森山和道の「ヒトと機械の境界面」

人の状態を検知する照明や手ブレ防止スプーン、時差ぼけ防止ウェアラブルなど

~介護・医療機器の展示会「HOSPEX 2015」から

自動薬剤管理キャビネットや院内物品管理を出展していたエレクター株式会社のブースで解説するPepper

 医療機器や病院/福祉設備機器に関する展示会「HOSPEX JAPAN 2015」が東京の国際展示場で11月25日~27日の日程で開催中だ。

 今の病院内ではデジタル化が進み、あらゆるシーンでPCやタブレットが用いられているし、そのための各種システムが裏で動いている。医療や介護は特段の配慮が必要な分野であるだけに時代の変化は比較的緩やかではあるものの、ICT化は既存の電子カルテからさらに踏み込んで、どの医療スタッフがどのような医療を施したかといったデータも個別に取得、管理される方向へと進みつつあり、IoTやクラウドの波も及ぼうとしている。蓄積されるデータは各病院内に閉じたものから、いわゆる「地域包括ケア」の枠組みへとも広がるであろうことを視野に入れて、各企業は既に動き始めている。

 ここでは、経済産業省・国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「ロボット介護機器開発・導入促進事業」にて開発されている介護機器のほか、いくつか面白いものがあったのでレポートしておきたい。今はまだ縁遠いが、やがては当たり前のように身近になるだろう技術である。

3次元センサーによる見守り、移乗サポートなど ロボット介護機器開発・導入促進事業

「ロボット介護機器開発・導入促進事業」ブース

 ロボットの応用分野の1つとして、しばしば介護や医療の現場負担軽減が挙げられている。経済産業省と厚生労働省は「ロボット技術の介護利用における重点分野」を公表している。重点分野とは以下の通り。移乗介助(パワーアシストする装着型、抱え上げ動作を補助する非装着型)、高齢者の外出をサポートする移動支援/歩行支援機器、排泄支援、介護施設見守りプラットフォーム、屋内移動用歩行支援機器、主に認知症を対象とした在宅介護見守りプラットフォーム、そして入浴支援である。

 ロボット介護機器開発・導入促進事業では、この重点分野のロボット介護機器の開発、導入の支援を行なうことで「要介護者の自立促進や介護従事者の負担軽減を実現し、ロボット介護機器の新たな市場の創出」を目指している。必要性や可能性は少なからぬ人たちが認めるものの、具体的な市場性が見えないことや、開発上の特別の配慮の必要性などが介護機器開発の壁となっているため、現場ニーズを掬い上げ、使いやすさ向上とコスト低減を促進、そして公的支援を行なう事業として開発が進められている。2015年度は29の事業者が研究開発を行っているが、今回は9つの事業者が展示とデモを行っていた。

 富士機械製造株式会社の移乗サポートロボット「ハグ」はベッドから車椅子へ移乗をサポートするロボット器具。サイズは562×846×980mm(幅×奥行き×高さ)。重さはバッテリ込みで65kg。吊り上げ式リフトと違って、スリングシートが不必要ですぐに使えることと、上半身を前にスライドさせることで重心を足裏にもっていって立ち上がることができる点が特徴。まだ脚力が残っている人が自力を使って移乗することを促す機器だ。

富士機械製造 移乗サポートロボット「ハグ」
椅子からの立ち上がりの場合はバーを前に倒して扱う

 産業用ロボットで知られる株式会社安川電機は、近年、介護ロボットにも意欲的で、「CoCoroe(ココロエ)」というブランド名で展開している。「移乗アシスト装置」は介護ベッドと車椅子の間の移乗を助ける装置で、最初から最後まで介助者が1人で操作できる。外装の一部には株式会社三重木型製作所によるパーソナルケアロボット向けの「YaWaRaKaロボD」という製品が使われており、柔らかい素材で覆われている。

安川電機「移乗アシスト装置」
柔らかい外装で覆われている

 大阪のモーターメーカーであるマッスル株式会社の「ロボヘルパーSASUKE」も移乗介助システムだ。専用のスリングシートにアームを突っ込み、丸ごとベッドから引き上げる。アームは斜め60度まで傾けることができるため、自然な着座姿勢をとらせることができる。直感的な操作と安全性にこだわっているという。デザインプロデュースは著名なプロダクトデザイナーの喜多俊之氏。

