■平澤寿康の周辺機器レビュー■
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)から、Windows Home Serverマシン「MediaSmart Server」シリーズが登場。コンパクトなボディながら4台のHDDを内蔵でき、メディアストリーミング機能など、他のWHSマシンにはない魅力的な機能が満載で、日本での発売が待ち望まれていた製品だ。日本では、法人向けの「MediaSmart Server X510 DataVault」と、個人向けの「MediaSmart Server EX490」の2モデルが発売されているが、今回はその中から、個人向けの「MediaSmart Server EX490」を紹介しよう。
●コンパクトボディに高スペックなPCシステムと4個のHDDベイを搭載MediaSmart Serverは、マイクロソフトがWindows Home Server(以下、WHS)を発表したInternational CES 2007での初公開以降、コンパクトなWHSマシンとして注目されていた。欧米では数年前より発売され、高機能なWHSマシンとして高い評価を得ていたが、日本では発売が見送られていた。そして今回、満を持しての発売となったわけだ。
今回発売されたのは、法人・SOHO向けとして位置付けられている「MediaSmart Server X510 DataVault」(以下、X510)と、個人向けの「MediaSmart Server EX490」(以下、EX490)の2モデルだ。そして、これらMediaSmart Serverシリーズの魅力は、HDDを4台内蔵でき、比較的高性能なシステムを内蔵していながら、コンパクトなボディを採用している点だ。
ボディサイズは、140×230×250mm(幅×奥行き×高さ)。家庭向けのNASと比べると、そほれほどコンパクトには感じないかもしれない。実際に、筆者が所有しているバッファロー製のNAS「LS-Q1.0TL/1D」と比べてみたところ、幅と奥行きはほぼ同じだが、高さは1.5倍以上ある。HDDを4台内蔵できるという点は双方とも同じなので、横に並べるとどうしても大きく感じてしまう。
とはいえ、NASとは違い、MediaSmart ServerはWHSマシンであり、フルスペックのPCシステムが内蔵されている。それも、WHS自体を快適に動作させるのはもちろん、標準でインストールされている独自のアドオン機能を快適に動作させるために、かなり高スペックなものとなっている。そのため、やや大きなボディとなっているわけだ。つまり、コンパクトなNASと比較すると大きいということであり、実際には十分にコンパクトなボディと言っていいサイズだ。
本体前面および背面は、ほぼ全体がメッシュ構造になっているとともに、背面には2個の8cm角ファンが取り付けられ、前面から背面に向かって効率良く空気が流れるようになっている。これによって、4台のHDDとPCシステムを冷却することで、安定して運用できる。もちろん、このファンはファンコントロール機能によって回転数が制御されており、通常利用時にファンの音が気になることはほとんどなく、動作音は非常に静かだ。これなら、ワンルームなど設置場所と同じ部屋で寝るという人でも気になることはないだろう。
また、動作音だけでなく、インジケータとして利用されているLEDの光も夜には気になるもの。しかしEX490では、前面に配置されているHDDインジケータなどのLEDの輝度を自由に調節できるようになっている。主電源LEDを除いて、完全に消灯させることも可能で、こういった部分への配慮は非常に嬉しい。
本体前面は全体がトビラになっており、開けるとHDDベイにアクセスできる。HDDベイはトレイ式で、全部で4個用意されている。トレイは、取っ手を利用して手前に引き出せる。トレイへのHDD着脱はドライバーレスで行なえるとともに、HDDの着脱はホットプラグに対応しているため、HDDの増設や交換は非常に簡単だ。EX490では、標準で容量1TBのHDDが最下段のトレイに収納され、WHSシステムがインストールされているが、この最下段のトレイだけはロックできるようになっており、不意に取り出してしまうことがないように工夫されている。
外部接続端子としては、Gigabit Ethernetに加えて、前面にUSB 2.0×1、背面にUSB 2.0×3とeSATA×1を用意。内蔵HDDだけでは容量が不足した場合でも、eSATAやUSB 2.0を利用してHDDを手軽に増設できるため、将来性も安心だ。
●CPUとしてCeleron 450を採用
