Hothotレビュー

プレイスタイルに合わせて変形! 持ちやすさを極めたAndroidゲーム機「GPD XP」

GPD XP

 深センGPDが8月末に発表した物理コントローラ搭載Androidポータブルゲーム機「GPD XP」。SIMカードスロットを搭載し、どこでもオンラインゲームをプレイできるというスマートフォンに似た特徴を持ちながら、通話は非対応。本体右側のコントローラは磁石によって着脱可能で、プレイするゲームに合わせて変えられるという、これまでにない斬新な特徴を持つデバイスだ。今回、中国語版ROMではあるものの試作機を手に入れたので、インプレッションをお届けしたい。

 いまや、「GPD WIN」や「GPD Pocket」シリーズといった超小型Windows搭載UMPCをリリースするメーカーとしてすっかりイメージが定着したGPDだが、実は初代GPD WIN登場以前に「GPD XD」という、クラムシェル型でコントローラを備えたAndroid端末をリリースしている。XPはその後継となるモデルで、近年Windows端末しか手掛けてこなかった同社にとって、いわば原点回帰となる製品だ。

 XDと決定的に異なるのはフォームファクタで、XDがクラムシェルであったのに対し、XPはスレート型だ。同社はこれまでクラムシェル機構の設計を得意としていて、初代GPD WINやGPD Pocketもその流れを汲むデバイスであったが、2021年に登場した「GPD WIN 3」はスライダー、そして今回のXPはスレートとなっており、同社にとって新たなチャレンジとなる。

これまでのどの製品とも似ても似つかない仕様

 スレートで着脱式コントローラを備えたゲーム機と言えば「ニンテンドー Switch」がまず挙げられるだろう。現在、市場にはこれに似た、スマートフォンの左右に取り付けられるコントローラが存在する。しかし、XPはそれとは全く異なるコンセプトだと断言できる。

 まず、左側のコントローラは本体と一体型となっていて、取り外しができない。そして右側のコントローラは着脱式だが、接続は無線ではなく、磁石とポゴピンを用いた有線接続であり、複数の形状のものが用意される。

磁石とポゴピンで接続するコントローラ

 パッケージに収まった状態でくっついているのは、アナログコントローラやA/B/X/Yなどのボタン、L1/L2トリガー、そしてStartとSelectのボタンを備えた、Xbox 360などのコントローラを彷彿とさせる高機能なものである。搭載した際の幅はかなりのもので、ポータブルゲーム機としては1位2位を争うサイズだ。このコントローラは、クラウドによるストリーミングゲームサービスを利用し、PCやコンソール向けゲームをプレイするのに最適だ。

画面左右が対称になる標準装備のコントローラ。PCやコンソールゲーム機向けゲームのプレイに適している
StartやSelectボタンを搭載しており、まさにゲーム機のコントローラそのもの

 もう1つの右側コントローラは、正面に5つのボタンが縦一列に並び、側面に2つのショルダーボタンを備えたコンパクトなもの。このコントローラが特徴的なのはショルダーボタンで、中指で引く方はほぼ中央に位置する。このため左手と右手とではトリガーを引く位置が異なる。このトリガーはシューティングゲームに向くとしているが、その使い勝手は後ほど述べる。

ボタンが縦一列になったスリムなコントローラ
6ボタンが真ん中に来るという変態配置。PUBGといったFPS/TPSに適している

 もう1つは、磁石で取り付けられるただの「板」だ。例えば「リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト」のようなモバイル向けMOBAゲームでスキルを発動する場合、アイコンをタッチしてから、発動する方向にスワイプして離すことで発動する操作体系となっているものが多い。こういったゲームはどうしても画面をタッチ操作することになるわけだが、その場合にこの板を装着すればいいというわけだ。誤作動が防げ、指もスキルアイコンに近くなるため操作しやすくなり、一挙両得というわけである。

端子を塞ぐ、単なる板。モバイルMOBAゲームに最適だ

 GPD独自の設計思想はこれに留まらない。スマートフォンやタブレット、ポータブルゲーム機のいずれも持ち運びやすさを重視するために薄型化しているが、XPはエルゴノミクスを最優先しており、握る部分のグリップがかなり出っ張っている。持ちやすさに関して言えば、やや小ぶりのXbox 360のコントローラを握っている雰囲気で、手にしっくりくる。

