■西川和久の不定期コラム■
日本HP「HP MediaSmart Server EX490」
これまでWindows Home Serverを採用したサーバー機は各社から出ていたものの、どうしてもWindowsクライアントのファイル共有とバックアップがメインと言うイメージが強く、コンテンツも含んだホームサーバーとしては弱かった。そこに日本ヒューレット・パッカードから独自のカスタマイズを施し、強力なメディアサーバー機能を搭載し、さらにMac OS XやiPhoneなどにも対応した面白そうな製品が登場した。さっそく使用したのでそのレポートをお届けする。
「HP MediaSmart Server EX490」のOSはWindows Home Server(以降WHS)がベースとなっている。CPUはCeleron 450。クロック2.2GHz、L2キャッシュ 512KB、FSB 800MHzと、今時のPCと比較すると少し劣るが、この手のNASはAtomプロセッサを使ったものが多く、それよりはパワーがあり、またメモリを標準で2GB搭載しているのも見逃せないポイントだ。このCPUとメモリ容量は、後述する多くのアドイン、そして動画フォーマットを変換するトランスコードに用いられる。主な仕様は以下の通り。
HP MediaSmart Server EX490仕様 | |
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CPU | Intel Celeron 450(2.2GHz/512KB L2 cache/800MHz FSB) |
メモリ | 2GB/最大2GB DDR2 DRAM |
HDD | 1TB(7,200rpm)×1(空3) |
OS | Windows Home Server |
ネットワーク | Gigabit Ethernet(10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T) |
その他 | USB 2.0×4(全面×1、背面×3)、eSATA×1 |
サイズ/重量 | 140×230×250mm(幅×奥行き×高さ)/約4.92kg/縦置き |
ユーザーOSサポート | Windows 7/Vista(32または64bit版)、XP(SP2)、Media Center Edition 2004(SP2)以降、Mac OS X(OS10.5以上) |
価格 | 49,980円(税込/HP Directplus調べ) |
HDDは、フロントからアクセスできるドライブベイが4つあり、その一番下に7,200rpmの1TBが入っている。HDDマウンタも付属するので、SATAの3.5インチHDDさえ購入すれば、即本体にマウントできる。
またUSB 2.0×4、eSATAポートも装備。外部にストレージを追加するのも容易だ。ネットワークはGigabit Ethernet(GbE)対応。ファイル転送が高速に行なえる。無線LANは用途を考えるとGbEと比較して転送速度が不利になるため、省かれたものと思われる。
そしてWHSとしては珍しく、対応するクライアントは、Windows 7/Vista(32/64bit対応)、XP(SP2)、Media Center Edition 2004(SP2)以降に加え、Mac OS X(10.5以上)、そしてiPhone/iPod touch/iPadなども含まれている。どのような対応なのかは後半で説明したい。
価格は49,980円(税込/HP Directplus調べ)だ。ここまでの情報だけでは「もう少し安価でも……。」と、思いがちだが、+αの部分まで含めると、なかなかリーズナブルな設定ではないだろうか。
トップのイメージ写真から分かるように、本体はHDDを4台搭載可能な割には結構コンパクトだ。電源はACアダプタではなく、電源ユニットを内蔵している。
配線は基本的に電源ケーブルとネットワークケーブルのみ。ディスプレイ用やキーボード用のコネクタは無い。電源ボタンを押すとシステムが起動し、起動中は正面一番右端のLEDが点滅、完全に起動すると点灯に変わる。システムが起動し、後述するWHSコンソールが使えるようになると、電源OFFやリブートはクライアント側からでも行なえる。
HDD冷却用のファンが2つ、電源用のファンが1つと、ファンレスでは無いものの、音や振動などが皆無で静かな室内で常用するにも全く問題にならないだろう。熱も丸1日テストした範囲ではボディは冷たいままだ。フルに4台HDDを搭載するとまた状況は変わると思われるが、標準で1TBあるので、当面容量不足を考える必要は無い。
●Mac OS Xも完全対応セットアップは非常に簡単だ。サーバーを起動するだけなら単に本体の電源をONにするだけでいい。
細かい設定は、WHSコンソール経由になるため、クライアント側でソフトウェアをインストールしなければならない。このWHSコンソールのベースは、リモートデスクトップ接続だ。OSとしてはWindowsとMac OS Xに対応している。
付属のCD-ROMからセットアップするか、ネットワーク上に表示されるサーバー(デフォルトは「HPSTORAGE」)をアクセスすることによりWebブラウザ経由でダウンロードもできる。Windowsの場合とMac OS Xの場合、両方の画面キャプチャを掲載したので参考にして欲しい。
HP MediaSmart Serverは、WindowsはもちろんMac OS Xにも完全に対応している。以降全ての画面キャプチャはMac OS X側で行なっているが、ご覧のように非常にうまく動き、クライアントに1台もWindowsが無くても大丈夫だ。さらにTime Machineもサポート。Macユーザーにも魅力的なサーバーとなる。ちなみにMacworld 2009の「Best of Show」を受賞しているほどの実力だ。
●多彩なアドインでより使い易く
