森山和道の「ヒトと機械の境界面」

デジタル技術×コスプレによる「電飾コスプレ造形」とは

~デジタル工作機器でコスプレに新しい表現を目指す「CosFAB」開催

 デジタル・ファブリケーション技術をコスプレに応用した事例やメイキング過程を紹介するイベント「CosFAB(コスファブ)」が4月16日、東京お台場で行なわれた。午前中は3Dプリンタやレーザーカッターの工作機器、センサー、LEDなどファブ技術をコスプレに使うことに関するトークセッション、午後には実際に3D CADソフトウェアを使って、オリジナルの刀の鍔を製作するワークショップという構成で、コスプレ用の小道具や衣装を製作している「コスプレ造形師」によるトークや、Autodeskが提供する無料の3D CADソフトウェア「Fusion360」の紹介などが行なわれた。

「CosFAB」を主催した電飾コスプレ造形師のDaiさん

 PCを接続したデジタル工作機器を使ってモノづくりを行なうのが、デジタル・ファブリケーション(ファブ)である。今回の「CosFAB」主催で、「電飾コスプレ造形」を手がけるDaiさんは以下のように趣旨を解説した。コスプレや漫画創作活動等においても、これまでにも手縫いとミシン、筆塗りとエアブラシ、ネームとペンタブのように、手作業とテクノロジーを併用して、さまざまな創作活動が行なわれてきた。コスプレ用の造形も同じ文脈で、従来の手作業にデジタル工作機器を併用すると新しいものが生まれ得る。また、既存の手作業に加えてデジタル機器を使うことを通して、これまでにない新しい発想も生まれるという。

 Daiさんはコスプレ用の創作を通して「もっと合理的な方法があるはずだ」とずっと考えていたという。そうこうしているときに市民によるものづくり拠点であるFablab鎌倉、同・関内などの立ち上げに携わる。だが環境を整えて「モノづくりをしましょう」と言っても、そもそもの目的、「作りたいモノ」がないと、人はいきなり何かを作ったりはしない。一方、コスプレイヤーたちには既に作りたいものが存在する。作りたいものがあれば手法を学ぶ目的意識やモチベーションも必然的に高くなる。そして同様の問題意識を持っていたAutodeskなどの人達と意気投合したことから、今回のイベント開催へと繋がったとのことだった。

3Dプリンタを使って造られたコスプレ用の小道具など
従来技術と便利な機械の組み合わせで新たな表現が生まれる

手作業×デジタル工作機器で新しい造形を

技術サークル「テクノアルタ」代表 静丘さん

 続けて、チームで製作を行なっている技術サークル「テクノアルタ」代表の静丘さんが『コスプレ×ファブリケーションで作るハイテク電飾コスプレの世界』と題して、実際の製作の取り組みについて具体的に紹介した。本業はソフトウェアエンジニアの静丘さんは、初めて出展した同人誌即売会でコスプレを見た時に「2.5次元じゃないか」と感動したところから、エンジニアとして何ができるかと考えて今日に至っているという。

 これまでのコスプレはコスプレイヤーと造形師によって作られてきた。ここにエンジニアが加わることで、新しいコスプレ表現や体験を実現したり、アニメやゲームの世界の表現をリアルに実現できるのではないかと静丘さんは語った。例えば、キャラクターの衣装や装備の一部が光ったり、動作と連動して色が変わったりするようなことができれば、より世界観のイメージに近づけることができる。ただ光るだけではなく、瞬間瞬間で衣装が変化すれば、見る人に、より大きな驚きを与えることもできる。

 静丘さんは「電飾天子」と「電飾聖」という2つの作品を、コスプレイヤーのそうびさん、イズさんの2人と一緒にプレゼンした。加速度センサーを使うことで動くと色が変わり、スマートフォンから光の強度や色を変えることもできる。

「電飾天子」。剣の動きと連動して色が変化する
光る巻物。傾きにより色の速度が変化し、スマートフォンから操作も可能
心拍と連動させることもできる
透明なポリウレタンシートにLED光を散乱させている
【動画】静丘さんによる動画。スマホと剣が連動するコスプレ電飾衣装を作ってみた【比那名居天子】
【動画】心拍と連動する虹色に光る巻物つくってみた【聖白蓮】

 この2作品、それぞれ開発期間は3カ月、4カ月程度だという。コスプレ衣装としては長期間だが、ハードウェア、ソフトウェア開発が必要なガジェットとしては比較的短期間で開発できたのはスマートフォンからの制御やLED制御、無線ユニット、加速度センサーなどをワンボードに収めた電飾制御モジュール「EdelColor」を作って共通のハードウェア基盤とし、デジタル技術を使ってチーム製作を行なったからだ。モデリングデータを作ったらそれをネット上で送り、レーザーカッターを使って切り出したものをSNS上でシェアしたりと議論しながら進めていったという。デジタル技術を使うことで、制御設計データをもとにして、デザインや3Dモデリングなどで試作を繰り返し互いに議論して制作を進めることができる。

