西川和久の不定期コラム

UTMを使ってM1 Mac上でArm版Windows 11を動かす!無償の仮想化ツールが完成度アップ

 M1 Mac上でArm版Windows 11を動かすのはParallels Desktopが一般的だが、14日間のお試し期間があるとは言え有償。そこで今回は基本的に無償のUTMを使ってArm版Windows 11を動かす手順などをご紹介したい。

UTMとは?

 UTMは筆者の連載でちょくちょく登場するVMware Workstation PlayerやParallels Desktop同様、仮想化ツールだ。内部的にはQEMUがベースになっている。GitHub版は無償で公開。またAppストア版もあり、こちらは1,200円。開発サポート費的な扱いだ。

 執筆時バージョンはv3.0.4。この時点ではGitHub版もAppストア版も同じだが、β版などは先にGitHubに公開され、Appストア版はリリース版のみ載っている関係で、細かく追いたい時はGitHub版をダウンロードすることになる。

UTM@GitHub
UTM@Appストア

 話は少し戻るが、UTMがmacOS(11)対応したのは、おそらく(GitHubのReleases履歴で確認)2020年11月にリリースしたv2.0.8。当時少し後のバージョンで試してLinuxがCUIレベルで動くのは確認している。パフォーマンス的には(それなりに)十分だっがが、ネットワークのブリッジ未対応で、ゲストOSからネットは見えるものの、ネットワーク上のほかのマシンからゲストOSは見えなかった記憶がある。

 その後、いろいろ改善され、今回リリースしたv3系ではAppleの仮想化に対応。完成度が一気に上がった感じだ。Arm版のLinuxはもちろん、Windows 11 Pro@Insider Preview版も結構実用的に作動する。

 インストールおよび上記のOSを起動するだけならさほど手間もかからないが、今回はUbuntu 20.04 LTS Serverと、Windows 11 Pro@Insider Preview版のセットアップ方法を解説したい。

その1 - 手始めにUbuntu 20.04 LTS Serverを動かす

 手始めにArm版のUbuntu 20.04 LTS Serverを動かしてみたい。まずUTMのダウンロード。Appストア版でもいいが、今回はGitHub版からとする。最新版はここにあるので(以降変わると思うので最新版を取得のこと)、ページの下の方にあるUTM.dmgをダウンロード。開くと以下のようにmacOSにありがちなパターンになるので、Applicationsへドラッグ&ドロップする。UTMのセットアップ自体はたったこれだけだ。Arm版のUbuntu 20.04 LTS Serverはここにあるので事前にISOイメージをダウンロードしておく。

 アプリケーションにUTMがあるので、それをクリックして起動。初期状態は画面キャプチャにあるような感じとなる。

UTMをダウンロードしてApplicationsフォルダへコピー
UTM起動

 仮想マシンの追加は、+アイコンの「Create a New Virtual Machine」をクリックし、順次必要な部分を埋める。まず「Virtualize」と「Emulate」の2択になるが、前者を選択。次はOSの選択で、macOS 12+、Windows、Linux、Otherの4択。今回はLinuxを選ぶ。

Virtualizeを選択
Linuxを選択

 次のパネルでは「Boot ISO Image(optional):」で先にダウンロードしたISOファイルを指定する。メモリとCPUコア数はデフォルトで4GB、4コアになっているので、お好みで(8GBのマシンだと1~2GBにした方がいいだろう)。そしてストレージ。64GBになっているので、必要に応じて変更。Shared Directoryは、ホストOSとゲストOSで共有するフォルダを使う場合はここで設定。今回はなしとする。SummaryはnameをUbuntu 20.04 LTS Serverへ……これで終わりだ。

Boot ISO Image(optional):」で先にダウンロードしたISOファイルを指定
Hardware Memory 4GB / 4 Core。お好みで変更
Storage 64GB。お好みで変更
Shared Directory。今回は無し
Summary。Nameを変更(そのままでも後から変更可能)
準備OK

