大原雄介の半導体業界こぼれ話
懸念が残るTIのSilicon Labs買収と、転送方法が謎な「SPHBM4」の話
2026年2月26日 06:11
今月も例にもれず雑談をいくつか。
TIがSilicon Labsを買収
2月4日、Texas Instruments(TI)がSilicon Labsを買収したことが発表された(TIのリリース、Silicon Labs)。
買収はSilicon Labsの1株当たり231ドルの現金での買収であり、これは69%ものプレミアを付けたものである(2月3日の終値は136.62ドル)。買収完了は規制当局の許可次第ではあるが、2027年前半中を予定しているとする。リリースによれば今回の買収で
- Silicon Labsの多彩なネットワークプロトコルをサポートする1,200の製品がTIの製品ポートフォリオに加わる
- Silicon Labsは外部のファブを利用するファブレスであるが、今後はTIのファブを利用しての製品製造が可能になる。
- Silicon Labsは2014年以来年率15%で成長しており、これを取り込むことができる
- 今回の買収完了後3年以内で4億5,000万ドルのシナジー効果が期待できる
といったメリットがあるとしている。
TIは必ずしも買収が下手な会社ではない。会社丸ごと、という買収でいえば1996年のTartanを皮切りに既に15社を買収しており、Silicon Labsで16社目になる。
ほかに、たとえば1998年にはHarris SemiconductorからStandard Logic製品群を買収したりとか、2021年にはMicronからユタ州の300mmウェハファブを買収したり、という感じでいろいろ細かな買収があるが、概ね買収の結果は良好である。
失敗したLuminary Microの買収の二の舞いにならなければ……
「概ね」というのは例外もあるからで、たとえば2009年のLuminary Microの買収は正直いえば失敗だったと筆者は考えている。
そもそもTIの場合、元々はコンピュータメーカーというバリバリにデジタル畑の会社だったにも関わらず、そのデジタルの戦略が右往左往しており、むしろアナログが安定して成長しているという不思議な様相を呈している。
元々は「TI-900」シリーズという16bitオフコンを作っていた同社だが、これと並行して電卓ビジネス向けに専用チップを開発して一時期は多大なシェアを獲得するも、このマーケットが過当競争に起因する価格下落で崩壊したため、これをベースに「TMS1000」という4bit CPUを出して組み込み向けを席捲。
ところが後継の8bitは出されず、TI-900向けのTTLベースのICをワンチップ化したTMS-9000シリーズの16bit品をリリースし、これも一時期はだいぶ伸びたものの、マイコン市場の価格下落を受けてやはり撤退。
これと並行して開発をしていたDSPが「TMS320」シリーズとして大ヒットし、しばらくは何でもかんでもTMS320シリーズで賄うことになったが、やはり汎用CPUがないと不便ということで1992年に投入されたのが「MSP430」シリーズの16bit CPUである。こちらは当初からMCU向けに特化した構造で、8bit並みの消費電力で16bitの処理性能ということで8bitマーケットを含めてそれなりのシェアを獲得したものの、それが災いすることになった。
これとは別に携帯電話向けに1990年代末からARMベースのSoCを開発しており、2003年にはOMAPという新しい携帯電話向けの製品ラインナップを提供していた。当初はARM9ベースだったOMAPも、後にはCortex-A8/A9やCortex-A15を搭載する高性能品がラインナップされている。その一方、MCU向けに関しては完全に後手に回ったことで、Cortex-M3/M4を搭載するMCUに市場を奪われ、わずかに省電力性が最重要視されるマーケットでMSP430が生き残る格好だった。
ここにテコ入れすべく、TIはLuminary Microを買収する。同社は既に「Stellaris」というブランドでCortex-M3ベースのMCUを発売済みであり、これはそのままTIの製品ラインナップに加わることになった。この結果どうなったか?というと、TIが思ったようにはStellarisは売れなかった。ラインナップという意味でも、開発環境などのサポートという意味でも、競合(NXP/Freescale、STMicroelectronics、ルネサスなど)には遠く及ばなかった。
