メーカーさん、こんなPC作ってください!
【特別版】3Dプリンタでオリジナルスマホスタンドを作ろう
~第2回オートデスクの「Fusion 360」を快適に動かすためのPC仕様を探る
(2016/2/3 06:00)
PCは実に多くのことができるが、最近ではスマートフォンなどの能力も一気に向上しており、PCでなければできないことは減りつつある。だが、ものづくり、あるいはそこまで行かなくても、自分で編集・作成するオリジナルコンテンツの制作においては、PCに比肩するデバイスはないのが現状だ。
ただし、何でもできると言っても、実際には、予算上限が決まっているので、いくらでも高性能なパーツを使えるわけではないし、1人が使う用途もある程度限られている。
本コーナーでは、主にクリエイターやクリエイターを目指すユーザーを想定し、特定の用途において価格性能比の面で最適なPCとはどのようなものかを、その分野に造詣の深い専門家やライターの方、および実際にPCを製造するメーカー、PC Watchの三者が一緒に議論、検討し、実際に製品化する。
今回の特集のテーマは、3Dプリンタ向けの3Dデータを制作するのに適したPCを作ろうというものだ。ややニッチな用途と思われるかもしれないが、それには理由がある。実は、本コーナーに協力をいただいているパソコン工房が株式会社カブクによる協力の下、一般ユーザーを対象にした3Dプリンタを使ったPCケースデザインコンテストを近日開催する予定になっているのだ。
前回は基本知識編として、業務用3Dプリンタを活用したものづくりプラットフォーム「Rinkak」を運営する株式会社カブクの横井康秀氏に、業務用3Dプリンタの現状を訊いたが、今回は、オートデスクの3D CAD「Autodesk Fusion 360」を快適に動かすためのPCスペックについて、Fusion 360 エヴァンジェリストである藤村祐爾氏を交えて、ミーティングを行なった。
ミドルレンジなのに無償で使えるクラウド対応3D CAD「Fusion 360」
【司会】まず、Fusion 360の特徴についてお話いただけないでしょうか。
【藤村】世の中には、いろいろな3D CADがありまして、もうそれは何十もの種類があります。その中には、数百万円するものもあれば、無料のものもあって、当然できることにも大きな違いがあります。
まず、どのくらいのことがFusion 360でできるかと言いますと、現行で販売されている3D CADのミドルレンジクラスのちょっと下くらいまでのことはほぼできます。100万円前後の3D CADのことをだいたいミドルレンジと言いますが、この辺の3D CADでは、通常、オプションの機能を追加購入して拡張することができるんですが、Fusion 360は最初から全ての機能が入っています。
2つ目のアドバンテージが価格です。ミドルレンジの3D CADは100万円前後とお伝えしましたが、Fusion 360のBasicパッケージが3万円前後、Ultimateという上位バージョンでも12万円です。ここからが実は今回の企画にも響くんですけども、個人利用や趣味、学生、教育機関、非営利系のユーザーなら、基本的に無償で利用できますので、今まで3D CADってやってみたかったけど、高くて買えなかったとか、今無償の3D CADを使っていて、もうちょっと高機能なものにステップアップしたいんだけど、やっぱり買えないとか、そういう方にも最適です。
今、デジタル技術を活用したものづくりが非常に話題になってます。そこにソフトメーカーとして何ができるかと言うと、やはりソフト面での支援になるので、そういったところも踏まえて、価格と機能のバランスを壊していったのです。と言っても、ポジティブな意味ですけれども。そこも大きな特徴です。
基本的なモデリング、つまり設計において、寸法を入れて、複数のパーツがあって、それを組み合わせる、こうしたことは全てできます。さらに、PCケースみたいなものを作る場合は、板金機能(シートメタル)が欲しくなりますが、今年(2016年)中に板金機能も実装される予定なので、PCケースそのものも全部作れるくらいの機能が入っています。
それから、通常の3D CADは、寸法を入れて作っていくという流れなんですけれども、スカルプティングの機能があります。これはどういうものかと言いますと、曲面的なモデリングがすごくしやすい機能です。粘土のような感覚で、引っぱったり、押したり、こういった直感的なニュアンスでモデリングができます。今まで3D CADをやろうとすると、ツールを覚えて、それをどういうところに使うかというのを覚えて、1個1個使えるツールを増やしていかないと、なかなか思った形にできなかったのですが、スカルプ機能を使うと、ツールを5つぐらい覚えていただければ、むにゅむにゅと粘土のように作っていけるというのが特徴です。
さらに、クラウドに本格的に対応しているというのも大きな特徴です。Fusion 360で作成した3Dデータは、クラウド上に保存されますので、他のマシンからでもすぐに作業の続きが可能です。CPU負荷が高いレンダリング処理も、クラウドのサーバーのパワーを使って高速に行なえます。
【司会】3D CADの応用範囲は非常に広いと思いますけれども、個人が趣味の範囲で使う時には、どういう用途が考えられるのでしょうか?
