後藤弘茂のWeekly海外ニュース

上から下まで急展開するAMDのRadeon HD 5000ファミリ



●ATI Radeon HD 5870では6ポート版も登場

 AMDはCypressをまず2つの製品SKU(Stock Keeping Unit=アイテム)で投入する。“ほぼ”フルフィーチャの「ATI Radeon HD 5870」と、機能削減版の「ATI Radeon HD 5850」だ。ATI Radeon HD 5870が399ドルをターゲット、ATI Radeon HD 5850が299ドルをターゲットとしている。違いは動作クロックやメモリクロック、有効にされているプロセッサ数など。機能の違いは下のチャートの通りだ。

Radeon HD 5800シリーズの比較

 ラフに言って、ATI Radeon HD 5850は、ATI Radeon HD 5870と比べると、25%前後価格が安く、25%前後パフォーマンスが低いバージョンだ。律儀にパフォーマンス差が価格差にそのまま反映されている。両製品とも、Eyefinityでは最大3出力でそれぞれ2,560×1,600ドットまでがサポートされる。

Radeon HD 5800シリーズの概要

 ATI Radeon HD 5870のフィーチャについて、“ほぼフル”と形容したのは、Eyefinityの部分がフルではないからだ。Eyefinityの目玉であるネイティブの6ポート出力は後続の製品でサポートされる。「Radeon HD 5870 Eyefinity6 Edition」で、これは今年の第4四半期中に発売されるという。

Radeon HD 5870 Eyefinity6 Edition

●デュアルGPU版とミッドレンジ版も年内に投入

 さらに、AMDはEvergreenファミリを上から下まで一気に展開する。

 Windows 7と同期して登場するCypressは最初のチップで、299〜399ドルのレンジをカバーする。エンスージアスト向けにはCypressを2個使ったデュアルGPUの「Hemlock(ヘムロック)」が、今年第4四半期中に投入される。

 さらに、100〜200ドルレンジ向けの「Juniper(ジュニパー)」が年内に続く。加えて、来年(2010年)の早い時期にメインストリームとバリュー向けの「Redwood(レッドウッド)」と「Cedar(シーダー)」が投入される予定だ。デスクトップ向けGPUは樹木名シリーズとなっている。ちなみにモバイルではニューヨークのマンハッタン地区のストリート名シリーズとなる。

 これらEvergreenファミリのダイは、基本的なフィーチャはCypressと共通するが、パフォーマンスや機能、コストが異なる。例えば、Eyefinityテクノロジは共通するが、「製品構成の最下層のチップは、6 DisplayPortを駆動はできない。ネイティブで4 DisplayPortまでのサポートだ」とAMDでEyefinityを開発したCarrell Killebrew氏は説明する。

Evergreenファミリの構成

 図を見るとわかる通り、Evergreenファミリは4種類の異なるダイで構成される。つまり、半導体的に見ると4つの異なるダイで製品群が構成される。これは、これまでのAMD/ATIの3階層のダイ構成とは戦略が異なる。

●4種類のダイが開発されているEvergreen

 ATIグラフィックスは過去3世代は、3階層のダイ構成だった。例えば、前世代のRadeon HD 4000(RV7xx)系は、55nmプロセスでは、260平方mmのRV770、146平方mmのRV730、73平方mmのRV710の3種類と、RV770を2個組み合わせたハイエンドの「Radeon HD 4800 X2(R700)」で構成されていた。製品自体の種類はもっと多いが、ダイという観点から見ると3種類しかなかった。

 しかし、今回は4階層となる。理由は明瞭でCypressのダイが大きすぎるからだ。AMDによると、「Cypressはチップだけでコストが100ドル以上するため、ある一定の価格帯以上にしか提供できない」という。

 AMDは、かつてRadeon HD 3800(RV670)からGPU戦略を転換。400平方mm以上あるような巨大ダイのGPUをハイエンド向けに作る代わりに、200平方mm台の中程度のサイズのダイのGPUを開発。ハイエンドのニーズは、中程度のダイを2個組み合わせるデュアルダイ構成で対応することにした。過去2世代、つまりRadeon HD 3000(RV6x0)系とRadeon HD 4000(RV7x0)系はこの戦略で来た。Radeon HD 3800(RV670)は55nmで192平方mm、Radeon HD 4800(RV770)は同じく55nmで260平方mmだった。