 ちなみに筆者はニンテンドーSwitchのコントローラの薄さが苦手で、短時間のプレイですぐに親指が酸っぱくなってしまう。その点、XPのコントローラはすこぶる気持ちいい。難点と言えば表面がやや滑りやすいことだが、この辺りは滑り止めを貼るなりすれば回避はできそうだ。

かなり出っ張ったグリップ
手のひらにしっくり収まる。筆者的には「一回り小さいXbox 360コントローラ」の雰囲気だが、女性の手にはちょうどいい

 一方でスマートフォンやタブレットとして見た場合も同じ。2,400×1,080ドットという解像度を持つ液晶やSIMカードスロットがあるため、コントローラが付いたスマートフォンか? と言われるとこれまた違う。背面カメラがないためQRコードのスキャンすらまともにできないし、電話もできない。ポケットに入れて持ち運ぶ厚さでもないだろう。

 ではコントローラが付いたタブレットか? と言われると、確かに最も近い回答だろうが、映画や電子書籍の閲覧用途のタブレットにしては画面サイズがやや小さいし、そもそもモバイル向けプロセッサを搭載していて筐体サイズも少し余裕があるのにもかかわらず、わざわざファンを内蔵して強制冷却している。さらに、どう見ても横向き使い前提なので、機動性の高いタブレットとも違うように思う。

 つまり、市場にあるどのポータブルデバイスとも似ても似つかない。汎用のAndroid OSを搭載しているものの、独自の設計をふんだんに取り入れたゲーム機--それがXPなのだ。

ゲーム機としての使い勝手はすこぶる良好

 さてパッケージと筐体を見ていく。GPDの製品はこれまでシンプルなパッケージに収められていたが、XPは蓋を開けると収納部分がせり上がって斜めに見せてくれるというギミックを備えており、なかなかのこだわりだ。開封した時の喜びや驚きはこれまでにないものがある。

パッケージ
蓋を開けると収納部がせり上がるギミック

 筐体の素材については「LG-DOW 121H」と呼ばれるABS合成樹脂でUVコーティングされており、耐久性は高い。この素材は「GPD WIN Max」や「GPD Micro PC」にも採用されている。握ると手汗でやや滑るが、先述の通り滑り止めを貼るなど工夫をすれば良い。

 インターフェイスの配列は、さすがによく考えられている。USB Type-Cや3.5mmステレオミニジャックはいずれも本体底面で、どんなプラグでもゲームプレイ中に邪魔になることはない。電源ボタンと音量ボタンは上部だ。なお、音量は右が「+」で左が「-」。スマートフォンに慣れると若干戸惑うかもしれないが、横向きの音量バーの方向を考えたら必然的な配置である。

本体上部。電源ボタンと音量ボタンを装備。排気口も見える
3.5mmミニジャック、SIMカードスロット、USB Type-C。2つ並んだ横のスリッドはスピーカーの穴だ

 ファンは、上からのスワイプで表示される通知領域にあるアイコンでオン/オフできる。回転速度は2段階となっており、Lowはさほど気にならないレベル、Highでもそれほどうるさくはない印象。常時Lowでまったく問題はないだろう。なお、もともと熱が伝わりにくいLG-DOW 121Hが採用されているため、ファンがオフの状態でも筐体の熱が気になることはまったくなかった。ファンの搭載は、あくまでも負荷時のSoCの温度を抑え、サーマルスロットリングを防ぐための対策である。

 ディスプレイは2,400×1,080ドット表示対応の6.81型IPSで、輝度は500cd/平方m、コントラスト比は1,500:1、色域はNTSC 84%などとなっている。実際のゲームプレイでは残像も少ない印象だ。表面はCorningのゴリラガラス5で覆われており、高い強度を実現するとともに、指すべりが良く、ゲームプレイ中不快に感じることはまったくなかった。

液晶品質は文句なしなのだが、左下のパンチホールカメラはゲーマーによっては賛否両論かもしれない

 本機は、縦持ちを考慮していない設計である。2,400×1,080ドットという横長の解像度はWebページの閲覧に向いているとは決して言えず、Webサイトがモバイル版で表示されるのだからなおさらである。縦持ちが前提のスマートフォンゲームも同様に、握りにくくなるだけだ。一応、本機にはGセンサーが内蔵されているため、縦にすれば自動で画面が回転できるが、縦持ちは非現実的だろう。

