Hothotレビュー
富士通 「ARROWS Tab QH55/M」
~超高解像度液晶とBay Trail-T搭載で高い完成度の10.1型Windowsタブレット
(2013/12/9 06:00)
富士通は、Windows 8.1タブレット新モデル「ARROWS Tab QH55/M」を発売した。防水・防塵対応など、2012年に登場した従来モデルの特徴を受け継ぎつつ、Bay Trail-TことAtom Z3770や超高解像度液晶の採用といった強化により、性能や使い勝手が向上している。価格はオープンプライス、実売価格は94,300円前後だ。
Bay Trail-T採用で性能大幅向上
2012年に登場したWindows 8タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」は、Clover TrailことAtom Z2760を採用する防水防塵対応のWindows 8タブレットとして人気を集めたが、その後継モデルとなるのが、今回取り上げる「ARROWS Tab QH55/M」(以下、QH55/M)だ。防水防塵対応など従来モデル同様の特徴を受け継ぎつつ、さまざまな部分で仕様が強化されており、魅力が大きく向上した。
まず、最大のポイントとなるのが、プロセッサとしてBay Trail-Tこと「Atom Z3770」を採用している点だ。Crover Trailの後継となる最新プロセッサで、省電力性はそのままに、CPUコアが4コアに強化されたほか、演算ユニット数は4ユニットと少ないが第3世代Coreプロセッサとほぼ同等のGPUを統合することで、処理能力、描画能力ともに向上。性能に関しては、後ほどベンチマークテストの結果を紹介するが、実際に使ってみて、従来モデルで感じていたアプリの重さが改善され、Officeなどのビジネス系アプリもほぼ不満を感じないレベルで利用できるようになっていることが分かる。さすがにCoreプロセッサシリーズには敵わないが、従来では起動することすらほぼ不可能だった3Dゲームも、描画設定を落とせばプレイ可能になっているということからも性能向上を実感できる。
本体デザインも一新された。従来モデルは、ブラックを基調に側面にブルーを配色。裏面がフラットで全体的に直線的なデザインだったのに対し、QH55/Mはホワイトが基調となり、裏面はなだらかな曲面となった。全体的に曲線を多用した柔らかい印象へと変化し、イメージが変わっている。サイズは267×180.8×9.9mm(幅×奥行き×高さ)。高さは従来モデルと同じで、1cmを切る薄さを実現しているが、フットプリントは幅が4mm、奥行きが11.4mm大きくなった。奥行きが大きくなっているのは、液晶のアスペクト比が16:9から16:10になっているため。旧モデルと並べると、フットプリントが大きくなっていることがよく分かるが、実際に使ってみて、それほど大きくなったという印象はない。
重量は、公称で約650g、実測では640gと公称より10g軽かった。ただし、従来モデルは公称約574gと600gを切っており、実際に手に持ってみても、QH55/Mの方が重いと感じる。重量が増えているのは、内蔵バッテリ容量が増えたことなどが影響している。それでも、10型クラスのWindows 8タブレットとして重い部類ではない。
2,560×1,600ドットの超高解像度液晶を採用
プロセッサに次ぐ大きな強化点が液晶だ。従来モデルでは、1,366×768ドット表示対応の10.1型液晶を採用していた。それに対しQH55/Mでは、サイズは10.1型と従来同様だが、表示解像度が2,560×1,600ドットへと、大幅に高解像度化された。10.1型タブレットとしては破格の高解像度で、表示される情報量は従来モデルの実に約3.9倍、フルHD比でも約1.98倍に達している。13.3型液晶搭載のUltrabookなどでもフルHD超の液晶を搭載するモデルが増えているが、10型クラスのWindowsタブレットとしては、最も高解像度となる。パネルの種類は、IPSアルファパネルを採用している。
10.1型でここまでの超高解像度表示に対応していることで、表示される映像などの緻密さは群を抜いている。写真は立体的に見え、文字も非常に滑らかに表示され、液晶表示ではなく、まるで印刷物を見ているかのように錯覚してしまうほどだ。
ただし、デスクトップの表示文字サイズを100%に設定した場合には、アイコンの文字などは1mmを下回る小ささとなってしまい、視認性が大きく低下する。さらに、指でのタッチ操作も非常に難しくなってしまう。筆者の個人的な印象では、デスクトップの文字サイズは150%以上に設定しないと、快適な文字の視認性や操作性は確保できないと感じた。
この液晶は、超高解像度表示に対応しているだけでなく、表示品質に優れる点も大きな魅力。高輝度で明るい場所での視認性が低下しないだけでなく、発色性能も非常に優れており、鮮やか、かつ自然な発色が実現されている。従来モデルの液晶と比較しても、発色性能が大きく向上していることがすぐに分かる。視野角も広く、どの角度から見ても発色や明るさの変化が少ない点も嬉しい。気になるのは、表面が光沢処理となっており、外光の映り込みが激しい点ぐらいで、表示解像度の高さと合わせ、液晶の表示品質は競合製品を圧倒していると言っていいだろう。
デジタイザペン搭載で画面が濡れていても快適操作
