西川和久の不定期コラム
ThinkPad X系の流れを汲むRyzenモバイルノート「ThinkPad A285」
2018年10月16日 11:00
Lenovoは9月19日、モバイル用AMD Ryzen PRO搭載の12.5型ノートPCを発表した。いわゆる“ThinkPad X”系のAMD搭載モデルだ。編集部から実機が送られて来たので、試用レポートをお届けしたい。
伝統的なThinkPad X系のAMD版
現在、モバイル用Ryzen PROのSKUは、「Ryzen 7 PRO 2700U」、「Ryzen 5 PRO 2500U」、「Ryzen 3 PRO 2300U」の3種類。PROなしの通常版は、「Ryzen 7 2700U」、「Ryzen 5 2500U」、「Ryzen 3 2300U」と、“PRO”の表記以外は同じだ。
このことからわかるように、コア数、動作クロック、iGPUといった主要部分はほぼ同じで、PROに関してはセキュリティなど、ビジネスよりの機能がハードウェア的に追加されているのが一番の違いとなる。今回はThinkPadに搭載することもあり、PROのほうが選ばれたかたちなのだろう。
一方、ThinkPadのAシリーズは、プロセッサにAMDを採用しているモデルだ。後ろの数字がパネルサイズ、すなわちX系と同じ。2018年10月時点で直近のX系はX280。じつはX240からX270まで共通だった筐体から新デザインへと変わり、今風のThinkPadっぽくなっているのが特徴だ。そしてその特徴がこの「ThinkPad A285」にもそのまま採用され、まさにプロセッサ違いの双子的な1台となる。おもな仕様は以下のとおり。
Lenovo「ThinkPad A285」の仕様 | |
---|---|
プロセッサ | Ryzen 7 PRO 2700U(4コア8スレッド/2.2GHz~3.8GHz/キャッシュ4MB/TDP 15W) |
メモリ | 8GB PC4-19200 DDR4 SDRAM(オンボード) |
ストレージ | NVMe M.2 SSD 256GB |
OS | Windows 10 Pro(64bit) |
ディスプレイ | 12.5型IPS式フルHD(1,920×1,080ドット)、光沢なし、タッチ非対応 |
グラフィックス | Radeon Vega 10 Graphics、HDMI、USB 3.1 Type-C |
ネットワーク | Gigabit Ethernet(ただしイーサネット拡張ケーブル2でRJ45に対応)、IEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.2 |
インターフェイス | USB 3.1×2(Type-C)、USB 3.0×2、720万画素Webカメラ、microSDカードスロット、音声入出力 |
バッテリ/駆動時間 | 6セルリチウムイオンポリマー(48Wh)/約10.9時間 |
サイズ/重量 | 約307.7×209.8×17.4mm(幅×奥行き×高さ)/約1.13kg |
ダイレクト価格 | 267,840円/eクーポン適用後:174,096円(メモリ16GB/税込/送料無料) |
プロセッサはRyzen 7 PRO 2700U。4コア/8スレッドでクロックは2.2GHzから最大3.8GHz。キャッシュ4MB、TDPは15W。先に書いたようにセキュリティなどのハードウェアを搭載しているのがPROなしとの違いとなる。メモリは8GB PC4-19200 DDR4 SDRAM。ストレージはNVMe M.2 SSD 256GB。OSは64bit版Windows 10 Proを搭載。
グラフィックスはプロセッサ内蔵Radeon Vega 10 Graphics。外部出力用にHDMIとUSB 3.1 Type-Cを装備している。ディスプレイは非光沢の12.5型IPS式フルHD(1,920×1,080ドット)。タッチには対応していない。
ネットワークはIEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.2。加えてアタッチメントを使用してGigabit Ethernetが利用可能だ。そのほかのインターフェイスは、USB 3.1×2(Type-C)、USB 3.0×2、720万画素Webカメラ、microSDカードスロット、音声入出力。従来のメディア(SD)カードスロットがなくなっている。
サイズ約307.7×209.8×17.4mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.13kg。48Whの6セルリチウムイオンポリマーを内蔵し、バッテリ駆動時間は最大約10.9時間。
