大原雄介の半導体業界こぼれ話
AMDが1カ月も経たずして抜けた次世代銅ケーブル規格と次期NVLinkの関係
2026年3月12日 06:09
2月23日、業界13社によりACC-MSAが結成されたことが発表された。ACCは「Active Copper Cable」の略であり、MSAは「Multi-Source Agreement」の略で、要するに業界標準を策定する団体である。
ちなみにMSAはIEEEとかISOのような国際的な標準化団体とは無関係であるが、通常MSAに加盟しているメーカーはIEEEなりISOなりといった団体にも加盟しているので、当然MSAで標準化した規格を標準規格として提案したりもする。まあ、よくある話である。
なんでMSAを結成するかといえば、たとえばIEEEの場合だと早くて3年、遅いと5年近く標準化に時間を要したりする。これは業界のスピードに追い付かないので、まずMSAという形で標準化団体を結成し、そこでその製品に関係する規格をさっさと策定して実装した後に、あらためてそれを(必要なら)標準化するというものだ。
そうした話はともかく、トップページ(図1)を見た筆者の感想は「既視感」である。LPO-MSA(図2)など露骨だし、もうアーカイブになってしまったが、CWDM8 MSAのかつてのトップページ(図3)とも見比べて頂くと、筆者の言っている意味がお分かりかと思う。
ほかにも多少レイアウトは異なるが4x400 MSAなんかも共通項は多いし、過去に消えた多数のMSAもホームページを探すと似てるものが少なくないあたり、MSA向けのWebページのテンプレートとかあるんじゃないのか?とか疑いたくなるレベルである。
というか「広報代理店一緒だろ?」と言いたくなるのだが、ドメインの登録情報を調べても情報保護サービスでカバーされていて確認できない。この手のMSAは少なからぬ数が生まれては消えていくので、それ向けのサービステンプレートを用意している広報代理店は間違いなく存在していそうではあるのだが。
ACC-MSAは何を実現するのか
まあ、この話は枕であり、問題はそのACC-MSAが何をやろうとしているのか?である。
ACC-MSA概要によれば「アクティブ銅ケーブル(ACC)ソリューションは、ダイレクト・アタッチ・ケーブル(DAC)の到達距離を拡大し、アクティブ電気ケーブル(AEC)からデジタル信号処理(DSP)機能を除去することで、アクティブ銅インターコネクトの電力消費を大幅に削減します」(意訳)とある。
パッシブの銅配線ケーブルの場合、信号速度が上がると到達距離がどんどん短くなる。たとえば10GBASE-CX4(4対8本の銅配線で10Gbpsを通す。信号レートそのものは3.125GBdのNRZ)の場合は最大15mなのに対し、100GBASE-CR1(1対2本の銅配線で100Gbpsを通す。信号レートは53.125GBdのPAM4)は「最低2m」であるが、最大は定義されていない(が、実質3mほど)。そして現在仕様策定中の200GBASE-CR1に至っては、ケーブル長が実質2m未満などといわれている。
これらはいずれもパッシブケーブル、つまり単にコネクタの間を銅配線でつなげているだけだが、もう少し距離を伸ばしたいという向けに、間にバッファを挟んだアクティブケーブルが選択肢に入っている。
このアクティブケーブル、実際にはリドライバを挟むACCと、リタイマーを挟むAECの2種類がある。ちょうど2月に行なわれたISSCC 2026のForumの中に、この話題があったのでそのスライドを示しておく(図4)が、一番到達距離を延ばせるのはAECで、ACCがこれに続く格好である。
ただその分消費電力も増えるわけで、AECは素のケーブル(DAC)の2倍の到達距離だが、消費電力も2倍になる。ちなみに200Gbpsで信号を送る場合、5pj/bitだと消費されるエネルギーは0.1J、10pj/bitだと0.2Jになる。200Gbps=1秒間に200Gbitだから、要するにそれぞれ0.1W、0.2Wに相当するわけだ。一見少ないように思えるが、これを1,000本も並べれば100W/200Wになるからバカにはできない。そしてこれを1,000本以上束ねよう、という用途が多分あるのである。
ACC-MSAの冒頭の話に戻るが、このMSAの目的はAECではなくACCを利用したケーブルの標準化を行なおうというものである。何でAECではなくACCかと言えば、1つは今説明したように消費電力の削減があるが、もう1つの目的はリタイマーを挟むと確実に1サイクル分の遅延が発生するからだ。
図4にもあるようにACCは基本的にCTLE(Continuous Time Linear Equalizer)は搭載されている。CTLEはいろいろあって、中にはアクティブフィルタを使って信号補正を行なうものもあるが、こうなるとリタイマーと消費電力がさして変わらなくなるので、おそらく想定しているのはハイパスフィルタを利用して挿入損失を削減するタイプのものを想定しているのだろう。
一方AECにはCTLEの機能に加え、CDR(Clock and Data Recovery)が搭載される。CDRは要するに送られてきた信号からクロック成分を抽出し、これを利用してデータを補正した後に、改めてクロック信号を多重化して送り出す仕組みになる。なのでどうやっても最低でも1サイクル分の遅延が発生する。あと、ACCに比べると回路が複雑化する分、コストも増える。こうした諸々の事情を勘案して、AECではなくACCを推進しよう、というのがこのMSAの目的というわけだ。
AMDの即脱退が意味するもの
さて、ではこのACCを誰が使いたいのか?というのが次の問題。メンバー企業は
- Amphenol
- Broadcom
- Celestica
- ciena
- cisco
- Dell
- Keysight
- Luxshare Technologies
- MACOM Technology Solutions
- Molex
- MultiLane
- NVIDIA
- Semtech Corporation
- TE Connectivity
の14社が名前を連ねている(図5)。
これも当初リリースを読むと「13社のグローバルリーダー(ネットワーク、半導体、ケーブル分野)が提携しました。」とか書いてあって、まず数が合ってない。おまけに当初のリリースにはAMDが名前を連ねていたのが消えて、代わりにBroadcomとCelesticaが加わっている。
このうちAmphenolとかMolex、TEはケーブルとかコネクタのメーカーだし、BroadcomとかMACOMはリドライバのメーカー、cienaやmultilaneはネットワークトランシーバやケーブル、Keysightは測定器、Celesticaやcisco、Dellはサーバー/スイッチ、LuxshareやSemtechはデータセンターといった具合で、ACCを使うデバイスそのものを作るメーカーはNVIDIAしかいないことになる。
AMDが残っていればまた話は別だったのだろうが、あっさりMSAから抜けたというのは、多分方向性が違っていたのだろう。
次期NVLinkのための規格に?