【藤村】Fusion 360は、ユーザーの幅がとても広いということが特徴でして、今まで3D CADと言うと、設計者が使うツールというイメージで、個人での利用は、3D CGに近いソフトの方が多かったんですね。でも、Fusion 360は前述のとおり3D CG的な使い方もできます。
それで、個人の方では、ホビー系の用途が多いですね。例えば、プラモデルとかチョロQのカスタマイズとか、そういう自分が作りたい趣味のモノを作るというものです。今後伸ばしていきたいのは、やはりマスマーケットということで、コスプレの小道具を作ったり、要は実際にものづくりをして、アウトプット用途を訴求したいと考えています。
3Dプリンタを使うとなると、どうしても3Dデータが必要ですので、すでにCADを使っている方々が非常に多いです。会社の仕事でも設計をしていて、高い3D CADを使っているけども、自宅で何か作ろうと思ったときに、300万円の3D CADは買えないので、Fusion 360でやってますという方がいます。それから、デザイン事務所の方でも、価格も安く、自分達にはこれで十分だといってFusion 360を使っておられたりとか、ユーザー層はかなり幅広いですね。
【司会】実は意外と趣味に近いところで使えるということですね。
【藤村】私もPCを自作しますが、本当は自作キーボードとか、自作マウスとか、そういうのも作りたいですね。マウスぐらいだったら、ばらして自分の手をスキャンするなり、型を押した粘土をスキャンするなりして、自分の手にピッタリ合うマウスを作ることもできると思います。何か作りたいと思ったら、Fusion 360で大体できると思います。
CPUとGPUでは、GPUを重視すべき
【司会】では、Fusion 360を使うにあたって、どの辺のスペックが実際に必要というか、パーツ単位で、CPUはこれが理想だみたいなのを突きつめていきたいと思います。基本的にはやはりCPUで演算処理するところが大きいのか、それとも描画部分の負担が大きいのでしょうか?
