西川和久の不定期コラム
4.7型でFeliCa対応の普及型「iPhone SE」
2020年4月30日 11:00
やっと登場した第2世代iPhone SE
第1世代のiPhone SEが販売されたのは2016年。特徴は何と言っても4型のパネル。往年のiPhoneのイメージそのまま、58.6×123.8×7.6mm(幅×奥行き×高さ)/113gと、軽くて片手で容易に操作できるなど、根強いファンの多いモデルだった。現在手元に3GS、4S、5、5sと残っており(すべて動作する)、久々に触ると確かに最近のスマートフォンと比較して驚くほど小さく軽い。
2017年、iPhone X、iPhone 8、iPhone 8 Plusが発表されるもののSEの後続モデルがなく高価/大型路線へ。競合機種と比較した場合、見易さやバッテリ容量を考えれば当然とも言える進化でもある。
その後、2018年、2019年と毎年のように「SEの後続モデルが発表か!?」的な記事があちらこちらのサイトに載り、その都度盛り上がったものの、X系タイプばかりで結局出ず(この間、ホームボタンのあるタイプは出ていない)、今年2020年もまた同じように噂となっていた。
個人的には「4型だとバッテリ容量が厳しいのでSEの後続モデルはない」と思っていたが、今年発表された。ただし4.7型でサイズ/重量が67.3×138.4×7.3mm(同)/148g。SEの後続と言うよりはiPhone 8の後続的なモデルとなる。そう言った意味では筆者の予想は半分正解、半分外れ。しかし内容的には驚くほど山盛りになっての登場だ。おもな仕様は以下のとおり。
Apple「iPhone SE」の仕様 | |
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SoC | A13 Bionic |
メモリ | 3GB |
ストレージ | 64GB/128GB/256GB |
OS | iOS 13 |
ディスプレイ | 4.7型IPS式1,334×750ピクセル、326ppi、広色域ディスプレイ(P3) |
ネットワーク | 2x2 MIMO対応802.11ax Wi-Fi 6、Bluetooth 5、NFC(FeliCa対応) |
SIM | デュアルSIM(nano-SIMとeSIM) |
対応バンド | FDD-LTE(バンド1、2、3、4、5、7、8、11、12、13、17、18、19、20、21、25、26、28、29、30、32、66) TD-LTE(バンド34、38、39、40、41、42、46、48) CDMA EV-DO Rev. A(800、1,900MHz) UMTS/HSPA+/DC-HSDPA(850、900、1,700/2,100、1,900、2,100MHz) GSM/EDGE(850、900、1,800、1,900MHz) |
インターフェイス | Lightningコネクタ、ステレオスピーカー |
センサー | Touch ID指紋認証センサー、気圧計、3軸ジャイロ、加速度センサー、近接センサー、環境光センサー |
位置情報 | 内蔵GPS/GNSS、デジタルコンパス、iBeaconマイクロロケーション |
カメラ | 背面:1,200万画素(f/1.8)、光学式手ぶれ補正、ポートレートモード、LED True Toneフラッシュ 前面:700万画素(f/2.2)、自動手ぶれ補正、ポートレートモード |
防沫性能/耐水性能/防塵性能 | IP67等級(最大水深1mで最大30分間) |
バッテリ | ビデオ再生:最大13時間、ビデオ再生(ストリーミング):最大8時間、オーディオ再生:最大40時間。ワイヤレス充電(Qi充電器対応) |
サイズ/重量 | 約67.3×138.4×7.3mm(幅×奥行き×高さ)/約148g |
カラーバリエーション | ブラック、ホワイト、(PRODUCT)RED |
その他 | EarPods with Lightning Connector付属 |
税別価格 | 44,800円/49,800円/60,800円 |
SoCはA13 Bionic。2つの高性能コアと4つの高効率コア、そしてNeural Engine搭載。iPhone 11(Pro/Pro Max)と同じものだ。従ってこれだけで動作速度や性能などはおおよそ想像がつく。メモリは3GBとさすがに少な目。ストレージは64GB/128GB/256GBの3種類が用意されている。OSはiOS 13。出荷直後にiOS 13.4.1がリリース済みだ。
ディスプレイは4.7型IPS式1,334×750ピクセル/326ppi。sRGBより色域が広いP3対応となっている。狭額縁ではないが、この程度フチありの方が、握った手で画面を覆わないのでちょうどいい。
