Hothotレビュー

ラズパイで“Lチカ”もできるIntel N150超小型ボード、「LattePanda IOTA」を試す

LattePanda IOTA

 「LattePanda IOTA」は、CPUにIntel N150を搭載するとともに、リアルタイムI/Oタスク用にRP2040コプロセッサを備え、88×70×19mmという超小型サイズを実現したシングルボードコンピュータ(SBC)だ。価格はメモリ8GB+64GB eMMCモデルが129ドル、メモリ16GB+128GB eMMCモデルが175ドルとなっている。今回は前者のサンプル提供があったので、簡単に紹介していきたい。

 そもそもLattePandaシリーズは、CPUにIntelのx86 CPUを搭載しながら、Raspberry Piに匹敵するサイズを目指したSBCだ。初代の「LattePanda V1」は、CPUにAtom x5-Z8350を引っ提げて2015年に登場。それ以降、Celeron N4100を搭載した「LattePanda Delta」や、Core i5-8210Y/8200Yを搭載した「LattePanda Alpha」も投入している。LattePanda IOTAはその最新版となる。

LattePanda IOTAの仕様

 まずはLattePanda IOTAの仕様を見ていこう。フットプリントは88×70mmとなっており、「Raspberry Pi 4 Model B」の85×56mmと比較してやや大柄だが、手のひらに収まる。このサイズに、CPUにIntel N150、メモリに8GBまたは16GBのLPDDR5x、ストレージに64GBまたは128GBのeMMCを搭載している。なお、今回入手したサンプルはメモリ8GB/eMMC 64GB版である。

 インターフェイスはUSB 3.2 Gen 2 3基、HDMI 2.1、eDP出力、Gigabit Ethernet、microSDカードスロット、M.2 2230スロット、UART/I2C/USB 2.0対応のGPIOヘッダー、3.5mm音声入出力を装備する。電源はUSB Type-CによるUSB PD給電(15V)または10~15VのPH2.0 4ピン電源入力。USBキーボード/マウス、HDMIモニター、それからUSB Type-C電源をつなげれば、PCとして即座に起動できる。

ボード本体表(Wi-Fiモジュール装着済み)
Intel N150が実装されている裏面。メモリはMicronの「MT62F1G64D4ZV-026」を採用している。最大7,500MT/sの高速品だ
側面インターフェイス。電源入力のUSB Type-C、microSDカードスロット、Gigabit Ethernetが並ぶ
逆側にはUSB 3.2 Gen 2が3基、HDMI 2.1が1基

 LattePanda IOTAはコプロセッサとしてRaspberry Piの「RP2040」を搭載しているのも特徴。電子工作をしているユーザーであれば馴染みのあるプロセッサだが、Arduino IDEやMicroPythonによるプログラミングで外部機器を制御したり、センサーの情報を取得したりできる。また、アドオンボードとして、(18650リチウムイオンバッテリ3本による)UPS、PoE、M.2 M-Key拡張、LTEモジュールなどを用意している。

 つまり、「USBカメラやセンサーから取得したデータをIntel N150のCPUやGPUで処理し、それに応じてRP2040でデバイスを制御させる」という辺りが、LattePanda IOTAが本来想定している用途になる。この点はRaspberry Piとできることは共通しているのだが、「より一般的に親しみやすいx86+Windowsの環境で開発してそのまま組み込みできる」のがポイントになるだろう。

 ちなみに以前「LattePanda Mu」というIntel N100搭載モジュールをレビューしたことがあるのだが、LattePanda IOTAはそれとは似ているものの性質が異なる。組み込み向けであるという点ではほぼ共通だが、LattePanda MuはSO-DIMM形状のスロットで別基板と接続し、それを介してUSBなどの外部インターフェイスを利用する必要がある。一方、LattePanda IOTAはそれ自体に豊富なポートを備えており、このボード1枚で駆動可能だ。

LattePanda Mu+Lite Carrier(左)との比較

従来のLattePanda V1との違いは?

