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Ryzen搭載UMPC「GPD WIN Max 2021」をレビュー。高品質ゲームパッドや8コアの高い性能がウリ
2021年12月13日 06:41
株式会社天空は11月下旬より、8型ポータブルゲーミングPC「GPD WIN Max 2021」を出荷した。Ryzen 7 4800UおよびCore i7-1195G7搭載機の2種類が用意されているが、今回は前者の使用レポートをお伝えする。「GPD WIN」シリーズの伝統であるゲームパッドを搭載したUMPCとなっており、ゲーム用途とモバイルPC用途の両面で使用感を含めて検証していく。
並のノートPCを上回る豪華なスペック
Ryzen 7 4800U搭載版「GPD WIN Max 2021」のスペックは下記の通り。
【表1】GPD WIN Max 2021 | |
---|---|
CPU | Ryzen 7 4800U(8コア/16スレッド、1.8~4.2GHz) |
GPU | CPU内蔵(Radeon Graphics) |
メモリ | 16GB LPDDR4-4266 |
SSD | 1TB(M.2 NVMe) |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 8型光沢液晶(1,280×800ドット、H-IPSパネル、10点マルチタッチ対応) |
OS | Windows 10 Home 64bit |
汎用ポート | USB 3.1 Type-C×2、USB 3.0×2 |
カードスロット | microSDXC |
映像出力 | HDMI 2.0b |
無線機能 | Wi-Fi 5、Blunetooth 4.2 |
有線LAN | Gigabit Ethernet |
その他 | マイク、音声入出力など |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 207×145×26mm |
重量 | 約897g |
直販価格 | 13万9,800円 |
CPUは8コア16スレッドのRyzen 7 4800Uを搭載。Core i7-1195G7版は4コア8スレッドなので、コア数では本機の方が勝る。どちらのモデルを選ぶかのポイントになるだろう。
メインメモリは16GB、ストレージは1TBのM.2 NVMe SSDと、並のノートPCを上回る容量を確保。UMPCとして考えれば大容量である必要性は薄いが、ゲーミング寄りの配慮としては納得できる。またストレージとしてmicroSDXCも使用できる。
ディスプレイは8型で1,280×800ドット。解像度は画面サイズなりに低めだが、H-IPSパネルや10点マルチタッチ対応であることがスペック上で明言されており、品質の高さにもこだわりが感じられる。
端子類は意外と豊富で、Gigabit Ethernetを備えるのが特徴。USB Type-Cも2基搭載しており、どちらのポートも最大65WのUSB PDでの充電に対応する。付属のACアダプタはまさに最大65W出力のUSB PDアダプタとなっている。
無線LANはWi-Fi 5止まりで、Wi-Fi 6に対応しているCore i7-1195G7版とは差がある。そのほかではカメラは非搭載ながら、マイクは内蔵されている。
ちなみに今回お借りした試用機を初めて起動した際、Windows 11へのアップグレードが促された。初期状態ではWindows 10 Homeがインストールされており、いつでもWindows 11にアップグレードできる。今回はWindows 10のままで試用した。
UMPCでブラインドタッチ可能なキーボード配列
続いて実機の使用感を見ていく。8型液晶を搭載した筐体は、フットプリントがA5サイズよりも小さく、一般的なモバイルノートPCのさらに半分程度のサイズ。厚みは26mm、重量は897gとそれなりにあるので、手に持った時には見た目の印象よりは重みが感じられる。
筐体は四角が丸く、天板や底板も端に丸みがある。最近のノートPCは全体的にフラットで角ばったものが多いが、ゲームパッドを搭載する本機は手に持った時の感触も考慮して、丸みのある筐体にしているのではないかと思う。筐体の色はマットなダークグレーで統一されている。
液晶は10点マルチタッチ対応で、クリアなゴリラガラス5を採用。発色は派手過ぎない程度によく出ており、光量やコントラストも十分に高い。視野角も極めて高く、あらゆる角度から見て色相の変化は見られない。
8インチというサイズ的には1,280×800ドットの解像度でも精細さは十分で、写真はドットの荒さが気になることもなく自然な表示ができる。また動画の視聴やゲームプレイでも遅延が気になることはなく、ゲーム用のディスプレイとして必要な性能は備えていると感じる。なおディスプレイ部分は約180度まで開けられる。本機は手持ちでのゲームプレイも想定しているので、ディスプレイの角度調整の幅の広さは実用性がある。
