レビュー

Mini-ITXなのにM.2 SSDがモリモリ6枚も挿せる!MINISFORUM製マザー「AD650i」

AD650i

 MINISFORUMは、かねてよりモバイルCPUを搭載したMini-ITXマザーボードを投入すると予告していたが、予告とは異なる形で登場となった。その名は「AD650i」。今回いち早くサンプルを入手したので、写真を中心に紹介していこう。直販価格は5万5,980円だ。

【9時22分追記】直販で販売が開始されましたので価格を追記しました。

 もはやミニPCメーカーの筆頭として挙げられるぐらいの知名度になったMINISFORUM。ミニPCさながらのコンパクト性はもとより、高い品質、静音性、そしてコストパフォーマンスも人気に一役買っている。小型化において多くのノウハウを有する同社が、あえてミニPCより大きいであろうMini-ITXマザーボードを投入するわけだから、期待しないわけがない。

 しかも同社のMini-ITXマザーボードが特徴的なのは「CPUがオンボードでついている」という点。自作PC市場においてMini-ITXマザーは各社から出ているものの、ほとんどはソケットタイプであり、「CPUは好みに合わせてどうぞ」というスタンス。CPU付きでも低性能なのが一般的だ。

 一方でAD650iには、Core i7-12650Hという高性能なCPUが採用されており、マザーボード上に直接はんだ付けされている。このCPUはモバイル(つまりノートPC)向けのSKUで、Pコアが6基、Eコアが4基という10コア/16スレッドのモデル。ベースパワーは45W、最大ターボパワーは115W(本機では95W)で、最大動作周波数は4.7GHzだ。Mini-ITXマザーボードとしては異例の高性能CPU搭載と言える。

 モバイル向けCPUということで、汎用的なCPUクーラーは利用できないわけだが、そこは心配ご無用。AD650iにはあらかじめCPUクーラーが取り付けられており、ユーザーが別途購入しなくても済む。

 しかも、アイドル時はかなりの静音性で、負荷時も多少風切り音がする程度と、同社らしい静音重視のセッティングとなっており、よほどのこだわりがない限り手を加える必要はない。

AD650i製品本体
付属品など。バックパネルはなかなかの高級感だ。ネジは少し多めに入っている
CPUファン含めてそこそこの高さ(実測で基板上部から約48mm)はあるので、薄さ重視のケースだとギリギリの可能性もある。あらかじめ確認しておきたい

 ユーザーに残された「自作」要素は、メモリ、ストレージ、ケース、そして電源(ACアダプタ)ということになる。ケースはMini-ITX対応で拡張スロットもないので、入ればなんでも好みを選べばいいだろう。ACアダプタは19V/9.47A(180W)を利用する(ちなみに筆者が試した限り6.3Aの120W ACアダプタも動作した)。メモリはDDR4 SO-DIMM×2で、最大DDR4-3200をサポートする。

メモリはDDR4 SO-DIMM×2
CPUクーラーはオールブラックで精悍な印象。ヒートパイプも3本使われている。ファンは80mm角

 その中でも一番ユニークなのストレージで、なんとM.2 NVMe SSDを6枚も挿せるのだ。底面にはPCI Express 3.0対応のM.2スロットが3基用意されており、ここに3枚挿せる。そして表でMXMスロットになっている部分に、MXMからM.2×3に変換するカードがあらかじめ実装されているので、こちらにも3枚搭載できる形だ。

 MXMは本来GPU向けのスロットなのだが、モバイルGPUは一般小売されていないため、自作PCにおいて活用できる機会は「ない」と言い切っていいだろう。そこに独自の変換カードを咬ましてM.2 SSDを装着できるようにしたというのは、なかなか思い切ったいいアイデアだと言える。

 変換カードにはASMediaのブリッジチップ「ASM2824」が実装されている。このチップは合計24のPCI Expressレーンを持っており、MXMスロットから8レーンを取得し(アップストリーム)、3つの4レーンに分けている(ダウンストリーム)。

 ちなみにMXMスロット自体はPCI Express 4.0に対応してるはずなのだが、このチップの制限により接続は3.0までの対応となり、また最大帯域もx8相当までになる点に注意したい。

 背面のM.2スロットは全面を覆う大きな金属板を搭載しており、排熱を補助できる。一方MXMカードのM.2側にはかなり大きなヒートシンクがあり、こちらは強力にSSDを冷やせそうだ。変換チップは挟まっているものの、アクセスが集中するSSDはMXMカードに装着したほうが良いだろう。

