福田昭のセミコン業界最前線

半導体トップのIntelに迫るSamsungの足音



 半導体ベンダーの売上高ランキング速報が調査会社によって発表される季節となった。半導体業界で最も良く知られているランキングは、米国のハイテク調査会社Gartnerによる売上高トップ10社のランキングである。2010年のランキング速報(日本語版)は12月14日に発表された

 Gartnerのランキングでは、トップ~4位は前年と変わらず米国のIntel(インテル)、韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)、東芝、米国のTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)の順番である。5位以下は順位の変動が多い。韓国のHynix Semiconductor(ハイニックス半導体)と米国のMicron Technology(マイクロンテクノロジ)が順位を上げ、スイスのSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)、米国のQualcomm(クアルコム)、米国のAMDが順位を下げている。半導体メモリのベンダーが順位を上げ、プロセッサやSoC(System on a Chip)などの半導体ロジックのベンダーが順位を下げていることが分かる。

2009年と2010年の半導体ベンダー売上高ランキング(速報値)。2010年の世界市場規模は前年に比べて31.5%増の3,003億ドルとなる。Gartnerが12月14日に発表した数値

 この傾向は、別のハイテク調査会社である米国のIC Insightが11月9日に発表したランキング速報を見ると、より明確になる。同社のランキングは上位20社を公表しているほか、台湾のTSMCといったシリコンファウンドリ(半導体製造請け負い企業)もランキングの対象としており、Gartnerのランキングに比べると知名度は低いものの、より詳細を把握できる。

 このランキングでは、エルピーダメモリの順位上昇とソニーの順位下降が目立つ。エルピーダメモリは2009年の15位から、11位にアップした。ソニーは12位から15位にダウンした。エルピーダのランクアップはDRAM売り上げの大幅増によるもの、ソニーのランクダウンはSoC売り上げがあまり伸びなかったことによるものだ。

 2010年の半導体市場は世界全体でおよそ30%の大幅拡大が見込まれる。このため、2009年に比べて売上高を下げた半導体ベンダーは、上位20社の中には1社もない。ほとんどの企業が2桁成長を達成した。20兆円を超える産業で30%増というのは成長率としては物凄い数字だが、2008年~2009年がそれだけ悪かったとも言える。Gartnerの調べでは、2009年の半導体市場は10.5%減、2008年の半導体市場は5.4%減だった。

2010年の半導体ベンダー売上高ランキング(速報値)。IC Insightsが11月4日に発表した数値
2000年~2012年の世界半導体市場推移。業界団体のWSTS(世界半導体市場統計)が11月30日に発表した数値。2010年の市場規模は前年に比べて32.7%増の3,004億ドルとなる。2009年までは実績、2010年は見込み(2010年1~9月が実績、2010年10~12月が予測)、2011年以降は予測

●半導体メモリが2010年の30%成長を牽引

 30%成長を引っ張ったのは、極端に言ってしまえば半導体メモリだ。半導体メモリベンダーがランキングの順位を軒並み上げている(すなわち売上高を業界平均以上に増やしている)ことからも、半導体メモリが牽引役であったことが伺える。

 半導体産業の業界団体であるWSTS(世界半導体市場統計)は毎年春と秋に、半導体市場の実績と予測を発表してきた。2010年11月30日に発表された最新の予測によると、2010年の半導体メモリ市場は前年に比べて57.5%成長する。市場規模は705億4,800万ドルであり、半導体市場全体(3,004億ドル)の4分の1近くを占める。

●DRAMトップのSamsungがシェアをさらに拡大

 半導体メモリ市場の大半を占めるのは、DRAMとNANDフラッシュメモリである。いずれも2010年には、売上高を大きく伸ばした。

 まずDRAMを詳しくみてみよう。DRAMベンダーの上位4社はSamsung Electronics、Hynix Semiconductor、エルピーダメモリ、Micron Technologyである。この4社でDRAM市場(金額ベース)の9割近くを占める。

 半導体メモリ業界で良く知られているのは、台湾の市場調査会社DRAMeXchangeの調査データである。同社がまとめた四半期ごとのDRAM売上高によると、2009年第1四半期~2010年第2四半期にDRAMベンダーの上位4社はいずれも、売上高を大きく伸ばしてきた。例外はDRAMが9月に値崩れした2010年第3四半期で、Samsung以外の3社は前の四半期に比べて売り上げを落としている。