キーボードはアルファベットキーがかなり大きく、キートップが正方形になるよう配置されている。ホームポジションに指を置いてブラインドタッチで文字入力も可能で、UMPCとしては驚異的な快適さだ。最下段のCtrlやAlt、スペースなどのキーもかなり大型で使いやすい。
当然ながらそれ以外のキーには大きくしわ寄せがいっており、上2段のファンクションキーと数字キーは縦横ともかなり小さく入力しづらい。また記号のキーは一般的なキーボード配列を大きく崩し、Shiftキーとの併用で何とか配置している。それでも基本的な文字入力を最優先にした配置は、キーボードが犠牲になりがちなUMPCとしては高く評価すべきだと思う。
ただゲームをプレイした際には、FPSなどでよく使われるW/A/S/Dキーが使いにくい。Wキーがあるアルファベットキーの1段目と、A/S/Dキーがある2段目が半分ほどずれており、一般的なキーボードの配置よりもずれが大きい。このためWキーを押す際に違和感があり、時折キーの位置を目視確認してしまう。慣れの範疇と言えなくもないが、ほかのゲーミングPCとの併用を考えている場合は注意が必要だ。
ちなみにキーボードバックライトも搭載。キートップの文字がほのかに光る程度で、暗所での視認性を高めるだけの実用一辺倒のもの。明るさ調整はないが、オン・オフの切り替えは可能。
タッチパッドは一般的なノートPCとは異なり、キーボード上部に配置されている。サイズが小さめながら動作には問題はない。独特な配置のせいでクリック操作に戸惑ったりはするが、タッチパネルも搭載しているので、その時々で便利な方を使って操作すればいい。
端子類は主に背面に用意されており、右側面にはGigabit EthernetとmicroSDXCスロットが用意されている。一般的なゲーミングPCなら、右側面に有線LANポートがあるとマウス操作の邪魔になりやすいが、本機は筐体がコンパクトな分、マウス操作の場所を広く取りやすいのでさほど気にならない。もっとも、UMPCに有線LANポートがあるだけでも十分ではある。
本機の注目ポイントであるゲームパッドは、本体上部に搭載されている。押し込み可能なアナログスティックが2本、上下左右の方向ボタン、A/B/X/Y/L1/L2/R1/R2の8ボタンで、コンシューマゲーム機のコントローラと同等のボタンが確保されている。
本体左側面にあるスイッチで、ゲームパッドモードとマウスモードを切り替えられる。ゲームパッドモードにすると、Xbox 360コントローラとして認識され、全てのボタンが機能する。なおゲームパッドモードにしても、タッチパッドやタッチパネルの操作には影響しない。
マウスモードでは、右のアナログスティックでマウスカーソルを操作できる。L1とR1が左右のマウスボタンに対応しており、一通りの操作はできる。ただマウスカーソルの動きが初期状態では遅く、また本体裏側のL1/R1キーを押す手間を思うと、操作感や利便性はタッチパッドに劣る。何かしら理由がなければ常時ゲームパッドモードで構わないだろう。
ゲームパッドとしての使用感は、思った以上の良好だ。アナログスティックやボタンが横一列に並んだ配置を見ると、とてもゲームプレイには向かないように思えるが、実際に手に持ってみると意外なほど手の収まりがよく、どのボタンも押しやすい。アナログスティック2本を使った操作も、十字キーとボタンで遊ぶレトロスタイルも、どちらもほとんど違和感がない。
強いて言えば、ディスプレイを大きく開いた際にL1/R1ボタンと干渉してやや押しづらくなるのが難点だが、些細な問題だ。900g近い筐体をずっと持ったままプレイするのに疲れるのも確かだが、ホールド感がいいので短時間であれば気にならない。スティックやボタンの感触も極めて良好で、見た目の奇抜さからは全く想像できない快適な操作感が実現されている。
ゲームプレイでは重要になるスピーカーについては、小型筐体だけに低音はほぼ出ておらず、一般的なノートPCと変わらない程度の音質。ただ音量はさほど破綻することなく大きくでき、聞き疲れするような嫌な音は出ていないので、気軽にプレイする分には十分だ。
スピーカーは底面の左右にあり、本機を机に置くと音が跳ね返って大きく聞こえるが、手に持った時には体感の音量がぐっと下がる。もし音質や音量が気になるなら、筐体前面右側にヘッドセット端子があるので、ヘッドフォンを使用すればいい。
排熱処理は、底面から吸気、背面から排気のエアフロー。アイドル時はほぼ無音に近いものの、かすかにファンが回っているのが分かる。高負荷になるとファンが高回転し始め、高めの風切り音とホワイトノイズが混じったような騒音になる。音量はそれほど大きくはなく、ゲームの音に比べれば小さいものの、高めの音が少々耳障りになる。3Dゲームをプレイする際にはヘッドフォンがあるといいだろう。