 スピーカーは容積0.9cc相当などと謳われており、音質についてもアピールポイントとなっているが、筆者の印象としては普通であった。

 ポータブルゲーム機としてみた場合、LTEに対応するのでどこでもオンラインゲームがプレイできる点は大変良いのだが、いかんせん特殊形状と長い筐体、それから厚みゆえ、「ポケットに入れてサクッと持ち運ぶ」わけにはいかないのがややネックである。

 起動すると、Android 11をベースとし、GPDオリジナルのランチャー「Metro UI」が現れる。このランチャーも横画面が前提の設計となっており、各アプリがタイルとなって表示、タイルをタップすると起動、長押しするとアンインストールなどが行なえる、Windows 8を彷彿とさせるものとなっている。

 特徴的なアプリはこのほか、解像度を制限する「Resolution Setting」、ゲームパッドが正常動作しているかどうかを確認できる「Joystick Test」程度。いくつかのゲームやクラウドゲーミングサービスが入っていたが、開発機のためGPDが社内でセットアップした可能性もあり、また今回は中国語ROMであるため評価から省く。

独自ランチャー「Metro UI」。Windows 8のUIを彷彿とさせるタイル
解像度変更ソフトで解像度を制限できる
ゲームパッドの正常性をチェックできるユーティリティ
一応、ホーム切り替えで一般的なドロワーつきAndroidランチャーに変更できる

コントローラの使い勝手を見る

 コントローラは、さすがノウハウが蓄積された同社だけあって、操作感は抜群。先述の通り、取り付け済みのコントローラ(以下:コントローラ大)は、一回り小さいXbox 360コントローラを握っている印象で、ホールド感は抜群。ボタンのストロークは短めだが、軽くてクイックなレスポンスを示す。アナログスティックも移動距離が長めで、ゆったり操作できる。スティックの押下によるL3/R3操作も可能なので、コンソールゲーム機並みの機能性だと言ってもいいだろう。

 残念ながらL2/R2はアナログトリガーではなくマイクロスイッチであるため、アナログ操作が必要なゲームには向かない。また、L1とL2、R1とR2の間隔が狭いため、人差し指でL1/R1、中指でL2/R2を操作しようとすると、若干窮屈な印象だ。

 XPを机に置くとわかるが、トリガーボタンの方がグリップ部と比較して高さが低い。であればなおさら、もう少しL2/R2の大きさに余裕をもたせた筐体であっても良かったのはないかと思える。おそらく、L2/R2は中指ではなく、人差し指で引くことを想定したフォルムなのだろう。

本体を側面からみたところ。ご覧のように平面に置くと、前に傾斜する。それだけグリップ部の方がボタンより厚みがあるわけだ

 一方でオプションのコントローラ(以下コントローラ小)は、トリガーボタンのうちの1つがほぼ中央に位置(6番)しており、明らかに人差し指ではなく中指で引けというメッセージである。一方、正面のボタンは5個で、このうち最上段は赤い丸、残りは数字が割り振ってあるが、機能的にできることは同じである。

 さてここまで来て「このコントローラをゲーム中でどう使うのか?」と疑問を持たれるユーザーも多いだろう。Androidのゲームのほとんどはタッチが前提であり、コントローラの使用を想定していないからだ。実際に試してみたところ、OSからはゲームコントローラとして認識されるため、いくつかのエミュレータではそのまま動作したのだが、「原神」といったコントローラ対応タイトルでも認識されず選べなかった。

 もちろんそこはXPも想定を織り込み済み。こういった場合、左側にあるゲームコントローラのアイコンを押すと、物理ボタンを画面上のボタンに割り当てるユーティリティがオーバーレイで表示され、ゲーム内のUIに合わせてボタンの位置を調節したり、サイズを調整して保存すれば、そのまま画面上ボタンに反映される。このあたりはBlack SharkやRedMagic、ROG Phoneといったゲーミングスマートフォンと同じだ。なお、対応する画面ボタンの配置はゲームごとに記憶されるため、別のゲームをプレイする際にいちいち再設定をしなくても良い。

 ただ、コントローラ大のジョイスティックを、あたりを見回す操作に割り当てたいユーザーは多いだろうが、対応する操作位置が調節できないうえ、移動範囲も限られているようで、うまく視点移動が行なえなかった。もっとも、視点移動しながらエイミングして攻撃を行なうようなゲームでは、単純な視点移動操作では対応できないだろう。このあたりは機能強化やブラッシュアップに期待するしかない。

