井上繁樹の最新通信機器事情

メッシュネットで拡張可能な11acルーター「Google Wifi」

~家の中からでも外からでもスマホでフル管理

Google Wifi

 Google WifiはGoogleが日本で初めて発売する無線LANルーターだ。速度面では無線LANでのインターネット利用に特化したような仕様で目立つところはないが、初期設定が簡単でスマートフォンやタブレットでのローカル及びリモートでのコントロールを実現するなど、使い勝手の面で優れている。

 複数台使って電波の到達範囲を広げるメッシュネットワーク機能を搭載しており、電波が届きにくいという悩みにも対応可能だ。

メッシュネットワーク、Bluetooth Smart対応以外は平凡なスペック

 Google Wifiは2.4GHz帯と5GHz帯に対応した無線LANルーターだ。対応している無線LANの規格はIEEE 802.11a/b/g/n/acで、「AC1200」という表記を見る限り、最大接続速度は2.4GHz帯が300Mbps、5GHzが866.7Mbpsということのようだ。さらに、Bluetooth Smartにも対応する。

 アンテナは2×2の2ストリーム対応で、送信ビームフォーミングに対応する。有線LANは1Gbps対応で、WAN/LAN兼用×1、LAN×1の計2ポートだ。価格は1台モデルが16,200円で、3台セットが42,120円。

天面。底面と比べるとやや小さくなっており、中央にロゴ
底面側。WAN/LAN兼用ポート、LANポート、電源アダプタ用のUSB Type-Cポート。背面側にはリセットボタン
付属品はLANケーブルと電源アダプタ。3台セットでは電源アダプタは3つに増える

 複数台組み合わせることで、電波の到達範囲を広げる、メッシュネットワーク機能を搭載しており、メッシュネットワーク機能を使わない1台構成では最大85平方m、2台構成では最大170平方m、3台構成では最大平方255mをカバーするとしている。

 CPUは、クアッドのコアのARM-CPUで、クロックは各コア最大710MHz、メモリは512MBのRAMと、4GBのeMMCを搭載。本体の大きさは直径が106.1mm、高さが68.7mmで、重量は340g(実測で330g)。15Wの電源アダプタを使用し、消費電力は9W以下となっている。

初期設定はAndoroidまたはiOSで完結

 Google Wifiの管理は、AndroidまたはiOS対応の「Google Wifi」アプリで行なう。アプリのインストールと利用にはGoogleアカウントが必須だが、ほかの多くのルーター製品のように、ルーター自体の管理用のIDとパスワードを別途作成する必要はない。Android上だと、インストールから利用開始まで、GoogleアカウントのID、パスワードを入力する場面もなかった。

 また、無線LANのSSIDとパスワードは2.4GHz帯、5GHz帯共通で利用するので、インターネット開通までに手入力が必要な情報は、実質PPPoEのIDとパスワード、Wi-Fi名とパスワードの4つだった。

初期設定。最初に、ログインに使用するGoogleアカウントを設定後、Google Wifiの検出
背面のQRコードの読み込み
ISPの認証情報の入力
設置場所名の設定
Wi-Fi名(SSID)の設定
無線LANのパスワードの設定。入力は以上で終わりで、ネットワークのテスト、設定情報の確認に続く

 ちなみに、WebブラウザでGoogle WifiのIPアドレスを開こうとすると、アプリへのリンクとGoogle Wifiの動作状態を示すページが開くだけで、操作などはできない。

アプリ起動で即開く管理画面、リモートで状態確認や再起動も

 「Google Wifi」アプリは起動のさいにID、パスワードの入力が不要で、タイムアウトもないようだ。また、電波強度の確認や速度測定機能が組み込まれているので、速度が出ない時の確認用に、あえてほかのアプリをインストールする必要がない。さらに、ほぼリアルタイムで接続している機器の名称とネットワークの利用状況が確認できる。

 簡単に使えて、気まぐれな電波とインターネットの状況を即確認できて、不審な機器がつながっていないか、あるいはつながっている機器のネットワークが正常に動作しているか、リアルタイムで確認できる。ここ数年でほかのルーター製品でも導入されてきた機能を、スマートフォンのアプリとしてうまくまとめた、という印象だ。

