Hothotレビュー
第9世代Core+GeForce GTX 1050 Tiで世界最小。MINISFORUMの「H31G」を試す
2020年9月30日 06:55
小型パソコンの開発/製造/販売を専門とする香港MINISFORUMは、デスクトップ版の第9世代CoreとGeForce GTX 1050 Tiを搭載した手のひらサイズのパソコン「H31G」を発売した。
MINISFORUMは読者にとってあまり馴染みのない企業かもしれないが、これまでおもにAtom系の安価なCPUを使った小型パソコンの開発をしてきた。最近では、IndiegogoでRyzen 5 3550Hを搭載した小型デスクトップ「DMAF5」のクラウドファンディングを実施し、Facebookで数多くの広告を露出。AMDファンのあいだではちょっとした話題となった。
そのMINISFORUMが今回新たに繰り出すH31Gは、手のひらサイズでありながら、デスクトップ向けの第9世代CoreとGeForce GTX 1050 Tiを搭載したモデル。CPUとGPUはいずれも1世代前となるのだが、性能ではまだまだ現役レベルであり、同社のフラグシップとも呼べる製品。
今回、発表に先立ってCore i5-9400Fおよびメモリ8GB、SSD 256GBを搭載した製品サンプルを入手したので、レビューしていきたい。この構成で直販価格は619ドルだ。
自由度が高く、ベアボーンに近い手のひらパソコン
H31Gは、本体サイズが約154×153×62mm(幅×奥行き×高さ)の超小型デスクトップである。この手の小型パソコンはZOTACが先駆者であり、続いてIntelのNUCフォームファクタが有名だろう。しかしIntelもZOTACもモバイル向けCPUを採用しているほか、GPUを搭載するZOTACの製品は、一辺が200mm前後(EシリーズやQシリーズ)と、やや大型になっている。
その点、H31GはLGA1151のソケット式で、市販もされている第9世代Core i5-9400Fが搭載されているにもかかわらず、一辺が150mm強となっており、IntelのNUCよりわずかに大きい程度に収まっているのは、評価に値する。搭載されているGeForce GTX 1050 Tiもデスクトップ版と同等のスペックなのだから、驚くばかりだ。
もちろん、そのためにACアダプタが148.2W出力対応のかなり大きなものになっている点は否めない。しかしこれだけのスペックを、ディスプレイのVESAマウンタ対応の穴に掛けられるのだから、設置の自由度を含めても高く評価できる。
さらにH31Gでは、標準の256GBのM.2 NVMe SSDに加え、別途M.2 2242 SATA SSDを1基、2.5インチSATA SSD/HDDを1基増設できる。メモリも今回の構成では8GBシングルチャネルだが、SO-DIMMスロットが1基空いており、拡張が可能だ。CPUまで換装すれば、かなりのスペックに拡張できるのも魅力的である。
そういった意味では、完成品というよりベアボーンの色が濃いが、CPUまで分解するには少々コツがいるので、あえて完成品として販売し、換装しやすいメモリとストレージだけ選択肢をユーザーに与えたのが本製品だと言っていいだろう。
付属品はかなり充実。発熱/騒音も抑えめで優秀
紹介が若干前後したが、パッケージを見ていこう。パッケージは普通の無地のダンボールなのだが、内容物はかなり豊富。ACアダプタとVESAマウントキットに加え、Mini DisplayPort(以下Mini DP)→DisplayPort変換ケーブル、HDMIケーブルも付属。付属のケーブルはかなり短めなことから、ディスプレイの近くに本体を置くことを想定していることがわかる。さらに、マグネットで着脱可能な通気口フィルタが添付しており、DIYerの心をくすぐる内容だ。
ACアダプタは19V/7.8A出力の大容量タイプ。この手のパソコンとしてはかなり大出力なモデルとなっているが、デスクトップ向けCPUを搭載していることを考慮すると必然とも言えるだろう。なお、試作機ではPSEマークがないが、量産モデルではすべてにPSEマークが記載されるとのことだ。
本体は前面にヘッドセット接続用の3.5mmミニジャックとマイク、側面に音声入出力とmicroSDカードスロット、背面にUSB 3.0×4、HDMI、Mini DP、Gigabit Ethernet、DC入力を装備。このサイズにしてはインターフェイスがかなり充実している。できれば前面にもUSBポートが欲しかったが、実装スペースからして難しいだろう。
