者も長野に集合させることで一気通貫体制を構築し効率改善を目指した」と、その目的を説明する。
これまでVAIO事業本部では、「企画さん」と呼ばれる製品企画担当者が製品の概要を決め、それを「設計さん」と呼ばれる商品設計担当者と話し合って作り込むという手法が採られていた。最初、企画さん、設計さんのどちらも東京にいたのだが、前述の通り、数年前から設計さんの一部は、長野に常駐するという状況になっていた。つまり、担当者が東京と長野に分かれるという状況になっていたのだ。
設計さんが長野に常駐する意味は、以前の記事でも述べたとおりで、品質のチェックを担当するQA(品質保証)担当、製造のラインを統括する製造担当、無線周りのチェックを担当するEMC(Electro-Magnetic Compatibility)担当など、製品を設計、製造する各段階に存在する責任者が一同に介すことで、一体感を生み、従来よりも良い製品が短期間で設計製造できるようになるということにあった。
ただ今度は、以前は東京でうまく機能していた企画さんと設計さんの連携が悪くなってしまうというデメリットが出てきた。長野は東京から電車で3~4時間程度とはいえ、物理的には毎日会えるのに比べると、関係が希薄になることは避けられないからだ。
「商品企画担当もモノを作っている現場を見て欲しいと考えていた。企画担当者も設計や製造の現場を日々見ることで学べることは沢山あるはずで、それを製品のアイディアに生かして欲しい」(赤羽氏)というのが現場トップの目算で、今後そうした新しい視点を製品計画に生かすことで、より効率を上げていきたいというわけだ。
この決断には相当な覚悟が必要なはずだ。というのも、それにより多くの社員が東京から長野への移住を余儀なくされるからだ。社員の中には移住が難しい理由を抱えている人だって少なくないだろう。実際赤羽氏もそれらを乗り越えるのは大変だったことは認めている。「個々の社員にはそれなりの事情があったとは思う。しかし、それでも現場のトップである私も含めて移動することで、VAIO事業本部としての一体感を出していきたいと考えた」と、VAIO事業本部として相当の覚悟で移動に臨んだことを明かした。
現在、東京に残っているのは、セールスやマーケティングなどの一部と、湘南にあるコールセンターぐらいで、残る関係者はすべて長野に生活のベースを含めて移動し、VAIO製品の企画、開発から製造までが、すべて長野ビジネスセンターで行なえる体制が完成しているのだ。
●ソニースタイルユーザー向け企画の一環として開催されたイベント'61年に設立されて以来、半世紀近く操業されてきた長野ビジネスセンター(長野テクノロジーサイト)だが、ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長の畑井尚也氏がイベント開会の場で「工場という性格上、多くの秘密がある。そうした中で今回初めての取り組みとして、工場側の担当者の方にもご協力をいただき、ようやく実現することができた」と挨拶した通り、一般ユーザーを受け入れるというのは今回が初めての体験なのだという。
ソニースタイルは、VAIOユーザー以外も対象に、これまでさまざまなユーザーサービスや企画を行なってきた。その1つがStyle Member Programと呼ばれるサービスで、会員にSTAR(スター)を付与することで、ユーザーは次回購入の時にさまざまな特典(他の会員よりも早期に購入できたり)などを受けられる。詳細はソニースタイルのWebサイトで確認して欲しい。
今回紹介する「安曇野VAIOの里でのVAIOオーナーメード体験」もその1つだ。3月以降に発売されたVAIO Zシリーズを購入したソニースタイルメンバーの中から合計10名が招待され、長野ビジネスセンターで数々のイベントに参加した。畑井氏によれば、遠くは北海道から来た参加者もいるということで、日本全国からVAIOユーザーが集まる形となった。
ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長の畑井尚也氏 | イベントスケジュール | もっとも遠い参加者は北海道から参加。まずは長野ビジネスセンターの概要を説明 |
●バーコードを利用したトレーサビリティの高い基板実装
参加者がまず最初に、基板製造のラインを見学した。ここで作られる基板は、マザーボードに限らない。サブ基板と呼ばれるドーターボードもそうだし、バッテリに内蔵される基板などもそれに該当する。長野ビジネスセンターで作られるVAIOは、薄型軽量な製品が多い。そのため、単にプリント基板にチップをのせていけばいいというものではなく、基板そのものも高密度実装が要求される。
