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15万円の「Xperia 1 Professional Edition」はなにがそんなにスゴイのか?
2019年12月2日 11:57
ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社は、Xperiaシリーズフラグシップモデル「Xperia 1」の特別仕様モデル「Xperia 1 Professional Edition」を発売した。
国内では、2019年6月に大手3キャリアからXperia 1が発売済みだが、今回新たに発売されたXperia 1 Professional Editionは、オンライン直販サイトのソニーストアと、銀座、札幌、名古屋、大阪、福岡天神のソニーストア直営店でのみ販売。また、プロのクリエイター向けにディスプレイをチューニングするなどのカスタマイズが行なわれている点も、キャリアモデルと異なる特徴となっている。すでに販売中で、直販価格は157,300円。
ハードウェアの仕様は、海外版デュアルSIMモデルに準拠
まずはじめに、Xperia 1 Professional Editionの基本的なハードウェアスペックを紹介していこう。
表1にXperia 1 Professional Editionのおもなスペックをまとめてみた。比較として国内キャリアモデルのスペックも併記してあり、色をつけた部分がスペックの異なる部分となる。
Xperia 1 Prifessional Edition | Xperia 1 国内キャリアモデル | |
---|---|---|
SoC | Snapdragon 855 | |
RAM | 6GB | |
内蔵ストレージ | 128GB | 64GB |
ディスプレイ | 約6.5型有機EL | |
ディスプレイ表示解像度 | 1,644×3,840ドット、アスペクト比21:9 | |
背面カメラ | 26mm : 約1,220万画素/F1.6 52mm : 約1,220万画素/F2.4 16mm : 1,220万画素/F2.4 | |
前面カメラ | 約800万画素/F値2.0 | |
無線LAN | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | |
有線LAN対応 | ○ | × |
Bluetooth | Bluetooth 5.0 | |
ワンセグ/フルセグ | × | ○ |
NFC | ○ | |
おサイフケータイ | × | ○ |
防水防塵 | 防水 : IPX5/8 防塵 : IP6X | |
生体認証 | 指紋認証 | |
SIMカードスロット | Nano SIM×2 | Nano SIM×1 |
SIMロック | ロックフリー | ロック |
microSDカード | ○(SIM 2スロットと排他) | ○ |
バッテリ容量 | 3,330mAh | 3,200mAh |
OS | Android 9 | |
サイズ | 約72×167×8.2mm(幅×奥行き×高さ) | |
重量 | 約178g | |
カラー | ブラック | ブラック、ホワイト、グレー、パープル |
これを見るとわかるように、Professional Editionでは、内蔵ストレージが128GBに増量されるとともに、SIMロックフリーかつデュアルSIM仕様となっている。国内キャリアモデルは、SIMスロットが1スロットのみで、購入後にロック解除できるとはいえ、標準はSIMロックされた状態で販売されるため、この点は大きな違いだ。
自由にSIMを選んで利用したい人や、海外渡航が多く、海外で調達したSIMを国内SIMと同時に利用したい人などは、この特徴が魅力となるはずだ。
LTEの対応バンドは、Band 1/2/3/4/5/7/8/12/13/17/19/20/25/26/28/29/32/34/38/39/40/41/46/66と非常に豊富(国内使用時はBand 1/3/8/19/26/28/41のみ)。これなら、海外での利用も安心だ。
このほか、ワンセグ/フルセグやおサイフケータイなどの国内向け機能が削除されている。つまり、Professional Editionは海外向けのデュアルSIMモデルをベースとした製品となっているわけだ。とはいえ、ハードウェアスペックは、上記以外については国内キャリアモデルとほぼ違いはない。
サイズは約72×167×8.2mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約178gとキャリアモデルと変わらない。外観の違いは、カラーが国内キャリアモデルでは4色展開となっているのに対し、Professional Editionはブラックのみとなる点や、一部キャリアのロゴ表記の有無ぐらいで、デザインもほぼ同じと考えていい。当然だが、国内キャリアモデル向けに販売されているケースなどの周辺機器も、Professional Editionでそのまま利用可能だ。
