Hothotレビュー

シングルスレッド性能も期待できる第3世代Ryzen Threadripperをベンチマーク

 11月30日、AMDよりハイエンドデスクトップ向けの新CPU「第3世代Ryzen Threadripper」が発売される。

 今回は、AMDより借用したレビュアーズキットを使って、プラットフォームの刷新を伴って投入されるZen 2世代のRyzen Threadripperの実力をベンチマークテストでチェックする。

32コアと24コアが投入される第3世代Ryzen Threadripper

 11月30日に発売がスタートする第3世代Ryzen Threadripperは、7nmプロセスで製造されたZen 2ベースのCPUダイ(CCD)を4個と、12nmプロセスで製造されたI/Oダイ(cIOD)を合わせた、合計5個のチップで構成されたCPUで、32コア64スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3970X」と、24コア48スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3960X」の2モデルが投入される。

 第3世代Ryzen Threadripperでは、新CPUソケットの「Socket sTRX4」を採用。同CPUソケット向けの新チップセット「AMD TRX40」もCPUと同時に投入される。これらの新CPUソケットとチップセットは、第2世代Ryzen Threadripper以前のSocket TR4やAMD X399との互換性がないため、第3世代Ryzen Threadripperの利用にはSocket sTRX4対応マザーボードを用意する必要がある。

 第3世代Ryzen ThreadripperのI/Oダイは、DDR4-3200メモリの4ch動作やPCI Express 4.0を新たにサポート。CPU内蔵PCI Express 4.0 レーンは合計64レーンで、うち8レーンをAMD TRX40チップセットとの接続に利用しており、残る56レーンをビデオカードやSSDの接続に利用できる。TDPは2モデルとも280W。

【表1】Ryzen Threadripper 3970X/3960Xのおもな仕様
モデルナンバーRyzen Threadripper 3970XRyzen Threadripper 3960XRyzen Threadripper 2990WXRyzen Threadripper 2970WX
CPUアーキテクチャZen 2Zen 2Zen+Zen+
製造プロセス7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O12nm12nm
コア数32243224
スレッド数64486448
L2キャッシュ16MB12MB16MB12MB
L3キャッシュ128MB128MB64MB64MB
ベースクロック3.7GHz3.8GHz3.0GHz3.0GHz
ブーストクロック4.5GHz4.5GHz4.2GHz4.2GHz
対応メモリDDR4-3200 (4ch)DDR4-3200 (4ch)DDR4-2933 (4ch)DDR4-2933 (4ch)
TDP280W280W250W250W
CPUクーラー
PCI ExpressPCIe 4.0 x64PCIe 4.0 x64PCIe 3.0 x64PCIe 3.0 x64
対応ソケットSocket sTRX4Socket sTRX4Socket TR4Socket TR4
価格1,999ドル1,399ドル1,799ドル1,299ドル
32コア64スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3970X」
Ryzen Threadripper 3970XのCPU-Z実行画面
24コア48スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3960X」
Ryzen Threadripper 3960XのCPU-Z実行画面

 第3世代Ryzen Threadripperの製品パッケージに純正CPUクーラーは付属しないが、Asetek製の水冷クーラーをSocket sTRX4に取り付けるためのリテンションキットと、Socket sTRX4にCPUを固定するさいに用いるトルクレンチが付属する。

 なお、Socket sTRX4の形状や仕組みはSocket TR4と同様であり、Socket TR4対応CPUクーラーをそのまま取り付けることができる。第3世代Ryzen ThreadripperのTDP 280Wに対応可能な冷却能力を備えてさえいれば、Socket TR4世代のCPUクーラーが利用可能だ。

第3世代Ryzen Threadripperの製品パッケージ
CPUの製品パッケージには、トルクレンチとAsetek製水冷クーラー向けリテンションキットが付属
新CPUソケット「Socket sTRX4」。Socket TR4との電気的な互換性は失われたが、CPUクーラーの互換性は保たれている

テスト機材

 今回のテストにさいして借用したAMDのレビュアーズキットにはCPU 2個のほかに、Socket sTRX4対応マザーボード「ASUS ROG Zenith II Extreme」と、DDR4-3600対応の16GBメモリ4枚組「CORSAIR CMT64GX4M4Z3600C16」、PCIe 4.0 SSD「CORSAIR CSSD-F1000GBMP600」が同梱されており、第3世代Ryzen Threadripperの検証にはこれらの機材を利用した。

 なお、メモリクロックについてはCPUが公式にサポートする最大クロックであるDDR4-3200に設定し、マザーボードのUEFIにはレビュアー向けの「0601」を適用している。

Socket sTRX4対応マザーボード「ASUS ROG Zenith II Extreme」
DDR4-3600対応の64GBメモリキット「CORSAIR CMT64GX4M4Z3600C16」
PCI Express 4.0対応NVMe SSD「CORSAIR CSSD-F1000GBMP600」