【藤村】すごく端的にお伝えすれば、CPUが速くて、グラフィック性能も高いほうがもちろんいいんですが、実際は自分がどこまで複雑なデータを扱うかによります。今回は、自動車を丸々1台設計するわけではないですよね。となると、それほどグラフィック負荷が高いわけではないのです。描画だけでなく3Dを扱うソフトなので、グラフィックスボードは必要です。グラフィックスボードにもいろいろ種類があると思いますが、必ずしも最新のハイエンドモデルが必要なわけではありません。普通のノートPCのように、CPUに統合されているグラフィックス機能ですと若干の不安はありますが、独立したGPUを搭載していれば、大抵は大丈夫だと思います。
扱うデータサイズについてですが、自分でモデルを作っていく分には、そんなにデータが大きくなることはないです。ただ、3Dスキャンしたメッシュデータを扱う、例えば、フィギュアを作りたくて、人を全身スキャンして、何万ポリゴンというメッシュデータを取り込みましたとなると、これは結構負荷が大きくなります。ですから、ある程度用途がはっきりすれば、もっとスペックを絞れると思いますが、ハイエンドでもなくローエンドでもなく、ミドルレンジくらいのPCなら安心できると思います。
あとはご自身がどれくらい、Fusion 360を使っていろんなことをやろうかと考えているかですね。本気で取り組みたいというのなら、先行投資で、3年間、4年間使っていけるPCを考えた方がいいでしょう。4年後のFusion 360のスキルは、かなり上がっていると思いますので、ちょっと試してみるだけと思って普通の店頭売りのPCを買うと、Fusion 360に慣れてきてより複雑なものを作ろうとした時に、マシンスペックが足りなくなることも当然あると思います。
【パソコン工房】先ほどおっしゃったスカルプティング機能はかなり負荷が高いと聞いていますが。
【藤村】そうですね。スムースモードとボックスモードの2種類の操作方法がありますが、スムースモードだと、何か形状を変化させると、常にそれを反映させていくのでかなり負荷が大きい場合があります。
けれども、ボックスモードの場合は、描画自体が単純になり、全て直線で表現されますので、割と負荷が小さいです。慣れてくれば、通常はボックスモードで負荷を減らし、確認する時だけスムースモードにするというやり方ができます。
やはりメッシュデータの方が、負荷は大きいですね。頂点数にもよりますが、30万ポリゴンとか50万ポリゴンとかだと、かなりきついです。ある機能で、メッシュを変換しようとすると、1万頂点か1万ポリゴンかを超えると制限がかかるものがあるんですが、例えば、描画を眺めたりとか、少しいじる程度なら、1万ポリゴン以上でも十分いけます。10万ポリゴンとかでも動くと言えば動くと思うんですけども、50万ポリゴンだときついですね。
これは、単純にPCのスペックをすごく上げたからといって動作が軽くなるというものでもなくて、ある程度ソフトの限界というのもあります。その限界を超えてくるようなら、Fusion 360ではなくて、3ds MaxやMayaのようなハイエンド3D CGソフトに移行しないと難しいと思います。でも、一般の人が50万ポリゴン超えるようなデータを扱うことはまずないと思いますので、ちょっと突飛な例ですけれども。人の顔を3Dスキャンするくらいなら大丈夫だと思います。そのクオリティにもよりますが。
【横井】そのレベルであればミドルレンジのPCで、問題ないと思います。
【藤村】全身の3Dスキャンデータで細かくなると結構大変ですが、腕だけとか脚だけとかであれば問題はないと思います。
【司会】ローエンドの方の目安なんですけれども、今回の記事で興味を持った読者の方で、3D CADを使ったことがないという人がゼロから何かものを作るのは難しいだろうということでカブクさんにスマホスタンドのひな形データを作っていただきました。それは無償でダウンロードできるようになっています。それにちょっとしたカスタマイズ、例えば、自分のイニシャルを入れるとか、模様を付けるとか、そのあたりから始めていただこうという企画があります。まずその辺を動かすっていう場合でもミドルクラスのGPUぐらいはあった方が良さそうですか?