 再生ボタン的なアイコンをクリックすると、見慣れたUbuntuのインストーラ画面になるので、以降はいつも通りの設定となる。インストール終了後、再起動となるが、CD/DVDにISOファイルがセットされたままだと、またインストーラ画面となるためクリアするのを忘れずに。

Ubuntuのインストーラ画面
インストール終了後、ISOイメージを外す

 これでOSが起動するものの、筆者の場合、NICのIPアドレスをLAN内にマニュアル設定したため、このままではネットワークが見えない。仕上げは仮想マシンの項目上で右クリックすると、Edit/Stop/Share/Clone/Deleteと出るので、Edit > Network > Network ModeをBridged(Advanced)へ変え起動すればLAN(もちろんネットも)が見えるようになる。

Edit > Network > Network ModeをBridged(Advanced)へ
M1 MacのmacOS上でUTM、UbuntuのConsoleとSSH接続

 いかがだろうか。画面キャプチャ数は多いが、やることは他の仮想化ツールとあまり変わらない。この時、アクティビティモニタでプロセスQEMLauncherのメモリ使用量を見ると6.26GB。Linuxに4GB割り振ったので、別途2GBほど食うことになる。やはりメモリ8GBのマシンだとOSへ割り振るメモリを少なめにしないと厳しそうだ。

 次はいよいよArm版Windows 11 Proを起動してみたい。

その2 - Arm版Windows 11をインストール!

 ご存じの通りArm版のWindows 11は、対応マシンへのインストールのみで単品販売は行なっていない。従って仮想マシンで使えるイメージは、Windows 11 on ARM Insider Previewで公開しているVHDX形式のファイルのみとなる。

 ダウンロードの手順は、まずMicrosoftアカウントでWindows Insider Previewへ登録。その後、ここからVHDXファイルをダウンロードする。ファイルサイズは約10GBだ。

Windows 11 on ARM Insider Previewのダウンロード
Import VHDX Image/BrowseでダウンロードしたVHDXファイルを指定

 無事VHDXファイルをダウンロードできたらUTMの起動だ。Operating Systemの選択までは同じなので画面キャプチャは省略。Windowsを選択し、Import VHDX Image/BrowseでダウンロードしたVHDXファイルを指定する。

 後はLinux同様、デフォルトだとメモリ4GB、CPU Core 4。Shared Directory、Summary(nameだけWindows 11 Proへ変更)これでSave。VHDXファイルのインポートに少し時間がかかるが、終わると項目のグレーアウトが消えて実行可能になるので実行する。

Windows 11 Pro起動中
Windows 11 Pro初期設定画面。画面解像度は800×600ドット。アクセラレーションは効かない

 以降はWindows 11の初期設定画面だ。一般的なPCと違うところは、画面が800×600ドットと狭いこと、NICが見つからず、ネットワークに接続できないこと。この関係でアカウントはローカルアカウントで作ることになる……と、この程度。英語表記だが、基本[Enter]キーを押して行くだけなので難しくはないだろう。

 これでArm版Windows 11 Proが起動したものの(マウスカーソルが出ない時は少し待つ)、画面は800×600ドット、ネットワークは見えないなど、とても実用的に使える環境ではないのも確かだ(音だけは鳴る)。

 ここで追加インストールするのがUTMサポートツールだ。VMwareでもVMware Toolsをインストールして画面の改善などを行なうが、それと同じ仕掛けとなる。サイトを見ると試していないがUbuntu用もあるようだ。

Windows 11 Proが起動!
UTMサポートツールのダウンロード
UTM CD/DVDでspice-guest-tools-0.164.3.isoをマウント
Windows 11のCD Drive(D:)にspice-guest-tools-0.164.exeがあるので実行

 ここのSPICE Guest Tools and QEMU Drivers (Windows)をダウンロードでspice-guest-tools-0.164.3.isoを取得し、UTM CD/DVDでマウント、Windows 11のCD Drive(D:)にspice-guest-tools-0.164.exeがあるので実行する。デフォルトだと、インストール後、再起動になっているが、再起動せず、アプリを終了、一旦スタートメニューからシャットダウンする。

