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20nmプロセスへと微細化しLPDDR4への移行が進むモバイルDRAM

急ピッチな進化が続くモバイルDRAM

 今年(2015年)のスマートフォンのメモリはどうなって行くのか。スマートフォンの搭載DRAM技術は、さらに高速なLPDDR4がハイエンドに浸透するが、主流はLPDDR3に留まる。しかし、スマートフォンの搭載DRAM容量は増加し、昨年(2014年)の平均1.4GBから、今年は1.8GBへと搭載量が24.9%増えるという。エンドユーザーにとっては、2GBクラスのDRAM容量はメインストリームのスマートフォンでは当たり前だが、ハイエンドから3/4GBの浸透が進む。製造プロセス技術は、メーカーによっては、現在の2xnm(25nm前後)プロセスから20nm前後のプロセスへの移行が進展する。

 半導体調査会社のTrendForceの市場調査部門DRAMeXchangeは、今年6月にCOMPUTEXで開催したカンファレンス「Compuforum 2015」で、モバイルDRAMの動向を概観した。TrendForceによると、スマートフォンの出荷台数自体は、年率で11.6%増程度と、2015年の伸びは穏やかだと予想する。しかし、スマートフォン当たりのDRAM搭載容量が、スマートフォン自体の高機能化とともに伸びるため、モバイルDRAMの市場も伸びる。

 同時にモバイルDRAMの高速化も進む。現在主流のLPDDR3から、ハイエンドスマートフォンは倍速のLPDDR4へと高速化する。LPDDR4は、現在のスペックでは最高3.2Gbpsの転送レートで、x64インターフェイスではメモリ帯域は25.6GB/secに達する。これは、PCのDDR3-1600 2チャネル(x128)構成と、ピーク帯域は同等だ。メモリ帯域でのスマートフォンとPCのギャップはどんどん狭まりつつある。モバイルSoCのメモリ帯域が急拡張しているのは、スマートフォンの画面解像度が上がり、より高度なグラフィックス機能が求められているためだ。

モバイルメモリのバス幅
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まだコストプレミアムがあるLPDDR4

 LPDDR4は、規格化を急いだLPDDR3と異なり、より省電力に力を入れたDRAM技術となっている。そのため、帯域当たりの電力ではLPDDR3に対して利点が大きい。ただし、LPDDR4は、まだ出だしは高価格であるため、採用はハイエンドスマートフォンに限られる。量産出荷の予想では、今年は依然としてLPDDR3が主流で、LPDDR2がローエンドからフェイドアウト、LPDDR4がハイエンドに浸透する年となる。

 スマートフォン向けAPのロードマップと対応メモリを見ると、LPDDR4の浸透のロードマップはさらに明瞭となる。下はQualcommとMediatekの2大メーカーのモバイルSoC(System on a Chip)のメモリ対応表だ。LPDDR4はハイエンドに限定され、ローエンドではLPDDR2が姿を消して行く。

 一方、LPDDR4と平行して規格化されたWide I/O 2は、今のところTrendForceのような調査会社の出荷予測量に乗るだけの顧客をつかむことができていない。Wide I/O 2を採用すると、モバイルSoCもWide I/O 2専用になるため、大手SoCベンダーが採用に踏み出してWide I/O 2の量産が一気に進まないと採用が難しいのが現状だ。

DRAMの主役となったモバイルDRAM

 TrendForceは毎年、DRAM市場全体を概観したセッションを行なってきた。それが、今年はモバイルDRAMにフォーカスしたセッションに切り替わった。これは、DRAM市場の主役がPC向けDRAMからモバイル機器向けDRAMへと交代したからだ。TrendForceによると、DRAM全体の売り上げに占めるモバイルDRAMの売り上げは、今年は37%に達する見こみだという。2000年代にはニッチと見られていたモバイルDRAMは、今やDRAM市場のけん引車となっている。

 ちなみに、2014年にモバイルDRAMの比率が下がっているのは、相対的にPC DRAMの価格が堅調だったからだ。全体の潮流では、モバイルDRAMの比率が継続して上がっている。サーバーDRAMも24%を占めるようになっており、PC向けDRAMは、DRAMの過半を占めるDRAM種ではなくなっている。