ハードウェア基盤を共通化して開発を行なった
電飾制御モジュール「EdelColor」。フルカラーLEDをスマートフォンの専用アプリから制御できる。βユーザ募集中とのこと
「1人だけではできなかった」とコメントするコスプレイヤーのそうびさん

 「そうび」さんはコスプレイヤーの立場から「1人だけではできなかった」とコメントした。普段は1から10まで自分だけで製作しているが、「電飾の巻物を作りたい」ということからチームでの製作の取り組みがはじまり、エンジニアと手分けして作業を進めていったという。一般的にはコスプレでは造形には「ウレタン」や「ライオンボード」と呼ばれる素材が一般的に使われている。3Dプリンタやレーザーカッターなどは頭になかったため、新鮮だったという。デジタルファブでは同じものを2つ作ったりするのも簡単だ。今後も、最近増えてきたファブ施設などで技術を使うことで、表現として一歩先へ進むことができたらいいなと思っている、と語った。

 静丘さんは、「コスプレとテクノロジーによって新しい表現と体験を実現できる」と語り、何度も試作ができるデジタルファブ、遠隔地のクリエイターとの共同製作が可能になるオンラインワーク、SNSやグループウェアを使ったチーム製作の面白さと有効性を強調した。「手作業の経験とデジタルの良いところを組み合わせてできた」ものだという。

コスプレイヤー×造形師×エンジニアで新しいコスプレ表現が生まれる
日本全国に散らばったクリエイター間でデータを共有・試作を繰り返しながら共同制作を進めた

3Dプリンタとコスプレ小道具製作の相性は最高

CosFab主催者で電飾コスプレ造形師のDaiさん。本職はWeb技術者

 漫画「ジョジョの奇妙な冒険」好きで本職はWeb技術者だというDaiさんは『3Dプリンタでのコスプレ小道具作成』について、そもそも3Dプリンタとはどういうものなのかという話から紹介した。Daiさん曰く、「3Dプリンタはソフトクリーム製造機と同じようなもの」だという。フィラメントと呼ばれる溶かしたプラスチック素材を積み上げていってかたちを作るからだ。グルーガンと同じようなものだと言った方が伝わるかもしれない。それをPCから制御するのが3Dプリンタである。

 そのためにはデータが必要に成る。3Dの場合は、「Autodesk Fusion 360」のようなソフトウェアでstlファイルを作る。それを管理ソフトウェアでサイズや位置をプレビューして出力する。Dai氏は2DのJPGファイルと比較しながら分かりやすく紹介した。普段触れてないから特別なもののように思うかもしれないが、2Dプリンタと3Dプリンタは同じ使い方ができるという。そうであれば、いろいろな発想が生まれる。

 例えばコピー&ペーストや拡大縮小、反転ができる。複雑な曲線を処理したり微妙な調整をしたり、アンドゥ、自動セーブ、立体デザインを共有することもできる。1人で全部完結するわけではなく、チーム仲間で製作する場合には重要な機能だ。「ほんとうにたまらない。慣れたらなくてはならないもの」だと語った。

2Dプリンタと3Dプリンタは同じような使い方が可能
デジタルならではの便利機能

 だが限界もある。大きなものは出力できない。2Dプリンタ同様、造形容積を超えるものは出力できない。単純なものは手作業の方が早い。剣の刃の部分などはそこらへんのボードを切って作った方が早い。はじめのうちは嬉しいのでなんでも作ろうとするが、安く買えるものも作っても意味がない。また、3D CGをそのまま出力するようなことはできない。画面のなかで見た目がいいように作られている3D CGのデータがあっても、物理的な立体としてのフィギュアをそのまま出すようなことは無理というわけだ。用途が異なるからだ。

 Daiさんは出力例として頭の上にかぶる頭巾などを示した。軽くて丈夫で見た目が良いものを気軽に作れるという。また、ヘッドフォンの外装など、既製品に付け加えるようなものを作るのにも適している。「3Dプリンタとコスプレ小道具製作の相性は最高」であり、要は「使いどころ」だと述べた。

コスプレ小道具の実際の制作例

3Dモデリングと3Dスキャナ

3Dワークス株式会社 スリプリ代表 三谷大暁氏

 データを作るときの手順については、3Dワークス株式会社の教育団体「スリプリ」代表の三谷大暁氏と、オートデスク株式会社の藤村祐爾氏が解説した。藤村氏は世界で7人しかいないFusion 360の公式エヴァンジェリストだという。なお会場にはすでに3Dデータ自体を作ったことがあるという人たちが7割くらいを占めていた。この分野への関心の高さをうかがわせる。

