多和田新也のニューアイテム診断室

FermiベースのデュアルGPUカード「GeForce GTX 590」



 NVIDIAは3月24日、GeForceシリーズの最上位モデルとなる「GeForce GTX 590」を発表した。本製品はFermiアーキテクチャを用いた初めてのデュアルGPUビデオカードという点でも注目できる。このパフォーマンスをチェックしていきたい。

●クロックを下げたフルスペックGF110を2基

 まずは、GeForce GTX 590のスペックと特徴をまとめておきたい。表1はGeForce GTX 590の主な仕様をまとめたものである。GeForce GTX 580/570と同じGF110コアを、1枚のボードに2基搭載する製品となる。

【表1】GeForce GTX 590の主な仕様
 GeForce GTX 590GeForce GTX 580GeForce GTX 570
GPUクロック607MHz772MHz732MHz
CUDAコア/SPクロック1215MHz1,5441MHz1,464MHz
CUDAコア/SP数(SM数)512基(16基)×2512基(16基)480基(15基)
テクスチャユニット数64基×264基60基
メモリ容量1,536MB×2 GDDR51,536MB GDDR51,280MB GDDR5
メモリクロック(データレート)3,414MHz相当4,008MHz相当3,800MHz相当
メモリインターフェイス384bit×2384bit320bit
メモリ帯域幅163.9GB/sec192.4GB/sec152GB/sec
ROPユニット数48基×248基40基
ボード消費電力(ピーク)365W244W219W

 GeForce GTX 590のシェーダユニットはすべて有効化されており、512基のCUDA Coreを持つフルスペック仕様になっている。ただし、動作クロックはかなり抑えられており、CUDA Coreを制限しているGeForce GTX 570よりも低い。

 このような低いクロックとなってしまっている理由として考えられるのは、1つに選別された高クロック品を2基搭載するとコスト高になるという点。もう1つ考えられるのは、消費電力の問題だ。本製品のピーク消費電力は365Wとされている。本製品の電源端子は8ピン(150W)×2の構成となっており、PCI Express x16スロットからの75Wと合わせて、365Wという数値はほぼ限界に近い。つまり限界ぎりぎりのクロック設定になっていると推測される。

 今回テストに用いるのはNVIDIAから借用したリファレンスボードである(写真1、2)。NVIDIA Control Panelの表示から、定格動作のクロックも確認できる(画面1)。

【写真1】GeForce GTX 590のリファレンスボード【写真2】今回の評価キットは、このような金属製のミリタリー風パッケージに入って送付された【画面1】NVIDIA Control Panelのシステム情報

 クーラーはベイパーチャンバーを用いたヒートシンクと、92mm角の軸流ファンを用いている(写真3~5、図1)。ファンからの空気は両方向に流れるので、一方はケース内へ排気される格好となる。化粧カバーは、4個のネジを外せば、上部のみを簡単に取り外せる。図1にも示されている通り、これによりヒートシンクの掃除を簡単に行なえるとしている。

【写真3】化粧カバーの上部はネジ4本を外すのみで取り外しが可能。ちなみに写真右下に基板とカバーを結ぶ電源ケーブルが見えるが、これは電源端子脇のGeForceロゴを光らせるLEDの電源となっている【図1】NVIDIAの資料に記されたボード設計に関する内容
【写真4】リファレンスボードの裏面。ちょうどGPUが配置される部分の裏面に金属プレートが取り付けられている【写真5】ボード末端部は開口しており、ケース内側へも排気される格好となっている

 ちなみに、このファンは負荷が高まると高速回転はするものの、GeForce GTX 580やRadeon HD 6990に比べて、かなり静かになっているのは印象的だった。ダクト状のカバーを持つクーラーはブロアタイプを用いることが多いが、GeForce GTX 590のリファレンスデザインで軸流ファンを用いているためだろう。

 電源端子は先述した通り8ピン×2の構成(写真6)。SLI端子は1基で、GeForce GTX 590を2枚用いたQuad SLIをサポートしている(写真7)。

 ディスプレイ出力はDVI-I×3とMini DisplayPortの構成だ(写真8)。DVI-I×3を用いることで3D Vision Surroundもサポートしている。このあたりは2枚のビデオカードを用いたSLI構成と同様のことが1枚のビデオカードでできると考えと分かりやすいだろう。

【写真6】電源端子は8ピン×2。先述の通り、使用中はこのGeForceロゴが光る【写真7】SLI端子は1基備えており、本製品2枚を用いたQuad SLIをサポートする【写真8】ブラケット部はDVI-I×3とMini-DisplayPortの構成

●ハイエンドビデオカード環境の性能比較

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示した通りで、前回のRadeon HD 6990のテスト結果を一部流用したうえで、新規にGeForce GTX 590、GeForce GTX 580とGeForce GTX 570のSLI構成をテストした。用いたパーツは写真9~14の通り。

【表2】テスト環境
ビデオカードGeForce GTX 590 (3GB)GeForce GTX 580 (1.5GB)
GeForce GTX 570 (1.28GB)
Radeon HD 6990 (4GB)
Radeon HD 6970 (2GB)
グラフィックドライバGeForce Driver 267.71βGeForce Driver 266.588.84.3-110226a-114256E
CPUCore i7-2600K(TurboBoost無効)
マザーボードMSI P67A-GD55(Intel P67 Express)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate Service Pack 1 x64