3Dゲームも設定次第では60fps以上でプレイ可能
今度は実機でのパフォーマンスをチェックしていこう。ベンチマークテストに利用したのは以下の通りだ。
- PCMark 10 v2.1.2532
- 3DMark v2.21.7312
- VRMark v1.3.2020
- PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator
- ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
- FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク
- STREET FIGHTER V ベンチマーク
- Cinebench R23
- CrystalDiskMark 8.0.4」
【表2】ベンチマークスコア | |
---|---|
PCMark 10 v2.1.2532 | |
PCMark 10 | 5,056 |
Essentials | 8,815 |
Apps Start-up score | 10,552 |
Video Conferencing Score | 7,893 |
Web Browsing Score | 8,225 |
Productivity | 7,720 |
Spreadsheets Score | 9,444 |
Writing Score | 6,312 |
Digital Content Creation | 5,155 |
Photo Editing Score | 7,673 |
Rendering and Visualization Score | 5,222 |
Video Editing Score | 3,419 |
Idle Battery Life | 11時間9分 |
Gaming Battery Life | 2時間21分 |
3DMark v2.21.7312 - Time Spy | |
Score | 1,328 |
Graphics score | 1,167 |
CPU score | 6,187 |
3DMark v2.21.7312 - Fire Strike | |
Score | 3,419 |
Graphics score | 3,727 |
Physics score | 16,800 |
Combined score | 1,216 |
3DMark v2.21.7312 - Wild Life | |
Score | 7,175 |
3DMark v2.21.7312 - Night Raid | |
Score | 13,782 |
Graphics score | 15,005 |
CPU score | 9,429 |
3DMark v2.21.7312 - CPU Profile | |
Max threads | 3,914 |
16-threads | 3,897 |
8-threads | 3,547 |
4-threads | 2,279 |
2-threads | 1,384 |
1-thread | 720 |
VRMark v1.3.2020 - Orange Room | |
Score | 1,827 |
Average frame rate | 39.83FPS |
VRMark v1.3.2020 - Cyan Room | |
Score | 1,231 |
Average frame rate | 24.86FPS |
VRMark v1.3.2020 - Blue Room | |
Score | 296 |
Average frame rate | 6.45FPS |
PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator(1,280×800ドット) | |
簡易設定1 | 11,645 |
簡易設定2 | 5,710 |
簡易設定3 | 3,355 |
簡易設定6 | 922 |
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(1,280×720ドット) | |
高品質 | 1,719 |
軽量品質 | 3,479 |
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク(1,280×800ドット) | |
最高品質 | 4,762 |
STREET FIGHTER V ベンチマーク(1,280×800ドット) | |
画面品質:中 | 59.99FPS |
画面品質:高 | 59.97FPS |
画面品質:最高 | 51.45FPS |
Cinebench R23 | |
CPU(Multi Core) | 7,600pts |