ちなみに背面のMini DPだが、先述のとおりMini DP→DisplayPort変換ケーブルが付属しているにもかかわらず、本機ではこれにディスプレイを接続してもなにも映らない。というのも、この端子はCPU内蔵GPUに直結しているからで、標準で採用されているF系のCPUは内蔵GPU非搭載だからだ。つまり、ユーザーがGPUつきモデルに自分でアップグレードしてようやく使える端子であり、標準では実質HDMIの1系統しかディスプレイ出力を備えていないことになる。
このあたりの仕様は、GeForce GTX 1050 Tiが別基板で、もう1つのディスプレイ信号をメイン基板に戻す配線パターンを用意するスペースがなかった、というのが最大の理由となりそうだ。とはいえ、マルチディスプレイ環境を構築する目的でなければ、さほど気にしなくても良いだろう。
本体は上部にメッシュの吸気口があり、デュアルファンで吸気して背面に排出する仕組み。吸気口が見えるため騒音について心配されるところだが、試作機はアイドル時/3Dゲーム負荷時ともかなり静かな印象を受けた。騒音の大半は風切り音で、軸音はほぼない。たとえばTVの近くに本体を置いて、2m程度離れたところからゲームをプレイした場合、まったく気にならなくなる。部屋のエアコンの音のほうがうるさく感じるレベルだ。このあたりはかなり優秀だ。
また、デスクトップ向けCPUとGPUを搭載していることもあるため熱も心配されるが、テストをしているかぎり、定格ではまったく問題のない範囲に収まっていた。GeForce GTX 1050 Ti側は、オーバークロックで1,800MHz超えも可能なレベルである。排熱と騒音のコントロールについて、本製品は大変優れていると評価したい。
内部は基板3段構成だからこそ実現した省スペース
内部が気になるので、分解してみた。本体は底面のゴム足部分にあるネジを4本緩めれば内部にかんたんにアクセス可能で、メンテナンス性は高いほうだろう。
分解してまず目につくのが2.5インチSSD/HDDマウンタと、M.2 2242 SATA SSD用コネクタ。いずれもかなり容易に増設できる。2.5インチSSD/HDDマウンタはネジでCPUソケットの裏側にネジ止めされており、これを外せばメモリスロットにアクセスできるようになる。
周囲のフレームに注意しながら分解していけば、基板全体をまるごと取り外せる。ここでようやく明らかとなった全貌だが、音声入出力/microSD/M.2 2242部と、GeForce GTX 1050 Ti部が別基板となっており、フレキケーブルによってメインボードと接続していることがわかる。H31Gはこの構造によって、フットプリントを抑えることに成功しているというわけだ。
ヒートシンクは4本のヒートパイプが使われており、GPUからのCPUの上を通って、背面のヒートシンクに伝わる仕組み。パソコン自作ユーザーの視点から見ると、ヒートシンクの大きさがやや心配になるのだが、本機は外気をほぼ直接取り込め、空気を筐体内に溜め込むことなく排出できる機構なので、この大きさで済んだのかもしれない。
全体的に見ると、CPUのリテンションやバックプレート、ヒートシンク、GPU部分に至るまで、かなりのカスタムが入っており、なかなか設計力が高いことが伺える。
比較的軽いゲームなら1080pでも実用可能レベル
それでは最後にベンチマーク結果を見てみよう。テストしたのは総合的な評価を行なう「PCMark 10」に加え、3D関連の性能を計測する「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」、そしてCPU性能を評価する「CINEBENCH R20」である。
比較用に、CHUWIが2018年に発売したKaby Lake-G(Core i5-8305G)を搭載した小型パソコン「HiGame」の結果を並べてある。なお、HiGameはWindows 10 2004、H31GはWindows 10 1909とOSバージョンの違いが存在する。
また、HiGameはWindows 10 2004環境下ではIntel HD Graphicsをオンにすると、一部3Dベンチマークが動作しない問題があったため、オフにしてRadeon RX Vega M GLのみで計測している。これはおそらくRadeon RX Vega M GLのドライバが古く(2019/01/10が最新)Intel HD Graphics最新のDCHドライバと協調せず、GPUの選択がうまくいっていないためだと思われる。鳴り物入りで登場したKaby Lake-Gだが、IntelはXeに力を入れる前にもう一仕事してほしかったところではある。
システム | H31G | HiGame |
---|---|---|
CPU | Core i5-9400F | Core i5-8305G |
メモリ | 8GB | |
SSD | 256GB NVMe SSD | 128GB SATA SSD |