今回参加者が見学したラインは、マザーボードとバッテリの基板を製造するラインで、非常に小さいコンデンサや抵抗などを基板に実装されていた。製造は自動化されており、基板の最初の段階で、バーコードが印刷され、そのバーコードにより、取り付けられる部品の情報などを機械が読み取り、実装していく。
●ヒューマンエラーを起こす要因を極限まで減らしたVAIO組み立てライン
工場にも歓迎の看板(?)が設置されていた |
今回のメインイベントと言って良いのが、VAIO Zシリーズの組み立てラインの見学だった。今回のイベントの参加者はVAIO Zシリーズのオーナーなので、いずれもその組み立てには興味津々だったのが印象的だった。さらに、今回はサプライズとしてVAIO Xシリーズ、VAIO Pシリーズのラインに関しても見学できることが現場で発表され、参加者は大喜びだった。
VAIO Zシリーズのラインでは、バーコードが印刷された生産指示書を元に、生産されている様子などが説明された。担当作業者がこの生産指示書をバーコードリーダーにかざすと、自分の行なう作業が画面に表示され、それを元に作業を行なう。これにより、ミスをできるだけ減らすことができる。この生産指示書は、製品が完成し、箱詰めされるまでずっと製品に貼り付けられて、一緒にラインを流れていくことになる。
VAIO Zシリーズのラインはユニークな仕組みになっている。メインの組み立てラインと平行して、液晶ユニットのラインと、キーボードのラインが走り、それらが途中で1つのラインになる。平行作業することで作業時間を減らす狙いがあるのだという。
生産指示書のバーコード化などをしても、人間のミスは起こりうる。そのため、組み立て機器の工夫でも、それを減らす工夫がある。例えば、ラインの途中で液晶部分と本体を合体される工程では、きちんと部品をセットしないとドライバーが動作しないようになっており、かつきちんと指示通りにネジ止めが行なわれないと、筐体を固定しているカバーから外れないようになっている。
また、コンピュータとカメラを利用した検査も取り入れられている。これは製造途中の製品を撮影し、データベースに格納されている画像と一致するかどうかをコンピュータが確認するというシロモノだ。
参加者が驚いていたのが、エージングと呼ばれる工程だ。この工程では、予め製品そのものに書き込まれた情報に基づき、テストプログラムが実行され、またネットワーク経由で自動的にOSやアプリを自動でダウンロードして、コピーすることにより完成するという非常にインテリジェントなシステムだ。
以前は、CDやDVDなどを利用して検査員の手によりインストールを行なっていたが、長野テクノロジーサイトでは、世界中に向けて出荷されるVAIOを製造するため、そのメディアが数百種類に達してしまうため、作業効率が非常に悪くなってしまっていたのだという。
最後は、以前の記事でも紹介したIntelやMicrosoft、NVIDIAなどのロゴシールや、無線関連の表示シールなどを貼る工程になる。この工程でも、シールが複数種類あるため、バーコードのデータを元に、必要なシールだけが自動的に指示。また、レーザーにより貼る場所が指示され、曲がらずに貼れるように工夫されている。最後にはシールの自動検査マシンも用意されており、カメラでシールを撮影し、指示書の通りのシールが貼られているかと、大きく曲がっていないかなどをチェックするようになっている。
このように二重三重のチェック体制がとられており、それらのデータがVAIOのシリアル番号と紐付けられることで、ユーザーから不具合の問い合わせがあったときに、製造時に問題がなかったことなどが答えられるような体制になっている。
●QA、EMC、CTOカスタマイズラインなども見学
このほか参加者は、QA(品質保証)サイト、EMC(Electro-Magnetic Compatibility)サイト、CTO製品のカスタマイズラインなどを見学して回った。QAサイトおよびEMCサイトが何をやっているかに関しては以前の記事が詳しいのでそちらを参照していただきたい。
QAサイトでは角衝撃試験と環境試験の2つのテストを見学した。角衝撃試験は、PCを角から机などにぶつけ、それでも動作する様子がデモされた。見ていた参加者からは「PCが可哀想……」という声も出るほど派手だったが、堅牢性を確認して感心することしきりだった。また、環境試験では、高温/高多湿な環境と、低温環境の2種類の状況が再現される設備に人が入ってみるという様子が公開された。