従来モデルで特徴の1つだった防水・防塵性能もQH55/Mにもしっかり受け継がれており、IPX5/IPX7/IPX8相当の防水性能と、IP5X相当の防塵性能が備わっている。約1.5mの水没に対応するだけでなく、湿度80%の高湿度環境での利用にも対応しており、浴室でも安心して利用可能となっている。
ところで、防水に対応しているタブレットを浴室などで使う場合に問題となるのが、画面に水滴が付いている状態でのタッチ操作だ。静電容量方式のタッチパネルでは、画面についた水滴によってタッチの誤動作が発生してしまうことがある。そのため、せっかく防水に対応していても、浴室などで快適に使えないことがよくある。
それに対しQH55/Mでは、静電容量方式の10点マルチタッチ対応タッチパネルに加えて、電磁誘導方式のデジタイザに標準対応し、1,024段階の筆圧検知対応のワコム製デジタイザペンが標準添付されている。デジタイザペンを利用すれば、画面に水滴が付いている状態でも誤操作の心配がなく、快適な利用が可能となる。付属のデジタイザペンはIPX2相当と、防水ではなく防滴仕様にとどまっているため、浴室などで使う場合には水に浸からないようにするなどの配慮が不可欠ではあるが、水場でのタッチ操作の誤動作を解消するには、なかなかいい手段と言える。
もちろん、デジタイザペンの搭載は、水場でのタッチ操作の改善が主目的ではない。滑らかかつ1,024段階の筆圧検知を利用し、快適かつ緻密で、紙にペンで書いているかのような、快適な手書き入力を実現するためだ。指を利用した手書き入力と違い、高速にペンを動かしてもしっかり追従し、線が途切れることなく軽快な手書き入力が可能だ。
また、デジタイザペンを便利に活用できるように、手書き入力アプリをプリインストールするだけでなく、本体側面のショートカットボタンを長押しすると、表示画面をキャプチャし、手書き入力アプリなどあらかじめ登録されたアプリを起動しキャプチャ画像を編集する、といったことも簡単にできるように配慮されている。表示した地図をキャプチャして待ち合わせ場所などをペンで書き込み、メールで送る、といったことが簡単に行なえ、誰でもデジタイザペンを活用できるよう配慮されている。
標準サイズのUSB 3.0ポートを備える
側面のポート類は、右側面側に集約されている。用意されているポートは、microSDカードスロット、USB 3.0、Micro USB 2.0、電源コネクタで、各ポートは防水カバーで覆われている。USB 3.0は標準ポートとなり、周辺機器を直接接続して利用可能。また、内蔵バッテリの充電は、電源ポートに付属のACアダプタを接続して行なうだけでなく、Micro USB 2.0ポート経由でも可能。一般的なUSB ACアダプタやポータブルバッテリなどを利用した充電が可能だ。左側面にはヘッドフォン/マイク共用ジャックが用意されている。
基本スペックは、先に紹介したようにプロセッサはAtom Z3770を採用。メインメモリはLPDDR3-1066を標準で4GB、内蔵ストレージは64GBのSSDを搭載する。無線機能はIEEE 802.11a/b/g/n対応の無線LANとBluetooth 4.0。本体背面側にNFCと指紋認証センサーを搭載。NFC搭載のスマートフォンから、タッチで簡単に写真を転送するなど、NFC対応機器も便利に活用できる。センサー類としては、GPS、加速度センサ、電子コンパス、照度センサ、ジャイロセンサも内蔵する。カメラは、裏面側のカメラが約800万画素、液晶側のカメラが約200万画素と従来モデル同様だ。
大幅な性能向上を確認
では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。今回利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 7 v1.4.0」、「PCMark Vantage Build 1.2.0」、「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark Professional Edition v1.1.0」、「3DMark06 Build 1.1.0 1901」の5種類。比較として、従来モデルとなるARROWS Tab Wi-Fi QH55/Jの結果も加えてある。
ARROWS Tab QH55/M | ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J | |
---|---|---|
CPU | Atom Z3770(1.46/2.40GHz) | Atom Z2760(1.50/1.80GHz) |
チップセット | ― | ― |
ビデオチップ | Intel HD Graphics | Intel GMA |
メモリ | LPDDR3-1066 4GB | PC2-8500 LPDDR2 SDRAM 2GB |
ストレージ | 64GB SSD | 64GB eMMC |
OS | Windows 8.1 | Windows 8 |
PCMark 7 v1.4.0 | ||
PCMark score | 2518 | 1413 |
Lightweight score | 1430 | 944 |
Productivity score | 1090 | 607 |
Entertainment score | 1670 | 1022 |
Creativity score | 4501 | 2857 |
Computation score | 6141 | 3281 |
System storage score | 3700 | 2947 |