 ところが、今回のRadeon HD 5870は40nmで334平方mmと大きい。ダイサイズ的には90nmで342平方mmだった2006年のハイエンドRadeon X1900(R580)と同じレベルに戻ってしまった。それでも、600平方mm近いダイもあるNVIDIAのハイエンドよりは小さいのだが、200平方mm程度のミッドレンジクラスのダイでカバーするという戦略は、やや乱れた。

Evergreenのダイサイズ

●増えるダイサイズが示すAMDのGPUへの注力

 AMDが定めた中程度ダイ路線からはみ出した334平方mmのCypressのダイ。それが意味することは明瞭だ。それは、AMDがEvergreen世代で勝負をかけてきたことだ。Radeon HD 4000系で、AMDはグラフィックス処理のパフォーマンス効率(対電力または対ダイサイズ)でNVIDIAを引き離した。結果としてAMDは市場シェアを伸ばしている。AMDとしては、この好調を維持できる間に、より高性能な製品を継続して投入し、市場シェアを固めようとしていると推測される。

 特に、AMDはCPU製品では次のBulldozer(ブルドーザ)アーキテクチャまで間が開いてしまう。大きなリフレッシュがないため、AMD全体で見ると、今年から来年は、GPU製品で差別化を図る必要がある。

 いずれにせよ、Cypressが300平方mmのダイになった結果、AMDのGPUは再びダイサイズの拡張へと向かい始めた。RV670の192平方mmからRV770の263平方mm、そしてCypressの334平方mmと、約30%前後ずつダイを大型化している。この傾向が継続されると、再び400〜500平方mmに到達することになりそうだ。

 計算上、これは必然だ。なぜなら、プロセス技術は1年で80%台しかシュリンクしない。すると同じトランジスタ数のチップのダイサイズは1年で70%程度にしか小さくならない。逆を言えば、同じダイサイズに1.5倍のトランジスタしか搭載できない。それなのに、GPUのパフォーマンスを1年で2倍にして行こうとすると、計算上、1年に30%づつダイサイズを大きくしないと、必要なだけのトランジスタ増加率に達しない。つまり、GPUが1年毎に1.3倍にダイサイズを拡大するのは、運命づけられているというわけだ。

 AMDは、Radeon HD 2900(R600)からRV670への移行で、ダイサイズを一気に半分にした。そこでトランジスタ増加ペースを一回リセットした。しかし、RV670からは、再び、元のペースで増加を始めているように見える。

トランジスタ数の推移
コストあたりの性能の向上 消費電力/面積あたりの性能の向上

●JuniperはCypressのシングルコア版か

 AMDは、今年6月のComputexでEvergreenのウェハを公開した。その時のウェハ上のチップのサイズは180平方mm台だった。これはサイズからみてJuniperだったと推測される。だとすると、Juniperは334平方mmのCypressの60%程度のダイサイズということになる。だとすると、Juniperのスペックの予測が可能になる。

 Cypressのアーキテクチャを考えると、もっともありそうな可能性は“シングルコア”化だ。“デュアルコア”のCypressから、1コアに相当する半分のSIMDコア群を取り去る。すると、SIMDは10個、スレッドプロセッサは160個、ストリームコアは800個の構成になる。スレッドシーケンサとラスタライザも2個から1個になる。この推測の通りだとすると、CPU的な例えなら、Cypressがデュアルコア相当のチップ、Juniperがシングルコア相当のチップになる。

 プロセッサコア群以外も、ある程度は予測がつけられる。AMDは、6ポートのEyefinityテクノロジをローエンド以外のEvergreenに実装すると説明している。ミッドレンジクラスのJuniperも、当然、Eyefinity6を備えることになる。メモリインターフェイス幅は微妙なラインで、このダイサイズなら256-bitインターフェイスを実装できる。この場合、ボード価格を考えると、128-bit幅で高価だが高速なGDDR5を少数使うか、256-bit幅で低価格だが低速なDDR3を多数使うかという判断になる。いずれにせよ、メモリ帯域が減る分、レンダーバックエンドの数も半減させるだろう。そう考えて行くと、JuniperはRadeon HD 4800(RV770)相当をEvergreenアーキテクチャにしたものと予想がついて来る。

GPUダイサイズの推移

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