EMCサイトでは、PCから発生する電磁波を測定する3m法電波暗室、静電気のテストが行なわれるシールドルーム、ワイヤレスWANのテストを行なう通信性能評価6面暗室などが公開された。
特に参加者が感心を示していたのは、ワイヤレスWANのテストを行なう通信性能評価6面暗室で、キャリアが求める電波特性を実現されているかがテストされる。3m法電波暗室は、日本では使われていない電波(例えばEDGEやGSM)などの電波もテストできるようにするため、いわゆる電波暗室(電波を外部に漏らさない部屋)になっているのだが、その電波暗室を実現する吸収剤が非常に高価であることなどを説明されると驚いた様子だった。
CTOのカスタマイズラインでは、日本では製造されていないモデルのCTO(ソニースタイル・ジャパン経由で注文を受けたカスタマイズ注文)による組み立ての様子が公開された。中国のODMメーカーの工場で製造され納品された製品が、このラインで顧客の指定したスペックにカスタマイズされ、パッケージングを経て出荷される。このラインの最大の特徴は、外観が顧客の注文通りになっているかを自動で判別するマシンで、やはりカメラを利用して各部を撮影しマスターデータと照らし合わせることで注文通りかを判別することができる。
●盛り上がったVAIO Zシリーズ開発陣によるVAIO Zシリーズ開発秘話
VAIO ZシリーズPLの笠井貴光氏 |
イベントでは、VAIO Zシリーズ開発陣による開発秘話のコーナーも設けられた。なかなか一般ユーザーが開発陣と直接話す機会というのはないだけに、これは非常にうれしいだろう。筆者はテクニカルライターという仕事をしているだけに、開発陣と話をする機会には恵まれているが、そんな自分でさえ、1ユーザーとして聞いてみたいことは山ほどあるからだ。
冒頭ではVAIO ZシリーズPL(プロジェクトリーダー)の笠井貴光氏が新しいVAIO Zシリーズの全体的な開発方針などを説明した。笠井氏は「VAIO Zシリーズは究極のモバイルPCとして開発している。前モデルとなるVAIO type Zでも究極を極める製品として世に送り出したので、新Zは究極を超える究極として世に出したいと思って開発した」と述べた。その具体的な方針として「旧Zを超える高性能、薄くて軽くてスタミナのあるモバイル性能、プレミアム感のあるデザインなどを実現することで、ビジネスだけでなくオフタイムにも使えるようなPCを目指した」と説明した。
笠井氏によればそれらのコンセプトは表のコンセプトで、笠井氏自身として裏のコンセプトも設定したのだという。「なんだかわからないけど最高に熱かった、という時期が人生1度や2度はあると思う。VAIO開発陣としては、今回のVAIO Zの開発がそうで、自分の常識を超えるチャレンジをしていこうと考えて取り組んだ」と、その意味するところを説明した。
VAIO Zシリーズ開発陣とユーザーが直接向き合っての座談会 | VAIO Zシリーズで注力した3つのコンセプト |
目指すは世界一のモバイルPC | VAIO Zでこだわったポイント |
●高速切り替えできるようになったハイブリッドグラフィックス
ソフトPL河田太氏 |
笠井氏が説明した3つのポイント(高性能、高いモバイル性能、プレミアムデザイン)のうち、高性能について語ってくれたのが、ZシリーズソフトPLの河田太氏だ。
VAIO Zシリーズは複数の点で高性能を実現している。プラットフォームがCalpella(カルペラ)になったことで、プロセッサと内蔵GPU(前モデルはチップセット内蔵)の性能が向上。さらにSSDを4台RAID 0で接続したクアッドSSDにより、ボトルネックになっているストレージへのランダムアクセス性能を大幅に改善し、OSやアプリケーションの起動時間を短縮しており、ユーザーの体感が大きく改善している。
もう1つの大きな性能強化ポイントがハイブリッドグラフィックスだ。ハイブリッドグラフィックスは、2006年にリリースされたVAIO type SZで初めて搭載した機能で、チップセット(現在CPU)側に内蔵されている内蔵GPUと、外付けGPUを状況に応じて切り替えることで、バッテリ駆動時間を延ばしたいときには低消費電力の内蔵GPU側で利用し、性能がほしい時には消費電力が多いが処理能力が高い外付けGPUに切り替えて利用するという仕組みになっていた。SZでは、切り替えにはOSの再起動が必要だったが、OSの再起動なしに切り替えることが可能になったのが2008年にリリースされたVAIO type Zだった。
新VAIO Zシリーズでは新しくダイナミック・ハイブリッド・グラフィックスとして、新しくAUTOモードを追加したが、これにより動作検証の組み合わせは飛躍的に増えてしまい、実現するのは一筋縄ではいかなかったという。
