井上繁樹の最新通信機器事情

バッファローのパラボラアンテナ風ルーター「WTR-M2133HP」

WTR-M2133HP(価格27,700円)

 バッファローの「WTR-M2133HP」はおそらくバッファロー史上もっとも丸い無線LANルーターだ。バッファローは2000一桁年代に正面から見ると紡錘形の白く丸みを帯びたルーター製品を出していたので、久しぶりにバッファローの白くて丸いルーターを見たと感じる人も多いのではないだろうか。

バッファローの最新ハイエンドルーターは飾り皿? パラボラアンテナ?状デザイン

 バッファローのWTR-M2133HPは、2.4GHz帯、5.2/5.3GHz帯、5.6GHz帯の3つ帯域で同時に通信可能なトライバンド対応の無線LANルーターだ。対応している規格はIEEE.11 a/b/g/n/acで、最大接続速度は5GHz帯使用時で866Mbps、2.4GHz帯使用時で192Mbpsとなっている。

 内部アンテナに加え、指向性アンテナを1本搭載しており、内部アンテナだけでは電波のとおりにくい場所へ向けることで、通信品質の向上が図れる。有線LANポートはすべて1Gbps対応で、WAN(インターネット側)が1つ、LANが3つ。

 電波の混雑状況を監視して、接続機器を空いている帯域に接続し直すよう誘導するバンドステアリング機能を搭載しており、速度低下を自動的に回避できる。

斜め前から。丸いアンテナそのもの。手にとると陶器のお皿のような重量感
指向性アンテナは横方向に135度回転。箱の中蓋に解説図有り。さらに90度まで起こすことができる
背面。SSIDや暗号化キーを印刷した円形のセットアップカードの下にシリアル等印刷されたシール
底面。2本のゴム足、モード切り替えスイッチ、USB 3.0ポート、LAN、INTERNET、電源コネクタ、RESETボタン、電源ボタン
時計の12時から3時に相当する部分にランプとAOSSボタンが配置。
同梱品は縦置き用の足と、LANケーブル、ACアダプタ

 USB 3.0ポートを搭載しており、USBメモリやUSB対応HDDが利用可能だ。対応しているファイルシステムはFAT12/16/32とXFS、認識できるドライブ数は1つ。ストレージ以外でも、USB-DAC、Webカメラ、プリンタ、セルフパワー型のUSBハブなどが利用できる。2.4GHz帯への干渉を防ぐため、設定切り替えでUSB 2.0ポートとして動作させることもできる。

 大きさは直径231mm、本体部分の高さが70mm、収納時の外部アンテナまで含めた高さが約85mm(実測)、外部アンテナを最大に展開した状態の高さが約150mm(実測)。縦置きスタンド装着時は、231×165×約125(実測)(幅×奥行き×高さ)mmで、外部アンテナを最大限伸ばした場合の奥行きが約215mm(実測)。消費電力は最大18.2Wとなっている。本体重量は954g(実測)、スタンド装着時は1,028g(実測)。

スマホ、タブレット時代に適応したWeb UIと状況確認アプリ

 WTR-M2133HPの設定管理はWeb UIで行なう。モバイル機器用に最適化されたWeb UIもあるので、iOSやAndroidを搭載したスマートフォンやタブレット端末からも操作できる。

 また、iOS、Android用にアプリも用意されている。こちらは、インターネットを使う上で不安に感じることも多い「本当につながっているのか」、「不審な機器がつながっていないか」などが手軽に確認できるもので、設定変更のための機能はない。Web UIへ誘導されるボタンのみ搭載されている。

