西川和久の不定期コラム

無料でWin32/64アプリがBig Surで動作! Apple M1も対応の「WineskinServer」

WineskinServerを使い秀丸とWinSCPがM1 Big Surで起動

 以前、M1搭載Mac miniの試用記でWindows環境として「CrossOver 20」をご紹介した。それほど高価でもないのだが、ちょっとWindowsアプリを動かすのには若干ハードルが高い。その後色々物色したところ、同等の機能を無料で構築できる「WineskinServer」を見つけたのでご紹介したい。

Big SurでのWindows環境は未だ複雑

 WindowsからmacOSへスイッチする時、「Microsoft Office」や「Adobe Creative Cloud」など、大物の多くは既にmacOSそしてM1に対応しているので特に困らないが、例えば筆者が昔から使っている「秀丸」や「WinSCP」など、ちょっとしたツール系アプリはmacOS未対応だ。

 代替が見つかればいいが(筆者は秀丸の代わりにmiに乗り換えた)、WinSCPの大量なホストリストなど、データ移行ができないケースもあり、スイッチを踏みとどまることもあるかと思われる。

 現在、macOS上でWindowsアプリを使う方法は大きく分けて以下の3つ(Intel Macの場合)。

1)Boot Camp
 Windows 10 HomeもしくはProの購入が必要
2)Parallels Desktopなどを使いvm上でWindowsを起動
 Parallels DesktopとWindows 10 HomeもしくはProの購入が必要
3)API変換でWindowsアプリを動作させるWine
 CrossOver 20の購入が必要(一番安いのは$39.95)

 これからもわかるように、どれも別途費用がかかる。1)と2)は互換性と言う意味では完璧だが、Windows本体を含むためそれなりの出費だ。3)に関しては安価なのだが、アプリが動くか動かないかは実際試してみないとわからない。対してメモリ効率は3)が一番よく、2)はWindows本体に少なくとも4GBを割り当てる必要があり8GBのMacでは厳しい。1)は完全なWindows環境となるものの、再起動が必要なので、macOSとの併用は面倒だ。

 ここまではIntel Macの話だが、M1 Macになると、1)は非対応、2)はParallels Desktop自体は16で対応しているものの、肝心のWindowsはArm版が必要。しかしIntel版とは違い一般販売されておらず、Windows Insiderプログラムにエントリーし、Windows10のInsider Preview版を使うことになる(Win32/64対応)。このためアクティベーションできず機能制限もあり、お試しにはいいが、実運用に使えない。現在Arm版PCはノートPCばかりで(つまりOSはプリインストール)、自作できるものはなく、Arm版が一般販売されるのは望み薄だろう。

 3)は、M1にも対応しておりRosetta 2の上でWindowsアプリが動作する。この場合、使いたいWindowsアプリが動くかどうかが最大の問題となるが、14日間のトライアルができるので、事前に試すことは可能だ。

M1 Mac miniで動作するParallels Desktop上のArm版Windows 10
CrossOver 20上で動作する秀丸とWinSCP

 このようにアプリを動かすなら(特にM1の場合)、Windowsのライセンス不要でメモリ効率の良い=8GB搭載のMacでも動かせるCrossOver 20(Wine)がお勧めとなる。

 macOS上で動作するWine環境はいくつかあるが、Big Surで動かすには(正確にはCatalina以降)、CrossOverの一択だ(った)。これには理由があり、Mojaveまでは32bitと64bitアプリの両方にOSが対応していたものの、Catalina以降は64bitのみの対応で32bitは切り捨ててしまった。これが原因で、例えWine本体は64bit対応できても、肝心のWindowsアプリは32bitが多いためそもそも動かない。当時Wineコミュニティが混乱したのは言うまでもない。

 その後しばらくして、彗星の如く現れたのが(少し大袈裟か!?)、32bit/64bit変換レイヤを備えたCrossOver 20だ。パッケージは有償だが、Wineをベースをしていることもあり、ソースコードをサイトで公開。GPL/LGPLの元、自由に使えるようになっている。

 今回ご紹介するWineskinServerはWineskin(Wine環境の一種でそれなりに歴史があるものの、既に開発は止まっている)としては非公式だが、独自でこの32bit/64bit変換レイヤーを組み込んだ環境となる。

WineskinServerのインストール

 GitHubの本プロジェクトはここにある。もともとは3年ほど前に作られているが、執筆時点では、数時間に更新しているファイルもあるので、まだ生きているプロジェクトだ。