 そして、モバイルDRAM市場でも、やはり最強はSamsungだ。Samsungは現状では、モバイルDRAMのシェアの50%前後を握っており、SK hynixと、Elpida MemoryのモバイルDRAM資産を受け継いだMicron Groupを凌いでいる。そして、モバイルDRAMは、PC向けDRAMより価格が安定しているため、DRAMベンダーにとっては、より安定した収入源となっている。

DRAMの供給総ビット量の伸びは鈍化したまま

 DRAM全体で見ると、今年のDRAMの市場供給ビット数は年率で約28%伸びるという。かつてDRAMの供給は、年率で50%前後の高率で伸びていたが、ここ数年は20%台になっており、今年もその傾向が続く。昨年のTrendForceの予想では、2015年は32%の伸びとなっていたので現在の予想はそれより低いが、大きくは変わらない。

 これは言い換えると、かつてのPC黄金時代のように、2年毎にシステムの搭載DRAM容量が倍々になる時代は、もう(しばらくは)来ないということだ。現在、モバイルDRAMは、2~3年でメモリ帯域が2倍になっている。しかし、メモリ容量の方は、それほど急ピッチには伸びない。メモリ搭載量の増加の鈍化はPCではもっと顕著だ。

 DRAMの供給総ビット量の伸びが低いのは、DRAMベンダーが、いずれも製造キャパシティの大幅な拡張を行なわないからだ。今年のビット総量の伸びも、製造キャパシティの増加によるものではなく、製造プロセス技術の移行によるダイサイズの縮小/ダイ当たり容量の増大効果によるとTrendForceは説明する。製造施設のキャパシティは一定に保ったまま、微細化によって供給ビット量を増やす。微細化のペースは鈍化しているため、年率の総ビット量の伸びは20%台に留まる。

 ラフに言えば、半導体メーカーは、DRAMを大儲けできるチャンスとは見なさなくなり、製造キャパシティを増やして市場シェアを獲得するといったチャレンジには出なくなっている。つまり、DRAMは半導体メーカーの主戦場ではなくなりつつある。また、システム側のDRAM容量要求自体も供給に見合うレベルでしかない。

20nmプロセスへの移行を進めるDRAM

 DRAMのプロセス微細化では、TrendForceはSamsungのモバイルDRAMを例に取って説明を行った。同社のモバイルDRAMは、2013年に35nmプロセスから25nmプロセスに移行を進めて以来、プロセスの移行が緩やかになっていた。しかし、今年は、25nmプロセスから20nmプロセスへの微細化が急ピッチで進む。

 また、SamsungはLPDDR4の製造立ち上げも本格化して行く。今年後半には20nmプロセスのLDDR4を市場に出すとTrendForceでは予測している。Samsungの製造計画を見ると、LPDDR4世代は20nmプロセスが主軸になって行くことがわかる。20nm前後のプロセスへの移行は、露光技術の進歩とも密接に絡んでおり、最初期には予定していたEUVが量産技術に達しないため、ダブルパターニングを使っている。

 このように、プロセスの微細化と、それによる総ビット量の増加とコスト減を実現しつつあるDRAMだが、20nmプロセスから先は、暗雲が漂っている。キャパシタの容量の減少(またはそれを防ぐためのキャパシタアスペクト比の上昇)やメモリセル間の干渉などの問題が持ち上がるからだ。Samsungは現在、10nmプロセス前後までDRAMを微細化する技術の開発を行っており、「2階層キャパシタ」や「エアーギャップ」などの導入を検討していることを2月のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で明かしている。

 しかし、あるDRAM関係者は、新技術の導入によってDRAMの微細化を継続することは可能だが、量産技術として導入可能かどうかについては、懸念材料が非常に多いと指摘する。いずれにせよ、20nmプロセスから先は、量産レベルではハードルが高いことは確かだ。そのため、現在の年率20%台の総ビット量の伸びも、継続できるかどうかは、まだ分からない。DRAM代替のメモリ技術開発が求められているが、そちらも技術的なハードルがまだ高い。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail