井上繁樹の最新通信機器事情

管理画面がWindows感覚で使える、NASメーカーの高性能無線LANルーター Synology「RT2600ac」

RT2600ac

 Synologyについては、以前Windows感覚で使える管理画面を持つNAS製品を紹介したが、「RT2600ac」はそのUIを受け継ぐIEEE 802.11ac/1,730Mbps対応の無線LANルーターだ。

 アプリの追加インストールが可能で、簡単操作で使えるVPNや、クラウドストレージなどが利用できる。最速レベルの無線、有線LAN部分と、ある意味最強とも言えるUIを持つ製品だ。

スッキリデザインの4本アンテナで壁掛けに対応、USB 3.0、SDカードが使える

 RT2600acは、IEEE 802.11a/b/g/n/acに対応する無線LANルーターだ。Synology社はNASメーカーとして知られているが、RT2600acには堅牢なストレージとしてのNAS機能はない。

 そのかわり、特徴的なブラウザベースの(WindowsやMacの様な)GUIと、VPNサーバー、セキュリティ、同期、バックアップ、ダウンローダー、メディアサーバーなどのアプリケーションを受け継いでいる。

RT2600acを上から見たところ。ロゴの下にランプ類、周囲に排気口
前面左側にSDカードスロット。前面側に低いゴム脚、背面側は高い脚
背面。高い後ろ脚で床面から大きく離れている。左から電源ボタン、WAN、USB 3.0ポート、WAN&LAN兼用、LAN×3
左側面。高い後ろ脚で床面から大きく離れていることが分かる。USB 3.0ポートとEJECTボタン
右側面。WPSボタンとWi-Fi(オンオフ)ボタンがある
底面。壁掛け用の穴とMACアドレスやシリアル、PINコードが印刷されたシールがある
管理画面はブラウザ上に開かれるマルチウィンドウGUI。4K環境でも破綻なく表示

 無線LAN部分の最大接続速度は、2.4GHzが800Mbps、5GHzが1,730Mbps。アンテナは4×4の4ストリーム対応で、MU-MIMOおよびビームフォーミングに対応する。有線LAN部分はWAN×1、WANとLAN兼用×1、LAN×3の計5ポートで、すべてGigabit Ethernet対応。インターネット回線の二重化ができる。

 USB 3.0ポートを左側面と背面に1つずつ搭載しており、USB接続のストレージを使える他、3Gや4GのUSBドングル、USBテザリング対応のスマートフォン等をつないで、WANの回線として使える。さらに、SDメモリーカードスロットを搭載しており、写真の取り込みなどに利用できる。

 Layer 4/7のハードウェアアクセラレーションを行なっており、負荷による速度低下を軽減する。システムの更新は1~2月に1度は行なわれており、家庭用のルーター製品と比べると、更新頻度は高めと言える。

 アンテナを除く本体の大きさは280×77×169mm(幅×奥行き×高さ)で、アンテナを伸ばすと幅が642mm、奥行きが335mm、高さが227mmまで伸びる。重量は700g。アンテナを含めた重量は850g。消費電力は動作時10.8Wで、待機時7.94W。

PC、スマホそれぞれに最適化されたUI、4K環境でも破綻なし

 RT2600acの管理画面UIは、PCなどで使うWebブラウザ対応のものと、スマートフォンやタブレット端末で使うアプリ「DS Router」の2種類ある。Web UIはマルチウィンドウ対応のGUIで、「DS Router」はアイコンを多用したややグラフィカルなUIだ。

ログイン画面。時計表示があるあたり、WebというよりPCのログイン画面の様な印象
ログイン後の画面。ブラウザの中に収まってなければ、Web上と気づかない
音楽再生や写真表示しているとルーターの管理画面とは思えない

 ちょっと面白かったのが、Web UIが4K環境でも見た目が崩れることなく使えてしまうこと。

 最近筆者は32型4Kのディスプレイで、150%表示にして4K環境を満喫しているのだが、対応していないアプリが意外に多い。64bit環境への移行には随分時間がかかったが、4K環境への移行も時間がかかりそうだ。

 ところが、ブラウザ上で動いているこのUIは、4K環境でも破綻することなく動作している。拡大表示の影響で、ソフトフォーカスがかかる低解像度のフォントを見て残念な気分になることがない。

Android版の管理アプリDS router。グラフィカルですっきりした印象
各端末の利用状況がリアルタイムでわかる概要画面
ゲストネットワーク機能のオンオフももちろんスマホからできる

 DS RouterはWeb UIと異なり機能がだいぶ絞られているのだが、そのおかげもあって、アイコンによるトップメニューが直感的でわかりやすい。

 また、リアルタイムでのトラフィック状況を確認するのであれば、Web UIを開くよりもDS Routerの「使用情報」の方が直感的でわかりやすい。

VPN接続はポータルサイトを開いてボタン1押しで完了

 RT2600acの主要機能の1つが、VPN接続機能だ。

 SSTP、OpenVPN、L2TP、PPTPといった標準的なプロトコル以外に、Synology VPNと呼ばれる独自のVPNプロトコルに対応する。VPNの設定は「VPN Plus Server」でまとめて行なえる。

VPN Plusのポータルのログイン画面
ログイン後、SSL VPNでは「接続」ボタンを押す。初回はアプリのインストールが必要
SSL VPNの接続が完了した状態。速度は環境次第だがLANに接続した状態。用事が終われば「接続の解除」ボタン。
Android版VPN Plus。モバイル回線経由で接続したところ。4G回線だが、ローカルIPが割当てられている
SSL VPNの設定画面。クライアントIPにローカルアドレスを割り当てると、外出先でもLANが見える
SSTP、OpenVPN、L2TP、PPTPの設定ができる。ただし、セキュリティの問題でPPTPは利用非推奨

 Synology VPNに対応した機能は2つあり、1つは「SSL VPN」だ。こちらは遠隔地のLANと接続するいわゆる普通のVPNの1種で、もう1つは、LAN内で稼働しているWebベースのサービス(イントラサイトなど)に接続する「WebVPN」だ。

 とくに目玉といえるのがSSL VPNだろう。初期設定完了後は、PCやMacであればポータルサイトで、AndroidやiOS端末であれば専用アプリで「接続」ボタンを押せばVPN接続ができる。直感的でわかりやすい仕様だ。

 ユーザーが把握しておく必要があるのは、ポータルサイトのアドレスと、ユーザーID、パスワードの3つ。プロトコルの種類や暗号化方式については知る必要がなく、管理者が変更しても、ユーザーはいつも通り「接続」ボタンを押して、用事が終わったらサイクリックに切り替わった「接続の解除」ボタンを押すだけでよい。

 ただし、SSL VPNを含め設定を行なう管理者は、VPNに加えて、ポータルサイト、セキュリティ証明書など多少知識が必要になる。ウィザードのような一本道設定ではないので、戸惑うかもしれない。

クラウドストレージでバックアップ先をワンモア?

 あらかじめインストールされている主な機能は、ルーターとしての設定ができる「ネットワークセンター」、ユーザー管理やストレージ設定ができる「コントロールパネル」、追加アプリをインストールできる「パッケージセンター」の3種だ。

パッケージセンター。現在インストール可能なアプリが表示される
Intrusion Prevention。警告やブロックを行ない、ユーザーにメールやSMSで通知
Cloud Station Server。同期やバックアップができる
Ext4でストレージをフォーマット。コントロールパネルでフォーマットできる
Cloud Stationの同期完了画面。タスクトレイから呼び出すことも含め、ほかの多くの同期ストレージに似た仕様で、慣れている人には馴染みやすい
Cloud Station Backup。バックアップフォルダとバックアップしないフォルダを指定

 現在パッケージセンターから追加でインストールできるアプリは、「VPN Plus Server」、セキュリティソフトの「Intrusion Prevention」、クラウドストレージの「Cloud Station Server」、「DNS Server」に加え、ダウンローダの「Download Station」、「メディアサーバー」、「Radius Server」がある。また、後継の「VPN Plus Server」が出たことで非推奨となった「VPN Server」も用意されている。