 比較用のCPUには、第2世代Ryzen Threadripper WXシリーズの32コア64スレッドCPU「Ryzen Threadripper 2990WX」と24コア48スレッドCPU「Ryzen Threadripper 2970WX」を用意した。

 そのほかの機材については以下のとおり。

【表2】テスト機材一覧
CPURyzen Threadripper 3970XRyzen Threadripper 3960XRyzen Threadripper 2990WXRyzen Threadripper 2970WX
CPUクーラーNZXT KRAKEN X62 (ファンスピード=100%)
マザーボードASUS ROG Zenith II Extreme (UEFI: 0601)ASUS ROG ZENITH EXTREME (UEFI: 2001)
メモリDDR4-3200 16GB×4 (4ch、16-18-18-36、1.35V)DDR4-2933 16GB×4 (4ch、16-18-18-36、1.35V)
ビデオカードRadeon RX 5700 XT (リファレンスボード)
システム用ストレージCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
アプリケーション用ストレージCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
電源玄人志向 KRPW-GK750W/90+ (750W/80PLUS GOLD)
グラフィックスドライバAdrenalin 19.11.2 DCH (26.20.13031.15006)
メモリアクセスモードDynamic Local Mode
CPUパワーリミットPPT:280W、TDC:215A、EDC:300APPT:250W、TDC:215A、EDC:300A
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 1909 / build 18363.476)
電源プランAMD Ryzen Balanced
室温約26℃
Ryzen Threadripper 2990WXのCPU-Z実行画面
Ryzen Threadripper 2970WXのCPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの実行結果を確認していこう。なお、以降CPUのモデル名についてはモデルナンバーのみを表記する。

 実行したテストは「CINEBENCH R20(グラフ01)」、「CINEBENCH R15(グラフ02)」、「HandBrake(グラフ03)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ04)」、「PCMark 10(グラフ05)」、「SiSoftware Sandra v30.21(グラフ06~11)」、「3DMark(グラフ12~15)」、「VRMark(グラフ16~17)」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク(グラフ18)」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ19)」、「Forza Horizon 4(グラフ20)」、「F1 2019(グラフ21)」、「レインボーシックス シージ(グラフ22)」、「オーバーウォッチ(グラフ23)」、「アサシン クリード オデッセイ(グラフ24)」、「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー(グラフ25)」。

 CPUのCGレンダリング性能を測定するCINEBENCHでは、最新版のCINEBENCH R20と、従来のCINEBENCH R15のスコアを取得した。

 CINEBENCH R20のSingle Coreテストにおいて、516~519を記録した第3世代Ryzen Threadripperが、413~428だった第2世代Ryzen Threadripperを21~26%の差で上回った。動作クロックの向上とアーキテクチャの改善によって、第3世代Ryzen Threadripperが優れたシングルスレッド性能を獲得していることを示す結果だ。

 一方、All Coreテストでは、3970Xが3960Xに約25%、2990WXに約47%の差をつける圧倒的なスコアでトップを獲得。3960Xも第2世代の32コアCPUである2990WXに約18%の差をつけて2番手のスコアを記録しており、コア数が同じ2970WXには約42%の差をつけて圧倒している。

 CINEBENCH R15においても、第3世代Ryzen Threadripperは同じコア数の第2世代製品に対して、シングルスレッドで約2割、マルチスレッドで約4割の差をつけており、最新の拡張命令を使用しないレガシーなベンチマークテストでも、旧世代を圧倒する強力な性能を発揮していることがわかる。

【グラフ01】CINEBENCH R20
【グラフ02】CINEBENCH R15

 動画エンコードソフトのHandBrakeとTMPGEnc Video Mastering Works 7では、x264とx265を使った動画エンコード性能を測定した。

 HandBrakeでは、x264とx265ともに3970Xが最速タイムを記録、3960Xがそれに続く2番手のタイムを記録した。3970Xは第2世代製品より8割前後も高速で、x264では3960Xにも2割程度の差をつけているものの、x265では3960Xとの差はわずか1秒しかついていない。

 これは、1本の動画のエンコードではRyzen Threadripperが備える多数のCPUコアを使い切れていないためであり、第2世代製品がほぼ同タイムとなっているのも同じ理由だ。

 TMPGEnc Video Mastering Works 7では、動画を1本だけエンコードする「通常エンコード」のほかに、バッチエンコード機能を使って4本同時にエンコードを実施したさいの結果も測定した。通常エンコードではHandBrake以上にコア数の差がタイム差に反映されていないが、バッチエンコードでは3970Xが3960Xに13~23%の差をつけている。