CPU(Single Core) | 1,233pts |
最も気になるCPUの性能は、シングルスレッドでなかなかのパフォーマンスが出ている。マルチスレッドになるとシングルスレッドの6倍強の処理能力といったところ。「3DMark」の「CPU Profile」を見ると、シングルスレッドではCPUクロックが約4.3GHzながら、4スレッドを超えるとスロットリングが顕著になり、8スレッド以上では3GHz程度まで落ちる時間が長くなる。UMPCの冷却の難しさがにじみ出る結果だが、むしろ健闘している方だろう。
3Dグラフィックス系の処理になるとやはり内蔵GPUでは荷が重く、VR等の利用は困難。最新の3Dゲームを高画質で遊ぶのは難しいが、軽めのゲームや低画質設定ならそこそこ動くという印象だ。
ゲーム系のベンチマークテストは、ディスプレイの解像度に合わせてテストを実施。「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」では簡易設定2で「標準的な動作」の評価、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」では最高品質で「普通」の評価、「STREET FIGHTER V ベンチマーク」では画面品質:高で「PERFECT」の評価と、そこそこの画質でもそれなりに遊べる評価が得られているものが多い。
バッテリテストでは、画面の輝度を50%にして測定。ゲーミングで2時間21分となっており、本機の強みである手持ちでのゲームプレイも2時間程度は充電せずに使えそうだ。またアイドル時には11時間を超えており、一般的なモバイルPCとして使うなら十分なバッテリ持続時間があると言える。
ストレージはBIWIN製のSSDが使われており、1TBの領域が300GBと638GBの2つのパーティションに分けられていた(その他システム予約領域あり)。ベンチマーク結果だけを見ればNVMeSSDとしてはエントリークラスの数値だが、シーケンシャルリードは約2.1GB/sと高速で、使用感は何ら不満のないレベル。本機がUMPCであることを思えば十分過ぎる値と言っていいだろう。
実際のゲームのテストとして、「Fortnite」のバトルロイヤル1戦と、「Apex Legends」のチュートリアル1周のフレームレートを、NVIDIA FrameViewで計測した。解像度はいずれも本機の表示解像度となる1,280×800ドット。
【表3】ゲームのフレームレート | |
---|---|
「Fortnite」(クオリティプリセット:中) | |
平均 | 58.749 |
下位90% | 46.193 |
下位95% | 41.751 |
下位99% | 28.222 |
「Apex Legends」(最低画質設定) | |
平均 | 82.574 |
下位90% | 63.504 |
下位95% | 59.059 |
下位99% | 52.306 |
「Fortnite」では、画質のクオリティプリセットを中にしてみたところ、平均フレームレートが約59fpsとなった。下位99%でも約30fpsで、実際のプレイでフレームレートの低下が気になるシーンはほとんどなかった。人が多い場面ではフレームレートが落ちやすく、さらに画質を下げたいが、見た目もかなり損なわれるので悩ましい。
「Apex Legends」では画質は全て最低の設定を選択。平均フレームレートは80fpsを超え、下位99%でも50fps以上となり、フレームレートとしてはほぼ十分と言える。さらに各種画質設定を概ね1段階上げると、平均約66fps、下位99%で約45fpsとなった。本作は最低画質でもそれなりに精細な映像を保っているので、好みで調整するといいだろう。
UMPCとハンドヘルドゲーミングPCの2面で高い完成度
「GPD WIN」シリーズの最新モデルだけあって、筐体のデザインはとても洗練されている。キーボードは大胆なキー配置とサイズでブラインドタッチが可能な配置を確保し、UMPCとして高いレベルの完成度を見せている。またゲームパッドはボタンの品質を含めて快適な操作性を実現しており、ハンドヘルドゲーミングPCとして万全の仕上がりと言っていい。
ただし大前提として、本機は万人におすすめすべき製品ではない。キーボードで数字や記号の入力が発生すると途端に不便だし、ゲームをプレイする人でなければゲームパッドの搭載は無用の長物でしかない。
その上で、8コアCPUや大容量メモリ・ストレージによる高性能を実現したUMPCとして、各々のニーズに合うかどうかをよく見定めてほしい。「高性能なUMPCが欲しくて、本機のキー配列を許せる」か、「Nintendo Switchで遊ぶ感覚で使えるゲーミングPCが欲しくて、PCとしても少しは使いたい」か、どちらかが当てはまるなら本機は十分に満足のいく製品になるだろう。