福田昭のセミコン業界最前線

PC向けが当面は主役を務めるストレージ市場

~日本HDD協会2017年1月セミナーレポート(応用分野編)

 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、今年(2017年)の1月27日に「2017年の業界動向 クラウド、フォグの中でHDDが果たす役割とは……」と題するセミナーを開催した。その中で市場調査会社テクノ・システム・リサーチのシニアディレクターを務める馬籠敏夫氏が、「2016年のHDD市場を振り返りながら2017年以降を展望する」と題して講演した内容をご紹介する。

HDD市場に関する講演部分は本コラムの前々回(「HDD世界出荷台数は過去6年で約3分の2に減少」参照)で、SSD(Solid State Drive)市場に関する講演部分は本コラムの前回(「SSD世界出荷台数は過去6年で約12倍に急成長」参照)でご報告した。今回は、ストレージの応用分野別市場に関する講演部分をレポートする。

 なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

ストレージの出荷台数の推移(世界市場)。テクノ・システム・リサーチの講演内容を元に筆者がまとめた。なお2016年の金額ベースの市場規模は、372億8,500万ドルと推定されている

 講演では、ストレージ市場を「エンタープライズ向け」、「デスクトップPC向け」、「ノートPC向け」、「外付け(アドオン)向け」の4つに分類した。昨年(2016年)のストレージ出荷台数(世界市場)は5億3,420万台と推定されている。用途別の内訳は、「エンタープライズ向け」が7,841万台(14.7%)、「デスクトップPC向け」が9,930万台(18.6%)、「ノートPC向け」が1億4,782万台(27.7%)、「外付け(アドオン)向け」が1億850万台(20.3%)である。この4つで全体の813%を占める。そのほか、分類されていない応用の(産業用そのほかの)市場が20%近く存在する。

ニアライン向けHDDが伸びるエンタープライズ市場

 始めは「エンタープライズ向け」市場の概要を展望しよう。エンタープライズ向け市場を構成するストレージは、「エンタープライズ向けSSD」と、「エンタープライズ向け高性能HDD」、「エンタープライズ向け大容量HDD(ニアライン向けHDD)」である。

 出荷台数がもっとも多いのはニアライン向けHDDで4,300万台(昨年(2016年)の推定値、以下同じ)、次いで高性能HDDで2,421万台、そしてSSDが1,120万台と続く。

 金額でもっとも多いのもニアライン向けHDDで66億7,000万ドル、次はSSDで55億4,100万ドルである。SSDは台数は少ないものの単価が高いので、高性能HDDを金額ベースでは逆転する。高性能HDDの市場規模は33億1,000万ドルである。

 平均単価(ドライブ当たりの金額)はSSDがもっとも高く485.8ドル(昨年(2016年)の推定値、以下同じ)、次いでニアラインHDDが155.12ドル、高性能HDDが137.72ドルと続く。平均容量(ドライブ当たりの記憶容量)はニアラインHDDがもっとも大きく、5,060.46GBとほぼ5TBに達する。ニアラインHDDの平均容量は2013年には2,268.88GBだった。わずか3年でドライブ当たりの容量は2.2倍に増大したことになる。

 SSDの平均容量は965.2GB、高性能HDDの平均容量は742.26GBである。平均容量はSSDが既に大きい。2013年には両者の平均容量はほぼ同じだった。SSDの記憶容量の伸びが大きいことがうかがえる。

 出荷台数の成長トレンドは、SSDとニアライン向けHDDがプラス、高性能HDDがマイナスである。金額の成長トレンドも傾向は変わらない。

エンタープライズ向けストレージの世界市場規模推移(2013年~2018年)。出典:テクノ・システム・リサーチ

ニアラインHDDの大容量化をヘリウムドライブが牽引

 前述のように、HDDの大容量化を牽引しているのはニアライン市場である。大容量化技術として注目されているのが、不活性ガスのヘリウム(He)でドライブの内部を封止した「ヘリウムドライブ」だ。HGSTが最初に開発して2013年にサンプル出荷を開始した。ヘリウムドライブは空気(大半は窒素ガス)よりも密度の低いヘリウムガスを封入することで流体抵抗を下げ、プラッタの回転による磁気ヘッドの外乱を大幅に小さくする。従ってプラッタを薄くして従来を同じフォームファクタのドライブにより多くの枚数のプラッタを詰め込める。従来のHDDではプラッタの最大枚数は5枚だったのに対し、ヘリウムドライブの最初の製品では7枚のプラッタを詰め込んでいる。

 ニアライン向けHDDはこれまで空気を封入した従来型の大容量HDDが主流だった。しかし2014年以降はヘリウムドライブが大容量化を牽引するとともに、出荷台数を急激に伸ばしている。昨年(2016年)のニアラインHDD出荷台数4,300万台の中でヘリウムドライブは915万台とまだわずかである。これが今年には1,470万台、来年(2018年)には2,200万台と急激に増加し、再来年(2019年)には従来型HDDをヘリウムドライブが追い抜くと、テクノ・システム・リサーチは予測する。