 LattePanda IOTAは、LattePanda V1の正当後継にあたり、フットプリントやマウントホールの位置、USB/HDMI/有線LAN/microSDカードスロットの位置といったインターフェイスに互換性を持たせている。

 このため、これらのインターフェイスを使う組み込み用途では、そのまま挿し替えてOSをWindows 10から11にアップグレードしたり、性能向上を図ったりできる。ちなみに、10年ぶりの刷新だけあって、プロセッサの性能が一気に8倍になった。

 一方、液晶パネルに直結するインターフェイスや電源、そしてコプロセッサならびにGPIO回りは、LattePanda V1から大きな変更が加えられている。

 まず、液晶パネル直結のインターフェイスは、従来の4レーンのMIPI-DSIから、2レーンのeDPとなった。このため従来のMIPI接続のディスプレイやタッチパネルは直接利用できなくなった。

液晶パネルに直結するためのインターフェイスは2レーンのeDP。I2Cタッチも備えている

 電源回りでは、プロセッサの変更にともなう消費電力の増加で、従来のMicro USBまたはCN2ヘッダー(いずれも5V)による給電から、USB Type-Cによる給電(15V)またはPH2.0-4ピン(10~15VワイドレンジDC)となった。ちなみに従来はアイドル時で2.5W、フルロード時で6W消費していたが、それぞれ4Wと15Wに増加している。

ちなみにLattePanda IOTAの金属カバーはCPU電源部ヒートシンクの役割を果たしているようだ

 LattePanda V1とIOTAはともに、さまざまな周辺機器を制御するためのコプロセッサを搭載しているのだが、これがATmega32U4からRP2040に変更された。従来はシングルコアの8bit AVRアーキテクチャで16MHz駆動だったが、デュアルコアの32bit Arm Cortex-M0+、133MHz駆動へと大幅に高速化。また、SRAMは2.5KBから264KBに、フラッシュメモリは32KBから8MBに大容量化。プログラミング言語はArduino C++に加え、MicroPythonも利用可能になった。

 ただし、コプロセッサの変更にともない、GPIOのI/Oレベル電圧が従来の5Vから3.3Vに変更されている点は注意してほしい。もし従来の5V駆動のセンサーやモジュールを使う場合、レベルシフターを用いて電圧を合わせる必要がある。

ITEのスーパーI/O「IT8613E」とSamsungのフラッシュメモリ「KLMCG2UCTB」の間にRP2040を実装している
MPSの「MP2964」は電源PWM制御ICだと思われるがデータシートがなく不明。その隣のRealtek ALC269はオーディオデバイスだ
E-KeyのM.2が1基空いているが、こちらはWi-Fi用だ
UPSモジュール接続用のコネクタやRTCバッテリコネクタ、RP2040の有効/無効、および電源接続時に自動的に電源を入れるかどうか切り替えるディップスイッチも

 ネットワーク回りでは、有線LANはEthernetからGigabit Ethernetに、無線LANはオンボードのWi-Fi 4(2.4GHzのみ)からM.2 E-keyのスロットによる拡張(Wi-Fi 5/6/7対応)になった。また、新たにM.2の4G LTEモジュールによるWAN接続もサポートした。

 このほか、以下のような新要素が加わっており、拡張性やカスタマイズ性が大きく向上している。

  • PCIe 3.0 x1インターフェイス(16ピンのFPCケーブル)
  • 電源管理インターフェイス(MX1.25-10ピン)
  • RTCバッテリホルダー(CR2032)
  • 電源接続時の挙動変更およびコプロセッサの有効/無効化のためのディップスイッチ

 実際、サンプルとともに51WのPoEに対応する拡張ボード「51W PoE Expansion Board(DFR1248)」、18650リチウムイオンバッテリによる電源喪失時のバックアップ電源モジュール「18650 UPS Expansion Board(DFR1247)」、PCIe 3.0 x1対応のM.2 SSD用拡張ボード「M.2 M-Key Expansion Board(DFR1250)」なども一緒に送られてきた。

