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Adobeの「Illustrator」が快適に動くPC【後編】
~日清食品のトップデザイナーとともに検証する
2017年4月26日 06:00
特定用途において、コストパフォーマンスに優れたPCとはどのようなものか、そしてそれを取り巻く周辺機器の必要性を、専門家やライター、および実際にPCを製造するパソコン工房、PC Watchがともに検討。実際にPCを製品化していくとともに、周辺機器およびその活用を幅広く紹介するこのコーナー。
第2回目は、Adobeのグラフィックデザインソフト「Adobe Illustrator CC」(以下:Illustrator)が快適に動作するPCおよび周辺機器を考えていく。1月にお届けした前編で、おおよそのスペックを練り上げたのだが、今回完成した試作PCで、その性能を実際に検証していこう。
今回の検証には、日清食品ホールディングスでデザインルーム 主任 デザイナーを務める山本宏紀氏にご協力を頂き、実際にいつも通りに行なっている作業を比較して頂いた。
Illustrator CCの快適動作に必要な環境をおさらい
検証の前に、Illustrator CCを快適に動作させるためのPC環境を、前編で得られた結論をもとに再度おさらいしておこう。
まずはCPUだが、これはコア数よりも1スレッドあたりの性能、つまり同じアーキテクチャのCPUであればクロックが重視されるということだ。Illustratorはアドビのなかでも特に歴史が古く、今年が発表から30周年にあたる。互換性維持のために多くの古いコードも残されているのが特徴だ。
例えば、最新のIllustratorでも初代Illustratorのファイルが読み込めるし、3.0互換のファイル形式で保存することもできる。それだけに互換性を重要視した設計だ。加えて、描画されるパスも依存関係があるため、CPUのシングルスレッド性能がものをいう。
メモリについては、Photoshopやほかのソフトとの併用を考えても、16GBもあれば十分だろうという検討結果。Illustratorをメインにする山本氏の仕事では、Photoshopで簡単な写真の編集や、Illustratorに取り込むデータ作りを行なうことがあるが、多数の写真編集を同時に行なわないため、メモリ容量を食うような作業はほとんどないとのことだ。
GPUについては、Intel CPU内蔵グラフィックスでもOpenGLによるアクセラレーションが効く。処理が重いファイルでは、描画部分よりもアウトライン処理のほうがボトルネックになる可能性が大きいため、ゲーミング向けGPUは過剰になる可能性が高い。
最後にストレージ周りについてだが、Illustratorのファイル自体はパスの集合体のため、さほど大きくはない。通常作業において重いと感じられるようなデータでも、それはパスが複雑化しているためであり、読み込みや書き込みがボトルネックになるようなシーンはほとんどない。
とは言え、システムをHDDにインストールしてしまうと、Illustratorの作業以外のシーンでボトルネックになる可能性があり、生産性を高めるためにもSSDのほうが望ましいだろう、という検討結果だ。
今回テストした2台のPC
検討の結果、今回パソコン工房に2台のPCを用意していただいた。先述のとおり、いずれもCPUクロックを重視した構成である。主な仕様は下表のとおりだ。
マシンA | マシンB | |
---|---|---|
CPU | Core i7-7700K | Core i5-7600K |
メモリ | 16GB | 8GB |
チップセット | Intel H270 | |
ストレージ | 240GB SSD | |
電源 | 500W | |
フォームファクタ | microATX | |
OS | Windows 10 Home |
マシンAは、現時点で入手できるIntel製CPUで最高クロックを誇るCore i7-7700Kを採用。ベースクロックは4.2GHz、Turbo Boostクロックは4.5GHzに達する。先述の通り、Illustratorはシングルスレッド性能を重視したアプリケーションであり、現時点ではクロックがもっとも高いCore i7-7700Kが最適解だろう。メモリも16GBあり、普段の作業には困らないはずだ。