EX490に搭載されているPCシステムでは、CPUとしてシングルコアのCeleron 450(2.20GHz)を採用している。現在市販されている小型WHSマシンの多くは、CPUとしてAtomシリーズを採用するものがほとんどだが、それらと比較すると、CPUパワーに余裕があるため、さまざまな面でパフォーマンスが向上する。CPUパワーによる違いはあまり出ないと思われがちなファイル転送速度も、実際にはかなり大きな差が発生する。つまり、CPUパワーはWHSの快適利用という意味でかなり重要な要素なのだ。また、メインメモリも標準で2GBとなっている。これも、快適動作を実現する要因となっているのは間違いない。
ちなみに、法人・SOHO向けのX510では、CPUとしてデュアルコアのPentium E5200(2.50GHz)が採用されている。法人やSOHO用途では、接続するクライアント数がWHSの上限である10台に限りなく近くなる可能性が高く、サーバーへの同時アクセスも頻発することが考えられるため、処理能力の高いCPUを搭載することで、十分な速度を確保しているわけだ。個人向けのEX490でもデュアルコアCPUを採用してもらいたかったが、個人用途ではライアント数が5台を超えることは少なく、複数のクライアントからの同時アクセスもほとんどないため、シングルコアCPUでも大きな問題はない。
CPUにはCeleron 450を採用。Atomに比べて非常に高い処理能力を誇り、アクセス速度などパフォーマンスに優れる | 搭載されているマザーボード。ファンレス構造だが、背面ファンを利用して効率良く冷却されるため、安定して動作する | メインメモリは、標準で2GB。マザーボード直下は電源ユニットだ |
●iPhoneもサポートするメディアストリーミング機能を標準搭載
MediaSmart Serverシリーズの最大の特徴となるのが、HP独自のオリジナルツールによる、豊富な機能が標準搭載されている点だ。そのどれもが魅力的なものだが、中でも注目されるのが、メディアストリーミング機能の「HP Media Streamer」だ。
これは、ローカルネットワークで接続されているクライアントだけでなく、WHSが持つリモートアクセス機能を活用し、インターネット経由で接続したクライアントも対象としたメディアストリーミング機能だ。クライアントはWindowsマシンだけでなく、MacやPlayStation 3、Xbox 360もサポート。しかも、HPが無償で配布しているiPhone/iPod touch向け専用アプリ「HP MediaSmart Server iStream」を利用することで、iPhoneやiPod touchでもストリーミングを楽しめるのだ。
ストリーミング対象となるメディアファイルは、静止画、動画、音楽の3種類。このうち、静止画と音楽に関しては、WHSの共有フォルダである「写真」および「音楽」フォルダに保存されているものが対象となる。
それに対し動画は、WHSの共有フォルダ「ビデオ」に保存されているデータが直接ストリーミングされるわけではない。「ビデオ」フォルダに動画ファイルを保存すると、自動的に「HP Video Converter」という動画変換機能が起動し、保存した動画ファイルを自動的にMPEG-4形式(映像H.264、音声AAC)に変換する。そして、このあらかじめ変換されたデータがストリーミングされることになる。高性能なCPUが搭載されているのは、この変換作業をスムーズに行なうためでもある。
変換プロファイルは、標準でフルとモバイルの2種類が登録されており、1つの動画ファイルについて2つのストリーミング用データが作成される。また、プロファイルはiPod/ZuneやPSP、iPhoneに最適化したものも用意されている。さらに、映像サイズやビットレートを自由に調節することも可能だ。
実際に、iPhoneを利用してストリーミングを試してみたところ、さすがに3G回線経由では動画ストリーミングはデータ転送が間に合わずかなり厳しいようだったが、静止画や音楽についてはかなり快適だった。もちろん、iPhoneをWi-Fi接続で利用している場合では、動画も快適に楽しめたので、iPhoneで動画のストリーミングを楽しむ場合には、Wi-Fi接続が必須と言っていいだろう。また、クライアント側のダウンロード速度だけでなく、MediaSmart Serverを接続している回線のアップロード速度も当然重要となる。インターネット経由でメディアストリーミング機能を快適に活用したいなら、可能な限り高速なアップロード速度を持つインターネット接続回線を用意すべきだろう。