サイズや重量が同じということもあり、手に持った印象もまったく違いはない。横幅はそれほど広くないため、手にしてもサイズほど大きいという印象はないが、縦が長いため、上下端付近の操作は片手ではやややりにくい印象だ。加えて、ポケットなどに入れたときにもかさばる印象を受ける。
ハードウェア以外では、プリインストールアプリや標準設定項目などに違いがある。
プリインストールアプリについては、Professional Editionはオープンマーケットモデルとなるため、キャリアモデルで見られる各種専用アプリなどが一切インストールされない。ソニーグループのオリジナルアプリや、Netflix、ゲームアプリなどがいくつかインストールされているものの、キャリアモデルに比べると圧倒的に少なくなっている。
また、初期設定については、側面付近をダブルタップして呼び出す「サイドセンス」や、ゲームや映像などのサウンドに合わせて本体を振動させる「ダイナミックバイブレーション」が標準でオフとなる。逆に、ホーム画面を横向きで利用できる「ホームローテーション」が標準でオンに。さらに、クリエイター向けモデルということで、ディスプレイの画質設定で「クリエイターモード」が標準設定となる点も、キャリアモデルとの違いとなる。
全台ディスプレイのホワイトバランスをキャリブレーションして出荷
Professional Editionは、プロのクリエイターをターゲットとした製品として位置づけられている。そのため、一般向けのスマートフォンにはないこだわりで製品化されているという。そのこだわりのなかでもっとも大きな部分となるのが、ディスプレイだ。
Professional Editionのディスプレイは、キャリアモデルと同じ、表示解像度が3,840×1,644ドット、アスペクト比21:9のHDR対応6.5型有機ELパネルを採用している。アスペクト比21:9で、4K/HDR表示対応の有機ELパネルを搭載するスマートフォンはXperia 1が世界初だった。
その上で、ソニーの大画面TV「ブラビア」シリーズで培った高画質化技術「X1 for mobile」を採用する点は、従来のXperiaシリーズと同様だが、Xperia 1ではさらに、映像制作に関わるクリエイターが意図する色合いを忠実に再現するために用意された表示モード「クリエイターモード」を用意した。
これにより、プロの映像クリエイターが納得する映像表示品質を実現。そのため、Xperia 1の発表当時から、プロの映像製作現場で、撮影映像の色合いなどを確認する「マスターモニター」と呼ばれる基準画面の代わりとして利用することを想定しているとアピールしていた。
ただ、Xperia 1の発表後に、映像クリエイターにXperia 1を提供して試用してもらうなかで、さまざまな要望があったという。その1つが、製品個体ごとのホワイトバランスのばらつきだ。
映像製作の現場では、大勢のスタッフがマスターモニターの映像を見ながら、実際に撮影した映像の色合いなどを細かくチェックするという。マスターモニターは高価でサイズも大きく、たくさんの台数を用意するのが難しいが、コンパクトなXperia 1でそれが代用できるなら、大勢のスタッフそれぞれが、自分の確認したい部分を簡単にチェックできるようになり、作業効率が大きく高まることになる。
実際にXperia 1は、ハリウッドなどの映像製作現場で、カメラのサブ画面や、複数のスタッフが個別に利用する小型マスターモニターとして利用されており、高い評価を得ているとする。ただ、複数あるXperai 1それぞれのホワイトバランスの微妙な違いが、プロの目には気になるとの指摘を受けたそうだ。
そこでProfessional Editionでは、キャリアモデルの特徴をそのまま受け継ぎつつ、全個体でディスプレイのキャリブレーションを行ない、マスターモニターとほぼ同等のホワイトバランスとなるように調整を行なっている。考え方としては、映像クリエイター向けの高品質液晶ディスプレイで、全品キャリブレーションを行なって出荷されるのと同じようなものだ。
採用されている有機ELパネル自体は、キャリアモデルのものとまったく同じで、キャリアモデルでもITU-R BT.2020の色域に対応するとともに、10bitカラー相当の滑らかな階調表現や、D65ホワイトポイントの実現など、マスターモニター同等の表示能力を備えている。しかし、Professional Editionでは実際のマスターモニター同等のホワイトバランスになるようキャリブレーションすることによって、マスターモニターとほぼ変わらない発色を実現したとのことだ。
今回、実際にソニーのマスターモニターとProfessional Editionで同じ映像を表示して違いを自分の目で確認してみたが、まったく違いが感じられなかった。少なくとも測定器でも色温度の違いはほとんどないとのことで、プロも納得の発色が再現できていると考えていいだろう。