星マークのアイコンをタップすると開くタイムライン
地球アイコンで開くステータス表示
ステータス表示で、「端末」アイコンをタップで接続機器一覧表示
さらに端末名をタップでアドレス表示。固定IP割当やポート転送が設定できる
ネジの入ったアイコンをタップで詳細設定
「ネットワークチェック」で、速度や電波強度を確認できる。結果は右上メニューでSNS等で共有可能
「ネットワークおよび全般」→「Wifiポイント」。再起動や初期化ができる
さらにデバイス名をタップ。動作ランプの明るさ調節やWifiポイントの削除、アドレス、型番の確認等ができる。ランプはオフにもできる
デフォルトではGoogleのDNSを使用

 そのほかに搭載している機能として、特定の機器に一定時間(1/2/4時間の3択)帯域を優先的に割り当てる「優先端末」、インターネットや、あらかじめ設定したLAN内の特定の機器へのみ接続を許可する「ゲストWi-Fi」、Googleセーフサーチを基にしたフィルタリングと、利用時間による接続制限を行なう「ファミリーWi-Fi」、Philips hue lightsのような、ネットワークに接続可能なデバイスをコントロールする「スマートホーム」がある。

 それから、Google謹製のルーターならでは(?)の機能として、Google DNSを使う設定がある。初期設定ではISPが提供するDNSのアドレスを入力する場面もなく、デフォルトでGoogle DNSを使用する。

 DNSの影響で速度が低下することもあるので、速いとされるGoogle DNSを使うことはユーザーにとってもメリットがある。

 と、この項目でここまで紹介して機能も含め、目ざとい人はこの項目で使ったすべてのスクリーンショットに、Wi-Fi接続を示す扇状のアイコンがないことに気付いたかもしれないが、Google Wifiでは初期設定以外リモートでもできる。インターネット経由で出先から自宅のルーターに接続する、となると、何らかの設定が必要になるものだが、そうした作業は不要だ。

 たとえ出先でも、自宅に居る家族にインターネットの調子が悪いと言われたら、速度を確認して、場合によっては再起動をかけたり、夜遅いのに子供がインターネットを使うのをやめないと言われたら、ファミリーWi-Fiの設定を変更したり、場合によっては終わりの呪文ならぬルーターの出荷時設定リセットをかけたり(復帰は帰宅後になる)、といったことが簡単にできる。

速度測定結果とメッシュネットワーク

 LAN内の速度は「iperf3 (Ver. 3.1.3)」で測定した。1Gbpsの有線LANで接続したLinux上でiperf3をサーバーモードで動かし、Google Wifiに無線LANで接続したWindowsとAndroid上で、iperf3をクライアントモードで動かして、アップロードおよびダウンロードの速度を複数回測定して、一番良い結果を使っている。

 Google Wifiを1台だけ設置して、同一室内のクライアントを無線LANで接続した場合の結果は次のグラフの通りだ。

Google Wifiを1台のみ設置し、同一室内の機器をつないでの測定結果

 Windowsは11ac(5GHz帯)の接続速度は867Mbps、11n(2.4GHz帯)は144.5Mbpsで、Androidは11ac(5GHz帯)の接続速度が433Mbpsだった。測定環境の詳細は以下の表のとおりだ。

速度測定に使用した機器一覧
OSハードウェア
サーバーUbuntu 16.04 LTSCore i5-4250U、メモリ8GB、1Gbps有線LAN
クライアント(PC)Windows 10 HomeCore i5-7400T、メモリ16GB、Buffalo WI-U3-866DS(無線LAN子機)
クライアント(スマートフォン)Android 5.5Zenfone 2 ZE551ML

 次にメッシュネットワークの速度測定結果について。測定環境は、次の図にあるとおりコンクリート造のマンション。居間にインターネットに接続したGoogle Wifiを置き(プライマリ)、ファミリールーム、書斎に追加のWifiポイントを設置して、メッシュネットワークを構築した。ちなみに、Wifiポイントは4台まで追加可能だ。

