笠原一輝のユビキタス情報局

進化するIntel Desktop Boardの今
~今秋にUSB 3.0やSATA 6Gbps対応の「Smackover2」を投入へ



IntelのSmackover2。チップセットにはIntel X58 Express + ICH10を搭載したLGA1366マザーボード

 Intel純正のデスクトップPC用マザーボードである「Intel Desktop Board」と言えば、Intelプラットフォームにおけるリファレンス的マザーボードとして、「堅い選択」を希望する自作PCユーザーにとっては安心できる製品の1つと言っていいだろう。

 IntelはまもなくIntel Desktop Boradの新ラインナップとして、現在最上位モデルの「DX58SO」の後継として「Smackover2」(スマックオーバーツー、開発コードネーム)と呼ばれる製品を投入する。Intelの今までのネーミングルールから言えば、「DX58SO2」となる本製品は、DX58SOの弱点だったメモリスロットを4スロットから6スロットにしたほか、6GbpsのSATA、USB 3.0などの最新技術にも対応して、よりハイエンドユーザーのニーズに応えた製品となっている。

●1993年にPentium用からスタートしたIntel純正マザーボード

 Intelが純正マザーボードのビジネスをはじめてのは実はかなり古い。Intel Desktop Boardの製品企画を担当するIntel Client Board Divisionのオフィスには歴代マザーボードのうち主要なものが飾られているが、その中で最も古いのは、1993年にPentium用としてリリースされた「Batman」という開発コードネームで知られていたBaby ATマザーボードだ。

このようにIntel Client Board Divisionのオフィスには歴代の主要なモデルが飾られている

 Pentiumプロセッサといっても、P54Cの開発コードネームで知られる75MHz以上のPentiumではなく、P5の開発コードネームで知られる66/60MHzのPentiumプロセッサ。拡張バスはPCIとISAが搭載されており、256KBのL2キャッシュがオンボードで搭載されているのだ(今の自作PCユーザーにとっては、L2キャッシュがマザーボードに乗ってた、などといったら冗談にしか聞こえないかもしれないが)。

 当初はBatman、Batman's Revenge、Zappaと開発コードネームが製品名のような形になっていた。これはIntelが正式に自社の製品として販売していたのではなくて、チャネル(流通業者)向けにホワイトボックスPCに組み込むことを前提に販売していたからだ。しかし、チャネルの多くは、それを「バルク」と呼ばれる、箱やサポートなしに販売する形でエンドユーザーに販売を始めた。その後、現在「ボックス」と呼ばれる化粧箱やサポートを提供する形で、Intel自身が正規の製品として販売することが望まれはじめ、実現するに至ったという経緯がある。

 そうした開発コードネーム=製品名だった時代の名残が、今の製品名のネーミングルールに見られる。例えば、DX58SOの場合は、

D = Desktop Boradの「D」
X58 = チップセットの名前、DX58SOの場合はIntel 「X58」 Express
SO = 開発コードネームSmackoverの短縮形「SO」

となっている。これ以外の製品もみなそうで、最後の2文字を見れば、開発コードネームがなんだったか推測できる。例えば、Intel P55 Express Chipsetを搭載している「DP55KG」であれば、開発コードネームは「kingsberg」だった。

最古のIntel純正マザーボードとなるBatman(1993年)。CPUソケットはSocket 4で、初代Pentium 66/60MHz(P5)に対応Batman's Revenge(1994年)は、Socket 5マザーボード。2代目Pentium(P54C)が利用できたZappa(1994年)はSocket5マザーボード。L2キャッシュが搭載されているバージョンとないバージョンが存在していた
Aurora(1995年)はPentium Pro(P6)用のSocket 8マザーボードThor(1996年)は最初のATXマザーボード。これ以降はATXが主流になっていく。CPUソケットはSocket 7Atlanta(1997年)はPentiumII用のSlot 1マザーボード。枯れたチップセットとして名高かった440BXを搭載

●役割は新しい市場の創造やテクノロジの早期導入
Intel Client Board事業部 事業部長のジョエル・クリステンセン氏

 Intel Client Board事業部 事業部長のジョエル・クリステンセン氏は、「エンドユーザーにとってIntel自身のブランドで提供することに意味があると考えている。信頼できるブランドであり、正規に販売しているすべての地域で3年保証と現地語によるサポートサービスを提供しており、地域によってはシェア50%を超える地域もある」と、そのIntel Desktop Boardのメリットを強調する。

 冒頭でも述べたとおり、多数のリスク(いわゆる相性と呼ばれる互換性の問題など)を抱える自作PCの場合、Intelブランドのマザーボードを選択することは「堅い選択」であり、安心感は他のマザーボードベンダの製品を選択する場合に比べて高いのは間違いないだろう。実際、Intelのマザーボードは、トップ5に必ず入るほどのシェアをワールドワイドで獲得しているのだという。

 だがこれは、チップセットをOEMメーカーに対して供給するIntel自身が、OEMメーカーのビジネスを圧迫しているとも言うことができる。実際そういう批判を、顧客であるマザーボードメーカー側から聞くことは少なくない。

 そうした批判に対してクリステンセン氏は、「確かにそうした批判は無くはない。しかし、Intelとしては新しいテクノロジのショーケースとして展開している。例えばMini-ITXのような他のマザーボードメーカーが取り組んでいなかった新しい市場を作り、新しいテクノロジもいち早く取り入れている。そうしたことは我々の顧客も理解してくれているものと考えている」と、顧客と競合しているだけではないという見解を示した。