今回送られてきたサンプルをすべて展開したところ
51W PoE Expansion Board(DFR1248)
51W PoE Expansion Board(DFR1248)は支柱なども付属し、ボード上に載せられる
51W PoE Expansion Board(DFR1248)を載せたところ
18650 UPS Expansion Board(DFR1247)
18650 UPS Expansion Board(DFR1247)を接続したところ
M.2 M-Key Expansion Board(DFR1250)
M.2 4G LTE Expansion Board
M.2 M-Key Expansion Board(DFR1250)およびM.2 4G LTE Expansion Board(DFR1249)を載せたところ

RP2040を使ってみる

 せっかくなのでRP2040を使った制御を試してみた。LattePanda IOTAはすでに公式でドキュメントを用意しており、この手順に従うだけで始められる。今回はArduino IDEを使ってLチカ(LEDをチカチカ点滅させること)するサンプルコードを試してみた。

  1. Arduino IDEをダウンロードする
  2. 基本設定で「追加ボードマネージャのURL」に指定のURLを入れる
  3. ボードマネージャで「Raspberry Pi Pico/RP2040/RP2350 by Earle F. Philhower」をインストール
  4. サンプルのLチカのスケッチ(ソースコード)を読み込む
  5. ボードとして「UF2 Board」を選択
  6. LattePanda IOTA上のスイッチ「BOOT」と「MCURST」を同時押しし、MCURSTを離してからBOOTを離すと、Windows上からブート領域が外部ストレージとして認識される
  7. Arduino IDEで転送ボタンを押すと自動的にソースをコンパイルしてアップロード、実行
Arduino IDE上で追加ボードマネージャのURLにドキュメント指定のものを入れる
ボードマネージャーでRaspberry Pi Pico/RP2040/RP2350 by Earle F. Philhowerをインストール
ボードとしてUF2 Boardを選択
「BOOT」と「MCURST」を同時押ししてから、MCURSTを先に離して、BOOTを離す
スケッチの転送を行なう
完了するとこのようなメッセージ
ボード上のLED(ブルー)がチカチカするようになった

 筆者は普段Arduinoのスケッチを利用したプログラミングをまったくと言っていいほどしないので、もうちょっといろんなところでつまずくのかな……と思ったが、実際はArduino IDEのインストール含めても20分足らずでLチカにたどり着けた。

 今の時代は筆者のような素人でも、AIによるバイブコーディングでいくらでも必要に応じてスケッチが生成できるので、このあといろいろ試行錯誤してみようと思う。

性能ベンチマーク

 最後に簡単に性能を計測していきたい。もっとも、LattePanda IOTAは一般的なPCとしての利用は考えられておらず、PCとしての利用の快適性の云々はここでは述べない。ただ、Windows 11が動作する最低のラインは超えているので、LattePanda IOTA上でそのまま開発を行なって、機器に組み込むというのは現実的なのがお分かりいただけるかと思う。

PCMark 10
Cinebench R23
3DMark
搭載eMMCのCrystalDiskMarkの結果
別途SSD(WD SN740)の結果。PCIe 3.0 x1に限定されるため、SSDのフル性能が発揮できない。搭載しても安価なSSDで十分だろう

 一応一言付け加えると、確かに本機ではWindows 11は動作するし、IoT向けのライセンスバンドル販売もあるが、フルのWindows 11の動作は、メモリ8GBはさておき64GBのeMMCではかなりギリギリだ。インストールするコンポーネントを厳選するなり、SSDで容量拡張するなり、128GB版を選ぶなりしたほうが無難だろう。

LattePanda IOTAで初めての電子工作にチャレンジしたい

 このようにLattePanda IOTAは、x86とWindowsで開発できるのがウリのSBCだ。正直なところ今の時代は昔ほどLinux環境のハードルが高くない気がするが、すでにWindowsをベースに開発したソフトやライブラリの上で開発を進めるのなら、本機は強力な選択肢だ。また、使い慣れたWindowsデスクトップ環境で少し高度な電子工作をしてみたいというユーザーにとっても魅力的に映ることだろう。