 プログラムのダウンロードは、このページにある

  • Manually installation
  • Download Wineskin Winery v1.8.4.2

のリンクをクリック(txzファイルなので解凍)するか、既にHomebrewが入っていれば

brew tap gcenx/wine
brew install --no-quarantine unofficial-wineskin

とすればよい。どちらも「Wineskin Winery.app」ができるはずだ。アプリケーションフォルダに移動し(しなくてもいいが)、実行すると以下のパネルが表示される。この時、普通にクリックすると1回目は「開発元を検証できないため開けません」と出るのため、Finderで右クリック/開く(2回目以降は不要)。

 まず、New Engine(s) available!の左側にある[+]をクリックすると、Engineを選ぶことができる。一覧にWS11WineCX…と、CXの付いているバージョンがCrossOverの32bit/64bit変換レイヤーに対応してもので最新を選び(通常一番上)、[Download and Install]する。

Wineskin Winery初期パネル。New Engine(s) available!の左側にある[+]を押す
Add Engineパネル
Engine一覧。WS11WineCX…と、CXの付いているバージョンがCrossOverの32bit/64bit変換レイヤに対応

 次にWrapper Versionの[Update]を押し、本体をインストールする。これでEngineとWrapper(drive_c/Program Filesなどが入ったWindowsのベース)が揃ったので準備完了だ。

Wrapper Versionの[Update]を押し、本体をインストール
EngineとWrapperが揃い準備完了!

Windowsアプリをインストール

 以降は実際Windowsアプリをインストールしてみる。まず秀丸から。秀丸自体は事前にサイトからhm897_signed.exeをダウンロードしておく。次に先のパネルにある[Create New Wrapper]を選択すると以下のパネルを表示するので、適当なファイル名を入れる(ここではHidemaru。全角が含まれるとダメっぽい)。その後しばらくして“Wrapper Creation Finished”と出ればOKだ。

 [View wrapper in Finder]で場所を確認すると[ユーザー名]/ アプリケーション/WineskinにHidemaruファイル(Wrapper)ができているのがわかる。

適当なファイル名を入れる。ここではHidemaru
しばらくして、このパネルが表示されればOK
[ユーザー名]/ アプリケーション/WineskinにHidemaruができている

 このHidemaruファイルはまだ秀丸をインストールしていないので、最低限必要なWindows環境だけが入っている。クリックするとパネルを表示するので[Install Software]を選択。

 次に3択のパネルが出る。インストール用のEXEやMSIがある時は、上の[Choose Setup Executable]からhm897_signed.exeを選択し、インストール開始。見慣れた秀丸のセットアップが出るのでそれに従う。完了すると実行ファイルのパスを表示するので問題なければ[OK]。これで秀丸がインストールされた。

 再度Hidemaruをクリックすると無事、秀丸が起動する。メニューバーに秀丸が常駐するので、さっと開くこともできる。同様の手法で64bit版の秀丸(hm897_x64_signed.exe)も動作確認している。

[Install Software]を選択
インストール用のEXEやMSIがある時は上の[Choose Setup Executable]からhm897_signed.exeを選択し、インストール開始。見慣れた秀丸のセットアップが出るのでそれに従う
セットアップが終わると、実行ファイルのパスを表示するので問題無ければ[OK]
再度Hidemaruファイルをクリックすると秀丸が起動。メニューバーに常駐しているのがわかる

 仕上げに二手間。1つ目は日本語環境へのおまじない(実際何を触っているのか細かく調べていないのでこのような表現とした)だ。Hidemaruファイルを右クリックで[パッケージの内容を表示]すると、Winskin、drive_c(その下位にWindowsディレクトリ構造)といったファイルやフォルダが現れる。

 ここでWinskinをクリック、[Advanced]を選ぶと“Winskin Advanced”パネルが表示される。[Tools]タブを選ぶといろいろな一覧が出るので、その中の[Winetricks]を選択、検索窓でfakejapaneseとするとFontsの一覧に見つかるのでチェックし、[Run]→[Yes]でインストール。いろいろインストールされるのがパネルに表示され、終わると[Close]ボタンが有効になるので終了する。

 これにより日本語環境に必要な、「MS (UI/P)Gothic」、「MS(P)Mincho」、MS(P)ゴシック」、「MS(P)明朝」などのフォント名が追加される。ただし、実際該当するフォントがインストールされるわけではなく、システムにある何か(調べていない)からの代替えとなる。

Hidemaruファイルを右クリックで[パッケージの内容を表示]。Winskinをクリック、[Advanced]、[Tools]タブを選ぶ
検索窓でfakejapaneseを入力し、Fontsにあるのでチェックして[Run]
いろいろインストールされ、終わると[Close]がイネーブルになる

 もうひと手間は、直接WineskinServerには無関係だが、日本語等幅フォントだ。原稿を書くときなどは、プロポーショナルより等幅の方が書きやすいので、通常WindowsだとMSゴシックを使っていたが、当然この環境にはない(フォント名はあっても代替え)。