一方マシンBは、Core i5-7600Kを採用している。こちらのベースクロックは3.8GHz、Turbo Boostクロックは4.2GHzと、Core i7-7700Kよりは低いものの、ベースクロックが3.6GHzのCore i7-7700よりは高速になる。繰り返しになるが、Illustratorはシングルスレッド性能を要求するため、Hyper-Threadingを搭載しないCore i5でも十分に性能が発揮できるという予測を踏まえた上での選択だ。
フォームファクタはmicroATXだ。ケース前面はメッシュとなっており、通気性を高めている。デスクサイドに置いても、デスクの下に置いても良いサイズだ。メモリはマシンAが16GB、Bが8GB。チップセットにはIntel B250を採用し、ストレージは240GB、OSはWindows 10 Home、電源は500Wと、Illustratorを扱う上で不足のない構成となっている。
両マシンともにIllustratorの初心者を配慮し、最小限の投資で最大限の効果が得られる構成となっている。快適動作に必要な部分(つまりCPU)は贅沢なパーツで構成、一方で不必要な部分は削ぎ落としたものとなっている。
山本氏のように普段からIllustratorをヘビーに使うユーザーでも、マウスやキーボード、それからディスプレイといった周辺機器は、普段から使い慣れているもののほうが良いという意見を頂いている。PC本体の価格を安価に抑えた分、余った予算はこうした周辺機器に回して、ユーザー自身が納得する最適な環境づくりをしていただきたい。
ビデオカードはあったほうが良い?
さて、実際に山本氏に検証して頂く前に、編集部とパソコン工房のスタッフが実際にIllustratorをインストールし、アドビよりお預かりしたいくつかの“重たい”サンプルデータで事前に性能を検証してみた。
これらのデータは、データ容量こそそれほど大きくはないものの、パス数が非常に多く、キャンパスの拡大/縮小やスクロールだけでもPCに高い負荷がかかる。実際に1段階縮小するだけでも、マシンAでも数秒かかってしまった。
Illustratorの設定でGPUアクセラレーションのオン/オフを試してみたところ、オンとオフ両方であまり変わらないと感じるデータもあれば、なぜかオフのほうが軽いと感じる(つまりオンのほうが重く感じられる)データもあり、データによってまちまちだった。
オンのほうが重く感じられるようなデータの場合、スクロール描画そのものはオンのほうがスムーズに感じられるが、スクロールの追従性(表示領域がマウスポインタについてくるかどうか)に関しては、GPUアクセラレーションオフのほうが高く、意思した動作に“ついてくる”という意味では、オフの方が良い場合もあった。
GPUの使用状況がリアルタイムにわかるソフト「HWInfo64」をインストールし、GPUアクセラレーションがオンのときにGPUにかかった負荷を監視してみたところ、スクロール中はGPU負荷が100%に貼り付いていた。加えて、ビデオメモリの使用量も900MB超に達しており、意外にもIllustratorがGPUを活用していることがわかった。
Intel内蔵GPUは、CPUとメモリを共有しているため、GPUやビデオメモリを駆使するプログラムの場合、GPU処理に伴うメモリ帯域の占有が、メモリアクセスを伴うCPU処理を圧迫し、総合的に性能低下を招くおそれがある。この場合はビデオカードを追加し、メモリ帯域をすべてCPU向けに解放することが望ましい。
そこで、旧世代ではあるが、急遽編集部にあったGeForce GTX 970を追加してみることにした。すると、先ほどGPUアクセラレーションがオフのほうがスクロール追従性が良かったデータも、オンでの追従性が向上した。GPUの負荷も70%台に下がり、余裕が出てきている。CPU側のメモリ帯域が解放されたことで、CPUコアの性能が引き出され、よりスムーズに描画ができるようになったわけだ。
とは言え、やはりGPUの効果はデータによってマチマチであった。以降の検証は、全てGeForce GTX 970を装着した状態で行なうことにするが、パソコン工房によれば、実際発売される製品に関しては、下位モデルはIntel内蔵GPUで行き、上位モデルでビデオカードを搭載、シーンによってユーザーが使い分けができるようにしたいとのことだ。
プロも認める速さ
