Hothotレビュー
折りたたみ有機EL搭載「HP Spectre Foldable 17」は、考え抜かれた驚異の完成度だった
2023年12月21日 06:12
2023年9月14日、HPは同社初となる3in1の折りたたみPC「HP Spectre Foldable 17」を発表し、翌10月にシドニーで開催されたカンファレンスで実機を展示したことは記憶に新しい。最大の特徴はディスプレイに有機ELを採用することで折りたたみ可能なフォルダブルPCして、デスクトップ、ノート、タブレットのモードを兼ね備えた3in1デバイスとなっていることだ。
スペックにオプションはなくCPUは第12世代のCore i7-1250U、メモリ16GB、ストレージ1TBの1モデルのみ。現在はHPの公式オンラインストアで販売開始待ちとなっている。その価格なんと79万8,600円だ。今回、レビュー機材をお借りできたので、早速見ていこう。
デスクトップ、ノート、タブレット、全てを集約したプレミアムな3in1デバイス
HP Spectre Foldableはデスクトップ、ノート、タブレットのモードで使うことができる3in1デバイスだ。通常のノートPCのように折りたたんだ状態のサイズは約277×191×21.4mm、タブレットのように展開すると約277×376×8.5mmとなる。
標準スタイルを12.3型のノートPCとする場合の重量は約1.6kgで、同サイズの製品と比較すると重量級だが、最大で17型のデスクトップやタブレットにも変形するため、一概に重いとも言い切れない。環境負荷の低いPCをつくるHPの取り組みにより、筐体の外装は再生アルミニウム、ベゼルやキーボードは再生プラスチックで構成されている。
付属品はBluetoothキーボード、キーボードチャージケーブル、アクティブペン、交換用ペン先、USB Type-Cスマートハブ、ACアダプタ、ACコードのほか簡易マニュアルなどが付属している。
CPUは第12世代モバイル向けプロセッサとなるCore i7-1250U、グラフィックスはCPUに統合されたIris Xe Graphicsを搭載。システムメモリは基板実装タイプのLPDDR5 8GB×2、ストレージはPCIe Gen 4接続の1TB M.2 SSD、OSはWindows 11 Proがプリインストールされている。
本体のインターフェイスは、左上と右側面にThunderbolt 4×2のみ。付属品のUSB Type-CスマートハブによりUSB 2.0、USB 3.0、HDMI 2.0ポートを1つずつ拡張することができる。そのほか上部正面に顔認証に対応した500万画素のIR Webカメラ、デュアルマイク、左右側面にBang & Olufsenのクアッドスピーカー、無線LANはWi-Fi 6EとBluetooth 5.3に対応している。
ディスプレイは17型の2K OLED(有機EL)で、縦レイアウト時のアスペクト比は4:3で2,560×1,920ドットの解像度となる。パネルは光沢仕様でタッチに対応、SDR時の輝度は400cd/平方m(HDR 500cd/平方m)でデジタルシネマ向けとなる色域DCI-P3を99.5%カバーしている。映像美とサウンド、IMAXスケールの拡張アスペクト比で没入型エンターテインメントを実現するIMAX ENHANCEDの認定を取得している。
本製品は光沢ゆえに、写り込みは避けられない。折りたためるこの製品の特徴も相まって、パネル表面のわずかな歪みにも反射する。特に中心部分で折り曲げて使うノートブックPCモードでは、その部分が強く反射してしまいかなり気になる。
ただ、バックライトのない構造で本当の黒を表現できるのは有機ELならでは。光沢パネルも相まって、画質は極めてクリアで高精彩だ。少し角度をつけたくらいではディスプレイの見え方に変化はなく、上下左右どこから見ても均一性を保っているのはさすがだ。
自然な開閉を実現するフォルダブルPC
下半分のヒンジ部にはマグネットが内蔵されており、ここにBluetoothキーボードを近づけるとピタッと吸着させることができる。またキーボードはワイヤレス充電にも対応。本体にマグネットで吸着させている間は自動的に充電されるため、キーボードのバッテリを気にすることもなく便利だ。
本体の下半分をキーボードで完全に覆い被せるように使うと12.3型のノートブックPCモード、そこからキーボードを下に半分ほどスライドさせると14型の1.5画面モード、キーボードをヒンジから取り外すと17型の2画面モードやタブレットPCモード、本体背面のキックスタンドを使用すればデスクトップPCモードへスタイルを変更することができる。
キーボードを半分ほどスライドさせて使う14型の1.5画面モードでは、少しだけキーボードを浮かせるように持ち上げて、下に移動させると隣のマグネットに無理なく素早く吸着する。さらにキーボードの吸着位置を変更すると画面のアスペクト比と解像度も連動して自動で変更されるのは、さすがに良くできている。
アプリケーションやエクスプローラーを多く表示させていると解像度が切り替わったタイミングで個々の位置は微妙にズレるが、切り替わりのレスポンスは良好で、無意味に待たされることはない。
また1.5画面モードではパームレスト部分が本体の下にはみ出すためやや傾斜するが程よい角度で打ちやすい。後述するキーボード本体の強度も十分にあるため手の付け根で押さえつけても安定性に不満はない。
通常時キックスタンドは本体背面の窪みに収納されているが、スタンドを立てるとカチッと音がして固定される。ただし固定可能な角度は1つしかないため、もうすこし寝かせたい……といった角度調整はできないのが残念だ。
キーボードの厚みは約8mm強、薄さの割に強度があり軽快なタイピングでもたわみが少なく打ちやすい。またマグネットでしっかり吸着しているためタイピング中にヒンジの上でズレるといったこともない。