ネットワークは、2x2 MIMO対応802.11ax Wi-Fi 6、Bluetooth 5、NFC(FeliCa対応)。この価格帯でWi-Fi 6とFeliCa対応なのはインパクトがある。SIMはデュアルだが物理的にあるのはnano-SIMのみ。もう一方はeSIM。このeSIM対応もポイントが高い。対応バンドは表を参考にして欲しいが、当然ながら弱点はない。
インターフェイスはLightningコネクタ、ステレオスピーカー。3.5mmジャックは残念ながら非搭載だ。センサーは、Touch ID指紋認証センサー、気圧計、3軸ジャイロ、加速度センサー、近接センサー、環境光センサー。位置情報は、内蔵GPS/GNSS、デジタルコンパス、iBeaconマイクロロケーション。
カメラは、背面1,200万画素(f/1.8)、光学式手ぶれ補正、ポートレートモード、LED True Toneフラッシュ。前面700万画素(f/2.2)、自動手ぶれ補正、ポートレートモード。どちらのポートレートモードも測距用のカメラはなく、AIを使ったもので、顔(人物)検出した時のみ可能となる。このあたりは上位モデルより劣るが、人物以外でポートレートモードを使いたいシーンは少なく、とくに問題ないだろう。
防沫性能/耐水性能/防塵性能は、最大水深1メートルで最大30分間のIP67等級。バッテリ駆動時間は、ビデオ再生:最大13時間、ビデオ再生(ストリーミング):最大8時間、オーディオ再生:最大40時間。充電はLightningコネクタからに加え、ワイヤレス充電(Qi)にも対応している。
カラーバリエーションは、ブラック、ホワイト、(PRODUCT)REDの3つ。サイズは約67.3×138.4×7.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約148g。EarPods with Lightning Connectorが付属し、ストレージ容量順に税別価格は44,800円/49,800円/60,800円。下位モデルだと税込でも49,280円と5万円を切る。内容を考えると、驚異の高コストパフォーマンス機だ。
筐体はiPhoneらしく、航空宇宙産業で使われているものと同等グレードと言うアルミニウムと、高耐久性のガラスを使用。価格的にはミドルレンジだが高級感は十分。久々にこのサイズのスマートフォンを持ったが、やはり手のひらへの収まり具合はいい。重量は実測で148gと第1世代SEからは重くなったものの、それでも軽量級だ。とは言え、古いiPhoneと比較するとやはり大きいのがわかる。
前面はパネルの上に前面カメラ/マイク/スピーカー、下にTouch ID指紋認証センサー兼ホームボタン。リアは左上にカメラとLED True Toneフラッシュ。左側面にミュートボタン、音量±ボタン。下側面にLightningコネクタ/マイク/スピーカー。右側面に電源ボタンとSIMスロットを配置。1つがeSIMなので物理的なSIMスロットは1つとなる。
付属品は、ACアダプタ(5V1A、重量25g)、USB/Lightningケーブル、EarPods with Lightning Connector、イジェクトピン。イジェクトピンが平らなタイプからピンタイプに変わった。コストダウンの影響だろうか。なお、別売りの18W以上のアダプタを使用すると、30分で最大50%充電ができる。
4.7型IPS式ディスプレイは、1,334×750ピクセルで326ppi、350ppiに近いため文字のジャギーなどは気にならないレベルだ。発色、コントラスト、明るさ、視野角も十分。とくに明るさは最大にすると眩しく、発色もP3だけあって非常に鮮やか。OLEDと比較した場合、黒に締まりがないものの、LCDでこれだけ映せればじゅうぶんだ。
発熱は少し多い方だろうか。初期設定でPIN/指紋、Apple ID、Walletなどを連続して登録していると結構熱を持った。逆にベンチマークテスト、撮影やWi-Fi経由での動画連続再生はそうでもなかった。
サウンドは横位置時ステレオスピーカーで最大時は煩い程のパワー。鳴りっぷりが良く、加えてボーカルなどの抜けもクリア。だた左右のバランスが若干ホームボタン側に寄ってるような気がしないでもない。イヤフォン出力がないため、純正のLightningコネクタ/3.5mmアダプタを使い、SONY MDR-EX800STで視聴したところ、ドッシリと重心が低い上に、パワーはもちろん抜けも良い。やはりiPhone/iPadのサウンド出力は良好で安心感があると再確認した次第だ。
サクッと普通にそして綺麗に撮れるカメラ
カメラは背面1,200万画素(f/1.8)、出力画素数3,024×4,032ドット、焦点距離4mm(35mm換算28mm)、デジタル5倍ズーム(ピンチイン/アウト、左右のスライダー)、光学式手ぶれ補正、LED True Toneフラッシュ。前面は7MP画素(f/2.2)、出力画素数2,320×3,088ピクセル、焦点距離3mm(35mm換算32mm)、自動手ぶれ補正。