HP MediaSmart ServerのベースOSはWHS。従ってWHSが持つファイル共有やWindowsクライアントの丸ごと/フォルダ単位/自動バックアップ機能などは全て使用できる。もちろん、空きが3つあるドライブベイにHDDを追加した時、もしくはUSB 2.0またはeSATAで増設したストレージの管理もWHSで簡単に行なうことも可能だ。
ただ以前筆者がAtom 330プロセッサを使いWHSを動かした時、イマイチ面白くなかったのは、基本的にファイル共有と各Windowsクライアントの自動バックアップ程度にしか使えなかったからだ。しかし、このHP MediaSmart Serverは、WHSをベースにしながらも独自のソフトウェアを追加することにより、非常に魅力的なサーバー環境に仕上げている。
追加されたソフトウェアは、「HP MediaSmart Server アドイン」(Media Streamer、HP Media Collector、HP Video Converter、HP Photo Publisher、HP Photo Viewer、Server for iTunes) 、「Twonky Media アドイン」(メディア共有用アドイン、DLNA対応)の2系統。
前者は、リモートストリーム配信、クライアントからコンテンツを収集、トランスコーダ、写真共有サイトへの公開、iTunesサーバーなどの機能を持つ。後者はDLNAサーバーだ。通常これらの機能は、LinuxをベースにしたNASやルーター(+外部ストレージ)などに入っているケースがほとんどで、WHSをベースにした製品は非常に珍しい。
なお「HP Media Collector」が対応しているフォーマットは「写真:jpg、gif、tif、pct、mov」、「音楽:mp3、wma、m4a、aac、wav、プレイリスト(m3u、wpl)、アルバムアート」、「動画:avi、mov、m4v、mpeg、mp2、wmv、flv、divx、dvr-ms、m2ts」となっている。また、ストリーミングはMPEG-4ビデオファイル(mp4/H.264ビデオコーデック、AACステレオオーディオコーデック)へ自動変換が行なわれる。
さらにGUIはWindowsベースなので非常に分かりやすくなっている。ユーザーとしては「ベースのOSが何か」ではなく、「何ができるか」に興味があるため、なかなか面白いコンビネーションと言えよう。インプリメントも見事でWHSにこれらの機能が融合している。
自宅でのストリーミング | Web/iPhoneストリーミング | HP Media Collector |
HP Video Converter | HP Photo Publisher | メディア サーバ |
HP MediaSmart Serverは、クライアントとして、iPhone/iPod touch/iPadにも対応し、無料のApp「HP MediaSmart」をApp Storeからダウンロードすれば、サーバー内にある写真、音楽、動画にアクセスすることができる。サーバーが接続されたルーターのWAN側がグローバルIPアドレスの場合は、3G回線やWiFiを使って外から再生も可能だ。
ただ残念なのは現在、iPhone/iPod touch版しか無く、iPadでの使用はiPhone互換モードで使うことになる。この場合、画面キャプチャをご覧頂ければ分かるように、中央に小さく、もしくは×2に拡大して表示する事になる。前者だとせっかく大きい画面に小さく表示されるだけで迫力が無く、後者の場合は倍に拡大表示するので画像や動画が荒くなる。iPadの解像度を生かすにはiPad専用版が望まれる(もしくは両対応のユニバーサル版)。
専用版が出るまでの間、この問題を解決するには、他のiPad用DLNAクライアントAppを使えばOKだ。HP MediaSmart ServerはDLNAサーバー機能を持つため、HP MediaSmart Appを使うのとほぼ同等のことができる。有料のものや無料のものが何種類かApp Storeにあるので、好みに応じてダウンロードすればいいだろう。画面キャプチャは無料の「Media Link Player Lite」。もちろん同じ理屈でPlayStation 3やXbox 360など、DLNAクライアント機能を持つゲーム機/AV機器とも接続できる。
余談になるが、実は筆者の自宅では、バッファローの無線ルーター「WZR-HP-G300NH」にUSB経由で外部HDDを取り付け、このHP MediaSmart Serverとほぼ同じ環境を構築し、ホームサーバーとして使用している。
1番の違いはトランスコーダの有無と処理能力差だ。例えばトランスコーダが無いと、iPhoneやiPadではwmvフォーマットの動画は再生できず、サーバー上の全ての動画をMPEG-4ビデオファイル(mp4/H.264ビデオコーデック、AACステレオオーディオコーデック)にしなければならない。場合によっては再エンコードだ。また、CPUも遅いため、1つのクライアントが大量(もしくは大容量)のファイル転送(特にアップロード)を行なうと、途端に他のクライアントの反応が鈍くなるなど、毎日使っているだけに、その差は明らか。HP MediaSmart Serverが欲しくなったのは言うまでもない。
以上のようにHP MediaSmart Server EX490は、WHSとしては十分なハードウェアに支えられ、加えて多くのアドインによって、Windowsはもちろん、Mac OS X、iPhone/iPod/iPadなど、さまざまなデバイスにも対応した新感覚のホームサーバーだ。DLNAサーバー機能もあるので、PS3やXbox 360などのゲーム機/AV機器でもコンテンツを再生できる。
これまでWHSと言うとWindows専用と言うイメージが強かったものの、この同社によりカスタマイズされた環境は正にアットホームでオールマイティ。久々に筆者が欲しいと思った逸品だ。