マッスル株式会社「ロボヘルパーSASUKE」
直感的操作が可能

 RT.ワークス株式会社の「ロボットアシストウォーカーRT.1」は高齢者の歩行を電動でアシストする歩行アシストカート。上りではパワーアシストし、下りではブレーキをかけて減速してくれる。買い物などに使えるように荷物置きがあり、連続動作時間は約4時間。折りたためば車のトランクに入れたりして運ぶこともできる。

RT.ワークス「ロボットアシストウォーカーRT.1」
折りたたんだ状態

 ナブテスコ株式会社は外出支援アシスト歩行車「ES-03」を出展。ホイールインモーターとセンサー内蔵グリップを使って、平地や上り坂はアシスト、下り坂はブレーキをかける。急加速時には転倒防止ブレーキがかかる仕組みで、使用者の移動をアシストする。流線型のデザインも特徴的だ。使用しないときは折りたためる。使ってみたくなるかっこいい歩行車を目指しているという。

ナブテスコ株式会社「外出支援アシスト歩行車」

 NKワークス株式会社の3次元電子マット式見守りシステム「Neos+Care(ネオスケア)」は、赤外線を使った距離センサを使って3次元形状認識を行なう見守りシステム。危険な動作を検知すると、Wi-Fi経由でスマートフォン、あるいはタブレットに通知が飛ぶ。カメラ画像と違って人のシルエットだけを見て行動を把握するので、プライバシーを気にする人に向いているという。また撮影したデータはクラウド上に蓄積され、事故原因の特定や日常生活動作のチェックができる。危険な予兆動作を検知することもできるという。

NKワークス「Neos+Care(ネオスケア)」
3次元センサ部

 キング通信工業株式会社のシルエット見守りセンサー「WOS-114」も、赤外線センサーを使った見守りシステム。真っ暗な環境であってもシルエットで高齢者の様子が分かる。やはりWi-FI経由でタブレットやスマートフォンに通知を送るシステムで、起き上がりか、はみ出しか、離床かを区別して知らせることができるという。

キング通信工業 シルエット見守りセンサ「WOS-114」
赤外線センサ部

 株式会社ブイ・アール・テクノセンターが企画開発、ミユキエレックス株式会社が製造している見守りシステム「Mi-Ru(ミール)」も赤外線を使った見守りサービスで、Wi-Fiを使った機器連携も同じだが、こちらはカメラも使っている。カメラ画像に対してはモザイクをかけることができる。だがむしろ「画像が見たい」というニーズもあるそうで、数年前に比べると利用者の声も変わってきていると感じているそうだ。携帯端末からの声かけも可能だ。

ミユキエレックスの見守りシステム「Mi-Ru(ミール)」
センサー部

 株式会社CQ-Sネットの「レーダーライト」は、LED照明にCMOS 24GHz電波センサーと無線通信ユニットを内蔵した見守り機器だ。胸の動きから呼吸を計測し、就寝か離床かも判別できる。1台で8畳間程度をカバーできる。カメラや赤外線センサーと違って、照明として使えるので監視されている感覚が薄い点が利点だという。

株式会社CQ-Sネット「レーダーライト」
24GHz電波センサーを内蔵

人感センサー内蔵LED照明や手ブレ防止スプーン、時差ぼけ防止メガネ

 「ロボット介護機器開発・導入促進事業」関連展示はここまでだが、ほかのブースでも似たコンセプトの製品が出展されていた。国内の飲料、たばこ用自動販売機の「商品選択ボタン」でシェア8割を持つという株式会社光波は、人感センサーを内蔵したLED照明を参考出展。24GHzレーダーを用いて、非接触で距離変化や動きを測定することで、呼吸や姿勢を検知、通知やデータ蓄積ができるというシステムだ。

 照明なので新規の電源配線も不要で、ベッド上はもちろん、風呂場やトイレなどの照明をセンサーに変えられるところは面白い。同社は自販機のセンサーを高度化して人のフローを取るなど、新たな取り組みも行なっているという。

株式会社光波 人感センサー内蔵LED照明
人の状態を非接触で検知する

 山梨大学の歩行リハビリテーション用ひざ関節アシスト装置「KAI-R」は、人工膝関節手術を行なった人がリハビリに用いるロボット機器。人工関節手術後には歩行リハビリが必要になる。そのために付けて運動するための機器だ。特徴は、曲げると回転中心がずれる「ロールバック」という人間の膝関節独特の動きに追従するため、「カム式回転すべり膝関節機構」という独自機構を用いているところ。これによって違和感や装着ずれを解消している。