【藤村】それくらいであればそれこそ、デスクトップPCで10万円も出せば十分だと思いますね。ミドルレンジというよりはエントリーの上位っていう感じですよね。10万円くらいだと。
【パソコン工房】いや、10万円だともうミドルに入ってますね。今はエントリーだと4万円とか5万円とかです。ただ、先ほど独立したGPUはあった方がいいとおっしゃってましたが、最近、CPUの内蔵グラフィックスも性能的には向上してきてますので、そこでまかなえるかどうかというのが、そのローエンドのハードルを下げるという意味では重要なポイントになるかと思います。
Fusion 360自体はDirectX 11を使用して動作していますが、DirectX 11に対応しないハードウェアでも警告は出ながらも動くというところまでは、確認しています。ですから、最初のうちは本当に簡単なデータを扱って、グラフィックカードを持たない構成でやってみていただいて、どんどん複雑な設計ができるようになったら、ミドルやハイエンドのグラフィックスボードを後から追加するというのもありなのではないでしょうか。我々が扱っているのはBTO PCですので、こうしたカスタマイズも自由にできます。
【藤村】そうですね。アップグレードのしやすさがBTO PCの一番美味しいところですよね。
【パソコン工房】そういったアップグレードパスを用意するという意味で、その辺りも実際に試してみたいと思っています。
【司会】GPU性能が足りないと、要するに動かすとカクカクしちゃうっていうことですよね。
【藤村】あとはそれに伴って負荷が増えて落ちるというのもあります。一番安いグラフィックスボードは今いくらでしょうか? 5,000円とか6,000円とかでありますよね。
【パソコン工房】5,000円を切るものもありますね。ただ、そのレベルだとCPU内蔵グラフィックスの方が性能が高い場合もあります。本当に、CPU内蔵グラフィックスはここ1~2年で急激に性能が上がってきていますので。
負荷について、CPUとGPUの切り分けを行なうために、もう少し詳しく教えてもらえますか。
【藤村】そうですね。私もツールベースで全部知ってるわけではないんですが、3D CADでは、何か形状を作るときにツールを使います。例えば、ここを伸ばすという変形をする場合は、グラフィックが当然変化しますが、この座標を計算する部分があります。箱を伸ばすぐらいでしたら、さっとすぐ伸びると思いますが、そのモデル全体の規模が大きくて、その全てのモデリングの履歴を処理する場合は、処理がかなり重くなります。その時はCPU負荷が80%とかぐらいまで上がる場合もあります。
逆にそのグラフィックスの負荷が高いのは、ポリゴンの頂点数が膨大で、それを描画して動かすという処理です。この場合、GPU性能が低いとカクカクするのがすぐ分かります。私も自分では9万円くらいのグラフィックスボードを使っているんですけれども、20万ポリゴンの人体の3Dスキャンデータを表示して回す時、フレームレートは少し落ちます。ただ、視点を寄せていって、シーンに映るポリゴンの数を減らせば、滑らかに動いてきます。グラフィックス性能が低くても大きなデータを扱いたいのであれば、全体を映さずに、極力小さな単位で編集をするといった工夫をすれば、なんとか作業できると思います。
【パソコン工房】もう1つ伺いたいのは、マルチスレッドへの対応です。コアが多いほうが快適になるのでしょうか。
【藤村】基本的にはそうです。
【パソコン工房】さらに、Hyper-Threadingテクノロジーがどのくらい有効かっていうのも論点になると思います。
【藤村】大体の3D CADが、Hyper-Threadingテクノロジーを有効活用できる状態になっていると思います。
【パソコン工房】具体的なワークフローを教えていただけますか。このくらいのレベルの人であれば、このぐらいのデータを扱うといったような目安はありますか。
【藤村】1つの目安として、データサイズが200MBとか、パーツ数が200となると、ローエンドでは扱えません。ただ、個人的な用途であれば200MBまでのデータになりません。今回のスマホスタンドとかであれば数MBですよね。
【横井】はい、数MBです。