最後に、デザイナー 山本氏に検証をしていただいた。前編で述べたとおり、同氏はIllustratorで製品のパッケージデザインを行なっている。もっとも重く感じられるのは、複数のパッケージ案を1つのアートボードに並べて表示させ、比較検討するシーンだ。
同氏によれば、普段の作業において1つのファイルの処理が重くならないよう、データを切り出して複数のファイルにするようにしている。しかし本来、製品化するさいは、並べて比較検討できる案は多ければ多いほど望ましい。複数ファイルへの切り出し作業が減れば、それだけ生産性向上にもつながる。
山本氏が今回のマシンで実際に操作を始めたところ、最初に発した言葉が「速っ!」だった。ファイルを開くところからスクロール、そしてパスの移動やドロップシャドウといったエフェクトを含む、普段の作業でひととおり行なう操作をしていただいたが、普段使われているPC(Xeon 3.7GHz/4コア、メモリ32GB、Fire Pro D300×2、256GB SSD)と同等以上の性能が得られているそうだ。
具体的に、ファイルを開く段階で、すでに手持ちのPCより数秒高速であることが確認できた。もっとも、山本氏のPCはすでに数年利用されており、また、OSを含むアプリケーション環境がまったく異なるので、単純に比較できるわけではないが、この速度であれば、普段の作業はストレスフリーだそうだ。
アートボードを複数並べた重たいファイルでも、スムーズに作業できることを確認した。同氏が普段作業されているファイルでも、GPUアクセラレーションがオンのほうがスクロールやズームが快適なものもあれば、オフの状態のほうがスムーズに動作するものがあり、データによってマチマチだったが、「(アートボードを複数並べた)重たいファイルでも(切り分けせずに)直接編集作業を行なえるのはすごいことだと思います」と山本氏。性能にも満足されているようだ。
加えて、Illustratorには、パスを回転させて3Dオブジェクトを生成する機能も備わっているが、試しにドロップシャドウが適用されている、複雑なオブジェクトの3D(回転体)操作を行なったところ、難なく処理を終えることができた。山本氏は「この作業が行なえるというだけでもすごいことだと思います」とコメントした。
上位モデルに関しては、メモリ16GBを搭載していることもあり、Photoshopと同時起動し、そちらで素材をフォトレタッチしながらIllustratorに結果を反映、またはIllustratorから切り出したイラストをPhotoshopに貼り合わせるといった作業もスムーズに行なえることを確認した。
最後に、山本氏が記事に寄せたコメントを紹介したい。
山本氏のコメント
今回、普段使用しているPCと、パソコン工房さんに用意していただいた2台のWindows PCの使用感を比較検証しました。まずは、Illustrator CCでデータの開く時間を比較しました。私は、1つのデータ上でアートボードをどんどん追加し、複数のデザインの検証をしたいので、つい重くなりがちです。普段使用しているPCでも開くのに時間がかかってしまい、作業の効率が悪いことがあります。
今回、用意していただいた2台のマシンはどちらも速くデータを開け、ドロップシャドウと3Dを併用したような重い効果を使用しても、ストレスなく表示できました。パスの多いオブジェクトを含むアートボードをどんどんコピーして増やしても全く固まる気配がなく、ストレスフリーでした。正直、そんなことがあるわけないと疑っていたので、驚きました。
GPUアクセラレーションについては、普段、使用している環境下ではオフにしておいた方が、早く動いておりますが、今回の2台に関してはオンでもオフでも非常に快適に動作しておりました。その速度感に違いはほとんど感じられなかったですが、データによって、GPUが機能するものとそうでないものとがある印象でした。
マシンAとマシンBの差はほとんどありませんでしたが、マシンAはメモリが16GBであるとのことで、Photoshopと併用されるような場合はこちらのほうが良いと思います。
全体を通して、非常にコストパフォーマンスが高いと感じました。Illustratorだけでの比較でしたが、一昔前と比べ物にならないくらい快適に動いたことが驚きました。20万~30万といった、一般世間的に考えられる“ワークステーション”でなくとも、快適にIllustratorが動作するということがわかりました。
Illustratorが快適に動くPCの考察
今回のPCはあくまでも検証用の試作機であったため、実際の製品化に向けての改善点をまとめてみた。