Web UIのログイン画面。モバイル機器向けと共通
Androidスマートフォンで開いたWeb UIトップ。パソコン版と機能は同じだが、画面サイズに合わせた最適化されたデザイン
パソコンで開いたWeb UIトップ画面。状態表示を兼ねた8つの大きなメニューボタンが並ぶ
アプリのログイン画面。画像が多用され、Web UIとは異なる
インターネットにつながっているか、ひと目でわかるトップ画面
接続機器の一覧。機器名やアイコン画像は変更可能
接続機器のアイコンとしてスマートフォン等で撮影した画像をそのまま使える(アプリ内でのみ有効。Web UIには反映されない)

4K動画に対応可能な余裕のある帯域

 速度の測定に使用したソフトは、iperf3.0.11(以降iperf3)とCrystalDiskMark 5.5.0(以降「CDM」に略)。CDMはローカルディスクの速度を測定するアプリだが、サーバー側にRAMDISKの共有フォルダを作成し、ネットワークドライブとして割り当てることで、共有フォルダが出せるだろう最大速度を見ることを目的に使用している。

 測定はサーバー側のPCを常時WTR-M2133HPに接続したままにして行なった。測定を行なったのは電波が比較的混雑していない鉄骨アパートの1室。測定環境は次の表のとおり。クライアント側のiperf3はWindows Subsystem for Linux上で動かしている。

【表1】測定環境
種別スペック、名称
クライアントPCCore i5-7400T@2.4GHz、メモリ16GB、Windows 10
サーバPCCore i5-4250U@2.6GHz、メモリ8GB、Ubuntu 16.04
USB無線LAN子機ELECOM WDC-867U3
11ac 対応AndroidASUS Zenfon2 Z00AD、Android 5.0
11n 対応AndroidSHARP AQUOS sense light SH-M05、Android 7.1.2

 iperf3の測定結果は以下の表のとおり。特別速いというわけではないが、大容量のファイルをLAN内で頻繁にやりとりするのでもないかぎり十分な数字だ。

【表2】LAN内のiperf3測定結果
接続規格速度
1000Base-T933
5GHz帯11ac-867Mbps345
2.4GHz帯11n-173.5Mbps90
5GHz帯11ac-433Mbps(Android)278
2.4GHz帯11n-72Mbps(Android)51

 WTR-M2133HPは、4K動画をターゲットにした機能(QoS)が搭載されているので、無線LANでの4K動画視聴に耐えられるか、測定結果からも簡単に考察しておこう。

 4K動画に必要とされる帯域は、NTTぷらら社の「ひかりTV」が30Mbps、NETFLIX社が25Mbps、Amazon Primeビデオでは最低15~20Mbps必要だとしている。数字だけ見ると十分に余裕があると言える。ただし、電波を使う無線LANは有線LANと違い安定して速度が出るとはかぎらない。速度低下や瞬間的な停止もあるわけで、最大速度や平均速度だけでは判断できない。

 と脅かしたが、多くの人がすでにご存知かとは思うが、実際のところYouTubeの4K動画の再生は数字どおり、問題なくできた。ちなみに。上記テスト環境のWindows 10機は再生中GPUの使用率が常時90%前後で別の意味で不安を感じる羽目になった。

 CDM測定結果は次の表のとおり。

【表3】CDM測定結果
接続規格リードライト
1000Base-T987986
5GHz帯11ac-867Mbps262313
2.4GHz帯11n-173.5Mbps9296
WTR-M2133HPのファイル共有機能を使うには、SMB1.0を有効にする必要がある
11ac-833Mbps使用時のCDM測定結果

 WTR-M2133HPに接続したUSB 3.0メモリを使ったCDM測定結果は以下の表のとおり。リードはPC並の速度が出ている。なお、Windows 10ではFall Creators Update以降、ファイル共有のプロトコルのSMB v1がデフォルトで無効になっているため、そのままではWTR-M2133HPの共有フォルダが見えない。共有フォルダ機能を使う場合は「Windowsの機能の有効化または無効化」で設定を変更する必要がある。

【表4】USBストレージのCDM測定結果
接続規格リードライト
1000Base-T985222
5GHz帯11ac-867Mbps333197
2.4GHz帯11n-173.5Mbps106104