GPU | GeForce GTX 1050 Ti | Radeon RX Vega M GL |
OS | Windows 10 Home 1909 | Windows 10 Home 2004 |
PCMark 10 | ||
PCMark 10 Score | 4856 | 4553 |
Essentials | 8963 | 8035 |
App Start-up Score | 12115 | 8941 |
Video Conferencing Score | 7073 | 7329 |
Web Browsing Score | 8404 | 7918 |
Productivity | 6646 | 6744 |
Spreadsheets Score | 7814 | 8935 |
Writing Score | 5654 | 5091 |
Digital Content Creation | 5219 | 4728 |
Photo Editing Score | 5328 | 7380 |
Rendering and Visualization Score | 5860 | 5579 |
Video Editing Score | 4554 | 2568 |
3DMark | ||
Time Spy | 2377 | 2245 |
Time Spy Graphics score | 2196 | 2092 |
Time Spy CPU score | 4475 | 3853 |
Fire Strike | 6105 | 6287 |
Fire Strike Graphics score | 6707 | 7422 |
Fire Strike Physics score | 11960 | 10381 |
Fire Strike Combined score | 2536 | 2296 |
Night Raid | 19301 | 19556 |
Night Raid Graphics score | 23681 | 28460 |
Night Raid CPU score | 9425 | 7053 |
Sky Diver | 16612 | 17620 |
Sky Diver Graphics score | 18184 | 21061 |
Sky Diver Physics score | 10791 | 9470 |
Sky Diver Combined score | 19806 | 18859 |
ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク | ||
1,920×1,080ドット 最高品質 | 6746(とても快適) | 5616(とても快適) |
1,920×1,080ドット 高品質(デスクトップPC) | 7610(非常に快適) | 6010(とても快適) |
ドラゴンクエストXI ベンチマーク | ||
1,920×1,080ドット 仮想フルスクリーン 最高品質 | 18746(すごく快適) | 18021(すごく快適) |
1,920×1,080ドット 仮想フルスクリーン 標準品質 | 19405(すごく快適) | 18291(すごく快適) |
CINEBENCH R20 | ||
CPU | 2297 | 1753 |
結果をみればわかるとおり、得意不得意はあるものの、そこそこ拮抗する結果となった。おそらく同じHiGameでも、上位のCore i7-8709Gを搭載したモデルなら、(NVIDIA向け最適化が入ったゲームならともかく)ほぼ同等の結果となったのではないだろうか。
ただ、H31GはHiGameよりふた回りほど筐体が小さいうえにより静かで、ディスプレイ出力が少ないことを除けば、ほぼ同じ拡張性なのだから、やはり驚きだ。
リビングTV用ゲーミングPCとしても、放置ゲーム用PCとしても使えるモデル
製品ラインをはじめた当初は小型筐体でロマンがあったのに、結局性能や実用性を求めすぎるゆえにどんどん肥大化していったシステムはこれまでに幾度なく見てきているが、H31Gはその市場に対し一石を投じる製品だと言える。
もっとも、そのMINISFORMとて、Atom系のCPUを搭載した従来モデルと比較すればH31Gは大型化しているのは否めない。しかしデスクトップCPUとGeForce GTX 1050 Tiを搭載し、合計のTDPが150W達しているに、世界最小となる1.4L筐体を実現しているのは高く評価したい。
設置の自由度の高さと静音性を活かし、リビングのTVで比較的軽量な3Dパソコンゲームを楽しむ、放置しても進行しているゲームを常時起動させておく、使い古したセカンドマシンの置き換えなどに最適なマシンだと言える。