【写真9】GeForce GTX 580のリファレンスボードとGALAXY Microsystemsの「GF PGTX 580/1536D5」を組み合わせてSLI環境を構築【写真10】GeForce GTX 570のリファレンスボード2枚を組み合わせてSLI環境を構築【写真11】Radeon HD 6990のリファレンスボード
【写真12】Radeon HD 6970リファレンスボードと、XFXの「HD-697A-CNFC」を組み合わせてCrossFire環境を構築【写真13】MSIのIntel P67 Express搭載ボード「P67A-GD55【写真14】2,560×1,440ドット表示に対応するナナオの27型液晶「FlexScan SX2762W-HX

 では、まずはDirectX 11対応タイトルの結果から紹介したい。テストは「3DMark 11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「BattleForge」(グラフ3)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ4)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ5)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ6)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ7)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ8)の結果である。

 GeForce GTX 590の性能の位置付けとしては、仕様面で完全に優位性のあるGeForce GTX 580のSLIに比べて低いのは当然として、GeForce GTX 570 SLIをも下回っている。CUDA Core数などのスペックではGeForce GTX 590に優位性があるわけだが、やはり動作クロックの低さが響いたと見ていいだろう。ただ、多くのタイトルで解像度やフィルタ適用によって負荷が高まるとGeForce GTX 590とGTX 570 SLIの差が詰まる傾向が出ており、このあたりはメモリ帯域幅やROPユニットの数のメリットも見られる。

 Radeonシリーズに対してはタイトルによる得手不得手が非常に大きい。DiRT 2、Lost Planet 2、H.A.W.X 2、Unigine Heaven BenchmarkあたりはGeForce GTX 590の強さが目立つが、ほかは拮抗もしくはRadeon HD 6990に優位性がある。

 また、アンチエイリアスと異方性フィルタを適用した場合にも傾向に差がある。分かりやすいところでは、Alien vs. PredatorはGeForce GTX 590の方がフィルタ適用時による性能の落ち込みが大きいが、BattleForgeはRadeon HD 6990のほうが大きいといった具合である。

【グラフ1】3DMark 11 Version. 1.0.1.0 (Graphics Score)
【グラフ2】Alien vs. Predator DX11 Benchmark
【グラフ3】BattleForge
【グラフ4】Colin McRae: DiRT 2
【グラフ5】Lost Planet 2 Benchmark
【グラフ6】Stone Giant DX11 Benchmark
【グラフ7】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark
【グラフ8】Unigine Heaven Benchmark 2.5

 次にDirectX 9/10世代のベンチマークの結果を見てみたい。テストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「Crysis Warhead」(グラフ11)、「Far Cry 2」(グラフ12)、「Left 4 Dead 2」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3」(グラフ14)だ。

 各構成間のスコア差がやや詰まった結果が多いものの、こちらも大局的にはDirectX 11対応タイトルと傾向は変わっていない。

 Radeon HD 6990との差は、やはりタイトルよる得手不得手が大きい中、GeForce GTX 590がはっきりした優位性を見せたのはUnreal Tournament 3のみ。あくまで、ここでテストしているタイトルでは、という前提があるが、DirectX 11対応タイトルに比べると、奮わない印象だ。

【グラフ9】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Score)
【グラフ10】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Feature Test)
【グラフ11】Crysis Warhead (Patch v1.1)
【グラフ12】Far Cry 2 (Patch v1.03)
【グラフ13】Left 4 Dead 2
【グラフ14】Unreal Tournament 3 (Patch v2.1)

 最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。こちらもGeForceシリーズ間で比べた場合は、性能順に消費電力も増加するという結果が出ている。

 気になるのはRadeon HD 6990との消費電力差である。Radeon HD 6990は一般的なゲーム利用時に350WでPower Tuneのリミットが375Wに設定されているわけだが、公称値365WのGeForce GTX 590はそれよりも消費電力が30Wほど大きい結果になっている。両製品の特性として気に留めたいポイントといえる。

【グラフ15】各ビデオカード使用時のシステム消費電力

●Radeon HD 6990と好勝負の性能で消費電力は大

 以上の通り結果を見てきた。競合製品となるのはRadeon HD 6990になるわけだが、タイトルごとに優位性が入れ替わる格好となっている。少し皮肉な言い回しをすると、消費電力増を恐れずに絶対的最高性能にこだわってきたNVIDIA製品が、今回ははっきりとした結果を出せなかった、といえる。

 また、性能面では好勝負の両製品だが、消費電力の少なさではRadeon HD 6990に軍配が上がる結果となった。ここは電力と性能のバランスを重視してきたAMDの方向性が結実したといってもいいのではないだろうか。もっとも、多少の消費電力増は気にしない人が選ぶ製品セグメントではあるので、基本的にはメインで遊ぶタイトルなどに応じて製品を選択していいだろう。

 ちなみに、価格は699ドルとされており、現時点では円高傾向にあるとはいえ、初期のプレミア分も考慮すると9万円あたりになるだろうか。この価格を考えると、4万円以下で購入できるGeForce GTX 570を2枚購入することができ、その方がより良い性能が得られる。SLI対応プラットフォームを持つのなら、GTX 570のSLI環境という選択肢も有力ではないだろうか。もちろんコスト面ではRadeon HD 6970のCrossFireという選択肢もあり得る。

 少しネガティブな結論になってしまっているが、GeForce GTX 580との比較を見ても明らかなように、GeForceシリーズのシングルビデオカードとしては最高の性能を持つのは確かだ。Quad SLIという次のステップも考えられる製品であり、FermiベースのマルチGPUカードが投入されたことは歓迎したい。