ハンダづけ抜きのエフェクタづくり



 シンプルなアナログのエフェクタを作って遊んでみました。最初はiPod touchのギター・アプリと組み合わせていたのですが、本物のエレキギターでもちゃんと効くのかが気になったので、それも試すことにしました。我々はそうした目的に叶うギターを持っていないので、四本淑三さんの協力をいただいて、試奏と調整を行ないました。

iPod touchとブレッドボードの上に組んだ歪み系のエフェクタを接続し、アナログなサウンドを出力中。アプリケーションは定番の『Pocket Guitar』です

 今回作ったエフェクタはFuzzの一種と考えています。Wikipediaによると、Fuzzは「1960年代中頃に一般化したエフェクタ」で、「倍音が著しく強調され耳に刺激的、あるいは濁った音色。ファズ(fuzz、毛羽立った)という名前もそれに由来する」とのことです。

 気軽に作れて、パーツの変更もカンタンにできる、単純な回路構成を目指しました。ブレッドボードを使えば、ハンダづけを一切せずに組み立てることができます。

Amazon.comで見つけたこの本に載っているBass Fuzzというエフェクタをベースに、部品を一部変更して構築したのが今回の回路です。自作エフェクタに関する情報はネット上にもたくさんあります
オペアンプのOPA2134を中心に、左側が歪ませる回路、右側はローパスフィルタです。抵抗とコンデンサが多めですが、小さなブレッドボードにもなんとか載せられる規模です。抵抗R3の値については、検討の余地があります。それについては、後ほど本文で詳しく触れます

 2回路入りのオペアンプOPA2134を1個だけ使ったコンパクトな回路です。このオペアンプを選んだのは、我々が使い慣れているからで、他のJFET入力型オペアンプも使用できるはずです。2回路入りのものならば、ピン配列も同じです。

 回路図を見ると、左上にダイオードが2つ向かい合っている部分があります。これがFuzzサウンドの決め手となる部分。このダイオードによって入力された波形の端が切断(クリップ)され、歪みます。

 左側の回路だけでも機能するのですが、右側のローパスフィルタによって音色を調整しています。元の資料によると、高音を抑制し、中域のハーモニックを良い状態で残すことが目的とありました。

 電源は9V。角形電池(006P)を1個使うのがいいでしょう。電源部の配線について回路図の見方がわからない場合は、第11回のブレッドボーダーズを参照してください。

部品名番号品番/仕様数量
オペアンプIC1OPA2134PA1
無極性電解コンデンサC11μF/50V1
電解コンデンサC210μF/25V1
電解コンデンサC847μF/25V1
フィルムコンデンサC34,700pF1
フィルムコンデンサC46,800pF1
フィルムコンデンサC50.022μF1
フィルムコンデンサC61,000pF1
可変抵抗器VR1200KΩ1
可変抵抗器VR210KΩ1
カーボン抵抗器R1,R220KΩ2
カーボン抵抗器R30~4.7KΩ1
カーボン抵抗器R4100KΩ1
カーボン抵抗器R5,R6,R7,R810KΩ4
ダイオードD1,D21N41482
表中のパーツはすべてオンラインショップGingaDropsから調達可能です。ただし、ブレッドボード、電池スナップ、ジャック類は別途必要です

OPA2134は8ピンのDIP型ICで、より正確な型番はOPA2134PAです。末尾が異なる製品は形状も異なるので、注意してください
今回使用したフィルムコンデンサの正式名称は「メタライズドポリエステルフィルムコンデンサ」です。ずいぶん長い名称で、覚えるのが大変ですが、フィルムコンデンサならどれでもOKと思って大丈夫です。値段の安いものでいいでしょう。我々はGingaDropsで取り扱っているEPCOS社の製品を使いました。側面の「47n」という刻印は47nFの意味です

 使用部品について補足します。

 この記事ではフィルムコンデンサの容量をpF(ピコファラド)単位で表記しています。お店によっては、nF(ナノファラド)やμF(マイクロファラド)で表記しているかもしれません。適宜、換算してください。1,000pFは1nF、1nFは0.001μFでしたね。

 可変抵抗器のVR1とVR2は、ブレッドボードに直接載せるため、半固定抵抗器を使いました。操作性を重視する場合は、普通の可変抵抗器にケーブルをハンダづけして接続するといいでしょう。VR1の200KΩが手に入らないときは100KΩでも可です。

 今回使用したブレッドボードは秋月電子のEIC-301です。Altoidsの缶に収まる小さなブレッドボードを使いましたが、ジャック類の配置や、部品の抜き差しを考えると、もう少し大きいボードのほうが良かったかもしれません。

組み上がった状態です。調整の余地がある抵抗R3の位置に、赤いジャンパケーブルが刺さっています。また、回路図にはないパイロットランプ(LED)が追加されています
同じものを角度を変えて撮った写真です
電池と出力用のジャックを接続した状態。ジャックは3.5mmのものをブレッドボードに載せて使用しました。ブレッドボードに直接刺すことができるジャックはあまりないのですが、このようにしたい場合は第10回のブレッドボーダーズを参考にしてください
ギターとの接続に、一般的なシールドケーブルが使えると便利です。しかし、ブレッドボードに6.3mmのジャックを直接取り付ける方法は見つかりませんでした。代わりに採用したのが、サンハヤトのブレッドボード用ミノムシクリップ付きワイヤ。これでジャックとブレッドボードを接続できました

 完成したエフェクタを四本さんのギターに接続し、演奏を始めてもらいました。しかし、エフェクトはかかりませんでした。VR1は歪み量の調整のためにあるのですが、その範囲では、どこに合わせても歪みません。どうやら最初の回路のままでは増幅率が不足していてクリッピングが生じないようです。

 いろいろ試した結果、R3の値を4.7KΩよりも小さくしていくと、意図した音に近づくことがわかりました。2.2KΩではほとんど変化がなく、1KΩくらいで効き始めました。470Ωだと、もっと効きます。それでも、四本さんからは「これはFuzzの音ではない」との指摘。そこで、思い切ってR3を外し、ジャンパケーブルに代えてみました。つまり、ゼロΩ。そうすると、四本さんも納得のFuzzサウンドが発生したのです。サスティーンもバリバリです。

 乱暴な回路かもしれませんが、エフェクタである以上、出てくる音が最重要。皆さんも納得の音が見つかるまで、部品を差し替えてみましょう。ブレッドボードならカンタンです。

【動画】ゼロΩバージョンのエフェクタをつないで四本さんが演奏しています。最初の音はエフェクタなし。いったん画面が切り替わった後が、エフェクタをつないだ音です。段々と効きを強めながら、何パターンか確認しました。ギターアンプから出る音を、ビデオカメラのマイクで拾っています

 四本さんからは、なんとか「及第」の評価をいただきました。また、初段のゲイン不足に関して「プリアンプを入れればいいんじゃないですかね」という指摘もありました。次の機会に対応したいと思っています。

 ナマの音を耳で確かめながら回路を調整する作業は楽しいものでした。

ダイオードを変更することで、音色が変化するようです。ブレッドボードならば、部品の差し替えもカンタンで、フィジカルな音作りが楽しめます
次回のプロトタイパーズは、現在もっともホットなマイクロコントローラ「mbed」をベースにディレイ系のエフェクタを作り、今回のFuzzと連結する予定です