 人工膝関節の手術は片足ずつ行なうため、片足に制御コンピュータ、逆側にリチウムイオンバッテリを内蔵している。総重量は6.1kg。肩から背負っている形で重量は腰で支えている。だが付ければ楽になるといった類の機器とは違うので、結構疲れるという。

山梨大学 歩行リハビリテーション用ひざ関節アシスト装置「KAI-R」
後ろから
片足に制御コンピュータ、片足にバッテリ
山梨大学 膝関節アシスト装置「KAI-R」

 株式会社ブイ・アール・テクノセンター、株式会社クトロモデリングサービスが企画開発、製品化開発を中小企業8社が集まって2010年に設立した「新世代ロボット研究会」が行なっている見守りロボット「アイミーマ」は、指示経路を自動巡回するロボット。天井に貼ったマーカーを頂部のカメラで見て現在地を把握する。大きさは380×1,250mm(幅×高さ)。重さは8kgで、バッテリはリチウムイオンポリマーで、連続駆動時間は8時間。移動速度は時速1.5km。病院内での夜間の徘徊監視を用途としており、今後、さらに小型化する予定だという。

新世代ロボット研究会の見守りロボット「アイミーマ」
病院内の徘徊監視が用途だが、「掃除はしてくれないのか」といった声も非常に多いという
頂部のカメラと天井部に設置する位置マーカー

 株式会社今仙技術研究所は、電動簡易移乗機「i-PAL(アイパル)」を出展。ベッドから車椅子、車椅子からベッドへの移乗を想定した機器で、スリング不要で気軽に使えるという。

 重力による受動歩行を研究する、名古屋工業大学の佐野明人教授と今仙技術研究所が共同で研究開発した、モーターなどを使わない無動力の歩行支援機「ACSIVE(アクシブ)」は、バネと振り子を使って自然な足の振り出しをサポートする機器で、本体重量は片足用で550g。実際に体験したところ、大股で歩くようにすると、振り出しが微妙にサポートされる。これにより歩きが弱った人の歩行リハビリに使えるのだという。もともとの人間の歩行の動き自体を活用する機器だ。

今仙技術研究所「i-PAL」
歩行支援機「ACSIVE」

 消防車で有名な株式会社モリタホールディングスは、弾性生地を使って腰をサポートする「ラクニエ」を出展。こちらも動力を使わないサポート器具で、重さは250g。前屈したときの背中の伸びで発生する張力で、腰の筋肉の負担を軽減する。脊柱起立筋、大腿二頭筋の負担が平均17%軽減されるという。もちろん洗濯もできる。介護以外に農業や整備など腰を曲げる作業者に使われているという。女性用のインナーとして使える「カレナ」もある。

モリタホールディングス 腰サポート「ラクニエ」
女性用の腰サポートインナー「カレナ」

 フランスベッド株式会社は、Googleが買収したことでも話題になった機能性スプーン「リフトウェア」などを出展。加齢や本態性振戦、パーキンソン病、脳梗塞などで起こる、手の震えをセンサーで検知してスタビライザー機能で軽減するもので、日本国内では同社が10月1日から販売している。価格で47,520円。

 本体は振動安定ハンドルとカトラリーアタッチメントの2つのパーツから構成されており、先端のスプーン、あるいはフォークをつけるとスイッチオンになり、下向きに伏せるとスリープする。重さは90g。USBで充電し、充電時間は3時間。一度充電すると数回の食事に使える。

 フランスベッドでは、WHILL株式会社が開発した次世代パーソナルモビリティ「WHILL Model AM」の介護レンタル/一般レンタル/販売も行っている。4輪駆動と前輪の全方位タイヤ、そしてデザインで話題のモビリティだ。

機能性スプーン「リフトウェア」
フランスベッドがレンタル・販売している「WHILL Model AM」
フランスベッド リフトウェア

 株式会社電制はウェアラブル体内時計調節器「ルーチェグラス」を参考出展。瞼の上から1万ルクスの模擬太陽光をあてることで、時差ボケや眠気を取り除くことを狙った機器で、来春発売予定だという。実際に着用してみたが、直接目に当たることはなかった。連続装用時間は30分。飛行機内などでも使えるよう、シェードも付属しているが、シェードをつけると視野そのものも制限されるため、できることは読書などに限られてしまいそうだ。

株式会社電制 ウェアラブル体内時計調節器「ルーチェグラス」
外に光が漏れないようにシェードをつけた状態

(森山 和道)