【藤村】でしたら、ローエンドで構いません。ただし、外部データを参照して取り込んでくるのであれば、その3Dスキャンデータのクオリティ次第です。ミドルクラスのPCなら、人の顔の3Dスキャンデータくらいでも大丈夫だと思いますが、ローエンドでは保証できません。当然、全身の3Dスキャンデータになると、ローエンドでは無理です。表示ぐらいはできるかもしれませんが、何か作業をすることが全くできなくなってしまいます。
【パソコン工房】お話を伺っていると、要は取り込み派と、作る派に分かれるのかなと思います。少なくともそこで2つのパスは提供できるかなと。取り込み派の方は結局、初めての方でも大きなデータを取り込むこともあるので切りがないのですけど、その中でこのくらいのものだったら、このぐらいの負荷がどこにかかりましたよっていうのを示せれば有用な情報になるかなと思います。
【藤村】自分でモデリングして作るとなると、やはりCPUもGPUも欲しいですが、取り込んでいじってみたいという場合、どちらかというと僕はGPUを強化した方がいいと思います。内部的な処理をあまりせずに、表示が中心になりますので。ただし、Fusion 360はクラウドのサーバーパワーを3D CADに使うというコンセプトで開発されているので、例えば、CPU性能があまり高くない場合などは、3Dモデルを綺麗なCGにするレンダリング処理をローカルのCPUを使わずにクラウド側で計算させるということができるんです。これが、クラウド系ソフトのいいところですね。
【横井】僕はプロダクトデザイナーなので、レンダリング機能をよく使いますが、やはり演算はクラウドに投げちゃいますね。
【パソコン工房】そうすると、本当にGPUだけいいものにして、CPU性能は全然いらないということになるんでしょうか。
【藤村】僕は何人もトレーニングをしてきましたが、やはり操作に慣れてくると、どんどん作るものも複雑になっていくので、極端にCPUを下げて、GPU一点豪華主義にするよりは、もうちょっとバランスを取った方がいいと思います。例えば予算が10あったら、CPUとGPUで4対6くらいでGPUに多く振り分けたほうがいいのではないかなと思います。
【横井】あとFusion 360のもう1つの特徴として、履歴を持てるというのがありますよね。履歴を持てる3D CADってミドルレンジ以上の3D CADになるんですよ。
例えば腕時計を作っていて「腕が入らないから、ちょっと直径を広げたい」という時に、履歴機能がない3D CADですと、結局また部分的にゼロから作り直すことになりますが、Fusion 360のように履歴を持つ3D CADだと、ここの輪の直径だけを50mmから60mmにしましょうというと、そこだけ大きくすれば、あとはそこに付随したパーツなどをモデリングしたものもすべて適切に処理してくれるんですよね。今までそれをやろうとすると、100万円レベルの3D CADじゃないと、そういう機能はついてなかったのが、個人利用なら無償でその機能を利用できるというのは、大きな利点だと思います。
3Dプリントとの組み合わせでも結構重要な機能だと思います。ラピッドプロトタイピングとよく言われますが、出力側がラピッドなのに、3D CAD側がラピッドじゃなかったら全く意味がないので、そこはすごく助かると思います。
ただ、かなり長い履歴を持ってしまうと形が結構単純であっても、履歴の最初の方を少し修正しただけで結局その履歴に沿ってまた全部計算し直すので、CPU性能が必要になります。
【藤村】その点を考えると、やはりCPUも欲しいですよね。本当はどちらも欲しいんです(笑)。例えばこのペットボトルをモデリングするのに100工程あったとすると、履歴機能では1工程でも10工程でも100工程でも戻ってやり直しができます。例えば、100工程の一番最初に戻ってやり直して処理をかけると、CPU使用率がずっと90%超えるような負荷がかかると思います。モデルの複雑さにもよりますが。1工程なら、一瞬で終わでしょう。
【パソコン工房】QuadroやFireGLみたいな、いわゆるプロ向けグラフィックスカードについて信頼性以外の直接的な性能面での恩恵はありますか?
【藤村】僕自身はあまり感じてないですね。あまり変わらないですよね。僕はもう普通のGPUでいいと思いますね。私が個人ユーザーに対してよく言うのが、すごく快適な環境で作業したければ、ゲーミングPCがお勧めですと。別にQuadroでなくても、これでグリグリ動きます。
【パソコン工房】表示品質に差が出たりしませんか?