 追加アプリのうち、Cloud Station ServerはExt4でフォーマットされたストレージが必須だ。それ以外にもIntrusion Prevention、メディアサーバー、Download Stationがストレージ必須となっている。

ネットワークツールのwakeonlan機能。起動するマシンをリストから選択
ログセンター。ログイン、設定変更、再起動などの履歴が残る
お約束(?)のSSH機能。コントロールパネルのサービスの項目で設定する

 ほかにも、エクスプローラライクな「File Station」、pingやtraceroute、wakeonlanが使える「ネットワークツール」、セキュリティ設定を診断する「セキュリティ アドバイザー」、サポートとの窓口アプリ「サポートセンター」、「ログセンター」など、ツール類がメインメニューから呼び出せる。

iperfによる速度測定結果

 iperf (2.0.5)による速度測定結果は以下の表の通り。LANおよびSSL VPNを使ったモバイル環境で測定した。

 今回RT2600acを2台借りることができたので、1台をワイヤレスリピーター(無線LAN子機)として使ったテストも行なった。ただし、その際のPCとの接続は1Gbpsの有線LANで、無線LAN部分の最大接続速度などは確認できなかった。

LAN内のIperf3測定結果
クライアントPCPCPCAndroid
接続規格GbE11acリピーター11ac-867Mbps11ac-433Mbps
速度942Mbps436Mbps408Mbps248Mbps
モバイルVPN経由のIperf3測定結果
クライアントテザリングPCAndroid
接続規格11n-72Mbps4G
速度1.07Mbps2.04Mbps

 テストに使用したのはWindows 10 ProのPCと、Ubuntu 16.04.2 LTS、Android 5.0のスマートフォン(ASUS Zenfon2 Z00AD)。

 Windows 10のBoW上でiperfをクライアントモードで使用し、Ubuntu 16上でiperfをサーバーモードで使用した。Androidでは、アプリのMagic iPerfをクライアントモードで使用した。

 接続規格の「11acリピーター」は、別途用意したRT2600acを1Gbps有線接続の無線LAN子機として使った場合のこと。11ac-867Mbpsでは、PCにUSBの無線LAN子機(NEC WL900U)を接続して使用した。Androidの11ac-433Mbpsは、スマートフォン内蔵のもの。

 モバイルVPNについては、環境によって大きく左右され、安定して速度が得られるとも限らないので、あくまで参考値としてほしい。次の画像の様に、10Mbps以上の速度が出ることもある(iperf3を使っている、同時にSSHも使っていたなどの理由からこちらも参考値)。

参考1。モバイルVPN経由でのiperf3測定結果。12Mbps以上出ている。測定場所は走行中の電車の中
参考2。こちらは駅のホームでの測定結果。いずれも自宅内よりも速度が出ていた

まとめと感想

 本文では省略したが、初期設定はブラウザで指定のURLを開くとポータルに誘導されるスタイル。今や珍しいものではないが、UIの作りがWebサービスやスマートフォン、タブレットそのもので、むしろ今となってはこちらの方が違和感がない。

 速度についてだが、有線も無線も最速レベルなので、一番速いものを買っておきたいならチェックして損はない。ただ、1,730Mbps対応製品が登場してしばらく経つが、子機側が追いついてきていない。

 追加インストールできるアプリの中で一面白かったのがSSL VPN。サーバー側で設定を変更しても、クライアント側は設定変更する必要なくボタンを押すだけ、という仕様がわかりやすく良かった。

 ただし、設定項目が多めの機能については、機能単位で設定項目を一覧できるなどのUIがあると、わかりやすかったかもしれない

 ちなみに、テザリングした状態でSSL VPN接続したPCをリモートデスクトップで操作してみたが、2Mbps程度でもブラウザ上でのメールのチェックやBoWの操作など、一通り可能だった。リモートデスクトップのために、あるいはSSHのために……という具合に、アプリ単位でルーターの設定を変更するより簡単だ。

製作協力:Synology