後藤弘茂のWeekly海外ニュース

ホロデッキへと続く多画面技術「ATI Eyefinity」の背景



●UIを変える可能性があるEyefinity

 AMDの新GPU「Radeon HD 5800(Cypress)」に実装されている、多画面表示技術「ATI Eyefinity」テクノロジ。最初に登場する「Radeon HD 5870/5850」では、3出力しかサポートしないが、今年第4四半期に発売される「Radeon HD 5870 Eyefinity6 Edition」では、DisplayPortでの6ポート出力をサポートする。

 1枚のグラフィックスカードで6台のディスプレイ、3カードなら1台のPCで最大24ディスプレイ。多画面が、これまでになく身近なものになりつつある。解像度では2,560×1,600ドットのディスプレイを6台使うことで、最大7,680x3,200ドットの超広解像度の表示が可能になる。

Radeon HD 5870 Eyefinity6 Edition

 AMDは、液晶ディスプレイの単価が安くなって来た今、複数のディスプレイを備える環境が整ったと説明する。ゲームで6ディスプレイや3ディスプレイを使ってワイドに表示するといった使い方から、多ディスプレイで多情報表示することで仕事の効率を上げたり、TVのスポーツ中継を見ながら戦績を参照したりスポーツゲームをプレイする、といったさまざまな使い方が紹介された。

AMDが提案するマルチディスプレイの使い方

 またディスプレイの並べ方も、いろんなユニークなコンフィギュレーションが可能になると説明した。EyefinityのAPIでは、複数のディスプレイにまたがる広解像度表示を行うディスプレイグループを任意に設定することができる。例えば、3台のディスプレイをグループにして1つの大きな画面を表示して、さらに、そこに別画面を表示するディスプレイを組み合わせるといったことができる。AMDはEyefinityのAPIをISVに対して公開しており、サポートするソフトウェアのコミュニティを作りつつある。

さまざまなディスプレイの並べ方

 AMDでEyefinity開発を担当したCarrell Killebrew氏は、Eyefinityによって、単に画面を広くする以上の、新しい体験が得られると述べた。その例として挙げたのは、TVシリーズ「スタートレック」に登場する「ホロデッキ(holodeck)」だ。仮想現実的な世界をサラウンデッドに作り出すような、新しいユーザーインターフェイスにも繋がると言う。

 AMDのカンファレンスでは、多画面での仮想現実的なシミュレータを実現しているMersive Technologies社が登場。米軍などでの活用例を紹介した。

ディスプレイの活用例

●6つのディスプレイコントローラと8つの出力系

 Eyefinityの6ディスプレイ出力を支える技術はいたってシンプルだ。

まず、ディスプレイ表示を司るグラフィックスコントローラが合計で6パイプライン用意されている。RGBA各色10-bitの表示性能を持つ6つのコントローラによって、最大6ディスプレイまでの異なるディスプレイの制御が可能になっている。

 6個のディスプレイパイプラインは、1方向のクロスバスイッチによって8個のアウトプットインターフェイスに接続されている。2個のアナログインターフェイスと6個のディジタルインターフェイスだ。6つのディスプレイパイプラインは、クロスバによって8つのインターフェイスに接続される。内蔵する8インターフェイスのうち、最大6インターフェイスまでの出力が同時に可能になる。

 2個のアナログインターフェイスは、それぞれアナログ変換を行うDACを独立して備えている。6個のディジタルインターフェイスは、それぞれ独立したTMDS/DisplayPortインターフェイスを備えている。実際に、どんなインターフェイスを何個備えるかは、ボードのコンフィギュレーションによって異なる。また、DisplayPortからDVI/HDMIへのパッシブ変換アダプタや、DisplayPortからDual-Link DVI/VGAへのアクティブ変換アダプタを用いることもできる。

Eyefinityのアーキテクチャ

 そのため、6ポートの出力を備えたEvergreenカードなら、さまざまな組み合わせで最大6モニタを駆動することができる。

●Eyefinityで6ディスプレイにできるのはDisplayPortを4出力入れた時だけ

 ただし、Eyefinityには制約もある。6ディスプレイ出力が可能なのはDisplayPortの場合だけだ。正確には、DisplayPortが最低でも4出力含まれていないと、6ディスプレイへの出力ができない。AMDでEyefinityを開発したCarrell Killebrew氏は、次のように説明する。

 「いくつかのアーキテクチャ上の制約がある。我々はチップ上に、独立したタイミングソースを2つだけを内蔵した。6つの独立したタイミングソースを備えているわけではない。3つ目のタイミングソースをオンチップで載せるビジョンもあるが、現状は2つだけだ。

 2つの独立したタイミングソースをビルトインしているということは、2つのモニタを完全に異なるタイミングで駆動できることを意味する。しかし、2つより上はできない。これは、大きな制約のように見えるかもしれないが、DisplayPortの場合には制約ではない。それは、DisplayPortが多くのタイミングソースを必要としないからだ。実際、全てのDisplayPortは、たったひとつのタイミングソースで駆動できる。それぞれのポートが、どんな解像度だろうと関係はない

 なぜ、DisplayPortだけなのか。もっとDVIが接続できないのか、VGAももっと接続できるようにして欲しい、と言われる。その理由の1つが、このタイミングソースの問題だ」

 つまり、チップに内蔵するディスプレイ出力用のクロックソースが2個なので、1出力毎に個別のタイミングソースを必要とするインターフェイスはそれ以上の数を駆動することができない。現状ではDisplayPortだけがそうした制約なしに表示できるという。

 DisplayPortの場合は1つのリファレンスクロックで複数のDisplayPortを駆動できる。シリアルインターフェイスであるDisplayPortでは、データリンクスピードは固定で、クロックは8B/10Bで埋め込まれる。6つのDisplayPortで、それぞれ異なる解像度やリフレッシュレートの表示をする場合も、元となるリファレンスクロックはひとつで済む。

 実際には、Eyefinity GPUでは、チップ外部からのクロックソースを使うこともできる。そのため、最大で3個のタイミング出力が最大となる。

 「3つのタイミングソースを使える理由は、外部クロックソースをチップに入れてタイミングソースとして供給できるからだ」とKillebrew氏は説明する。

 この制約のため、6ポート出力のEyefinityカードに接続できるディスプレイの組み合わせは下の例のようになる。この他にも様々な組み合わせが可能だが、基本は図のようになる。

Eyefinityの接続例
Eyefinityの接続の組み合わせ