WHSの「ビデオ」フォルダに動画がコピーされると、「HP Video Converter」が起動し、あらかじめ設定したプロファイルに応じて自動的にストリーミング用のデータが作成される | ストリーミング用データは、映像はH.264、音声はAACで固定だが、映像サイズやビットレートは自由に変更可能だ |
iPhoneやiPod Touchでは、無料配布されている「HP MediaSmart Server iStream」を利用してストリーミングが楽しめる |
●メディアファイルはクライアントマシンから自動収集
MediaSmart Serverには、静止画や音楽、動画などのメディアファイルを、クライアントから自動収集する機能も用意されている。それは、「HP Media Collector」というツールで、クライアントPCの共有フォルダをチェックし、メディアファイルを自動的にMediaSmart Serverにコピーする。通常のWHSマシンでは、ユーザーがメディアファイルをWHSの共有フォルダに手動で転送しておく必要があるが、MediaSmart Serverであれば、そういった手間もかからない。
もちろん、全ての形式のメディアファイルがサポートされているわけではない。静止画ファイルはjpg、gif、tif、pct、mov形式のもの、音楽ファイルはmp3、wma、m4a、aac、wav形式およびm3uまたはwpl形式のプレイリスト、アルバムアート、動画ファイルはavi、mov、m4v、mpeg、mp2、wmv、flv、divx、dvr-ms、m2ts形式のものが対象だ。とはいえ、設定によっては、クライアントPCの共有フォルダ以外に保存されているものも収集することが可能なので、いちいち手動でファイルを転送することなく、メディアファイルをMediaSmart Serverに収集し管理できるという点は、非常に便利だ。インターネット経由でのメディアストリーミング機能を利用しない場合でも、大いに活用できるはずだ。
「HP Media Collector」が、クライアントPCに保存されているメディアファイルを自動的に集め、WHSの共有フォルダに転送するため、いちいちファイルを転送する手間がかからない | 自動収集機能を無効にしたり、クライアントごとにメディアファイルのチェック対象フォルダを細かく指定できる |
●Mac環境にも柔軟に対応
標準でMacのTime Machineに対応し、保存先として指定できる。また、iTunesサーバー機能も搭載しており、Macユーザーも便利に活用できる |
MediaSmart Serverは、Mac環境との親和性が高いという点も魅力の1つ。もともと、Mac側からWHSの共有フォルダへのアクセスは標準で問題なく行なえる。それに加えMediaSmart Serverでは、Macのバックアップ機能である「Time Machine」に対応しており、標準でMediaSmart ServerをTime Machineのバックアップ先として指定できるようになっている。また、iTunesサーバー機能も搭載している。
筆者はMacを所有していないため、これら機能を試すことはできなかったが、Windows PCとMac双方を所有している人はもちろん、Macのみを利用している人でも、有効に活用できる機能ではないだろうか。先ほどのメディアストリーミング機能と合わせ、MacユーザーやiPhoneユーザーにも、MediaSmart Serverは魅力的な製品と言えるはずだ。
実際にファイルを転送し、速度を計測してみた。EX490とクライアントPCを同一のGbE対応スイッチングHubに接続し、クライアントPCからEX490へのファイルコピーと、EX490からクライアントPCへのファイルコピーにかかる時間を計測した。コピーに利用したファイルは、デジタルカメラで撮影したJPEG形式の写真ファイル779枚、全容量約1.86GBと、WMV形式で容量約1.89GBの動画ファイル1個だ。写真ファイルについては、全ファイルを保存したフォルダごと、動画ファイルはファイルそのものを転送した。転送にかかる時間は、ストップウォッチを利用して3回手動計測し、その平均を出している。テストに利用したクライアントPCの環境は、下に示す通りだ。
また、比較として、手持ちのAtom搭載マザーボードを利用して構築したWHSでも、同じテストを行なった。さらに、HDDを1台増設し、WHS側の共有フォルダの複製機能をオンにした場合でも同じテストを行なった(増設用HDDは、Western DigitalのWD20EARSを利用、増設時にはジャンパピンを取り付けAdvanced Formatを無効化した)。
