西川和久の不定期コラム

ThinkPad X系の流れを汲むRyzenモバイルノート「ThinkPad A285」

 Lenovoは9月19日、モバイル用AMD Ryzen PRO搭載の12.5型ノートPCを発表した。いわゆる“ThinkPad X”系のAMD搭載モデルだ。編集部から実機が送られて来たので、試用レポートをお届けしたい。

伝統的なThinkPad X系のAMD版

 現在、モバイル用Ryzen PROのSKUは、「Ryzen 7 PRO 2700U」、「Ryzen 5 PRO 2500U」、「Ryzen 3 PRO 2300U」の3種類。PROなしの通常版は、「Ryzen 7 2700U」、「Ryzen 5 2500U」、「Ryzen 3 2300U」と、“PRO”の表記以外は同じだ。

 このことからわかるように、コア数、動作クロック、iGPUといった主要部分はほぼ同じで、PROに関してはセキュリティなど、ビジネスよりの機能がハードウェア的に追加されているのが一番の違いとなる。今回はThinkPadに搭載することもあり、PROのほうが選ばれたかたちなのだろう。

 一方、ThinkPadのAシリーズは、プロセッサにAMDを採用しているモデルだ。後ろの数字がパネルサイズ、すなわちX系と同じ。2018年10月時点で直近のX系はX280。じつはX240からX270まで共通だった筐体から新デザインへと変わり、今風のThinkPadっぽくなっているのが特徴だ。そしてその特徴がこの「ThinkPad A285」にもそのまま採用され、まさにプロセッサ違いの双子的な1台となる。おもな仕様は以下のとおり。

Lenovo「ThinkPad A285」の仕様
プロセッサRyzen 7 PRO 2700U(4コア8スレッド/2.2GHz~3.8GHz/キャッシュ4MB/TDP 15W)
メモリ8GB PC4-19200 DDR4 SDRAM(オンボード)
ストレージNVMe M.2 SSD 256GB
OSWindows 10 Pro(64bit)
ディスプレイ12.5型IPS式フルHD(1,920×1,080ドット)、光沢なし、タッチ非対応
グラフィックスRadeon Vega 10 Graphics、HDMI、USB 3.1 Type-C
ネットワークGigabit Ethernet(ただしイーサネット拡張ケーブル2でRJ45に対応)、IEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.2
インターフェイスUSB 3.1×2(Type-C)、USB 3.0×2、720万画素Webカメラ、microSDカードスロット、音声入出力
バッテリ/駆動時間6セルリチウムイオンポリマー(48Wh)/約10.9時間
サイズ/重量約307.7×209.8×17.4mm(幅×奥行き×高さ)/約1.13kg
ダイレクト価格267,840円/eクーポン適用後:174,096円(メモリ16GB/税込/送料無料)

 プロセッサはRyzen 7 PRO 2700U。4コア/8スレッドでクロックは2.2GHzから最大3.8GHz。キャッシュ4MB、TDPは15W。先に書いたようにセキュリティなどのハードウェアを搭載しているのがPROなしとの違いとなる。メモリは8GB PC4-19200 DDR4 SDRAM。ストレージはNVMe M.2 SSD 256GB。OSは64bit版Windows 10 Proを搭載。

 グラフィックスはプロセッサ内蔵Radeon Vega 10 Graphics。外部出力用にHDMIとUSB 3.1 Type-Cを装備している。ディスプレイは非光沢の12.5型IPS式フルHD(1,920×1,080ドット)。タッチには対応していない。

 ネットワークはIEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.2。加えてアタッチメントを使用してGigabit Ethernetが利用可能だ。そのほかのインターフェイスは、USB 3.1×2(Type-C)、USB 3.0×2、720万画素Webカメラ、microSDカードスロット、音声入出力。従来のメディア(SD)カードスロットがなくなっている。

 サイズ約307.7×209.8×17.4mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.13kg。48Whの6セルリチウムイオンポリマーを内蔵し、バッテリ駆動時間は最大約10.9時間。

 ダイレクトモデルと量販店モデルが用意され、前者で今回の構成(ただしメモリは16GB)だと267,840円だが、eクーポンが使え、実質174,096円となる。ダイレクトモデルの構成を見ると、Ryzen 7 PRO 2700U/Ryzen 5 PRO 2500U/Ryzen 3 PRO 2300U、メモリ8GB/16GB、NVMe M.2 SSD 128GB/256GB、HD/フルHD液晶などの構成違いがあるようだ。