1つ目はCPUについて。これは前編の内容を踏まえた上での結論だが、やはりIllustratorはシングルスレッド性能をもっとも重視するアプリケーションであった。よって、(Intel製CPUに限って言えば)新しいアーキテクチャのほうが有利であり、同じCPUアーキテクチャであれば高いクロックのほうが、性能向上に寄与する。
山本氏が普段使われているワークステーションは3.7GHz駆動のXeonではあるが、CPUは旧世代のIvy Bridgeアーキテクチャであり、動作周波数も4GHz未満。Illustratorを使うのであれば、コア数が少なくても、アーキテクチャが新しく、動作クロックも高いKaby Lake世代のほうが向いている。
そういう意味では、Core i7やCore i5も良いものの、先日発売されたCore i3-7350Kも視野に入れて良いだろう。このCPUはコア数こそ2つだが(Hyper-Threading対応で4スレッド同時実行)クロックは4.2GHzと高く、Illustratorの使用においては、Core i7-7700Kに迫る性能を実現できそうである。価格も2万円以上安いので、最低スペックはここからのスタートが良さそうだ。
一方、当初の予定に入っていなかったビデオカードだが、これは上位製品で搭載する方向性だ。編集部にあったGeForce GTX 970はすでに終息した製品であるため、実際の製品にはGeForce GTX 1060クラスのものを載せる方向性で、パソコン工房と編集部と意見が一致した。そのほかのパーツについては、おおむね現状を維持して問題なさそうだ。
今回の一連の検証では、アプリケーションの意外な一面を見ることができた。それは新しいアプリケーションだからと言って、新しいプロセッサの性能を引き出せるわけではないということだ。CPUのマルチコア化は10年以上の歴史があるが、それでもマルチコアの性能がフルに活かされているわけではない。そのためCPUはまだまだシングルスレッド性能を向上させなければならないし、アプリケーション側もまだまだ改善の余地がある。ユーザー体験と生産性の改善は、ハードとソフト両方が歩み寄らなければならないと思った。
現在のIllustratorはCreative Cloudのサブスクリプションになっており、常に最新版を利用できる環境になっている。GPUのパフォーマンス強化も近年に追加されたモノで、山本氏をはじめ、多くのクリエイターが利用する製品だけに、思い描いたモノを作成できるパフォーマンスは重要な要素だ。今後の更なる進化にも期待したい。
今回パソコン工房より発売される予定のモデルは、いずれもコストパフォーマンスを重視した、10万円前後の価格を予定している。今後CPUやGPUの世代が変わっても、同グレードの最新構成へと変更し販売が継続されるという。“クリエイター向けのワークステーションだから高そう”というイメージをお持ちのIllustratorの初心者にも手が出しやすいだけでなく、今使っているIllustrator用PCに性能面で不満があると言ったユーザーも、買い替えを検討しやすい価格設定となっているのではないだろうか。
グレード | エントリーモデル Illustrator使う方向け | スタンダードモデル Illustratorやほかのソフトも使う方向け | アドバンスモデル IllustratorやPhotoshopなどを併用しガンガン制作していく方向け |
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シリーズ名 | SENSE∞ | ||
モデル | SENSE-MA25-i3K-HNS-AI | SENSE-MA25-i5K-HNS-AI | SENSE-MA25-i7K-RNJS-AI |
CPU | Core i3-7350K | Core i5-7600K | Core i7-7700K |
メモリ | 8GB | 8GB | 16GB |
チップセット | Intel H270 | ||
ストレージ | 240GB SSD | ||
光学ドライブ | DVDスーパーマルチドライブ | ||
OS | Windows 10 Home | ||
フォームファクタ | microATX | ||
電源 | 500W 80PLUS Silver | ||
税別価格 | 84,980円 | 92,980円 | 136,980円 |