・クライアントPCの環境 | |
---|---|
CPU | Core i5-750 |
マザーボード | Intel DP55KG |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2 |
グラフィックカード | ATI Radeon HD 4670 |
HDD | Western Digital WD3200AAKS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Ultimate |
・Atomマザーボードを利用したWHSマシンの環境 | |
CPU | Atom N270 |
マザーボード | Jetway NF94-270-LF |
メモリ | PC2-4200 DDR2 SDRAM 2GB×1 |
グラフィックカード | チップセット内蔵 |
HDD | Seagate ST31000340AS |
○ファイル転送速度
・HDD1台
クライアント→WHS | ||
MediaSmart Server EX490 | Atom N270搭載自作WHSマシン | |
写真 | 43.7秒 | 57.2秒 |
動画 | 29.1秒 | 36.0秒 |
WHS→クライアント | ||
MediaSmart Server EX490 | Atom N270搭載自作WHSマシン | |
写真 | 42.2秒 | 46.6秒 |
動画 | 27.6秒 | 27.1秒 |
・HDD2台、共有フォルダ複製オン
クライアント→WHS | ||
MediaSmart Server EX490 | Atom N270搭載自作WHSマシン | |
写真 | 45.4秒 | 69.6秒 |
動画 | 28.6秒 | 35.0秒 |
WHS→クライアント | ||
MediaSmart Server EX490 | Atom N270搭載自作WHSマシン | |
写真 | 40.7秒 | 47.7秒 |
動画 | 26.9秒 | 25.3秒 |
結果を見ると、特にクライアントPCからEX490へのファイルを転送する場合の速度が、Atom搭載自作マシンよりも圧倒的に高速になっていることがわかる。また、EX490でHDDを増設し、共有フォルダの複製をオンにした場合での写真ファイル転送時のは、その差がさらに顕著になっている。EX490からクライアントPCへのファイル転送では、動画ファイルでは差はほとんど見られないものの、写真ファイルの転送ではEX490のほうが1割以上高速となっている。この結果から、CPUパワーの優れるEX490では、ファイル転送が高速に行なえることがよく分かるはずだ。
○消費電力HDD1台 | HDD2台 | HDD3台 | |
アイドル時 | 35~36W | 39~40W | 45~47W |
ファイル転送時(書き込み) | 41~43W | 50~51W | 56~58W |
高負荷時(動画変換時) | 51~53W | 55~57W | 64~65W |
次に、消費電力をチェックしてみた。こちらは、電源ケーブルの先にワットチェッカーを取り付けた状態で、アイドル時、EX490へのファイル転送時、HP Video Converterによる動画変換実行時の消費電力を計測した。また、HDDを1台および2台増設した場合の消費電力も計測した。
結果は、HDDが1台搭載されている場合では、アイドル時で35W前後、ファイル転送時で42W前後、動画変換時の高負荷時で52W前後であった。カタログ値では、消費電力は標準43Wとされているが、これはファイル転送時の数値とほぼ合致する。また、高負荷時でも53W前後となっているので、消費電力は十分に低く、24時間常時稼働させる場合でも安心だ。HDDを増設した場合では、HDD搭載台数にほぼ比例して消費電力が増えている。ちなみに、増設するHDDによって消費電力も変わってくることになるので、今回の結果は参考値として見てもらいたい。
このようにEX490は、高スペックシステム採用による快適性能と、充実した独自機能により、WHSマシンとして圧倒的な完成度を誇っている。しかも、価格は49,980円と、性能や機能面を考えると非常に安価だ。これからWHSマシンを自作して運用しようと考えていた人も含め、大いにオススメしたい製品だ。
ちなみに、法人・SOHO向けのX510は、1TB HDDを2台搭載し71,400円となる。EX490に比べ価格は高くなるが、デュアルコアCPUの搭載と、3年保証が付属する。個人でも購入可能なので、スペック面と長期間の保証に魅力を感じるならこちらもオススメだ。
(2010年 7月 22日)