 なお、クリステンセン氏は直接言及しなかったものの、一部のマザーボードメーカーにとっては別のメリットもある。Intel Desktop Boardは、Intel自身の工場で製造しているのではなく、ODMメーカーに設計、製造を委託している。クリステンセン氏は「我々は製造にあたってODMモデルを利用している。もちろん設計やスペックの決定に関しては我々からリクエストを出して、製品のクオリティや仕様がIntelのブランドで出すに値するものを目指している」と、ODMメーカーを利用して製造していることを肯定している。つまり、ODMに選ばれたメーカーは、Intelマザーボードの製造により利益を得ることができるのだ。

Intel Desktop Boradの現状を説明するスライド現在の製品ラインナップ、ハイエンドからメインストリームまでフルラインナップを備えている

●メモリが6スロットになったSmackover2

 Intelは、IDFのタイミングに合わせ、Smackover2を公開した。本製品は、LGA1366のCPUソケットを備えており、Core i7 Extreme/Core i7の9xxシリーズを利用できる。

 特徴は、DX58SOではDDR3のDIMMソケットが4ソケットになっていたのが、6スロットに増やされていること。

 これには若干の解説が必要だろう。DX58SOに採用されているチップセットのX58では、メモリはDDR3をトリプルチャネルで利用できるようになっている。つまり、同容量のDIMMを3枚1セットで利用することで、メモリの帯域幅を大きく向上させることができる。だが、DX58SOに用意されている4つ目のソケットにDIMMを挿入した場合には、全てが別々のチャネルとして動作するようになり、帯域幅は3枚セットで利用した場合に比べて低くなってしまうのだ。従って、4つ目のDIMMソケットは、帯域幅よりも容量が欲しい場合に用意されている予備用であり、ほとんどのユーザーはこのソケットを利用していなかった。

 これに対して、他のマザーボードベンダのX58搭載マザーボードは、DIMMソケットが6つ搭載されているのがほとんどで、同じメモリを3枚1組で2セット利用できるようになっており、DX58SOは敬遠されがちだった。

 そこで、Smackover2ではこの点を改良し、他のX58マザーボードと同じように、大容量と広帯域幅が共存できるようになったというわけだ。

 また、Smackover2に採用されているチップセットは、依然としてX58+ICH10だが、オンボードでMarvellのSATA 6Gbpsのコントローラーを2チップ搭載し、内蔵用に2ポート、eSATAに2ポート搭載している。USB 3.0もオンボードでコントローラを搭載しており、背面パネルに2ポート用意されている。

 細かなところでは、DX58SOではノースブリッジには標準でファンが装着されておらず、パッケージの中にユーザーが自分で装着するファンが添付されているという形になっていた。これは、オーバークロックをするユーザーは、ノースブリッジにファンが必要になるが、標準状態で利用するユーザーにはファンが必要ないための措置だったのだが、Smackover2ではファンが廃止され、VRMとノースブリッジに大型のヒートシンクを装着し、ヒートパイプで結ぶことにより、放熱性を高めファンレスでオーバークロックに対応できるようにした。

 そのオーバークロックだが、今回公開されたデモでは、Gulftownの3.2GHz(つまりCore i7 Extreme 980X)を利用して、標準添付のCPUファンで4.2GHzまでオーバークロックした。

 クリステンセン氏によれば、Smackover2は来四半期に投入される予定であり、価格は現行のDX58SOに近いかやや上回る程度になると予想しているという。

Smackover2のバックパネル。DP55KGなどにも用意されているBIOSリカバリー用のスイッチが用意されたほか、Ethernet×2、IEEE 1394、USB 2.0×6などの標準ポートのほか、eSATA×2(6Gbps)、USB 3.0×2などを備えている8つあるSATAポートのうち2ポートは6Gbps対応フロントパネル用USBヘッダーなども豊富に用意されている
内蔵スイッチが使いやすい大型のものに変更されたほか、ブート時のPOSTの段階を示すLEDランプなどが追加されている動作しているデモの様子、空冷のまま4.2GHzで常用できていたノースブリッジのファンはなくなり、ヒートパイプでVRMのヒートシンクなどに分散してCPUファンの風をうまく利用して冷却する仕組み

●今後はMini-ITXのさらなる薄型化や液晶一体型の標準化などにも取り組んでいく

 クリステンセン氏によれば、IntelのIntel Desktop BoardのラインナップとしてMini-ITXの強化にも取り組んでいる。その一環としてMini-ITXの新しい仕様として、バックパネルをハーフサイズにして、より薄型のPCを作れるようにするフォームファクタの標準化も行なっているという。それにあたっては、Mini-ITXの標準化を行なっているVIA Technologiesなど関連企業と協力しているという。

 「こうしたボードは組み込み向けの製品として提供している。これらのボードを利用することで低価格な組み込み向け製品を手軽に開発することができるようになる」(クリステンセン氏)との言葉の通り、例えばATMやキオスクなどにこうした製品が採用されていくことを狙っている。

 また、Intelは液晶一体型PCの標準化にも取り組んでいる。マザーボードの設置する場所や、サイズなどを標準化することで、ホワイトボックスメーカーでも液晶一体型PCを容易に製造できるようになる。それが成功すれば、液晶一体型に関してもパーツ単位で販売されるようになり、好きなパネル付きケースとマザーボードやCPUを組み合わせて、液晶一体型を自作するなども可能になる。

 そうした取り組みができることが、プラットフォームを提供するIntelの強みであり、Intelに求められている役割だろう。そうした新しい市場を創造する先兵としてのIntel Desktop Boardの今後は要注目だ。

薄型PC向けにバックパネルをハーフサイズにしたMini-ITXマザーボード(ちなみに、秋葉原などではバルク版としてすでに販売されている)。バックパネルのハーフサイズもMini-ITXのオプションとして採用してもらえるように働きかけているという

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(2010年 9月 13日)

[Text by 笠原 一輝]