 3Dデータを作るには実物をスキャンする方法と、3D CADを使う方法とがある。スキャナは業務用が多く、数百万円~数千万円していた。3年くらい前に3Dプリンタがブームになったときに、3D Systemsの「Sense 3D Scananer」のようなホビーユースの低価格(55,000円)3Dスキャナが登場した。数千円程度でレンタルも可能だ。また「Autodesk 123D catch」というソフトウェアは無料で使える。いろいろな角度から写真を撮って、クラウド上でそのまま出力できる3次元モデルを作るソフトウェアだ。スキャンしてデータをつくる場合、精度はスキャナによるし、完全オリジナルは作れない。だが簡単にデータが作れるというメリットがある。

今は低価格スキャナで気軽にスキャンできる時代に
3D Systems「Sense 3D Scananer」
オートデスク株式会社 Fusion360エヴァンジェリスト 藤村祐爾氏

 CAD についてはAutodeskの藤村祐爾氏が講演した。3D CADとは形状データをモデリングするためのツールである。3D CADを使えば曲面を伴った造形物、例えば鎧のようなものを作ることができる。

 Autodesk Fusion 360はコンセプトデザイン、設計、ビジュアライゼーション、シミュレーション、管理などの機能がワンパッケージになっている3DCADソフトウェアだ。非営利目的の個人は無料で使うことができる。藤村氏は、今回説明するためにゲームに登場する武器データを制作したと会場の爆笑をとりながら解説した。腕に装着する武器なので、まず自分の腕をスキャンして、テンプレートとなるイメージ画像を読み込み、下絵を作る。そして腕にめりこまないようにデータを作っていく。ツノのような複雑な形状も、どういう手順で作るかを把握することさえできれば、簡単に作れるようになると紹介した。

 会場からは実際に製作する立場から、どのソフトウェアが向いているか、ペーパークラフト用にも出力できるのかといった具体的な質問が飛んだ。

3D CADを使いこなせば複雑な曲面のある造形物も制作可能
無料3D CADソフトウェア Autodesk Fusion 360
藤村氏が制作した3Dデータ。慣れれば複雑形状も制作可能

デジタル・ファブでコスプレライフはもっと楽しくなる

コスプレ造形師 NAKAMÜ(ナカムー)さん

 続けて、コスプレ造形師からのトークが2件行なわれた。コスプレ趣味のうち、作るのが好きな人たちだ。鎧などを作っているNAKAMÜ(ナカムー)さんは、10年前はまだ材料を入手するのも苦労し、日用品などを使っていたと振り返った。以前はコスプレの人たちがライオンボードと呼ぶことの多いポリエチレンシートを使って製作を行なっていたという。

 ポリエチレンシートも積層したり、表面を塗装したり、合皮を貼るといった加工をすることで質感を変えたりすることができる。だが10年間作り続けることで飽きてしまう。何か新しいことをやって作りたいと思っていたときに3Dプリンタを使う機会があり、よしこれを使って小道具を作ろうと考えたという。普通に3Dプリンタで出力すると表面はざらざらなので、質感を出すために表面にパテを盛ってならした後に、サーフェイサー(下地材)を吹いて塗装しているそうだ。また、自動車用のクリアコートを表面に吹くと金属のような光沢が出すこともできる。

 従来のやり方で木やボードの成形や積層で作るよりもはるかに簡単で、きれいにエッジを出した形状を作ることができるという。最初に出力したとき「3Dプリンタの時代が来た」と思ったそうだ。

 また、ナカムーさんは好きなキャラの服(鎧)を4着くらい作り直しているという。だがコスプレ用でも鎧制作には技術が必要で、最初は関節のあそびをどの程度とればいいのかわからず、動きにくくなってしまった。2回目はクリアランスを考えて作ったので動けるようにはなったが、パーツがバラバラなので、あっちこっちを向いてしまってかっこ悪くなってしまった。その後はそこを繋いだり、生地を変えたりしたりと改良を進めているという。そのようなやり直しもデジタルファブだと比較的容易になる。

 ナカムーさんの好きなキャラが持っている武器は、上から右、左、右と互い違いに回転して、なおかつ光る。ナカムーさんはそれも自作した。今は、無料や格安のツールも増えてきており、作りたいものがあれば作れるようになりつつある。「コスプレライフはもっと楽しくなる」と締めくくった。

