Hothotレビュー

モバイルCPUで反則級の速さ!Ryzen 7 7745HX搭載マザー「MINISFORUM BD770i」

MINISFORUM BD770i(120mm角ファン別売り)

 「BD770i」は、MINISFORUMブランドを冠したMini-ITXマザーボードの第2弾だ。予告なくいきなり製品として発表された、M.2 SSDを6基搭載できる「AD650i」とは異なり、BD770iは7月に「AMD 7045HX」として予告されたものをベースとしている。製品サンプルが到着したので、見ていきたい。

MINISFORUMが手掛けたMini-ITXマザー

 BD770iは、CPUにRyzen 7 7745HXを搭載したMini-ITXマザーボードだ。2021年辺りから立て続けにミニPC新製品を投入し一躍有名となったMINISFORUMだが、2023年に入ってからこれまでとちょっと毛色が異なる製品を投入し続け市場を拡大しており、BD770iもそのうちの1つだと言えるだろう。

 既にニュースでスペックについては述べているが、BD770iの最大の特徴はCPUにRyzen 7 7745HXを搭載していること。「CPUがオンボードのMini-ITXマザーボード」という括りで言えば、本製品は特別というわけではない。しかし基本的にそうしたマザーボードはエントリー向けCPUを採用し、拡張性も限定的だった。

 一方、本製品はRyzen 7 7745HXという8コア/16スレッド、最大5.1GHzの比較的高性能なものが搭載されているのがポイント。また、PCI Express 5.0 x16スロットや、PCI Express 5.0対応M.2スロット(2280対応)を2基搭載しており、拡張性に富んでいる。つまり、デスクトップCPUが利用できるソケットタイプのMini-ITXマザーボードと、はんだ付けされたモバイルCPUを利用したオンボードタイプを足して2で割ったような仕様なのだ。

 モバイルCPUで課題になる「CPUクーラー」については、ヒートシンクが装着済みとなっている。CPUファンについては自分で用意する必要があるが、一般的な120mm角/25mm厚となっている。逆にここは自分の好みに合わせて選択できるのが良い。また、ビデオカードを使用する際に課題となる電源について、ACアダプタではなく自作で一般的なATX 24ピンと12V補助用8ピンを利用することで解決している。

製品パッケージ
パッケージを開けたところ
付属品など
本体正面

 一方でメモリについては、Ryzen 7 7745HXの設計自体が通常サイズのDIMMを前提としていないので、DDR5 SO-DIMM×2となっている。とは言え、最近は選択肢が少ないながらもDDR5 SO-DIMMも入手しやすくなっているので、大きな問題にはならないだろう。

 M.2スロットには、あらかじめ大型のヒートシンクと、それを冷やす50mm角ファンが搭載されている。もちろん冷えたことに越したことはないのだが、CPUファンを取り付けるとその風の一部が吹き付けられるので、それほど高い発熱がないSSDであれば、静音性を高めるために思い切ってSSDのファンの電源コネクタを抜くのもアリだとは思う。なお、SSDはプッシュピンで留めるタイプとなっている。これ自体は留める力がかなり弱いので、ヒートシンクで補強して固定するイメージだ(よってヒートシンクなしはオススメしない)。

 背面インターフェイスはUSB 3.1 Type-C(映像出力対応)、USB 3.0×2、USB 2.0×2、2.5Gigabit Ethernet、DisplayPort 1.4、HDMI 2.0、音声入出力と比較的あっさりしている。前面パネル用ピンヘッダはUSB 3.0、音声入出力などだ。USB4などがないあたり、「基本的にPCI Expressを使ってくれ」というスタンスが垣間見える。

基板背面にも部品が実装されている
背面でもっとも目立つITE製スーパーI/O「IT8613E」
メモリはSO-DIMMを利用する(最大DDR5-5200)
SSD用のヒートシンクとファン
SSD用ヒートシンクを外したところ。2基のPCI Express 5.0対応M.2(いずれもx4)が見える
M.2スロットの下に見えるチップはRealtekの「RTS5452H」で、USB Type-C PDコントローラだ
PCI Express 5.0 x16スロットを搭載するため、ビデオカードを拡張可能
なお今回はCPUクーラーを取り外していないが、広報提供写真では基板はこのような感じ。いわゆるチップセット非搭載なのであっさりしている。VLIと書かれたコントローラはUSBのハブだ。電源回路は6+1+1フェーズだろうか

 組み立てにあたって、自作に慣れたユーザーからしても、本製品のマニュアルや仕組み自体がやや不親切なのが気になった。マニュアルにはコネクタについての説明が充実しているものの、肝心なファンやI/Oシールドの取り付け方についての記述がない(いずれもユーザーが自身で取り付ける必要があるもの)。

 特にI/Oシールドは、無線LANアンテナ部のボルトとワッシャーを1回外してその間に挟み、付属のネジでHDMIとDisplayPortコネクタの上部に留める必要がありやや手間だ。ドライバ1本では済まないのでなおのこと面倒に思う。いっそ搭載済みにしてほしかった。