ダイレクトモデルと量販店モデルが用意され、前者で今回の構成(ただしメモリは16GB)だと267,840円だが、eクーポンが使え、実質174,096円となる。ダイレクトモデルの構成を見ると、Ryzen 7 PRO 2700U/Ryzen 5 PRO 2500U/Ryzen 3 PRO 2300U、メモリ8GB/16GB、NVMe M.2 SSD 128GB/256GB、HD/フルHD液晶などの構成違いがあるようだ。
筐体は相変わらず昔と変わらないThinkPadらしいマットブラック。12.5型で実測1,148gということもあり、持ったときに結構軽く感じる。加えてX250との比較写真からもわかるように少し薄く、そして約300gも軽くなっている(X250比。X270比でも約200g軽い)。どちらかと言うと、X2系より、X1 Carbonの小型版に近いイメージで、より今風のThinkPadらしくなった印象を受ける。
前面は中央上に720万画素Webカメラ、パネルは非光沢だが狭額縁ではない。Webカメラには「ThinkShutter」があり、物理的に写らなくすることもできる。ハッキングなどによるリモートでの覗き見防止用だ。左側面にUSB Type-C、Type-C+拡張コネクタ、USB 3.0、HDMI、音声入出力。右側面にロックポート、USB 3.0を配置。Type-Cは充電用と画面出力用も兼ねている。また写真からはわかりにくいが、背面側面にmicroSDカードスロットがある。ただし、SIMのようにピンを刺して外すタイプなので、簡単に出し入れできない。
裏は手前左右のスリットにスピーカー。X270まであったドッキングステーション用の拡張コネクタがなくなっている。これは左側面のType-C+拡張コネクタに変更されたためだ。またフロントとリア、バッテリを2つ搭載し後者はホットスワップ可能だった部分も、バッテリ1つで着脱不可と、仕様的には後退している。
おそらくこれらの組み合わせで軽く薄くしているのだろうが、バッテリが交換できず、Gigabit Ethernetはアタッチメントが必要、メディアカードスロットもなし、それはThinkPadのX2系としてはちょっと違うのでは……と思ってしまった。もっとも、この点は同じ筐体のX280も同様となる。
付属のACアダプタはType-Cとなり、サイズ約90×40×28mm(幅×奥行き×高さ)、重量177g。比較的コンパクトだ。出力は20V/2.25A、15V/3A、9V/2A、5V/2A。
12.5型IPS式のフルHDパネルは明るさ、コントラスト、発色、視野角すべて良好。ThinkPadの場合、安価なモデルはTN式のHDパネルになることもあるが、本機種とそれらの差は歴然だ。
キーボードはアイソレーションタイプ。TrackPointやTrackPadも含め、X240以降と配置やキーピッチ、大きさなどに変化はないが(質感や形状は若干異なる)、気持ち手前に傾いているので入力しやすくなっている。また指紋センサーの位置がキーボード右側からTrackPad右側に変わった。
ノイズや振動は試用した範囲では十分許容範囲。ただ発熱に関しては、ベンチマークテストなど負荷をかけると、「こんなに熱くていいのか」と思うほど、右側面のスリットが熱くなるのが気になった。サウンドはとりあえず鳴る程度で、悪い意味でThinkPadクオリティだ。基本、ビジネス用なので問題なしという認識だろう。
もともとThinkPad X系は、今まで12.5型のわりに厚めで、ボッテリして重いイメージだったが、新筐体からそのイメージを払拭し、薄く軽くなっているのは好印象だ。ただそれと引き換えにバッテリや有線LAN、microSDカードスロットといった使い勝手が悪くなっており、個人的には許容できない部分もある。この点をどう見るかで大きく好き嫌いが別れそうだ。
モバイル用Ryzen PROとNVMe M.2 SSDで高速動作
初期起動時のスタート画面(タブレットモード)は1画面。Lenovo Vantageがプリンストールとなる。デスクトップは壁紙の変更と左側にEdgeのショートカットのみとシンプルだ。モバイル用Ryzen PRO、メモリ8GBに加え、ストレージがNVMe M.2 SSDと言うこともあり、ブート、アプリの起動/終了、ファイル操作など、なにをしても非常に快適。このサイズでこの性能は魅力的だ。
ストレージはNVMe M.2 SSD 256GBのSAMSUNG「MZVLB256HAHQ」。C:ドライブのみの1パーティションで約237GBが割り当てられ空き218GB。Gigabit Ethernet、Wi-Fi、BluetoothすべてRealtek製だ。これからもわかるように、Gigabit Ethernet用のアタッチメントは、USB 3.0接続ではなく、拡張部分から信号が取り出されている。