 逆にSamsungはDRAMが値崩れしたにもかかわらず、2010年第3四半期は前の四半期に比べてDRAMの売上高を22%も伸ばした。2010年第2四半期以前もSamsungの伸びは上位4社の中で突出していた。このため、Samsungのシェアは2009年第1四半期の26.4%から、2010年第3四半期には40.4%と14ポイントも拡大した。

主要DRAMベンダーの売上高推移。DRAMeXchangeの公表データをまとめたもの
主要DRAMベンダーの市場シェア推移。DRAMeXchangeの公表データをまとめたもの

●NANDフラッシュのトップをSamsungと東芝が競う

 続いてNANDフラッシュメモリである。NANDフラッシュメモリベンダーの上位6社はSamsung、東芝、Hynix、Micron、Intel、Numonyxだったが、2010年になってMicronがNumonyxを買収したため、現在は5社でNANDフラッシュメモリ市場のほとんどを占めている。

 DRAMeXchangeがまとめた四半期ごとのNANDフラッシュメモリ売上高によると、2009年第1四半期以降、主要ベンダー5社はいずれも売上高を伸ばしてきた。ただし売り上げを大きく伸ばしたのはSamsungと東芝の上位2社で、残りの3社は上位2社に比べると拡大のペースは鈍い。

 市場シェアの推移をみると、2009年第1四半期~2010年第3四半期にはトップのSamsungがシェアをじわじわと拡大してきた。東芝とHynixはシェアを維持しているが、MicronとIntelはシェアをやや落としつつある。ここでもSamsungの強さが現れている。

主要NANDフラッシュベンダーの売上高推移。DRAMeXchangeの公表データをまとめたもの
主要NANDフラッシュベンダーの市場シェア推移。DRAMeXchangeの公表データをまとめたもの

●SamsungがIntelを半導体売上高で抜き去る日

 Samsungは半導体メモリの最大手ベンダーであり、少なくとも2002年以降、Gartnerの半導体売上高ランキングで2位につけている。Intelは半導体プロセッサの最大手ベンダーであり、同様にトップに君臨し続けてきた。半導体産業は企業の栄枯盛衰のサイクルが短く、これほど長い間、首位と2位を同じ企業が占めてきたことはなかった。しかもここ5~6年のように、3位以下のグループと2位、1位の差がこれほどまで開いたことはない。

 「Intelが断然トップ、Samsungが不動の2位」という現在の状況は今後、いつまで続くのだろうか。気になるのは、SamsungがIntelとの差をじわじわと詰めていることだ。Intelは2002年から2010年の間に半導体売上高を1.75倍に増やした。同じ時期にSamsungは半導体売上高を3.3倍に伸ばしている。成長率では明らかにSamsungの方が高い。

 IntelとSamsungの売上高を比較すると、2002年には両者の間に2.74倍の開きがあった。2010年には、両者の開きは1.45倍に縮まっている。ただしこの間の道のりは1本調子ではない。2006年にIntelとSamsungの半導体売上高の比率は1.52まで縮まったものの、2008年には2.0に差が開いている。

IntelとSamusung Electronicsの半導体売上高推移(2002年~2010年)。Gartnerの公表データをまとめたもの
IntelとSamusung Electronicsの半導体売上高比率(2002年~2010年)。Gartnerの公表データから算出

 ここから将来に対する、2つの見方が生じる。1つは今後も、SamsungがじわじわとIntelとの差を詰めていくというシナリオである(売上高比率グラフの青い点線の延長)。Samsungは半導体大手ユーザーであるApple向けのSoCチップを供給するなど、非メモリの売り上げ比率を高めつつある。半導体メモリの首位を堅持しつつ、組み込みプロセッサや組み込みSoCなどのロジック分野の売り上げを伸ばすと、2015年以降にはIntelに売上高で並ぶ可能性がかなりある。

 もう1つは、SamsungとIntelの差は1.5~2.0の間で膠着し、今後は縮まらないというものだ(売上高比率グラフの赤い点線の延長)。半導体メモリはDRAMしろNANDフラッシュメモリにしろ、価格の変動が激しく、生産数量(記憶容量に換算した生産数量)の拡大と売上高の拡大が一致しないことが多い。例えば2011年の半導体メモリ市場は、マイナス成長になると見込まれている。WSTSの予測値はマイナス6.1%だ。するとSamsungの2011年の半導体売上高はあまり伸びないと見込まれる。1.45まで詰まったIntelとの差は、2011年には再び開いてしまう可能性は少なくない。

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(2010年 12月 21日)

[Text by 福田 昭]