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“ミニPC”でGeForce RTX 3080を内蔵!ZOTAC「ZBOX-EN173080C-J-W4C」を試す
2022年7月19日 06:24
ZOTACの「ZBOX」シリーズは、高性能でしかもコンパクトな筐体を採用するデスクトップPCだ。今回紹介する「ZBOX-EN173080C-J-W4C」もそうした系譜を受け継ぐ1台である。
最大の特徴は、ノートPC向けとはいえ外付けGPUとしてはハイエンドに位置するGeForce RTX 3080 Laptopを搭載することだ。また8コア/16スレッドに対応するCore i7-11800HをCPUとして採用するなど、かなり高性能なパーツで固められており、問題なく利用できるのかも気になるところだ。
風通しのよいメッシュ構造の筐体を採用
ZBOX-EN173080C-J-W4Cは、「ZBOX Eシリーズ MAGNUS」というシリーズに属するモデルで、搭載するCPUやGPUなどの違いによって3モデルを用意している。今回検証するZBOX-EN173080C-J-W4Cは最上位モデルで、実売価格も32万2,300円と最も高い。
ミニPCと言うと、最近話題となっているMINISFORUMなどが発売しているモデルを思い浮かべるユーザーも多いかもしれない。そうしたミニPCの多くが10万円以下で購入できることを考えると、ZBOX-EN173080C-J-W4Cはかなり高めではある。
しかし搭載するCPUのグレードが高いこと、そして高性能なGPUを内蔵していることを考慮すれば、その値付けも妥当なところだろう。基本スペックの高さを考えれば、高性能なゲーミングノートPCやゲーミングデスクトップPCのほうがライバルとしてふさわしい。
【表1】ZBOX Eシリーズ MAGNUSの主な仕様 | |||
---|---|---|---|
メーカー | ZOTAC Technology | ||
型番 | ZBOX-EN173080C-J-W4C | ZBOX-EN173070C-J-W4C | ZBOX-EN153060C-J-W4C |
OS | Windows 11 Pro | ||
CPU | Core i7-11800H(8コア/16スレッド) | Core i5-11400H(6コア/12スレッド) | |
搭載メモリ(空きスロット、最大) | 16GB(1基、64GB) | ||
ストレージ(インターフェイス) | 512GB(M.2) | ||
拡張ベイ | 2.5インチシャドウ、M.2 | ||
通信機能 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5 | ||
主なインターフェイス | Gigabit Ethernet、2.5Gigabit Ethernet、DisplayPort×2、HDMI×2、Thunderbolt 4、USB 3.0×5 | ||
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 203×210×62.2mm | ||
重量 | 1.71kg | ||
直販価格 | 32万2,300円 | 24万6,400円 | 22万2,200円 |
ZBOX-EN173080C-J-W4Cは、横起きで利用する。サイズは203×210×62.2mm(幅×奥行き×高さ)で、最近増えてきた横起きのブロードバンドルーターに近いサイズ感だ。手のひらサイズとまではいかないが、十分にコンパクトなので置き場所を選ばない。
風通しのよいメッシュ構造の天板を通して、基板に固定された大きな冷却ファンとヒートシンクが見える。動作時はメッシュ構造の天板から外気を取り込み、側面から熱気を排気するエアフローとなっている。
このように側面が排気口になっている関係で、スタンドなどを利用した縦置き設置は難しいと感じた。実際、パッケージにも縦置き用のスタンドは同梱されていない。高性能なCPUとGPUを搭載しているだけに内部のエアフローや冷却を妨げる置き方は避けたい。
全体的に風通しのよい構造を採用するほか、ファンの回転数を適切に制御しているおかげで、軽作業時の動作音は低い。書類作成やWebブラウザでの情報収集、音楽再生、Netflixなどの動画配信サービスを利用する程度なら、かなり静かに利用できる。
前面にはThunderbolt 4とUSB 3.0ポートを1基ずつ搭載するほか、SDカードスロットやマイク、ヘッドフォン端子を搭載する。背面のインターフェイスはHDMIが2基、DisplayPortが2基、USB 3.0ポートが4基、Gigabit Ethernetが1基、2.5Gigabit Ethernetが1基という構成となる。同梱の無線LAN用アンテナを接続する端子も装備する。