結局TIは2014年、Stellarisブランドを「TIVA C」に置き換えた。TIVA CはCortex-M4コアを採用し、周辺回路を強化するとともに、一部SKUでは産業機器向けの機能を追加するなど大幅に強化したものであるが、この時期同社は自動車などの機能安全機能が必要な用途向けに「Hercules」という別のMCUシリーズを新たに発表。加えてTMS320シリーズDSPをベースにした「C2000」(当初は「TMS320C2000」シリーズという名称だったが、後にC2000シリーズに簡略化された)シリーズを1995年に投入したほか、2015年にはMSP430を置き換える目的で「MSP432」というCortex-M4Fベースの省電力MCUもラインナップする(が、既に受注終了になっている)など、いったい何種類のMCUをラインナップしているのだ?というぐらいに製品が乱立している。
もうこうなると自社製品の中での食い合いが発生しているわけで、買収する前にまず製品ラインナップの整理が先ではないか?というのが率直な感想である。
今回買収するSilicon Labsの場合、ISM(サブ1GHz帯)および2.4GHz帯の無線と、その上のマルチプロトコルが非常に大きな強みになっているわけだが、何気にTIもこのマーケットに多数の製品を既にラインナップしている。この状態でSilicon Labsの製品を追加しても、単にユーザーが混乱するだけじゃないかという気がしてならない。というか、Silicon Labsの部隊と現在無線を手掛けてる部隊の社内戦争が勃発しかねない気がする。
もう1つ気になるのは、Z-Waveのサポートである。日本ではほとんど需要がないZ-Waveであるが、欧米では既にZ-Wave対応のスマート家電が発売されており、広範に利用されている。
もともとこのZ-Waveを開発したSigma Designs(というのはやや語弊のある言い方だが)を2018年に買収し、Z-Wave Allianceを牽引しているのがSilicon Labsなわけだが、この辺りはTIによる買収後にどうなるのか気になるところである。ちゃんと引き続きサポートしてくれればいいのだが、正直切り捨てられる可能性も否定できないからだ。なんというか、全体的に不安しか感じないのが今回の買収であるように思える。本当にシナジーは発揮できるのだろうか?
仕様が謎なSPHBM4
やや旧聞になるが、2025年12月11日にJEDECは「SPHBM4」の標準化がまもなく完了することをアナウンスした。
SPHBM4とは何ぞや?というと、“標準パッケージ(Standard Package)”なHBM4のことである。要するにシリコンインターポーザーを使わずに接続できる、HBM4の亜種を標準化策定中であるという話である。
シリコンインターポーザーを使わないというのは、通常の有機パッケージ基板で配線を通せるという話であるが、そもそもHBMが歴代シリコンインターポーザーを使った理由はその配線数の多さである。ではSPHBM4は?というと、HBMが2,048本のデータ信号線を持つところを、512本に減らしている。ただそのままだと帯域が減るので、信号速度を4倍にして4:1のシリアライゼーション/デシリアライゼーションを搭載する格好だ。
ただ、そもそもHBM4は信号速度が6.4Gbpsからという話で、これを4倍にすると25.6Gbpsに達する。これ、シングルエンドで伝送できる速度ではない気がするのだが、どうするのだろう?いや差動(ディファレンシャル)なら25.6Gbpsは容易なのだが、信号本数は倍増する。しかも標準パッケージでは当然配線長がシリコンインターポーザーを使う場合よりも長くなる。
Samsung Electronicsが2月12日にHBM4の量産出荷開始をアナウンスしたが、こちらは信号レートが最大11.7Gbpsだそうで、これをSPHBM4化したら46.8Gbpsである。どう考えてもシングルエンドで通せる速度ではない気がするのだが、一体どういうトリックを使うのだろう?
それから、信号速度を上げるということは消費電力も増えるということであり、ピン数の削減で良くてトントンだが、普通に考えればピン数増やして速度(と電圧)を下げた方がトータルの消費電力が減るだろう。JEDEC的には、現在GDDR7とかLPDDR6とかを使っている用途向けにHBM4をそのまま接続できるあたりにメリットを感じているのだろうが、本当に思う通りに進むのだろうか?これもまた非常に怪しげな規格に見える。













![[Amazon限定ブランド]CCL い・ろ・は・すラベルレス 2LPET ×8本 ミネラルウォーター 無味 製品画像:2位](https://m.media-amazon.com/images/I/41h0MHfvhkL._SL160_.jpg)