ちなみに、ソニーのマスターモニターの価格は1台400万円ほど。それと同等の表示が可能ということを考えると、プロから見てもProfessional Editionはかなりの魅力を備える製品と言えそうだ。
カメラの仕様に変更はないが、アプリの追加でαシリーズとの連携を強化
カメラの仕様は、前面/背面ともにキャリアモデルから変更はない。背面のメインカメラは、26mm/F1.6の標準(広角)レンズ、52mm/F2.4の2倍望遠レンズ、16mm/F2.4の超広角レンズ(焦点距離はいずれも35mm換算)という構成のトリプルレンズ仕様となる。
各レンズの撮像素子の画素数は約1,200万画素と同じで、標準レンズと2倍望遠レンズの撮像素子はデュアルピクセルオートフォーカス対応。また、標準レンズと2倍望遠レンズには光学手ブレ補正機能も搭載。スマートフォン搭載カメラとして世界初の瞳オートフォーカス対応や、最大10コマ/秒のAF/AE連写といった特徴も、そのまま受け継がれている。
前面カメラは、F2.0のレンズに約800万画素の撮像素子となる。
キャリアモデルでは、プロ向けデジタルシネマカメラとほぼ同等のUIを備えて、アスペクト比21:9、24fpsの4K動画を撮影できる専用アプリ「Cinema Pro」の搭載も話題となったが、もちろんProfessional Editionも装備している。
ただし、4K動画を撮影する場合には、本体がかなり発熱する。筆者手持ちのキャリアモデルでは、夏の暑い時期に屋外の直射日光下で4K動画を撮影していると、10分も経たないうちに発熱の警告が表示されることがあった。
今回Professional Editionを試用する場面では、比較的涼しい時期だったこともあり、15分以上の連続撮影でも警告は表示されなかった。しかし、Cinema Proで本格的な動画撮影を行ないたいと考えるなら、長時間の連続撮影を避けたり、本体の熱を逃がす方法を考慮するべきだろう。
ここまではキャリアモデルからまったく変わっていないが、Professional Editionではさらにプロカメラマンが便利に活用できるアプリが新たに追加されている。
それは、ソニーのデジタルカメラ「α」シリーズで撮影した写真をスマートフォンに簡単に転送したり、スマートフォンからαシリーズカメラを操作できる「Imagine Edge Mobile」と、αシリーズで撮影した撮影データに「IPTCメタデータ」と呼ばれるタグ情報を追加して、指定したFTPサーバーにアップロードできる「Transfer & Tagging add-on」の2アプリだ。
これらアプリは、Google Playストアで無償配布しているため、Professional Edition専用アプリというわけではない。しかしProfessional Editionのカメラアプリには、Transfer & Tagging add-onと連携する機能が追加されており、Professional Editionで撮影した写真にIPTCメタデータを追加できるようになっている。この点がキャリアモデルにはない強化点となる。
この強化点については、αシリーズを使っている報道カメラマンなら便利に活用できる。このあたりはプロのクリエイターをターゲットとした製品らしい特徴と言えるだろう。
プロゲーマーの利用を想定し、有線LANアダプタの利用に対応
Xperia 1は、eスポーツのシーンでも活用例が多くなっている。実際に、ソニーモバイルがスポンサードし、Xperia 1を競技用の公式スマートフォンとして認定しているeスポーツイベントも多く開催されている。
ただ、eスポーツイベントなど、シビアな戦いが求められる場面では、無線通信の混雑による影響が無視できなくなってくる。そこでProfessional Editionでは、eスポーツイベントで安定した通信環境を得られるように、新たに有線LANアダプタの利用に対応している。
本体下部側面のUSB Type-Cポートに有線LANアダプタを接続することで、無線LANなどを利用することなく安定かつ低遅延な通信が行なえる。これによって、プレーヤーに平等なプレイ環境を提供でき、プロが集うeスポーツイベントも円滑に運営できるだろう。
ちなみに、利用できる有線LANアダプタはとくに指定されていない。実際に筆者が手持ちのAnker製Gigabit Ethernetアダプタを接続してみたところ、問題なく認識され、有線接続でのデータ通信やゲームプレイが可能だった。
ただ、有線LANアダプタを利用したゲームプレイで1つ気になる点がある。それは、USB Type-Cポートが下部側面にあるため、通常のゲームプレイ環境となる本体横持ちにすると、指の間からケーブルが伸びるかたちになり、かなり邪魔に感じるという点だ。もし今後Xperiaシリーズでeスポーツに特化した製品を出すことになるなら、別途専用の接続端子を用意するなどの配慮が必要となるだろう。
フラグシップモデルらしい性能を発揮