HDMIはHDMI 2.1対応、DisplayPortもDisplayPort 1.4a対応なので、どのポートを利用する場合でも7,680×4,320ドットでリフレッシュレート60Hzの表示が可能。4K対応ディスプレイを複数台接続してマルチディスプレイ環境を作るのも容易だ。
ちょっとおもしろいのが、内部に簡単にアクセスし、メモリやSSDを交換できること。背面で底面プレートを固定している2本の手回しネジを外し、前面方向にちょっとずらすことで底面プレートを簡単に外せる。底面からはメモリスロット、M.2スロット、2.5インチシャドウベイにアクセスできる。
標準では16GBのメモリモジュールが1枚と、512GBのM.2 SSDが組み込まれている。2.5インチシャドウベイは、すでに電源とSATAコネクタが結線済みで、SSDを固定した2.5インチシャドウベイ用トレイを、このコネクタ部分に挿すだけでよい。
多くのファイルを保存したいなら、こうした2.5インチシャドウベイにSSDやHDDを増設すればよいし、システムドライブの容量が足りなくなったとしても、M.2 SSDを挿し替えるだけでよい。CPUやGPUの性能は十分高く、メモリやシステムドライブの容量を増やしていけば長く使い続けていけるだろう。
3D描画負荷の高い最新のPCゲームでも問題なくプレイ可能
いくつかの基本的なベンチマークテストを実行した結果をまとめたのが下の表だ。全体を通して、非常に高い性能であることが分かるだろう。PCMark 10の総合スコアは9,000を超えており、デスクトップPCで言えばハイミドルクラスの高性能PCに近い。
3DMarkのスコアも、ハイミドルクラスのゲーミングPCに近い数値だ。こうしたサイズ感のミニPCで、これだけ3D描画性能が高いものはほとんど存在しないわけで、その意味では唯一無二の存在と言っても過言ではない。
【表2】ベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark 10 Extended v2.1.2563 | |
PCMark 10 Extended score | 9,191 |
Essentials | 10,035 |
App Start-up score | 14,379 |
Video Conferencing score | 7,271 |
Web Browsing score | 9,668 |
Productivity | 8,707 |
Spreadsheets score | 10,294 |
Writing score | 7,365 |
Digital Content Creation | 10,866 |
Photo Editing score | 14,524 |
Rendering and Visualization score | 14,103 |
Video Editting score | 6,264 |
Gaming | 20,317 |
Graphics score | 31,068 |
Physics score | 22,688 |
Combined score | 9,714 |
3DMark v2.22.7359 | |
Time Spy | 11,154 |
Fire Strike | 22,588 |
Night Raid | 58,354 |
Cinebench R23.0 | |
CPU | 10,002pts |
CPU(Single Core) | 1,502pts |
Cinebench R20.0 | |
CPU | 4,210pts |
CPU(Single Core) | 580pts |
Cinebench R15.0 | |
CPU | 1,756cb |
CPU(Single Core) | 228cb |
CrystalDiskMark 8.0.4 | |
Q8T1 シーケンシャルリード | 2,494.08MB/s |
Q8T1 シーケンシャルライト | 1,996.58MB/s |
Q1T1 シーケンシャルリード | 1,579.86MB/s |
Q1T1 シーケンシャルライト | 1,891.03MB/s |
Q32T16 4Kランダムリード | 762.36MB/s |
Q32T16 4K ランダムライト | 572.09MB/s |
Q1T1 4Kランダムリード | 56.09MB/s |
Q1T1 4K ランダムライト | 257.24MB/s |