ニアライン向けHDDにおけるヘリウムドライブの出荷動向。出典:テクノ・システム・リサーチ

デスクトップPC向け市場は3.5インチHDDの時代が続く

 続いて「デスクトップPC向け」ストレージ市場の概要をご紹介しよう。デスクトップPC向け市場を構成するストレージ(いずれも内蔵タイプ)は、「3.5インチHDD」、「2.5インチHDD」、「SSD」である。

 出荷台数がもっとも多いのは3.5インチHDDで、8,050万台(昨年(2016年)の推定値、以下同じ)。デスクトップPC向けストレージの83.2%を占める。次いで2.5インチHDDが1,200万台、そしてSSDが680万台である。

 最近の傾向は、2.5インチHDDを内蔵するデスクトップPCが増えてきたこと。省スペース型のデスクトップPCやストレージ容量があまり大きくないデスクトップPCに採用されている。2013年には2.5インチHDDのデスクトップPC向け出荷台数は450万台だったので、2016年には約2.7倍に増えたことになる。

 デスクトップPCへのSSD搭載も急速に伸びている。2013年には75万台とほぼゼロに近かった。今年(2017年)は900万台に達すると予測する。

 これらの影響によって3.5インチHDDの比率は今後、低下していく。それでも2020年に51.5%と、デスクトップPC向けストレージの半分強は、3.5インチHDDが占める。

デスクトップPC向けストレージの世界出荷台数推移(2013年~2020年)。出典:テクノ・システム・リサーチ

ノートPC向け市場の主役はSSDに交代へ

 「ノートPC向け」ストレージ市場を構成するドライブ(内蔵品)は、HDDとSSDである。昨年(2016年)の推定出荷台数(世界市場)は、HDDが9,000万台で全体の6割、SSDが5,900万台で全体の4割を占める。

 最近の傾向としては、ノートPCの出荷台数が減少しているために、HDDの出荷台数も減り続けている。2011年には約2億台の出荷台数があったのが、昨年(2016年)には半分を割り込んだ。今後はノートPCの出荷台数が下げ止まるものの、HDDは減少傾向が続く。

 代わって急速に増加しているのがSSDである。2011年にノートPC向けSSD(内蔵品)の出荷台数はわずか872万台で、全体に占める比率は4.3%に過ぎなかった。昨年(2016年)の出荷台数は2011年の6.7倍強に達する。伸び率は鈍化するものの、今後もSSDの出荷台数は増加する。そして来年(2018年)にはSSDの出荷台数がHDDの出荷台数を上回ると予測する。SSDの予測台数は8,200万台、HDDの予測台数は7,200万台である。

ノートPC向けストレージの世界出荷台数推移(2011年~2020年)。出典:テクノ・システム・リサーチ

外付け(アドオン)向け市場は2020年以降に主役交代の可能性

 最後は「外付け(アドオン)向け」市場である。市場を構成するストレージは、HDDとSSDに分かれている。昨年(2016年)の推定出荷台数(世界市場)は、HDDが8,100万台、SSDが2,900万台である。HDDが圧倒的に多い。

 アドオン向け市場では、HDDは比較的安定に推移してきた。2013年の出荷台数は8,250万台で、現在とそれほど変わらない。アドオン用ストレージにはバックアップという重要な用途がある。バックアップでは大きな記憶容量を要求することが多く、HDD向きだと言える。このため、10年後でもHDDの安定な需要が見込める市場はこのアドオンと、ニアラインだという見方がストレージ業界ではされてきた。

 しかし最近になって、アドオン用SSDが急激に台数を伸ばしていることから、アドオン用HDDの将来については慎重な見方が増えてきた。アドオン用SSDは、過去には内蔵HDDを交換するための内蔵タイプ製品が主に台数を伸ばしてきた。しかし最近ではUSBインターフェイスの後付けタイプが台数を増やしている。

 後付けタイプのSSDは、HDDと違ってフォームファクタ(外形寸法と形状)の自由度が高く、持ち運びに便利な小さく軽いタイプの製品を作れる。このため、記憶容量ではHDDよりも少ないものの、(アクセス時間が短いことを含めて)利便性の高い後付けタイプのSSDが台数を伸ばしている。

 なお製品の記憶容量ではHDDとSSDは、すみ分けがなされている。アドオン用HDD製品の記憶容量は1TB以上であり、アドオン用SSD製品の記憶容量は512GB以下である。

外付け(アドオン)向けストレージの世界出荷台数推移(2013年~2020年)。出典:テクノ・システム・リサーチ