本体底面のM.2は3基。薄いが大型の金属板で放熱を補助する
本体前面にはMXM→M.2×3変換カードを装備。その上に大型ヒートシンクを備えている
底面のM.2をすべて埋めてみた
MXMカードを外したところ。意外とあっさりしている
MXMカード側のM.2をすべて埋めてみた。ちなみにこのうち1基はネジ止めできないが、ヒートシンク側に突起があり、それで留める形
NVMeのSSDだけでこれだけディスクの管理画面を埋められるのはなかなかの幸せ。ちなみに写真に写っている1基のSSDは死んでいた
MXMスロット自体はCPU直結なのでPCI Express 4.0対応(のはず)だが、変換カードのASM2824が3.0までの対応のため性能は制限されてしまう

 M.2のほかにSATA 6Gbpsポートを2基備えており、2.5インチHDD/SSDも接続できるのもポイント。なお、ACアダプタから電源供給する関係上、当然「ケーブルはどうするの?」となるわけだが、SATA 6Gbpsの隣にある4ピンから付属の電源ケーブルを介して出力する仕組みなので心配は無用だ。

SATAドライブを接続する場合、付属のケーブルを使用する。なお5V駆動のみに限られるので事実上2.5インチ(それも5Vのみ)専用

 背面インターフェイスはUSB4、USB 3.1×2、USB 3.0×2、HDMI出力×2、2.5Gigabit Ethernet(Intel I226-V)。背面にリセットスイッチも搭載しており、別途配線せずともリセット可能なのは便利だ。また、前面ピンヘッダとしてUSB 3.1とUSB 2.0、前面オーディオピンヘッダ(余談だが背面にはアナログ音声出力が一切ないので注意)、そして2つのファン制御ピンヘッダも搭載する。

 ちなみに無線LANは搭載されていないが、M.2スロットおよびバックパネルの無線LANアンテナの穴は残されており、ユーザーが自身で用意すれば増設できる。

背面インターフェイスはUSB4、USB 3.1×2、USB 3.0×2、HDMI×2、DC入力。リセットスイッチがあるのも親切
前面のパネルインターフェイス(電源やパワーLEDなど)、USB 2.0ピンヘッダ、オーディオピンヘッダ(右端)。オーディオコントローラはRealtekの「ALC269」である
CPUのPWM電源コントローラはRichtekの「RT3624BE」。IMVP9.1仕様に準じるシンクロナスバルクコントローラで2系統出力に対応する
RT3624BEの実装例として4(VCORE)+2(VAGX)フェーズが挙げられている。今回CPUクーラーを外さなかったためフェーズ数は確認できないが、タンタルコンデンサの数からして概ねそれに準じていると思われる
前面USB 3.1用のハブコントローラ「VL822
背面USB 3.1用ハブコントローラ「VL822
IntelのThunderbolt 4リタイマーである「JHL9040R」の実装も見え、実質Thunderbolt 4対応だと思われるが、おそらく厳密な互換性テストを省いたためUSB4としているのだろう
このIntelの「SRKTV」の刻印があるのが2.5Gigabit Ethernetコントローラの「I226-V」だ
NovotonのスーパーI/O「NCT5585D」
RealtekのUSB Type-Cチャネルコンフィギュレーション機能付きUSB PDコントローラ「RTS5252H

 最後に搭載されているCore i7-12650Hの性能について簡単に述べると、「遅いということはまったくないが、極端に速いというわけでもない」というあたり。日常的なオフィスソフトの利用や、写真、軽い動画編集程度なら難なくこなせる性能だ。

 そもそもビデオカードを増設できないし、ゲームや3D処理をバリバリこなすような用途は想定していないので、価格的に一般自作ユーザーが受け入れられるようにした設定だと思われる。

Cinebench R23の結果。シングルコアはさすがだが、マルチコアのスコアは1万を切っている
PCMark 10の結果は5,778。ビジネス用PCとしてはまずまずだ
3DMark Time Spyの結果は1,399
3DMark Fire Strikeの結果は4,040
3DMark Night Raidの結果は15,959
3DMark Wild Lifeの結果は10,344

 このように比較的強力なCPUやストレージ周りを備えたAD650i。用途的には、NVMe SSDを複数台活用した、高速なランダムアクセスが求められるNASやストレージサーバーあたりが適当だろう。静音性が高いので、なおさらのことだ。Intel N100マザーボードでは性能に満足できない、あるいはコンパクト筐体にできるだけたくさんのストレージを積みたいといったユーザーにおすすめしたい。

NASやサーバーにいかが?
ちなみにマザーボードとしてのブランドはMINISFORUMは出されておらず、「EYERTEC」となっている
AD650iの主な仕様
CPUCore i7-12650H
メモリDDR4-3200 SO-DIMM(最大64GB)
拡張スロットMXM(MXM→M.2 2280×3変換カード付き)、M.2 2280×3、M.2 2230×1
SATA6Gbps×2
背面インターフェイスUSB4、USB 3.1×2、USB 3.0×2、HDMI×2、2.5Gigabit Ethernet(I226-V)、DC入力、リセットスイッチ
前面パネルインターフェイスUSB 3.1、USB 2.0、オーディオ(ALC269)