再起動せずに、一旦アプリを終了。スタートメニューからシャットダウン
Edit / Display > Emulated Display Cardをvirtio-ramfb-gl(GPU Supported)へ、Retina Modeにチェック
Edit / Input > Invert Mouse Scrollにチェック
Edit / Network > Network ModeをBridged(Advanced)へ

 UTMのWindows 11 ProのプロパティでEdit、Display > Emulated Display Cardをvirtio-ramfb-gl(GPU Supported)へ、Retina Modeにチェック、Input > Invert Mouse Scrollにチェック、Network > Network ModeをBridged(Advanced)へ。これでWindows 11 Proを起動すると、画面解像度(ウィンドウサイズ)が可変でキビキビ描画、ネットワークOK、マウスのwheelはmacOS準拠になっている。作動速度も悪くなく、十分使えそうな感じになる。

Windowsを起動すると画面解像度が可変で描画がキビキビ、ネットワークOK、マウスのwheelはmacOS準拠へ
デバイスマネージャーとディスクマネージャ
Geekbench 5の結果はSingle 1,478、Multi 4,809
x86/32bitアプリ(WinSCP)、x64/64bitアプリ(秀丸64bit版)も動く

 デバイスマネージャを見ると、ディスクは「QEMU NVMe Ctrl」、ディスプレイアダプタは「Red Hat VirtlO GPU DOD」、ネットワークは「Red Hat VirtlO Ethernet Adapter」、USBも3.0に対応しているのがわかる。またストレージはC:ドライブに約64GB割り当てられているが、macOS上のUTM関連ファイルは~/Library/Containers/com.utmapp.UTM/Data/Documents/以下にある。

 試しにとGeekbench 5を実行(AArch64)したところSingle 1,478、Multi 4,809。Intel Core i7-1165G7が1,378/4,505なので、これより速い感じか。Google Octane 2.0@Edgeは52,717。ホスト側だと67,825@Chrome。

 またArm版のWindows 10では結局x64は未対応でx86のみの対応だったが、Windows 11ではx64にも対応となった。従って32bit版のWinSCPはもちろん、秀丸の64bit版もご覧のように作動する。この違いは結構大きく、Adobe系など大型アプリがArm版Windows 11で使えるようになる。

 UTMとは無関係だが、ベースがUS版Windows 11で日本語UI及び日本語キーボードを使う方法は、設定 > 時刻と言語 > 言語と地域で日本語を追加。Windowsの表示言語を日本語へ。右側にある“…”をクリックし言語のオプション、キーボードのキーボードレイアウトを106/109キーに変更すればよい。

 さて冒頭にArm版Windowsは単体販売していないと書いたが、実はこのWindows 11 on ARM Insider PreviewはPro用のキーでアクティベーションできる。Insider Preview版とは言え、これは売ってるのと変わらないと思うのは筆者だけだろうか!?(笑)

Windows 11 on ARM Insider PreviewはPro用のキーでアクティベーション可能

 最後にUTMのGalleryには、Arm版Windows 11も含め、ArchLinux ARM、Debian 10.4 (Minimal)……など、いろいろなOSを掲載している。またQEMUはCPUのエミュレーションも含まれているので、Arm以外のReactOS 0.4.14@x64や、 Sun Solaris 9@SPARCも実行可能らしく一覧にある。

 試しにSun Solaris 9を動かしたところ(サイトからSun Solaris 9を選び、Open in UTMをクリック、ダウンロード後実行するだけ)見事に起動! ちょっと感動してしまった。他にもいろいろあるので興味のある人は是非試してほしい。中でもOpen in UTMのあるOSは起動も楽だ。

Sun Solaris 9を起動。OKが出たらboot disk0を入力
user nameはrootでログイン。動いた♪懐かしい……(笑)

 今回はUTMを使ってArm版Windows 11をM1 Mac上で作動させた。思いのほか普通に動くので筆者自身が一番驚いている。

 もちろんWindows Insider Preview版と言うことで、本格的に使うのは少しリスキーだが、これは商用のParallels Desktopでも同じこと。M1 MacでArm版Windows 11を動かすとどんな感じなのか知りたい人に是非試してほしい仮想化ツールと言えよう。