スペック面の違いはほとんどないため、基本的には性能はキャリアモデルから変化はないが、念のためProfessional Editionでいくつかベンチマークソフトを実行したので、その結果を簡単に紹介する。
利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark for Android Benchmark」と「3DMark」、AnTuTuの「AnTuTu Benchmark」の3種類。結果は下の表にまとめたとおりだ。
【表2】ベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark for Android Benchmark | |
Work 2.0 performance score | 8,782 |
Web Browsing 2.0 score | 7,202 |
Video Editing score | 5,608 |
Writing 2.0 score | 10,738 |
Photo Editing 2.0 score | 17,682 |
Data Manipulation score | 6,810 |
Computer Vision score | 5,215 |
TensorFlow score | 174.3 |
Zxing score | 40.82 |
Tesseract score | 990.5 |
Storage score | 8291 |
3DMark | |
Sling Shot Extreme - OpenGL ES 3.1 | |
Overall score | 5,838 |
Graphics score | 6,358 |
Physics score | 4,539 |
Sling Shot Extreme - Vulkan | |
Overall score | 4,740 |
Graphics score | 5,771 |
Physics score | 2,917 |
AnTuTu Benchmark V8.0.2-OB | |
CPU | 130,992 |
GPU | 171,892 |
MEM | 50,638 |
UX | 52,991 |
SoCにSnapdragon 855を採用しているだけあって、結果は十分に優れるものとなっており、フラグシップスマートフォンとして満足できると感じる。これだけの性能が発揮されるなら、最新ゲームも不満を感じることなくプレイできるはずだ。
次にバッテリ駆動時間を検証してみた。今回は、ディスプレイの輝度を50%に設定し、国内キャリアのSIMを装着するとともに無線LAN、Bluetoothともにオンの状態でフルHD動画を連続再生させて計測。結果は、約11時間9分でバッテリ尽きた。
この結果は、とくに駆動時間が長いと感じるほどではないものの、4K有機ELパネル搭載でこれだけの結果なら、とくに不満を感じる場面は少ないはずだ。
ちなみに、筆者が利用しているキャリアモデルでは、ゲームを長時間プレイしないかぎり、1日の外出でバッテリが尽きて困ったといったことは一度もない。もちろん、Professional Editionを試用している間でも、1日の外出でバッテリが尽きることはなかったので、駆動時間が短いと感じる場面はほぼないだろう。
刺さる人にとっては、この上ない魅力のある製品だ
Xperia 1は、近年のXperiaシリーズのなかでもとくに尖った仕様のスマートフォンで、万人受けする製品ではないだろう。ただ、ほかにはないこの尖ったスペックを魅力に感じるユーザー層も確実に存在しており、そういったユーザーからの評価は一様に高い。
その上で、映像製作のプロをターゲットとしたチューニングやアプリを追加することで、さらに尖った製品に仕上がっていると言っていいだろう。プロの映像クリエイターなど、それらが刺さるユーザーにとって、最強のスマートフォンとなるはずだ。
では、一般ユーザーにとってはどうか。プロ向けのカスタマイズは、多くの一般ユーザーにとってそれほど必要なものではない、というのは事実だ。それでも、キャリアモデルと比べると、SIMロックフリーでデュアルSIM対応という点が魅力に感じる人は多いだろう。
また、FeliCaやフルセグ非搭載というように機能が省かれている部分もあるが、それについても好意的に受け取る人は少なくないと思う。そして、大手キャリアの縛りなく購入し利用できるという点は、スマートフォンを自由に使いたいと考える人にとって魅力となるはずだ。
あとは、157,300円という価格に納得できるかどうかだ。通常のスマートフォンと同列で見ると、やはり高いという印象が真っ先に来るのは事実だ。しかし、400万円ほどのマスターモニター同等の表示性能を備えていると考えると、破格とも言える。とにかくProfessional Editionは、通常のスマートフォンの括りで評価できない製品なのは間違いなく、使う人を選ぶ、圧倒的に尖った製品と言っていいだろう。