【藤村】差異を感じられないと思います。一般の人には。
【パソコン工房】特にこういう3Dプリントとかそういった用途ではほぼ差はないと。
【藤村】ないと思いますよ。大事なのは、リアルタイムのビジュアルのクオリティではなく、形状などのハンドリングですので、大丈夫でしょうね。
ストレージはHDDでも十分、メモリは8GBが基準
【パソコン工房】メモリやストレージについてはどうでしょうか。今はSSDも大分安くなりましたが、SSDを積んだ方がいいのか、それともHDDで十分なのかというところをお聞きしたいです。初級者向けであれば、データサイズは先ほどおっしゃっていた数MBとなりますが、慣れてくるとデータサイズが大きくなってきます。その場合はどうでしょうか。
また、実装しているメモリ容量にもよるかとは思いますが、Fusion 360のプログラム自体はキャッシュとしてストレージへの読み書きを頻繁に行なうのでしょうか?推奨されるメモリ容量などはありますでしょうか。
【藤村】メモリは16GBあれば十分だと思いますが、8GBでも大丈夫でしょう。4GBではムリかなと思います。先ほど、特徴の1つとしてクラウド対応と言いましたが、Fusion 360は、基本的にデータをクラウド上に保存します。
3Dデータは容量が大きいというイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、Fusion 360ならクラウド上に保存ができますし、今のところ容量上限も設けていませんので、あらゆるデータをFusion 360を通してクラウドに保存できます。ストレージについて言えば、ちょっと試してみたいという方でしたら、私はSSDである必要はないと思います。それなら、大容量HDDにした方が便利かなと。外部ファイルを落としてきて、ローカルに保存したいというニーズにも向いてます。
【司会】単純な3Dデータだと、写真とか動画に比べれば圧倒的にデータサイズは小さいと思うんですけれども、例えば、最初は単純なスマホスタンドの修正だけをしていて、後でもっといろいろやりたくなったときに、こういうことをやったらデータサイズが増えやすいというのはありますか? それともFusion 360の場合は、クラウドに保存できるので、ストレージのサイズはあまり気にしなくてもいいのでしょうか。
【藤村】ストレージのサイズはあまり考えなくても大丈夫だと思いますね。少し前のSSDのように128GBというのはあまりお勧めしないですけども、256GBもあれば僕は全然大丈夫だと思います。
【司会】さっき、レンダリングをするっていう話が少し出ましたが、3Dデータの作成や修正が完了したら、最後に必ず、レンダリング工程が必要なのですか?
【藤村】画像としてそのシーンを高解像度で保存したいとなると、レンダリングすることになります。ただし、その結果は、ローカルにもクラウドにも保存できます。
【司会】では、3Dプリント前提でモデリングをしました。それを3Dプリンタで出力するために、Rinkakなどを利用するのであれば、レンダリングはしなくても大丈夫だということですね。
【藤村】そうですね。レンダリングの必要は特にないです。ただ、3Dプリンタで出力する場合は、最後にSTLデータに変換しますが、その時にメッシュプレビューできる機能があります。それはかなり重いですね。
【横井】あれは重いですね。
【司会】ただそれは、頻繁に行なう作業ではなく、モデリングが完成したあとの一番最後の工程になりますので、変換作業の間はちょっと休憩するとかでもいいんじゃないかと思います。横井さんに参考までにお伺いしたいのが、今回、まだ少し先ですが、PCケースコンテストをやりますが、そのデータの規模ってどれくらいになりそうですか?
【横井】公開するフォーマットのデータは、本当にもう数MBです。その上にどれだけの加工をするかということですが、それでも、STL形式にデータを変換した場合、どんなに細かいメッシュにしても、普通に楽しむレベルであれば、10MBから20MBとか、そのレベルでも十分に楽しめるかなあと。
例えば楽しみ方の1つに、3Dスキャンデータを取り込んで、くっつけるみたいなこともやると思うんですね。そうすると、3Dスキャンデータの大元、例えば、顔を3Dスキャンしたものをそのまま頂点数も間引きしないで縮小して付けた場合は、50MBを超えてくるかなと思います。でも、100MBっていうのはまずないと思います。
【司会】PCケースデザインコンテストに応募するためのデータを作ろうと思う人も、今回想定してるローエンドでもいけそうな感じですか?