ナカムーさんの作品
剣の鍔と柄頭を3Dプリンタで制作
自動車用のクリアコートで金属風の光沢を持たせることも可能
コスプレ造形師 庄松屋さん

 仕事としてもCADやデジタル造形に携わっており、朝から晩までCADを触っているという庄松屋さんは、CADとの出会いから紹介した。今はデジタル工作なしでは生きていけないという。中身とリアルにこだわり、撃てるものは撃てるように作らない気が済まないタイプだという庄松屋さんは、蓄光BB弾を発射できるエアガンが仕込まれている剣などを紹介した。エアガンを採寸して中に仕込めるように作っていったという。以前はマシニングで削り出していくスタイルだったが、最近は単発の銃を連発フルオートにするための部品などを作ったりするのに3Dプリンタも活用していると語った。

 微調整が効くのがデジタルの良いところだという。また3Dプリンタで製作する時に、どういう向きで部品を造形するのが最適なのかを考える過程が好きだと、インドアでのサバイバルゲームに用いるライフル用のグリップや、保護マスクを着用した状態で構えるときに合うパーツなどを具体的な製作例として紹介した。「アイデアがすぐにかたちになる」というのが3Dプリンタの売り文句だが、それを実感することができたという。また、コスプレは着てみないと分からない面がある。パーツ同士の干渉のような、現物合わせでの調整が必要になった場合に、すぐに対応できるのが良いところだと紹介した。

 庄松屋さんは、同じ形状のパーツを拡大縮小して組み合わせ、さらに3Dプリンタで作った遊星歯車とシャフトなどを使ってそれぞれ違う方向に回転させられるようにした銃なども紹介。コスプレでも「回る光るは当たり前の時代」になりつつあると語った。

庄松屋さんの作品
3Dプリンタならば同じ部品を複数作るのも容易
同じデータを拡大縮小させて組み合わせることもできる
ライフルのグリップ。一発で造形できる向きなどを考えるのも楽しいという

 最後にふたたびDaiさんが3Dプリンタが使える場所やファブスペースなどを紹介した。「3D-GAN」では初めての人限定でSTLデータを持ち込めば無料で出力してくれるという。また、データをメールで送れば出力されたものが送り返されてくるサービスもある。

3Dプリンタを使うには買うか借りるか出力依頼するか

ワークショップには3D CADモデリング向けPCも登場

ワークショップでは模造刀用のオリジナルの鍔作りが行なわれた
パソコン工房製の3Dプリントデータ作成向けPCが用いられた

 午後のワークショップでは、パソコン工房から販売される、3D CADソフトウェアに最適化した3Dプリントデータ作成向けPCが用いられた。本誌とのコラボレーションで誕生したPCで、エントリー、ミドル、ハイクラスの3モデルが販売される。価格はそれぞれ 70,980円、101,980円、139,980円(いずれも税別)。BTOカスタマイズにも対応している。

 ワークショップでは、ログインから始まり、楕円形を描く、数値を変えて形状をいじる、拡大縮小や視点を変えるといった基本操作から、刀の鍔の縁の構造を作ったり、中を変形させる、画像データを挿入して形状データを作る、パーツとパーツの結合や切り取り、押し出し、レンダリングといった3D作業などが実際に手ほどきされた。3Dプリンタの精度も考えながら製作を行なう方がいいとか、ぴったりハマった方が良い部分の寸法をどう設定するかといった、ちょっとしたノウハウも紹介された。

 クラウド上でのデータ保存が基本であることや、製作過程の履歴が全部保存されていて、どこからでもやり直したりできることには驚いた参加者もいたようだった。思ったよりも簡単だったという人が多かったが、慣れの部分も多いようだ。1日1個何かを作ってみれば自然になれるという。講師を務めた3Dワークスの三谷氏は「最初は画面を回すといった作業は慣れないかもしれないが、毎日やっていると無意識でできるようになる、自転車に乗るのと同じようなものだ」とレクチャーした。

基本的操作から実際の3Dデータ作成やFusion 360の機能について解説された
Fusion 360の解説本

 今回の「コスファブ」、参加人数はトークセッションが70名程度、ワークショップが1回あたり20名程度ずつで2回行なわれた。またニコニコ生放送はおおよそ270名程度に視聴されたという。今後は、東京都内だけではなく、ものづくりの機運が高く「コスプレイヤーサミット」も行なわれている名古屋などでの開催も視野に入れて進めていきたいという。

 コスプレイヤーの誰もがデジタル・ファブリケーションと親和性が高いわけではない。むしろレーザーカッターや3Dプリンタは難しそうと感じている人のほうが多いだろう。だが「必要があれば手法は覚える」とDaiさんは語る。人数が多ければ、やりたい人の絶対数も多くなる。実践主体、作りたいモノ主導のボトムアップからのモノづくりは、コスプレから始まるのかもしれない。

(森山 和道)