パネルは非光沢だが狭額縁ではない。中央上に720万画素Webカメラ。「ThinkShutter」で物理的に写らなくできる
斜め後ろから。左上にThinkPadのロゴ。iのドットは従来同様赤く光る。わかりにくいが背面側面にmicroSDカードスロットがある。バッテリは内蔵式で着脱できない
左側面。USB Type-C、Type-C+拡張コネクタ、USB 3.0、HDMI、音声入出力
右側面。ロックポート、USB 3.0。パネルは180度倒すことができる
底面。手前左右のスリットにスピーカー。メモリなどにアクセスできる小パネルなどはない
アイソレーション式の日本語キーボード。手前にTrackPointとTrackPad、指紋センサー
キーピッチは実測で約18.5mm。右側の手前や[Enter]左側のピッチがせまくなっているものの、これらは従来のX240以降と同じ
重量は実測で1,148g
ACアダプタのサイズは約90×40×28mm(幅×奥行き×高さ)、重量177g。出力20V/2.25A、15V/3A、9V/2A、5V/2A
ThinkPad X250との比較。左側のレイアウトがずいぶん違うのがわかる。X250は、若干厚みがあるものの、奥行きは気持ち短い。体積はあまり変わらないのに約300gほど重い
ThinkShutter。物理的にWebカメラをふさぐことができる
背面側面にあるmicroSDカードスロット。取り外しにピンが必要なので、頻繁に出し入れする用途には向かない

 筐体は相変わらず昔と変わらないThinkPadらしいマットブラック。12.5型で実測1,148gということもあり、持ったときに結構軽く感じる。加えてX250との比較写真からもわかるように少し薄く、そして約300gも軽くなっている(X250比。X270比でも約200g軽い)。どちらかと言うと、X2系より、X1 Carbonの小型版に近いイメージで、より今風のThinkPadらしくなった印象を受ける。

 前面は中央上に720万画素Webカメラ、パネルは非光沢だが狭額縁ではない。Webカメラには「ThinkShutter」があり、物理的に写らなくすることもできる。ハッキングなどによるリモートでの覗き見防止用だ。左側面にUSB Type-C、Type-C+拡張コネクタ、USB 3.0、HDMI、音声入出力。右側面にロックポート、USB 3.0を配置。Type-Cは充電用と画面出力用も兼ねている。また写真からはわかりにくいが、背面側面にmicroSDカードスロットがある。ただし、SIMのようにピンを刺して外すタイプなので、簡単に出し入れできない。

 裏は手前左右のスリットにスピーカー。X270まであったドッキングステーション用の拡張コネクタがなくなっている。これは左側面のType-C+拡張コネクタに変更されたためだ。またフロントとリア、バッテリを2つ搭載し後者はホットスワップ可能だった部分も、バッテリ1つで着脱不可と、仕様的には後退している。

 おそらくこれらの組み合わせで軽く薄くしているのだろうが、バッテリが交換できず、Gigabit Ethernetはアタッチメントが必要、メディアカードスロットもなし、それはThinkPadのX2系としてはちょっと違うのでは……と思ってしまった。もっとも、この点は同じ筐体のX280も同様となる。

 付属のACアダプタはType-Cとなり、サイズ約90×40×28mm(幅×奥行き×高さ)、重量177g。比較的コンパクトだ。出力は20V/2.25A、15V/3A、9V/2A、5V/2A。

 12.5型IPS式のフルHDパネルは明るさ、コントラスト、発色、視野角すべて良好。ThinkPadの場合、安価なモデルはTN式のHDパネルになることもあるが、本機種とそれらの差は歴然だ。

 キーボードはアイソレーションタイプ。TrackPointやTrackPadも含め、X240以降と配置やキーピッチ、大きさなどに変化はないが(質感や形状は若干異なる)、気持ち手前に傾いているので入力しやすくなっている。また指紋センサーの位置がキーボード右側からTrackPad右側に変わった。

 ノイズや振動は試用した範囲では十分許容範囲。ただ発熱に関しては、ベンチマークテストなど負荷をかけると、「こんなに熱くていいのか」と思うほど、右側面のスリットが熱くなるのが気になった。サウンドはとりあえず鳴る程度で、悪い意味でThinkPadクオリティだ。基本、ビジネス用なので問題なしという認識だろう。

 もともとThinkPad X系は、今まで12.5型のわりに厚めで、ボッテリして重いイメージだったが、新筐体からそのイメージを払拭し、薄く軽くなっているのは好印象だ。ただそれと引き換えにバッテリや有線LAN、microSDカードスロットといった使い勝手が悪くなっており、個人的には許容できない部分もある。この点をどう見るかで大きく好き嫌いが別れそうだ。

モバイル用Ryzen PROとNVMe M.2 SSDで高速動作

 初期起動時のスタート画面(タブレットモード)は1画面。Lenovo Vantageがプリンストールとなる。デスクトップは壁紙の変更と左側にEdgeのショートカットのみとシンプルだ。モバイル用Ryzen PRO、メモリ8GBに加え、ストレージがNVMe M.2 SSDと言うこともあり、ブート、アプリの起動/終了、ファイル操作など、なにをしても非常に快適。このサイズでこの性能は魅力的だ。