【横井】はい、そうですね。
【藤村】単純に予算を抑えたいというのも、当然あると思うんですが、正直にお伝えすれば、4万円くらいで安ければ安いほどお得ですというような推奨はしていませんが、ハイエンドの50万円というPCを推奨しているわけではありません。
デスクトップPCで言えば、10~15万円くらい出せば、3年、4年後でも、それからある程度のデータサイズでも快適に動かせます。ですから、一番下限を知るというのはいいことだし、重要だと思います。ただ、通常はもう少しスペックを上げたくらいが快適になります。MacBookでも例えば、MacBook Airだと動くことは動きますが、MacBook Proであれば間違いなく動きます。
【横井】昨年(2015年)のMaker Faire Tokyoで、Rinkakがオートデスクさんと組んで、Fusion 360のユーザーワークショップをやりました。ペットボトルのキャップをカスタムするという内容です。こちらもエントリーユーザーが多いかなと思っていましたが、MacBook AirとかSurfaceとか持ってくるお客さんもいて、このレベルだとギリギリOKというところでした。
マウスも重要だが、感度はほどほどが使いやすい
【パソコン工房】横井さんにちょっと質問なのですが、一連のワークフローの中で、PCにこういう機能があったらいいんじゃないかとか、こういう工夫をして使ってますとか、こだわりの周辺機器とかはありますか?
【横井】ノートPCならやっぱりマウスが必須ですね。学生の頃から同じマウスを使い続けてきています。ペンと一緒で、3D CADに適したマウスというのがあって、そこから先は個人の手にどれだけ馴染むかみたいなところですね。
【藤村】強いて言えば、小さすぎず、ゲーミングマウスほど余計なボタンは付いていないものがいいですね。スクロールボタンが横に動くタイプはあまりよくないと思いますね。上下だけのがいいです。
【パソコン工房】ショートカットボタンなどはいらないということですね。
【藤村】マウスには不要ですね。機能的なショートカットはキーボードでやりますので。
【パソコン工房】ゲームなどでは、左手用のショートカットコントローラーを使う人もいますが、そういったものがあれば生産性が上がるというようなことはないですか?
【藤村】Fusion 360のいいところは、自分のデータがクラウド上にあって、場合によっては他人のPCを使って、作業ができるところにあるので、あまり操作系をカスタマイズしすぎると、別の環境で作業するときに生産性が下がってしまうケースもあるので、僕はデフォルトを推奨しています。
【司会】マウスの感度についてはいかがですか?
【藤村】僕はあまり感度が良すぎるのは好きではないですね。少しゆっくりくらいの方が好みです。
【パソコン工房】今伺ってきたお話からは、特に光学ドライブとかメディアリーダーなどは不要なのかなと思いますが、その辺はいかがですか。
【藤村】そうですね。Fusion 360はそもそもパッケージ版を売ってないので、CDを入れたりとか、USBメモリを差してソフトをインストールする必要はありません。もちろん、Fusion 360以外にも、PCには用途が無限にあるので、その辺は個人にお任せしますけども、今は光学ドライブがなくても事足りますね。
【パソコン工房】あとはディスプレイについてなんですけども、デュアルディスプレイにするメリットはありますか?
【藤村】僕はあまり感じないですね。基本的にツールを1個使うと、1個メニューが出てきて、ツールを変えると別のメニューに切り替わるので、PhotoshopやIllustratorみたいに、メニューをたくさん並べて選んでいくタイプではないんですよね。基本は、1アクションに付き1メニューなので、ディスプレイを拡張する意味があまりないです。
【司会】4K解像度が有効な場面はありますか?
【藤村】特にはないと思います。レンダリング結果を確認する際には4Kの方が良い場合もありますが、ディスプレイの価格も高いですし、プロの世界の話になると思います。一般的にはフルHDで大丈夫でしょう。
【司会】ありがとうございました。ここで出てきた情報を踏まえ、パソコン工房さんの方で、いくつか試作機を作り、検証を行なってもらいます。そして、製品候補のスペックのものを用意し、次回の記事で最終的な検証を行ないます。また、Fusion 360を使って、サンプルスマホスタンドのカスタマイズを行なう手順についても紹介する予定です。