I/Oシールド取付時にいったん無線LANアンテナコネクタのボルトとワッシャーを外して再度取り付ける必要がある
Intel Arc A770を載せてみた
載せてみたものの、実際のテストではGeForce RTX 3070 Tiを使用した

Ryzen 7 7745HXはGPUがやや弱い

 本機に搭載されているRyzen 7 7745HXはZen 4世代のCPUコアを採用したモバイルCPUだ。モバイルと言いつつもデスクトップ版をベースとした「Dragon Range」になっており、CPUコアのコンピュートダイとI/Oダイが分離したチップレット構成。前者は5nm、後者は6nmプロセス製造。純粋なモバイル向けで4nmで製造されたモノリシックダイの「Phoneix」(Ryzen 7040シリーズ)とは根本的に異なる。

 そのためGPUは前世代にあたるRDNA 2アーキテクチャをベースとしたもので、CU数もわずか2基とかなり弱い。あくまでも「Windowsデスクトップが映る」、「2Dやビデオ再生なら問題ない」、「古い3Dゲームならプレイできる」程度の性能だ。Ryzen 7 7745HXは基本的にゲーミングノートに使われることを想定していて、ディスクリートGPUでの利用が前提だからだ。

 一方で、L3キャッシュは32MBとなっている。これはPhoneixベース最上位で、同じく8コアある「Ryzen 9 7940HS」の2倍だ。ゲームにおいてキャッシュの容量増加は性能向上にかなり“効く”ため、ビデオカードを載せる前提であれば、Ryzen 7 7745HXのほうが有利なのは言うまでもない。もちろん、本製品はそのためにPCI Express 5.0 x16スロットがある。

【表】Ryzen 7 7745HXとRyzen 9 7940HSの比較
CPURyzen 7 7745HXRyzen 9 7940HS
コア数8
スレッド数16
L1キャッシュ512KB
L2キャッシュ8MB
L3キャッシュ32MB16MB
ベースクロック3.6GHz4GHz
最大ブーストクロック5.1GHz5.2GHz
GPURadeon 610M(RDNA 2、2CU)Radeon 780M(RDNA 3、12CU)
PCI Express5.0 28レーン4.0 20レーン
ネイティブUSBUSB 3.1×4、USB 2.0USB4×2、USB 3.1×2、USB 2.0×4
最大メモリ容量64GB256GB
Ryzen AI×
製造プロセス5nm+6nm4nm

 なお、Ryzen 7 7745HX自体は倍率アンロックでオーバークロック対応なのだが、本製品はオーバークロック非対応となっている。BIOSではそのような設定項目はなく、AMD製オーバークロックツール「Ryzen Master」も起動できない。

 BIOSはグラフィカルなUIになっているのだが、オーバークロックができず設定項目が少ないため、実際お世話になることはほぼないだろう。唯一ファンの速度調節辺りをいじれそうなのだが、今回のサンプルではファン制御が正しく動作していなかった。このあたりはアップデートでの改善に期待したい。

BIOSはグラフィカルなものになった。ただ、設定可能項目でめぼしいものは特になく、あまりお世話になることはないだろう。そして今のところファンの回転数制御がうまく動いていない

 ちなみに、今回の試用にあたって、CPUファンにはADATAの「XPG VENTO PRO 120」という、最大2,200rpmのものを用意し、NoctuaのLow Noise Adaptors「NA-SRC7」を噛まして動作させた(BIOS回転制御が効かないためフルのそのまま)。結果としてCPU温度については88℃未満(室温22℃の環境)で推移した。

 別途ID-COOLING製の「XF-12025-SD-K」で回したところ、負荷時でも91℃程度だったので、そちらでもよかったのだが、このファンはBD770iのヒートシンクの狭いフィンピッチでは静圧不足気味で、風がブレートとフレームの隙間から少し戻ってきていた。バラック状態でこれなので、ケースに組み入れた場合は温度がもっと上がる。組み合わせるなら、先述のXPG VENTO PRO 120や、液晶ポリマー素材を採用したNoctua/Thermaltake製ファンといった静圧重視のものにしたい。

オーバークロック非対応だが驚異の高性能

 最後にベンチマークの結果をお届けしたい。今回はPalitのGeForce RTX 3070 Ti GamingPro OCを載せた状態と、そうでないCPU内蔵GPU(Radeon 610M)の2パターンで計測を行なっている。そのほか、メモリはDDR5-5200 16GB(実際はDDR5-5600対応のApacer AP525600008G3B-001×2)、SSDはPCI Express 3.0対応の512GB(Samsung PM981)、OSはWindows 11 Homeといった環境だ。

【表】テスト環境
CPURyzen 7 7745HX
メモリApacer AP45600008G3B-001×2(DDR5-5200動作)、合計16GB
SSDSamsung PM981 512GB
ビデオカードPalit GeForce RTX 3070 Ti GamingPro OC
電源Cooler Master V850 SFX GOLD - WHITE EDITION
OSWindows 11 Home 22H2
PCMark 10の結果
3DMarkの結果
Cinebnch R23の結果