左側のジョイスティックと十字の間の右にあるコントローラのボタンを押すことで割り当てが即座にできる
原神での設定例
PUBG Mobileでの設定例

 ちなみにGPDのWade社長によるコントローラ小+PUBG Mobile中国版プレイのデモ動画では、このトリガーを「スコープを覗く」動作に、L1および5番(右角のトリガーボタン)に割り当てていた。つまり、中指でサッとスコープを覗いて照準を合わせ、人差し指で射撃をするというわけだ。残りの正面のボタンは、グレネード、マップを開くといった、ユーザーが好みに合わせて割り当てるとよいといったメッセージである。

 本体重量は、コントローラ大装着時が370g、小装着時が350g、蓋が330g。数字だけ見ると重そうなのだが、先述の通り筐体に厚みがあり、グリップも良いため、見た目より軽く感じられる。本体サイズは奥行きが83mm、高さが18~41mm。幅はコントローラによって異なり、順に233mm、216mm、205mmとなる。

性能は悪くないが、多くは望めない

 最後に本機の性能を評価していく。本機はSoCにMediaTekのHelio G95を搭載。メモリは6GB、ストレージは128GBと、スマートフォンから見た場合ミドルレンジよりやや下あたりのスペックとなる。

 Helio G95は、MediaTekのゲーミングスマートフォン向けSoCとして起死回生を図ったHelio G90シリーズの後継モデル。ゲーミング向けとは謳われているものの、製造プロセスは12nmとやや古く、CPUのビッグコアはCortex-A76で最大2.05GHz、GPUもMali-G76 3EEMC4構成に留まる。PCに例えるならCore i3+GeForce GTX 1650あたりで、ハイエンドゲーミングはできない。

 本機はGoogle Play非対応のため、今回はPlayストアから提供されているPCMarkや3DMarkなどではなく、公式サイトでapkが用意されているAntutu Benchmark V9.1.2で評価を行なうが、総合スコアは310,918、このうちゲームの描画のスムーズさに直結するGPUのスコアは92,504であった。GPUスコアで言えば競合のSnapdragon 730Gに近い。

Antutu Benchmark v9.1.2の結果

 実際にゲームをプレイしてみた。PUBG Mobileでフレーム設定を「高」に設定できるものの、クオリティは「HD」以上選べない。ただ、ゲーム自体はスムーズにプレイできた。

 一方で3D負荷が重いと評判の「原神」は、デフォルトで「中」が選択された。この設定では若干ジャギーが目立つ印象で、移動していくと山肌などが顕著に変わるのがわかってしまう。また、シーンによってはロードでカクつく。このあたりはハイエンドスマートフォンとはかなりの差がついてしまう。また、先述の通り原神はXPのコントローラを認識しないため、操作性を含めてやや我慢してプレイすることになるだろう。

グラフィックス負荷が非常に高い原神は、中がデフォルト。さすがに最高には及ばないが、ゲーム性は問題ない
PUBG Mobileだとフレーム設定は高を選べるが、クオリティはHDまで。HDRやFHD、UHDは利用できない

 最大で120Hzまで対応できるリーグ・オブ・レジェンド:ワイルド・リフトも、本機では60fpsまでとなる(ディスプレイの制限もある)。もっともこのタイトルは60fpsでもかなり快適で、スムーズにプレイできた。

 つまるところ、XPはさすがにハイエンドばりの性能は期待できないが、ほとんどのゲームの最低要件を満たせ、そつなくプレイできそう、という評価に落ち着くだろう。

GPDならではの哲学が詰まった1台

 これまで数々のGPDデバイスを触ってきたが、正直どれもかなりの個性派だ。市場に既に存在するデバイスに似たフォルムや思想を持っていて、一見「○○っぽい」と思っていても、実際触ってみると独創的なところに気づく。そういう意味でXPも同じで、実際手にしてみると、これまで触ったことのないようなデバイスだった。

 コントローラ付きのAndroidデバイスは、実は8年前にスペックコンピュータから「SUPERGAMER俺」というものがリリースされている。本機のコンセプトはなんとなくそれを彷彿とさせるものだが、比較にならないほど性能やスペックが向上しているうえ、握りやすさもXPの方が圧倒的である。

 モバイルゲームの多くが画面タッチである中、あえてコントローラの利便性を前面に押し出すXP。同じフォルムでも人と機械を繋ぐインターフェイスの答えは、決して1つではないということを改めて認識させてくれるデバイスであった。