ではNVIDIAは何でこんなMSAを作ったのか?リリースによればCo-ChairはMACOMとSemtechが担当だそうなので、体裁としては中立という立場であるのだろうが、実質的にはNVIDIAが新世代のACCに向けて標準化を行なったというのが実情に一番近い気がする。
なぜNVIDIAはこれを行なったのか?といえば、おそらく次世代のNVLinkにこのACCを使うつもりなのでは?という推定ができる。
現在のNVIDIAのラックシステム(Oberon Rack)はDACでNVLinkの接続を行なっている。これが次のVera+Rubin UltraではKyber Rackに切り替わることが報じられているが、現在伝えられている情報を見る限り、NVLinkそのものの速度は1レーンあたり100Gbps(50GBd PAM4)での接続になっている模様だ。
NVSwitchの方も、Oberon向けのNVSwitch 6とKyber Rack向けのNVSwitch 7のどちらもチップあたり3.6Tbpsのスイッチング速度であることは既に公開済であり、これを利用する限りにおいては、そもそもACCを利用する必要がない。
まだ詳細が不明なのが次のFeynman世代であり、ここに利用されるNVLink 8がどうなるのか、現時点では一切詳細が明らかにされていない。
昨年(2025年)Internet Watchでちょっと書いたが、NVIDIAは以前NVLinkのOpticalへの移行を計画していたものの、その後方針を転換して、可能な限り銅線ベースにするという方針を打ち出している。
昨年の記事では、この先速度をさらに上げるなら光になるのでは?ということで「可能性があるとすればNVLink 8以降だろうか?」と書いたのだが、今回のACC-MSAの設立というのは、NVLinkをさらにACCで延命させる気ではないのか?という推察が成り立つものである。
これも理由は簡単で、NVIDIAは既にスケールアウトネットワークはCPOを利用した光に移行しているからで、スケールアップのNVLinkだけが銅ベースである。なのでACC-MSAで標準化されたACCが利用できるのはNVLinkしかないからだ。
もう1つ傍証を挙げておけば、ACC-MSAのFAQに
Q: ACCはイーサネットトラフィックで動作しますか?
A: はい、ACC‑MSA準拠のモジュールはプロトコルに依存しません。初期のMSA仕様はイーサネットのデータレート向けに最適化される予定です。
なんて項目があり、これだけ見れば200GBASE-CR1にも適用できそうに思える。200GBASE-CR1はUALinkの物理層であり、しかもプロトコル非依存だからUALink向けのケーブルにも最適と思える。おそらくAMDもこれを狙って名前を連ねたのではないかと思うのだが、そのAMDがいきなり消えているというのは、ACC-MSAの仕様がUALinkには不適切な何かがあり、一方NVIDIAが残っているのはNVLinkには適切だったということと考えられる。
さらにFAQを見ると、
Q: ACC‑MSAはほかに何を対象としていますか?
A: 初期の200Gbps仕様に加えて、ACC‑MSAにはロードマップがあり、レーンあたりのデータレートを下げる方向と上げる方向(例: 400Gbps)両方を順次対応していく予定です
なんて項目があり、最初の仕様は間違いなく200Gbpsであるとされる。要するに100GBd PAM4であろう。これはNVLink 7の倍の速度であり、現在ACCの仕様策定を行なっているということは、その仕様に基づく最初の製品が出てくるのは2027年あたり。それを利用して実装と検証を行ない、出荷が可能になるのは2028年と考えれば、Feynmanがそのターゲットである可能性は非常に高いことになる。
ちなみにその先の400Gbpsまでターゲットにしているというが、これが本当に可能かは謎である(MSAはしばしばロードマップだけ示しといて、途中で「やっぱ無理だったので止めます」と綺麗さっぱり活動を終了する)。
今回の話はほとんどが推定の積み重ねなので、どこまで本当かは筆者にも良く分からない。とりあえず眉唾物の話だとご理解いただければ幸いである。














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