その実例として、河田氏は時差との戦いを挙げた。というのも、グラフィックスドライバを開発する拠点は、NVIDIAもIntelも世界各地で開発を行なっており、そしてソニーは日本の長野に……、と考えただけで気の遠くなるような距離がある中で電子メールなどでやりとりしながら開発を進めていったのだ。
そうした努力の甲斐あり、新Zは旧VAIO type Zに比べて切り替え時間が圧倒的に早くなっている。旧Zでは安全のために残していたマージンを削ったり、画面が消えるタイミングを変更したりすることで、ユーザーにはあっという間に切り替わっているかのような印象を与えることに成功したのだという。
また、新VAIO Zは、フルHD(1,920×1,080ドット)の解像度の液晶パネルを選択することができる(店頭モデルはWSXGA++)のだが、これも実は難しかった。一般的なノートPCではLVDSという信号線を利用してマザーボードと液晶を電気的に接続するのだが、フルHDのような高解像度なパネルを利用すると、必要な信号の数が増えてしまうので、かなり太いケーブルを採用しなければいけなくなり、VAIO Zのような薄型のマシンには入れるスペースがなくなってしまうのだ。そこで、まだあまり採用例が少なくいeDPと呼ばれるDisplayPortの内蔵版のケーブルを採用することで、細いケーブルを利用し、問題を解決した。
ただし、eDPの規格そのものが新しい規格であるため、読み手の解釈によりだいぶ異なる部分があり、3社共同開発という中でそれぞれに解釈が異なってしまい、つなげてみたらうまく動かなかったなどの事態も発生したのだという。河田氏によれば、そこはソニーの主導で皆の解釈を統一して、きちっと動かせるようになったということだ。
●シミュレーション技術を応用し、効率の良い高密度基板の設計が可能に
Zシリーズ電気PLの高木健次氏は基板設計に関して説明した。VAIO ZシリーズのようなモバイルPCでは、基板に割くことができるスペースが限られている。その中に多くの機能を盛り込むためには、配線密度を高くする必要があり、いかに波形品質を確保した上で高密度実装を実現できるかという課題がある。特に、今回のVAIO ZではGPUのVRAMを1GB搭載しているため、VRAMチップが2個から8個に増えており、さらに余裕がなくなってしまっているのだ。
そこで、VAIO Zシリーズの基板を設計するにあたり、コンピュータシミュレーションを多数取り入れたのだという。こうした設計手法はVAIO Xなど他のモデルでも使われているもので、波形品質や基盤の堅牢性を確保をしながら高密度実装、配線を詰めるという作業に対して活用するものだという。「さまざまなシミュレーションを行なうことで効率よく最適な基板を作ることに成功した」(高木氏)という。
高木氏によれば、高密度実装、高密度組み込みを実現する上での課題の1つは不要輻射だという。というのも、今回のVAIO Zシリーズでは非常に高密度の基板を採用したため、Ethernetケーブルの取り回しなどにノイズが影響し、思った性能が出ないなどの問題があったという。そこで、QA、EMC、製造メンバーと協力して問題の原因を判別しながら測定を繰り返し、より最適なケーブルの取り回しを見つけることができたのだという。「このあたりがすべての関係者と測定設備が1カ所に集まっているメリット」(高木氏)というのも納得できる話だ。
電気PL高木健次氏 | 新Zになり、さらに表面実装するパーツが増え、さらに基板を高密度化する必要がでてきた |
●たかがスイッチ、されどスイッチ
メカPL原田真吾氏 |
最後にZシリーズメカPL原田真吾氏がケースのデザイン関連を解説した。新Zでは押し出し製法とプレス製法の2つを融合して作り出した切削アルミパームレストを採用し、シリンダー部分との一体成形を行なうことでデザイン上のアクセントを維持しつつ、軽量化/堅牢化などにも貢献しているという。
今回デザインでもっともこだわったのは、AUTOモードが追加されたハイブリッドグラフィックスの切り替えスイッチだという。「今回モードが3つになったため、スイッチを三角形にすることは早い段階で決まった。それに合わせて、いかに使いやすいスイッチを作るかが課題だった」(原田氏)。具体的には、三角形のスイッチでしっかりとクリック感もあり、重すぎないものを関係者のコンペのような形で募集したのだという。