どちらもシングルレンズでポートレートモードはNeural Engine、AIによる深度コントロールだ。顔認識は人間のみ。犬や猫などには対応していない。撮影後、写真アプリの編集で深度や光源などの変更ができ、編集の画面キャプチャからも分かるように、自然に仕上げることが可能だ。この点は同じシングルレンズでもNeural Engine非搭載のiPhone 8では絶対真似できない部分となる。
なお写真/編集は、フィルタ、傾き/回転に加え、調整で、自動、露出、ブリリアンス、ハイライト、シャドウ、コントラスト、明るさ、ブラックポイント、彩度、自然な彩度、温かみ、色合い、シャープネス、精細度、ノイズ除去、ビネット……など、いろいろに、そして細かく調整できる。
モードは、タイムラプス、スロー、ビデオ、写真、ポートレート、パノラマ。写真に関してはオートのみでマニュアルはなく、ステータスバーの部分にフラッシュとLive PhotosのON/OFF、AFエリアの横に露出補正があるだけとシンプル。
設定は設定/カメラにある。グリッド、QRコードをスキャン、ビデオ撮影(720p HD/30fps、1080p HD/30fps、1080p HD/60fps、4K/24fps、4K/30fps、4K/60fps)、スローモーション撮影(1080p HD/120fps、1080p HD/240fps)、ステレオ音声を録音、フォーマット(高効率、互換性優先)、スマートHDR。
カメラの動作自体は、非常にスムーズ。全くストレスを感じない。写りはいかにもiPhone的で、誇張もなく、ナチュラルな感じだ。日頃ド派手に写るP20 Proを使っているだけに個人的には物足らない感じもするが、一般的にはこの写りなのだろう。夜景モードや超広角が無いのは残念だが(とは言え夜景もそれなりに撮れている)、恐らく使用頻度は高くないのでシングルレンズでも十分楽しめるはずだ。
作例を34枚掲載したので参考にして欲しい。ただ時期が時期なので、基本自宅周辺。ポートレートモードは、このためだけにモデルの子を呼ぶのも気が引けるため、彼女が別件で渋谷を通過する時間を聞き、駅近辺で数分で撮影している(モデル:茜音 愛)。
なお掲載した写真は、パスタとバイクはLive Photosから写真アプリ/編集で1コマJPEGへ切り出し(たまたまオンになっていた)、その他はHEICで保存しているため「iMazing HEIC Converter」を使ってJPEGへ変換している(Exif情報は維持)。あらかじめご了承頂きたい。
ポートレートモードは光源/スタジオ照明で肌のシャドウを起こしている(本来はレフ板を使うケース)。またHEICではなくJPEGで保存される。自然なボケ味に加え、ボケとの境界線も違和感なく処理されているのはさすがNeural Engineと言ったところか。
難しいことを考えずにシャッターを押すだけでこれだけ撮れるのだから普段使いであれば十分だろう。
安心のiOS
初期起動時、ホーム画面は2画面。上から下へのスワイプで通知パネル、下から上へのスワイプでコントロールパネル。左端のもう一画面はウィジェット。この辺りはホームボタンがあるタイプのiPhoneと当然ながら同じ操作性だ。メーカーやモデルが異なるとUIが変わるAndroid搭載スマートフォンと比べて絶対的な安心感がある。なお3D Touch固有メニューは、iOS 13では長押しメニューに統一された。
ストレージは約14.1GBが使用中。OSは出荷直後アップデートが出ており適応するとiOS 13.4.1となり、試用もこの状態で行なっている。Touch IDやモバイル通信関連(eSIM)なども含めとくに説明は不要だと思われるが、FeliCaに対応しているので、WalletにSuicaも追加できる。
アプリは、Dockに「電話」、「Safari」、「メッセージ」、「ミュージック」。ホーム1画面目に「FaceTime」、「カレンダー」、「写真」、「カメラ」、「メール」、「時計」、「マップ」、「天気」、「リマインダー」、「メモ」、「株価」、「ブック」、「App Store」、「Podcast」、「TV」、「ヘルスケア」、「ホーム」、「Wallet」、「設定」。2画面目に「ファイル」、「探す」、「ショートカット」、「iTunes Store」、「ヒント」、「連絡先」、「Watch」、「Apple Store」、「Clips」、「GarageBand」、「Keynote」、「Numbers」、「Pages」、「iMovie」、「iTunes U」。ユーティリティ・フォルダに、「ボイスメモ」、「コンパス」、「計測」、「計算機」。ほかのiPhoneと同じだ。
A13 Bionic搭載でこのクラスとしては爆速!