 ストレージはNVMe M.2 SSD 256GBのSAMSUNG「MZVLB256HAHQ」。C:ドライブのみの1パーティションで約237GBが割り当てられ空き218GB。Gigabit Ethernet、Wi-Fi、BluetoothすべてRealtek製だ。これからもわかるように、Gigabit Ethernet用のアタッチメントは、USB 3.0接続ではなく、拡張部分から信号が取り出されている。

スタート画面(タブレットモード)。Lenovo Vantageがプリンストール
起動時のデスクトップは壁紙の変更とEdgeのショートカットのみ
デバイスマネージャ/主要なデバイス。ストレージはNVMe M.2 SSD 256GBのSAMSUNG「MZVLB256HAHQ」。Gigabit Ethernet、Wi-Fi、BluetoothすべてRealtek製
C:ドライブのみの1パーティションで約237GBが割り当てられている
Radeon設定

 プリインストールのソフトウェアは、「Lenovo Vantage」とシステム系になる。前者はドライバの更新なども含め、メンテナンス系を一括管理しているため非常にわかりやすい。筆者も所有しているThinkPadで使っているが重宝している。結構前から搭載しているのでとくに説明の必要はないだろう。

Lenovo Vantage(1/2)
Lenovo Vantage(2/2)

ベンチマークテストは、PCMark 10、PCMark 8、3DMark、CINEBENCH R15、CrystalDiskMark、BBench。結果は以下のとおり。

ベンチマーク結果
PCMark 10 v1.0.1457
PCMark 10 Score2,644
Essentials5,370
App Start-up Score5,258
Video Conferencing Score6,080
Web Browsing Score4,846
Productivity3,913
Spreadsheets Score5,077
Writing Score3,016
Digital Content Creation2,388
Photo Editing Score3,338
Rendering and Visualization Score2,407
Video Editting Score1,697
PCMark 8 v2.8.704
Home Accelarated 3.02,883
Creative Accelarated 3.02,577
Work Accelarated 2.03,869
Storage5,028
3DMark v2.4.4264
Time Spy726
Fire Strike Ultra495
Fire Strike Extreme986
Fire Strike2,043
Sky Diver7,394
Cloud Gate7,923
Ice Storm Extreme50,177
Ice Storm60,167
CINEBENCH R15
OpenGL25.91 fps
CPU467 cb
CPU(Single Core)78 cb
CrystalDiskMark 6.0.0
Q32T1 シーケンシャルリード3,244.587MB/s
Q32T1 シーケンシャルライト1,400.435MB/s
4K Q8T8 ランダムリード566.457MB/s
4K Q8T8 ランダムライト1,299.344MB/s
4K Q32T1 ランダムリード323.392MB/s
4K Q32T1 ランダムライト229.546MB/s
4K Q1T1 ランダムリード41.070MB/s
4K Q1T1 ランダムライト118.596MB/s
BBench(ディスプレイの明るさ0%、電源モード:バッテリー節約機能)
バッテリ残量5%まで6時間59分13秒(仕様上約10.9時間)

 前回もRyzen Mobile “PRO”なし搭載ノートPCの試用レポートを掲載したが、dGPU内蔵と言うこともあり、ストレージ以外は本機のほうが低いスコアになっている。ただしストレージはNVMe M.2 SSDなのでPCMark 8のStorage、そしてCrystalDiskMarkの結果が良好だ。とくに後者は桁違いのスコアを叩き出している。

 バッテリ駆動時間は仕様上約10.9時間だが、残5%まで6時間59分13秒となった。かなり差があるのが気になり、3回テストを行なったものの同じような結果となり、これがRyzen PROの実力なのだろう。バッテリが着脱できないため、使い方によっては不満が出るかもしれない。

 以上のようにLenovo「ThinkPad A285」は、AMD Ryzen 7 PRO 2700U、メモリ8GB、ストレージにNVMe M.2 SSDを搭載した12.5型のノートPCだ。同社定番X2系のAMDモデルだけあって完成度は高く、さらに薄く軽くと進化した今時のThinkPadに仕上がっている。

 着脱できないバッテリ、Gigabit Ethernetはアタッチメント、SDカードスロットがなくなり、microSDはピンで取り出す方式、そして右側面の発熱……と、個人的に気になる部分が増えてしまった。それ以外はまさにThinkPadなだけに、残念なところだ。

 とは言え、Ryzenを搭載した軽量薄型のモバイルノートは、本機ぐらいしか存在せず、貴重な存在であるのも確かだ。「Ryzenを持ち運びたい」ユーザーには唯一無二の選択肢になるだろう。