イベントレポート
Intel、4,096段階筆圧/傾き検知の静電容量方式ペンをデモ
~Googleも参画するペン標準化団体USIの仕様に準拠
2018年6月11日 14:46
米Intelは6月7日(現地時間)、台湾・台北市にて開催された「COMPUTEX TAIPEI」の会場近くで、同社がCOMPUTEX TAIPEIで発表した製品などを紹介するイベント「Intel OpenHouse」を開催した。
その模様は別記事(日本で500個! Intel、Core i7-8086Kが当たるキャンペーンを24時間限定で応募受付中~COMPUTEXで発表したデバイスを一挙に展示するイベント「OpenHouse」を実施参照)で紹介したとおりだが、本記事では、OpenHouseの片隅でひっそり展示されていた、静電容量方式のアクティブペンについてのレポートをお届けしたい。
複数の規格が混在して相互に互換性がないデジタイザペン。EMR、AES、MPP、Apple Pencilなど複数の規格が乱立
デジタイザペンを搭載するデバイスは増え続けている。とくにプレミアムPCとなる2in1デバイスや、ハイエンドタブレットはその傾向が顕著で、WindowsデバイスのSurfaceシリーズ(Surface Book/Pro/Laptop)、iPad ProやiPadなどで、ペンは標準搭載、ないしはオプションで用意されるのが標準になりつつある。
「ペンというとお絵かきデバイス」と考えられていた時代はすでに過ぎ、現在のペンは、生産性向上のツールだと考えられている。
たとえばWindowsデバイスであれば、以前本誌でも紹介したDrawboard PDF(デジタイザペン搭載PCを買ったら絶対入れたい「Drawboard PDF」)などを使うと、PDFに直接ペンで書き込んだりできる。
ちょっとした書類にサインしてメールする、あるいは送られてきたPDFの書類を参照して、修正したい箇所に赤入れというのは、現代のビジネスシーンでもよくあるシーンだと思うが、そんなときにも、Drawboard PDFでPDFに直接書き込んで送れば、印刷した書類にペン書き込んでスキャナで取り込む……などという面倒な作業を省略できる。
このため、ペンはイラストを描くようなデザイナーだけでなく、ビジネスパーソンにとっても重要なデバイスになりつつあるのだが、問題はペンには複数の方式があって、それぞれの互換性がないという事実だ。
おもな方式としては、ワコム EMR(Electro Magnetic Resonance、電磁共鳴方式)、ワコム AES(Active ES、静電誘導方式)、Microsoft MPP(Microsoft Pen Protocol、静電誘導方式)、Apple Pencilの4つがある。
厳密に言えば、それぞれの規格のなかでもバージョンがあって、より新しいバージョンだと、新しい機能を利用できるといった違いがあるのだが、今回の件とは関係がないのでそれは置いておく。
とにかく、本体側のデジタイザとペン、それぞれが同じ規格に対応していなければ、ペン機能が利用できないというのが現状だ。
具体的に言えば、MPPペンはAES対応のPCで利用できないし、iPad Proのペンを、ワコムEMRに対応したSamsungのGalaxy Note8で使おうと思っても動作しない。
なぜお互いに利用できないのかと言えば、要因は2つある。
1つはハードウェアの方式だ。ワコムのEMR(電磁誘導方式)はその代表例で、ほかのペンが静電誘導方式を利用しているのに対して、そもそもハードウェアが異なっている。
一方、MPPとAESはどちらも同じ静電誘導方式だが、デジタイザとペンがやりとりをするプロトコル(手順のこと)が異なっている。このため、ハードウェアはほぼ一緒なのだが、利用できないという状況になっている。
これがモバイルデバイス向けのペンの現状なのだ。
タッチICやペンのメーカー、Intel、Googleが中心になって活動している業界団体、USIの規格で作られたペンをデモ
そこで、デジタイザやタッチパネルのICなどを提供するワコム、Synaptics、ELAN Microelectronics、Waltop Internationalなどが中心になって、2015年4月に設立された業界団体が、「USI (Universal Stylus Initiative)」だ。
上記のベンダーらが、前述のような状況に危機感を持って、業界で標準規格を作ろうとして結成された。
その後、2015年9月にはIntelなど31社が加盟し、2018年1月にはGoogleが加盟し、現在は両社ともにプロモーターとして活動している。
「Googleがペン?」という印象を受ける読者も少なくないと思うが、じつはGoogleは、日本では未発売の2in1「PixelBook」にワコムAESベースのペンを採用しており、将来的にそこを特定の1社に頼るのではなく、業界標準を作ることに興味があるのだと考えることができる。今後、USIの規格がAndroidやChrome OSデバイスの標準的なペンとなっていくのではとの期待も集まっている。
そうしたUSIだが、Intelの説明員によれば、規格ではハードウェアとプロトコルが定義されているという。
ハードウェアは、本体側のデジタイザICとペンの定義となる。現在決まっている規格では、静電容量方式、解像度は10bit(現状のほとんどのデジタイザペンは8bit)、ペンとデジタイザのやりとりは双方向、4,096段階の筆圧検知、傾き検知などが定義されているという。
プロトコルも、USI標準のプロトコルが定義されているが、マルチプロトコルの構成も可能なよう配慮されており、たとえばMPPやAESとのデュアルプロトコルペンなども実現可能とのことだ。
さらにユニークな仕組みとして、ベンダーが独自の拡張機能を入れることも可能で、基本的な部分は全員で共通化して最低限の互換性は確保するが、独自の機能を追加したいやる気があるところは、独自に拡張できるようにするということだ。
今回Intelは、USIに対応したペンとタブレットを公開しており、比較対象として、ワコムのペンタブレット「Cintiq Pro 24」が用意されていた。
ワコムのペンタブレットでは、ペンは150fps程度のフレームレートだったが、Intelが試作したUSIのペンのほうは、400fpsとなっており、よりスムーズに軌跡を追いかけることができていた。
ただし、誤解を生まないように言っておくが、これは「ワコム製品の性能が低い」ということではなく、「現状、業界最高峰の性能を持つワコムのペンタブレットを上回るような製品が、USIを使って作ることができる」という意味の技術デモとなる。
USIの取り組みは、すでにこのようにサンプル品を作れるレベルまで来ており、今後は市場に登場していくフェーズになるだろう。
前述のとおり、現状では複数の規格のペンが競合関係にあり、相互に利用することができない。ワコムがMPPとAESの両方を使えるペンを発売する(ワコム、ThinkPadでもSurfaceでも使える世界初のスタイラス)など、徐々に互換性問題を解決する取り組みがはじまっているが、根本的に解決するには、こうした業界標準を作っていく取り組みが近道であるので、今後ともUSIの動向は要チェックだ。