プリインストールのソフトウェアは、「Lenovo Vantage」とシステム系になる。前者はドライバの更新なども含め、メンテナンス系を一括管理しているため非常にわかりやすい。筆者も所有しているThinkPadで使っているが重宝している。結構前から搭載しているのでとくに説明の必要はないだろう。
ベンチマークテストは、PCMark 10、PCMark 8、3DMark、CINEBENCH R15、CrystalDiskMark、BBench。結果は以下のとおり。
ベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark 10 v1.0.1457 | |
PCMark 10 Score | 2,644 |
Essentials | 5,370 |
App Start-up Score | 5,258 |
Video Conferencing Score | 6,080 |
Web Browsing Score | 4,846 |
Productivity | 3,913 |
Spreadsheets Score | 5,077 |
Writing Score | 3,016 |
Digital Content Creation | 2,388 |
Photo Editing Score | 3,338 |
Rendering and Visualization Score | 2,407 |
Video Editting Score | 1,697 |
PCMark 8 v2.8.704 | |
Home Accelarated 3.0 | 2,883 |
Creative Accelarated 3.0 | 2,577 |
Work Accelarated 2.0 | 3,869 |
Storage | 5,028 |
3DMark v2.4.4264 | |
Time Spy | 726 |
Fire Strike Ultra | 495 |
Fire Strike Extreme | 986 |
Fire Strike | 2,043 |
Sky Diver | 7,394 |
Cloud Gate | 7,923 |
Ice Storm Extreme | 50,177 |
Ice Storm | 60,167 |
CINEBENCH R15 | |
OpenGL | 25.91 fps |
CPU | 467 cb |
CPU(Single Core) | 78 cb |
CrystalDiskMark 6.0.0 | |
Q32T1 シーケンシャルリード | 3,244.587MB/s |
Q32T1 シーケンシャルライト | 1,400.435MB/s |
4K Q8T8 ランダムリード | 566.457MB/s |
4K Q8T8 ランダムライト | 1,299.344MB/s |
4K Q32T1 ランダムリード | 323.392MB/s |
4K Q32T1 ランダムライト | 229.546MB/s |
4K Q1T1 ランダムリード | 41.070MB/s |
4K Q1T1 ランダムライト | 118.596MB/s |
BBench(ディスプレイの明るさ0%、電源モード:バッテリー節約機能) | |
バッテリ残量5%まで | 6時間59分13秒(仕様上約10.9時間) |
前回もRyzen Mobile “PRO”なし搭載ノートPCの試用レポートを掲載したが、dGPU内蔵と言うこともあり、ストレージ以外は本機のほうが低いスコアになっている。ただしストレージはNVMe M.2 SSDなのでPCMark 8のStorage、そしてCrystalDiskMarkの結果が良好だ。とくに後者は桁違いのスコアを叩き出している。
バッテリ駆動時間は仕様上約10.9時間だが、残5%まで6時間59分13秒となった。かなり差があるのが気になり、3回テストを行なったものの同じような結果となり、これがRyzen PROの実力なのだろう。バッテリが着脱できないため、使い方によっては不満が出るかもしれない。
以上のようにLenovo「ThinkPad A285」は、AMD Ryzen 7 PRO 2700U、メモリ8GB、ストレージにNVMe M.2 SSDを搭載した12.5型のノートPCだ。同社定番X2系のAMDモデルだけあって完成度は高く、さらに薄く軽くと進化した今時のThinkPadに仕上がっている。
着脱できないバッテリ、Gigabit Ethernetはアタッチメント、SDカードスロットがなくなり、microSDはピンで取り出す方式、そして右側面の発熱……と、個人的に気になる部分が増えてしまった。それ以外はまさにThinkPadなだけに、残念なところだ。
とは言え、Ryzenを搭載した軽量薄型のモバイルノートは、本機ぐらいしか存在せず、貴重な存在であるのも確かだ。「Ryzenを持ち運びたい」ユーザーには唯一無二の選択肢になるだろう。