メッシュネットワークをテストした環境。コンクリート造のマンション。「プライマリ」が直接インターネットにつながっている

 構築したメッシュネットワークのGoogle Wifiアプリによる診断結果は下の画像の通り。ポイント間の接続速度は、ファミリールームとが151Mbps、書斎とが210Mbpsだった。

メッシュネットワーク使用時は、ネットワークチェックにメッシュのテスト項目が追加
テストすると、プライマリと追加Wifiポイント間の電波強度をチェック
さらに、「Wi-Fiをテスト」で、ポイント間の速度を測定

 メッシュネットワークの速度の測定は、書斎-居間間で行なった。結果は下のグラフの通りで、メッシュネットワーク使用前と後で、11ac(5GHz)と11n(2.4GHz)のダウンロードは向上したものの、11n(2.4GHz)のアップロードと、Androidについては速度が低下した。

 必ずしもメッシュネットワークに向いた環境ではなかったようだが、追加Wifiポイントに有線LANでつないだ結果は、メッシュネットワーク使用前と比較しても最速だったことから、このような環境でも、有線LAN機器を無線LAN対応にするイーサーネットコンバーターとして活用できそうだ。

メッシュネットワーク使用前後の速度測定結果。「Google Wifi-GbE」はWindows 10 PCを1Gbps有線LANでつないだもの

Googleが作った多分最も簡単なルーター、隠し機能もあり?

 Google Wifiは、入力項目はほぼ最小限、管理用のアプリのログインにGoogleアカウントを使うため、アプリを即開けてしかもタイムアウトがないことで、ストレスフリーで使える、もっとも簡単な部類に入るルーターだろう。

 しかも、インターネット接続とWi-Fi接続の設定だけで、外出先からコントロールできるようになる。これまで使ってきたルーター製品では、それなりに手順が必要だった。

 ただし、リモート操作可能ということで、コントローラであるスマートフォンなりタブレットの管理はしっかりする必要がある。できればバックアップ機も用意しておきたい。

 それと、隠し機能というわけではないと思うが、LAN内の機器の名前解決もやってくれる。つまり、LAN内にあるLinuxサーバーに「ssh 192.168.x.x」ではなく「ssh hoge(マシン名)」で接続できる。

 これも通常それなりの手順が必要なため、サーバーとネットワークを使ってあれこれやりたい人には便利な機能だ。付けたり外したりが多いRaspberry Piなども、アドレスではなく名前で接続できるのは便利である。ちなみにDNSサフィックスは「.lan」だ。

名前解決をやってくれるので、アドレスではなく名前で接続できる

 Google DNSについてだが、本文では速度面のメリットを書いたが、ほかにもISPで起きたDNSサーバーの障害回避に有効だ。

 じつは本記事執筆中の2018年5月2日の20時頃、筆者が利用しているISPのDNSサーバー障害があったものの、Google DNSを使った設定だったため、タイムラインを見るまで気づかなかったということがあった。Google DNSの方が安定しているとも言えないので、もしもの時の選択肢としてだが、他社のルーター製品でも使えるので、覚えておいて損はない。

【お詫びと訂正】初出時、「同じアカウントで、電波的、ネットワーク的に離れた場所のWifiポイントを登録できない」としていましたが、誤りでしたので訂正いたします。サイドバーを開いて(左上「三」状のアイコンタップ)、「Wifiポイントをセットアップ」→「新しいネットワークを作成」の順にタップして設定することで、同じアカウントで、電波的、ネットワーク的に離れた場所のWifiポイントを登録可能です。

 速度についてはインターネットを使う分には十分過ぎる速さで、無線LAN機器中心で利用しているなら不足はない。普段有線LANで使っているPCを無線LANに切り替えて数日使ってみても遅いと感じる場面はなかった。ただし、大容量のファイルをLAN内で移動する場合などは、LAN Hubを設置して有線LANで使う工夫が必要だろう。

 Google Wifiは、有線LANポートが少ない、しかも国外では1年以上前に発売済みといった、不安な面はあるが、設置と撤去を含めた扱いの簡単さ、高い完成度の専用アプリなど、ユニークな魅力がある。家庭内はPCよりもスマートフォンの数のほうが多いといったユーザーにおすすめしたい。