TMPGEnc Video Mastering Works 7(※1) | |
H.264/AVC | 2:09 |
H.264/AVC(NVEnc有効) | 0:29 |
H.265/HEVC | 4:14 |
H.265/HEVC(NVEnc有効) | 0:34 |
(※1)解像度1,920×1,080ドットでビットレート15~16Mbps、約3分の動画を、H.264/AVCとH.265/HEVC形式で圧縮、パラメータは標準のまま変更なし
いくつか実際のゲームをベースにしたベンチマークテストも実行してみた。「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」のスコアは、「最高品質」と「標準品質(デスクトップPC)」の両方で「非常に快適」となった。実際のテスト中の画面もコマ落ちはなく、スムーズに動いている。
ベンチマークモードを備えるUbisoftの「ファークライ6」は、比較的描画負荷の高いPCゲームだ。画質が最高設定の場合平均FPSは99、最大FPSは129で最小FPSでも79。非常になめらかな画面描画となる。
同じく描画負荷が高いUbisoftの「ウォッチドッグ レギオン」の場合、グラフィックス設定が「最大」のときの平均FPSは84で最高FPSは132、最低FPSは30。ただフレームレートの状況を見ると、最低FPSに落ち込んだのは後半の一瞬のみで、実際の画面描画自体はファークライ6と同様に非常になめらかだった。
ちょっと振るわなかったのは「CrystalDiskMark 8.0.4」で計測したストレージのリード/ライト性能。性能的にはPCI Express 3.0対応モデルの中でもミドルレンジという感じだ。ただ前述したように底面を開けて内部を見ると、システムドライブとして搭載しているM.2 SSDにはヒートシンクはなく、底面と接触して熱を逃がしている様子もない。
CPUやGPUなど発熱の大きなパーツを積んでいるだけに、SSDは比較的発熱の小さいモデルをあえて使っているのかもしれない。ただしWindows 11や各アプリの起動は速く、操作性は十分に高いため、CrystalDiskMarkの数値が使い勝手に影響しているという印象はなかった。
コンパクトな筐体を採用しているだけに、CPUやGPUの温度や動作音が気になるユーザーは多いだろう。今回はCPUとGPUの両方に高い負荷をかける「OCCT 11.0.9」の「Power Supply Test」を10分間実行し、各部の温度の状況をチェックしてみた。
テストを開始するとすぐにCPU温度やGPU温度が跳ね上がり、冷却ファンの回転数も上がる。大型の冷却装置を装備できないミニPCでは、仕方のないところではある。動作音もかなり大きくなり、両側面から熱風が吹き出てくる。
CPUの動作クロックはテストを始めた最初の段階では3.3~3.4GHzだが、10秒後から徐々にクロックダウンし始め、2.8~2.9GHzくらいで落ち着く。その間のCPU温度はほぼ87~88℃といった状況で、かなり厳しい。
GPUの動作クロックには大きな変化はなかった。ただ温度についてはこちらも88~89℃と、なかなか厳しい。CPU温度やGPU温度は危険領域にまでは入らないものの、動画のエンコードなど高い負荷が延々と続くような作業では、注意が必要かもしれない。
OCCTの実行時における消費電力は、CPUのクロックが3.3~3.4GHzのときは267~268W、2.8~2.9GHzのときは245~246Wだった。付属のACアダプタは19.5V×16.9A=約330W対応のモデルなので、OCCTのような高負荷状態で利用しても電源供給には問題はない。
幅広い利用シーンで活用可能な高性能PC
検証の結果を踏まえて考えると、小型ながらも非常にパワフルなPCであることが分かる。OCCTのような負荷が非常に高い状況でのCPU温度やGPU温度は高めに出たが、危険領域というわけでもない。そもそもOCCTのような状況が続くことは通常では非常にめずらしく、不安を感じるようなこともないだろう。
最近は小型で取り回しのよいゲーミングデスクトップPCも増えてきてはいるが、それでもZBOX-EN173080C-J-W4Cほどコンパクトなモデルはほとんど見たことがない。
友人宅でのLANパーティに持ち寄って楽しむもよし、日常的な作業を行なうノートPCの横に置いて、ゲーム専用機として使うもよし。軽作業時の静音性の高さを考えれば、そもそもこれ1台ですべての用途をカバーすることだって可能だ。
パワフルでかつ小型、非常に使い勝手に優れたデスクトップPCであり、今後こうした選択肢が増えていくことにも期待したい。