Raw system storage score | 1213 | 735 |
PCMark Vantage Build 1.2.0 | ||
PCMark Suite | 4935 | 2238 |
Memories Suite | 2915 | 1039 |
TV and Movies Suite | N/A | N/A |
Gaming Suite | 2800 | 1864 |
Music Suite | 6379 | 3045 |
Communications Suite | 6166 | 1596 |
Productivity Suite | 4174 | 2607 |
HDD Test Suite | 11470 | 6153 |
PCMark05 Build 1.2.0 | ||
PCMark Score | N/A | N/A |
CPU Score | 4687 | 2134 |
Memory Score | 3267 | 2092 |
Graphics Score | 1203 | N/A |
HDD Score | 10360 | 6488 |
3DMark Professional Edition v1.1.0 | ||
Ice Storm | 10451 | 2431 |
Graphics Score | 10000 | 2880 |
Physics Score | 12415 | 1574 |
Ice Storm Extreme | 6227 | N/A |
Graphics Score | 5457 | N/A |
Physics Score | 12303 | N/A |
3DMark06 Build 1.2.0 | ||
3DMark Score | 1712 | 455 |
SM2.0 Score | 574 | 173 |
HDR/SM3.0 Score | 653 | 146 |
CPU Score | 2005 | 964 |
結果を見ると、従来モデルからの大幅なスコア向上が確認できる。総合ベンチマークのPCMark 7やPCMark Vantageの結果は、全ての項目で大幅な向上となっており、中には2倍以上のスコアを記録している項目もある。PCMark 05の結果も同様で、Atom Z3770の性能の向上ぶりがよく分かる。実際に双方を使ってみると、アプリの動作などからも性能差がはっきり体感できる。従来モデルでは、WordやExcelなどのOfficeアプリで、起動に時間がかかるだけでなく、利用時に動作の重さを感じる場面が多いのに対し、QH55/Mでは素早く起動し、動作のもたつきを感じる場面はほとんどなく、ほぼ不満のない快適さで利用できる。そのほかのアプリについても同様の印象で、ベンチマークテストの結果通り、圧倒的に快適になったと感じる。
3D描画能力の結果も、3DMark Professional、3DMark 06とも4倍以上のスコアを記録するなど、従来モデルを圧倒している。さすがに、3Dゲームを快適にプレイできるほどの描画能力はないが、従来モデルでは起動すらほぼ不可能だった3Dゲームが起動できるようになっただけでなく、表示設定を下げれば何とかプレイできるようになったのは、大きな進化と言えるだろう。ちなみに、Flashを利用したWebゲームはほぼ問題のないレベルで動作するようになっており、カジュアルゲームは十分楽しめると考えていい。
次にバッテリ駆動時間だ。QH55/Mの公称のバッテリ駆動時間は15.5時間と、かなり長時間となっている。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約8時間35分だった。従来モデルは、同様の条件で約9時間10分を記録しており、QH55/Mではやや駆動時間が短くなった。
内蔵バッテリ容量は、38Whと、従来モデルの29Whより増えているが、逆に駆動時間が短くなっているのは、やはり液晶が超高解像度表示に対応したために、消費電力が増大したからだろう。それでも、実測で8時間以上の駆動時間なら、1日の外出ならほぼ問題なく利用できるはずで、バッテリ駆動時間に対する不満はほぼないと言えそうだ。
なお、QH55/Mには独自の省電力ツールが搭載され、CPUの動作モードなどを自由に変更できるようになっている。この省電力ツールを活用すれば、バッテリ駆動時間の延長も実現できるはずで、設定によっては10時間を超える駆動も十分に目指せそうだ。
10型Windowsタブレットとしてトップクラスの完成度を誇る
QH55/Mは、Bay Trail-T採用による性能の向上、超高解像度液晶採用による表示性能の向上、優れた防水防塵性能で使い場所を問わない点、デジタイザペン標準対応による快適なペン入力など、さまざまな部分での仕様強化が実現されたことで、ほぼ死角のないWindows 8.1タブレットへと進化した。もちろん、Coreプロセッサ搭載タブレットに性能では劣るが、重量や発熱などの点では圧倒的に有利で、常に持ち歩くタブレットとしてのバランスはQH55/Mの方が圧倒的に優れている。
Windows 8/8.1タブレットは、Bay Trail-Tの登場や、8型液晶搭載モデルが続々登場していることなどにより、一気に注目を集める存在となっている。そういった中でもQH55/Mは、10型クラスの製品として完成度は他を圧倒し、現時点で最も魅力的な製品と言える。価格は9万円台とやや高いが、その価格に見合う魅力は十分に備わっており、広くオススメしたい製品だ。