マウスジェスチャー対応のパッド部分は押し込みも適度なクリック感を持ち、パームレストの中央に位置しているため利き手を選ばないのも好印象だ。なおバックライト機能は搭載していない。
折りたたみ可能なフォルダブルPCとして、キーボードを本体の間に挟んでそのまま折りたたむことができる画期的な仕様になっている。本体中央の左右にはジャバラ形状のラバー部分があり、そこでキーボードの厚みを確保しながら完全にサンドイッチできるようになっている。一般的なノートPCと比較しても開閉時の操作に違和感はなく、無駄のない理にかなった収納スタイルに感動する。
4,096段階の筆圧検知と傾き検知に対応するアクティブペンは、マグネットを内蔵しており、キーボードの側面と本体の下部に吸着させることができる。またアクティブペンもワイヤレス充電に対応しているため、本体下部に取り付けた際はワイヤレスで充電できるのが嬉しい。
アクティブペンの使用感としては一般的なWindows機のペンそのもので、サイズは長さ約150mm、直径8.8mm、重さは約16gとなっている。重心がほぼ中心にあるため、たとえば絵を描くような長時間の作業では、少し手に負担を感じやすい。ちなみに筆者は書き込む際も、79万8,600円に傷がついてしまうのではないか少し心配になってしまい、ペンを強く押し付けることはできなかった。
8.5mm厚に隠された優れた冷却性能
CPUには、第12世代モバイル向けプロセッサのAlder Lake-Uから2つのPコア、8つのEコアから構成され、合計10コア12スレッドとなるCore i7-1250Uを搭載。Pコアの最大周波数は4.7GHz、Eコアの最大周波数は3.5GHzで駆動。CPUに統合されたUHD Graphicsの実行ユニット数は96となり、最大周波数は950MHzで動作する。
システムメモリは基板実装タイプで8GB×2のLPDDR5、ストレージはPCIe Gen 4接続の1TB M.2 SSD、ネットワークモジュールはWi-Fi 6となるIEEE 802.11axに対応、バッテリ容量は25,483mAh(94.29Wh)、OSはWindows 11 Proがプリインストールされている。
CPUのレンダリングでパフォーマンスを測定するCinebench 2024では、マルチコアは242、シングルコアは80、総合的なパフォーマンスを計測するPCMark 10ではスコア4,782となった。たとえば動画の編集など大容量のメモリを必要とする作業には向かないが、Webサイトの閲覧やドキュメントの作成といった一般的なオフィスアプリケーションのほか、LightroomやPhotoshopといった画像処理なら17型のサイズによる恩恵を得ることができる。
GPUのパフォーマンスを測定する3DMark Night Raidは12,635、Wild Lifeは9,523、Fire Strikeは3,746、Time Spyは1,370となった。DirectX 11世代のゲームであればタイトルあるいはグラフィックス設定を調整する必要があるが、レガシーなタイトルやブラウザゲームであればパフォーマンスに余裕がある。
Unreal Engine 4で開発された話題のオンラインアクションRPGBLUE PROTOCOL、同作のベンチマークソフトを使ってFHD解像度における最高画質と低画質の両方のプリセットで計測。最高画質プリセットのスコアは1,035、低画質プリセットのスコアは2,814と改善するがどちらも動作困難という結果になった。
ちなみにベンチマーク中は上部右側の通気口は排熱方向で負荷時はここから暖かい風を感じるが、ファンノイズは控えめでよほど暗騒音が静かでない限り耳を近づけなければ気にならないレベルだ。
この薄い筐体に詰め込まれているパフォーマンスから考えれば冷却性能は極めて高く、また通常のノートPCであれば膝上に乗せた際に筐体から伝わる熱問題もあるが、CPUなどを冷却するユニットが上半分にあり、膝上に当たる筐体底面部分の温度変化はない。熱処理に関して言えば完璧だ。
大型のOLEDを採用しているということで気になるのがバッテリ駆動時間だろう。本機はHWiNFO読みのバッテリ容量は25,483mAh(94.29Wh)という比較的大容量のものを搭載している。Windowsの「電源とバッテリー」項目をOSセットアップ時の電力設定「バランス」のままディスプレイ輝度50%に設定。バッテリライフのテストには、テキスト作成、Web閲覧、ビデオ会議といったタスクとアイドル状態を再現する「PCMark 10 Modern Office Battery Life」を実行した。
結果は12時間45分を経過したところでバッテリ残量が5%を切り、次のセットで実行されるワークロードが途中で終了した。実際のケースではもっと早い段階で充電が必要になるが、一般的なノートPCと比較しても遜色なく公称値に近い計測結果となっている。ディスプレイの大きさを
唯一無二、折りたたみPCの未来を見据えた3in1デバイス
ディスプレイを折りたため、3in1で使えるフォルム、高級感のあるパッケージ、豊富で隙のない付属品、そして第12世代Coreの高性能を詰め込んだ薄い筐体と優れた冷却性/静音性など、HP Spectre Foldable 17はその価格に見合う価値を十二分に備えた製品だと言える。
特に用途に合わせて変形できるディスプレイは、オフィスやクリエイティブ、エンターテインメント用途では大いに威力を発揮でき、これ1台で幅広い使い方をカバーできると感じた。
ただその絶対価格は、“コンシューマ向け”とするにはほど遠く、もはやデスクトップ、ノート、タブレットを1台ずつ購入したほうが安い可能性すらある。しかし、折りたたみPCに多くのアイディアを詰め込んだら、3in1のが完成した、そんな未来を見据えたHPのベンチマーク的な要素もあるのではないだろうか。そんな唯一無二な製品と、同社のフォルダブルPC事業に投資する意味も込めて、購入したいものだ。