 ほかのWindows環境から持って来れなくもないが、ライセンス上の問題があるので、フリーのフォントを探したところ、源真ゴシック(げんしんゴシック)というのを見つけ、これをインストールして使っている。なかなかいい感じで、miの標準にもこのフォントを設定した。パッケージ中のすべてのフォントを入れてもいいが、Monospaceが等幅なので、筆者はRegularだけ入れて使っている。追加するフォントはパッケージ内のdrive_cへ入れる必要はなく、macOSに登録するだけで良い。

源真ゴシックに含まれるファイル一覧。Monospaceが等幅
秀丸で等幅フォントの源真ゴシックを指定したところ。macOSへ入れるだけで使用できる
同様の手順でラベル屋さんHome Ver8.26とWinSCPも起動

 同様の手順で、「ラベル屋さんHome」や「WinSCP」も問題なく動作する。この2つはデータ(名刺とホストリスト)の移行が面倒(もしくはできない)なので個人的には未だに必要。

 この時、作成したファイル、Hidemaruは797.4MB、ラベル屋さんHomeは812.5MB、WinSCPは887.5MB。パッケージの中に必要なWindows系のファイルを一式内包しているので、少し大きめだ。このため起動時は若干時間がかかるものの、起動してしまえば普通の速度で動作する。M1の場合、Rosetta 2でIntel/Arm変換してるとは思えない速度だ。

 すべてを内包していることについて、起動速度的にはデメリットとなるが、メリットとしては、いったん作ってしまえばIntel/M1無関係にほかのMacへそのままコピーするだけで動作し、レジストリなどの設定もそのまま維持され、アプリの環境もそのまま引き継がれる。実際M1 Mac miniで作ったファイルをIntel搭載のMacBook 12へコピーしても、問題なく動作した。

 ただ個人で複数のMacに使うときは問題ないが、複数人でファイル使い回す時、例えば設定の中にある(かも知れない)個人情報もそのままコピーされるので要注意となる。

 面白い(?)方法として、例えば秀丸とWinSCPをセットで1つのファイル(Wrapper)にまとめてしまえば、容量の節約や起動時間の短縮が可能だ。手順は、秀丸のインストールは先の通り、続いて、右クリックで[パッケージの内容を表示]しWinskinをクリック。再度[Install Software]でWinSCPをインストールすれば、1つのファイル(Wrapper)に2つのアプリが入ることになる。

 秀丸はその他/プログラムの実行ができるので、WinSCP.exeのパスを指定すれば、起動可能だ。先に何かファイラー的なものを入れ、順次アプリをインストール、1ファイル(Wrapper)でお気に入りのWindowsアプリ環境を作るのもありだろう。

 いかがだろうか? 「フリーな環境でWindowsアプリが動くのなら試してみるか! 」と思う人も多いのではないだろうか。一見手順は面倒そうだが、実際やってみるとそうでもない。先の[Tools] / [Winetricks] 検索するとmfcなどモジュール一覧もあり、モジュール不足で動作しない場合は追加可能だ。必要に応じてインストールすればいい。いろいろ試してそれでも動かない時は諦める……という感じだろうか。

 おそらく動作するWindowsアプリは変わらないが、これらの手順が面倒(もしくはわかりにくい)という人には、有償にはなるものの、素直にCrossOver 20をお勧めしたい。UIなどの使いやすさはさすがの完成度だ。

 筆者の場合、秀丸はmiへ(秀丸のgrepは便利なのでこの時だけ使う)、WinSCPのよく使うホストリストはFileZillaに登録済み、ラベル屋さんHomeは出力をPDFで保存済みなので名刺の内容を修正しない限り起動しない……と、既にmacOS上でWindowsアプリを使うのは局所的なため、このフリーで使えるWineskinServerはありがたい存在だ。

 最後に、今回ご紹介した方法は、例えば秀丸の全機能を試したわけではなく、ほかも含め動作を筆者/編集部が保証するものではない。あくまでも自己責任、趣味の範囲で試していただければ幸いだ。


 以上のようにWineskinServerは、CrossOver 20の32bit/64bit変換レイヤーを備えたWineskin環境だ。Wineskinとしては、Unofficalだがフリーで使えるのがありがたい。

 またWindowsアプリのパッケージに全環境を含んでいるため、ファイルサイズは大きくなるが、その分、ポータビティティには優れており、ファイルごと別のMacにコピーすれば、IntelでもM1でも環境設定などを引き継いだまま動かすことができる。

 「M1 Macに興味があるもののWindowsアプリが……」、「MojaveまではWineを使っていたけど、Catalina以降動かなくなってしまった……」など、次のMontereyはまだ不明だが、Big SurでWindowsアプリを動かしたい人にぜひ試して頂きたい環境だ。