オンラインストレージ、VPN機能も利用可能

 そのほか特徴的な機能として挙げられるのが、4K動画視聴を想定した「アドバンスQoS」、ドラッグ操作でオフ時間を範囲指定できる「キッズタイマー」、接続したUSBストレージを共有フォルダやオンラインストレージとして使える「USBストレージ設定」、さらに、「VPNサーバー」や、リアルタイムで動作が見られる「混雑状況モニター」などだ。

 アドバンスQoSは、Web UIのトップ画面のスイッチをオンにするだけで、利用可能だが、優先度の変更やユーザー設定の追加も可能だ。ユーザー設定はプロトコル、ポート、アドレス等で設定。LAN側のみだがMACアドレスでの指定も可能だ。

アドバンスQoS。4Kビデオ視聴優先の設定がデフォルト
キッズタイマー。ドラッグ操作で時間帯設定ができる
USBストレージ設定。オンラインストレージとして使うこともできる
WebAccessAトップ画面
登録したオンラインストレージ一覧
アクセスするとLAN内同様「disk1_pt1」フォルダが見える。
VPNサーバー機能。対応プロトコルは「L2TP/IPsec」
VPN経由でLAN内のWebサーバーにアクセスしたところ(ステータスバーにVPNを示す鍵状のアイコンが表示され、Wi-Fiのアイコンが表示されていない点に注目)
混雑状況モニター。バンドステアリング機能と一体になっている

 USBストレージをオンラインストレージ化する「Webアクセス」機能は、Webブラウザや、iOS、Android用のアプリから利用できる。アプリ名がそれぞれ「WebAccess I」、「WebAccess A」と末尾1文字が異なる点に注意。ファイルのアップロード、ダウンロード、画像の表示や音楽の再生、テキストファイルの表示、対応アプリがインストールされていればOfficeファイル等の閲覧や編集も可能だ。

 オンラインストレージの利用には、無料で利用できるDNSサービス「BuffaloNas.com」を使うのが簡単だ。登録から利用開始、状態確認までWeb UI内で完結する。固定アドレスサービスやDDNSサービスを使っているのでもないかぎり不定期に切り替わるアドレスを覚えておく必要がなくなり、専用アプリを使えばIDとパスワードの入力も省略できる。

 VPNサーバー機能はセキュリティ上の問題が発覚したPPTPには対応せず、L2TP/IPsecのみ対応している。VPNクライアントは各OSに標準で用意されている。VPNで接続した機器は、ユーザー単位でアドレスを割り当て範囲を設定可能だ。デフォルトではLAN内のアドレスが割り当てられるので、最小限の設定で(速度を除き)社内や自宅にいる感覚でサーバーや共有フォルダにアクセスできる様になる。

 混雑状況モニターはバンドステアリング設定を開いた時から動作をはじめるので、それほど待たされることなく混雑状況を確認できる。設定中に画面遷移せず確認できるのは便利だ。

バランスの良いフル機能モデル

 本体の円盤状の丸さもそうだが、トライバンドに対応し、バンドステアリングで混雑回避するなど、接続品質を追求する一方、最高速度は子機側がようやく追いついてきた866Mbpsに抑えてあるなど、実効速度から見たバランスの良い性能の取り方も、ある意味丸くなったと言えるのかもしれない。

 安全のため、管理画面に同時に複数ユーザーがログインできない制約を回避しつつ、インターネットにちゃんとつながっているか、不審な機器がつながっていないかが確認できる専用アプリはおもしろいし、便利だ。しかもWeb UIと違ってパスワードを保存しておけるので、アプリが起動できれば誰でも簡単に使える点もポイントだ。

 価格は高めだが、バッファローの家庭向けルーター製品の機能全部入りで、速度も十分、UIの完成度も高い。長く使えそうな、バランスの良いフル機能モデル、と言えるのではないだろうか。