 結果を見れば分かる通り、「モバイル向けのRyzen 7 7745HXを採用している」ということを完全に忘れてもらっていい。Cinebench R23のMulti Coreのスコアが18,545というのは、以前Hothotレビューで計測したデスクトップ版の「Ryzen 7 7700」以上のスコアだし、PCMark 10のスコアもすこぶる高い。3DMarkの結果でも、GeForce RTX 3070 Tiが持つ性能を十分に引き出せている。

 この高性能を実現した理由は、そもそも本機の最大TDPが100Wに設定されているからだ。Cinebench R23を10分間ほど回してみたが、クロックや消費電力が下がる傾向が一向になく、常に100Wに達していた。回転数が低いファンだと、温度の向上によってクロックや消費電力が下がるのかもしれないが、少なくともXPG VENTO PRO 120ではその様子は見受けられなかった。

最大回転数1,600rpmのXF-12025-SD-Kは静圧不足でCPU温度が91.5℃になった(サーマルスロットリングは起きないが、Thermal Limitに達する)
XPG VENTO PRO 120なら温度を抑えられる

 本製品のヒートシンクは低背タイプで、見た目から判断するにものすごく高性能なタイプではなさそうだ。加えてVRM部の冷却も兼ねているので余計厳しい。ただ、デスクトップ版Ryzenとは異なり、モバイル版Ryzenはヒートスプレッダがないためダイを直接冷やせる。また、一部の熱はI/Oパネル部から直接排気できるのでこれも一般的なマザーボードと比較して有利だ(検証はバラックなのでなんとも言えないが)。もちろん、XPG VENTO PRO 120の優秀さもあるとは思うが、こうした仕組みが多少なかれ冷却に有利に働き、サーマルスロットリングに至らず動作させられると考えられる。

 難しい理屈は抜きにして、本製品はモバイル向けCPUを搭載しているという先入観を捨て、「100Wで動作するほぼデスクトップ版のRyzen 7を搭載している」と考えたほうが良い。基本的にビデオカードを載せることが前提だろうから大丈夫だとは思うが、くれぐれもケース選びは大きさや冷却に余裕を持ったものを選びたい。

 なお、システム全体の消費電力だが、ビデオカード非搭載時はアイドル時が15W、Cinebench R23実行時が120W、3DMarkのSolar Bay実行時が40~45Wで推移。GeForce RTX 3070 Ti搭載時はアイドル時が40W、Cinebench R23実行時が140W、3DMarkのSolar Bay実行時が368~392W前後で推移した。

やや上級者向けの内容だが、一番変態なマザボ

 BD770iの性格を平たく言えば「(ざっくり)デスクトップ版のRyzen 7 7700のヒートスプレッダを剥がして、Mini-ITXマザボにはんだ付けし、100Wで動くようにしました! チップセットはないし、SO-DIMMを使いますけど」的なものである。

 記事執筆時点(12月5日)でのRyzen 7 7700の価格は、特別に安いPC-IDEAを除き、メジャーなPCショップで5万円台前半。Socket AM5対応のMini-ITXマザーボードは、最安のGIGABYTEの「A620I AX [Rev.1.0]」が2万7,500円なので、合わせて7万円台後半といったところ。するとBD770iの6万5,980円は「かなり安い」ということになる。ちなみにDDR5のSO-DIMMと通常のDIMMの価格差はあまりないので、なおさら安く見える。

 ちょっとぶっきらぼうな説明書、未完成のBIOS(フィードバック済みなので修正はなされるであろう)、モバイルCPUを搭載して説明もなくいきなり100WのTDPなど、「ミニPCは作り慣れたMINISFORUMでも、自作PCパーツはまだ作り慣れてない」といった感じが漂う。だがそこがむしろ萌えポイントだと思う古参自作ユーザーは少なくないはず。かくいう筆者もその一人だ。

 注意すべきポイントは既にこの記事で紹介しているので、そこさえ気をつければ大丈夫。この冬休みに手頃なゲーミングPCを1台組もうと思っているなら、BD770iで挑戦してみてはいかがだろうか。

【表】BD770iの仕様
製品名MINISFORUM BD770i
CPURyzen 7 7745HX
メモリDDR5-5200 SO-DIMM
ストレージPCI Express 5.0 x4対応M.2×2
拡張スロットPCI Express 5.0 x16
背面インターフェイスUSB 3.1 Type-C、USB 3.0×2、USB 2.0×2、2.5Gigabit Ethernet、HDMI 2.0、DisplayPort 1.4、音声入出力
内部ピンヘッダUSB 3.0×1、前面オーディオパネル、CPUファンヘッダ、システムファンヘッダ×2
無線Wi-Fi 6E(Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675x)、Bluetooth
フォームファクタMini-ITX