ベンチマークテストは簡易式だが「Geekbench 5」と「Google Octane 2.0」を使用した。GeekbenchはSingle-Core 1,324、Multi-Core 2,587、Compute 6,336。Google Octane 2.0は48,154。参考までに1世代前のiPad Pro 11(2018年モデル、A12X Bionic搭載)だと、GeekbenchはSingle-Core 1,113、Multi-Core 4,689、Compute 9,197。Google Octane 2.0は42,846。Multi-CoreとCompute以外はiPhone SEの方が勝っているとはちょっと複雑な気分だ。
また同社では面白いページを用意しており、第2世代iPhone SEとiPhone SE、6~8 Plusまでを比較できるようになっている。興味のある方は合わせてご覧いただきたい。
バッテリのベンチマークテストは、輝度/音量50%、Wi-Fi経由でフルHD動画の全画面連続再生を行ったところ、約6時間で電源が落ちた。最近評価した他社のスマートフォンより短いので、気になり2回測定したが結果は同じ。筐体が小ぶりで、バッテリ容量を大きくできないのだろう(iPhone 8と同程度という話)。ただし輝度/音量50%はかなり眩しく、また煩い。一般的な使い方だと結構持ちそうな感じだ。
最後余談になるが、筆者がメインで使うスマートフォンの条件は、FeliCa対応、(広角のまま使える)ポートレートモード、ステレオスピーカーはマスト。超広角/望遠、夜景モード、3.5mmジャックは、あれば嬉しい……と言ったところ。認証は顔でも指紋でも何でもいい。パネルのクオリティ、写真の画質、そして筐体のデザイン/質感も重要だが、これは現在ハイエンドでなくても十分なレベルにある。
そう考えると、このiPhone SEは全部当てはまる。しかも下位モデルであれば税込でも5万円を切る。ベンチマークテストからわかるように超高性能。価格、性能、AI、カメラなどをレーダーチャートに描くと、凹凸なく、そして大きく描くチャートとなる。次世代iPhoneも気になるが、「ハイエンドが不要ならこれでいいのでは!?」と思ってしまった。
対してAndroid搭載SIMロックフリースマートフォンで先の条件に当てはまるモデルは少なく、とくに国内はiPhoneのシェアが大きいため、さらに差が広がりそうな感じだ。
以上のようにApple「iPhone SE」は、4.7型液晶ディスプレイにA13 Bionicを搭載したiPhoneだ。ご紹介した内容からも分かるように、ルックスは第2世代SEと言うよりは、8の後続機に近い。ただしSoC、カメラ、Wi-Fi 6、P3、eSIM、FeliCaなど出し惜しみせず、全て現行のパーツを注ぎ込み、かつ下位モデルが税込でも5万円切り。物凄いコストパフォーマンス機に仕上がっている。
iPhoneが欲しいけど高い、値段でAndroid搭載機に……と結果的にiPhoneではない人も、iPhone好きの(とくに8までを所有)ユーザーも、すべてのスマートフォンユーザーに是非試して欲しい逸品だ。