クリック感を出すにあたっては、スイッチの下にある板金のデザインをどうするかが課題だったという。実に多くの板金の形を作って研究したそうだが、結局は板金だけでなくモールドを足すことでクリック感を出すことに成功したという。原田氏は「実のところAUTOモードが非常に良いできなので、ほとんどの方はAUTOモードに固定されると思うが、それでもスイッチを動かすときには極上のクリック感を感じて欲しい」と、参加者に訴えていた。
なお、本来は座談会ということで1時間の時間が用意されていたのだが、開発者の皆さんが熱いトークを繰り広げたため、ユーザー側から語りかける時間がなくなってしまい、急遽開発トークに変更になった。なお、その後の休憩の時間に開発者の皆さんが参加され、VAIO Zシリーズユーザーからの生の声を熱心に聞き取る姿が印象的だった。
押し出し製法とプレス製法の両方を使った切削アルミパームレスト | ハイブリッドグラフィックスのスイッチは三角形になることが最初に決まった | スイッチの下に入る板金はいくつも試作してみて、最終的な形を決定したという |
●VAIO Zシリーズの組み立てを自ら体験
今回のイベント参加者は、購入したVAIO Zシリーズの組み立てにも携わった。とはいえ、すべてのラインを体験するのではなく、最後の2つの工程を体験した。熟練の作業者であれば2分程度で終わる工程だが、体験会ではネジの締め方の講習から入っているので、1時間程度を要した。
1人の参加者に対して、2人の講師がついた。1人は作業者の指導を行なう技術スタッフだ。製造技術と呼ばれる設計された商品を量産ラインへ導入を行なっている。もう1人がマイスターと呼ばれる製造管理の担当である管理スタッフだ。全行程の作業習得はもちろん、製造に関わる作業者への指導も行なっている。
組み立て作業は1つの机に参加者が1人に対して、講師となるマイスターと製造技術スタッフの男性という2人がつく豪華体制 |
まず参加者はマイスターの指導の下に、電気ドライバーの使い方を学んだ。練習台に電子ドライバーを利用してネジをはめていくトレーニングだ。このトレーニングは、実際の工員のトレーニングでも利用されているもので、25個のネジ穴が開いた練習台に確実にネジをはめていく。なお、このようなトレーニングは、実際の作業者のトレーニングにもあり、指定時間内に規定の本数のネジ締めができるかで、研修の合否が決まるそうだ。今回の講師となったマイスターの女性陣はとても速いそうで、実際お客さんの目の前でやるというプレッシャーのかかる環境ながら、もっとも速いマイスターの女性は、この参加者の約1.5倍のスピードでネジ締めを終わらせるという職人芸を披露した。
ドライバーの使い方を把握したところで、実際の作業に取りかかることになる。今回の作業では光学ドライブの取り付け、キーボードの取り付けという、それなりに難易度が高い2つの工程が行なわた。その後、シールの貼り付けを行なった後で、今回のために用意された特別の動作確認プログラムをUSBメモリからロードし、キーボードでVAIOと入力してキーボードがきちんと動作していることを確認すると作業は完了で、画面にPASSの文字が出るたびに、各作業テーブルから歓声が上がった。
●最後にはVAIO Zシリーズの進呈式が行なわれ、イベント終了
イベントの最後には、参加者に対してVAIO Zシリーズの進呈式が行なわれた。夏モデルを購入した参加者は、納品日が本日に設定されており、待ちに待った自分のマシンと対面した。春モデルを購入した参加者も、自分のマシンを渡し、工場にある刻印マシンを利用して刻印を行なった。マシンの引き渡しは、先ほどの体験会で指導員となったマイスターから行なわれた。特に夏モデルを購入したユーザーは、自分のマシンと初めて対面することになるので、感慨深かったようだ。
進呈式を持って安曇野VAIOの里でのVAIOオーナーメード体験は終了。その帰りには長野ビジネスセンターの正門横に設置された「VAIOの里」という石碑の前での記念撮影が行なわれた。この石碑は最近作られたものだということで、長野ビジネスセンターの敷地に入らなくても、見たり、撮影できるようになっている。もし、長野にいく機会があったら、安曇野に寄って、この石碑を見てみるのも良いだろう。
今回筆者が同行して思ったのは、参加者のレベルの高さだ。VAIO ZシリーズのようなハイエンドPCを購入するのだから当たり前かもしれないが、参加者と話していてもPCのリテラシーが非常に高く、またテクノロジーへの興味が非常に強いと感じた。ソニーの側もVAIO Zシリーズの開発者を初めとして、関係者がユーザーと直接対話できることを喜んでいるのが伝わってきた。ぜひとも2回目、3回目とつなげていってもらいたい。
(2010年 7月 15日)