 最速を記録した3970Xは、第2世代製品に通常エンコードで約55~97%、バッチエンコードで約72~132%の差をつけた。3960Xも通常エンコードで約50~95%、バッチエンコードでも約52~89%、第2世代製品より高速であり、コア数の差を超えて第3世代Ryzen Threadripperが強みを見せている。

 なお、x264バッチエンコード時に2990WXが2970WXを下回る結果となっているのは測定ミスではない。バッチエンコードでは4つエンコードが個別に実行されるため、メモリ動作モードを自動的に切り替えるDynamic Local Modeが理想的に機能せず、メモリアクセスの優先権を得た2本のエンコードが完了した後に、優先されなかった2本のエンコードを実行する時間が生じる。結果としてCPUコアをフル活用できる時間が限られるため、コア数の優位が発揮されなかったようだ。

 これは、構造的にメモリアクセスの不均衡が生じる第2世代Ryzen Threadripperが抱える弱点が露呈した結果だが、メモリコントローラをI/Oダイに搭載することで各CPUコアのメモリアクセスを均等にした第3世代Ryzen Threadripperでは生じない問題だ。

【グラフ03】HandBrake (v1.2.2)
【グラフ04】TMPGEnc Video Mastering Works 7(v7.0.13.15)

 PCの総合性能を測定するPCMark 10では詳細テストの「Extended」を実行。総合スコアでトップに立ったのは8,575を記録した3960Xで、約1%差で3970Xが2番手につけている。以下、約22%差の2970WX、約26%差の2990WXと続いている。

 シングルスレッド性能がスコアに反映されやすいPCMark 10においては、アーキテクチャの刷新でシングルスレッド性能が向上した第3世代が第2世代製品に明確な差をつける一方で、CPUコア数の差はスコアに反映されていない。あくまで1つのベンチマーク結果だが、一般的なPC用途でRyzen Threadripperクラスのマルチスレッド性能が発揮されるシーンがそれほど多くないことを示唆する結果でもある。

【グラフ05】PCMark 10 Extended (v2.0.2144)

 CPUの演算性能を測定するSiSoftware Sandraの「Processor Arithmetic」でトップスコアを獲得したのは3970Xで、3960Xに約29~31%、2990WXに約24~30%、2970WXに約57~65%の差をつけた。24コアCPUの3960Xのスコアは、第2世代の32コアCPUである2990WXと非常に近いものとなっており、同じ24コアCPUの2970WXには21~29%の差をつけている。

 マルチメディア処理性能を測定する「Processor Multi-Media」では、AVX2の実行速度が向上した第3世代Ryzenがスコアを大きく伸ばしており、トップスコアを記録した3970Xと3960Xの差が約28~33%であるのに対し、2990WXには約21~121%、2970WXには約55~183%という大差をつけている。

【グラフ06】SiSoftware Sandra v30.21 「Processor Arithmetic」
【グラフ07】SiSoftware Sandra v30.21 「Processor Multi-Media」

 メモリ帯域幅を測定する「Memory Bandwidth」では、3970Xが72.75~73.53GB/s、3960Xが74.4~75.37GB/sを記録しており、67.12~70GB/sに留まる第2世代Ryzenよりも帯域幅が向上している。これはメモリクロックがDDR4-2933からDDR4-3200に引き上げられた効果とみていいだろう。

 CPUキャッシュの帯域幅を測定する「Cache Bandwidth」では、第3世代Ryzen Threadripperのキャッシュ帯域幅が第2世代から大きく向上していることが確認できる。また、「Cache & Memory Latency」の結果からは、L2~L3キャッシュとメインメモリにアクセスするさいのレイテンシが短縮されていることもわかる。このあたりの特性は、先行してZen 2を採用した第3世代Ryzenでもみられた特徴であり、アーキテクチャ刷新による改善であると言える。

【グラフ08】SiSoftware Sandra v30.21 「Memory Bandwidth」
【グラフ09】SiSoftware Sandra v30.21「Cache Bandwidth」
【グラフ10】SiSoftware Sandra v30.21 「Cache & Memory Latency (nsec)」
【グラフ11】SiSoftware Sandra v30.21 「Cache & Memory Latency (Clock)」

 3DMarkでは、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Night Raid」、「Sky Diver」の4つのテストを実行した。結果的には第3世代Ryzen Threadripperが第2世代製品を上回るスコアを記録しているものの、Sky Diverでは32コアの3970Xが3960Xを大きく下回り、残る3つのテストでもコア数の優位がスコアに反映されていない。

 Sky Diverでは同じ32コアの2990WXが2970WXを大きく下回っており、24コア超のCPUをうまく扱えないことがこの結果につながっているようだ。ほかのテストについても、CPU性能を反映するCPU ScoreやPhysics Scoreが伸び悩んでおり、32コア64スレッドをフルに活用できていないことが伺える。

【グラフ12】3DMark v2.10.6799「Time Spy」
【グラフ13】3DMark v2.10.6799「Fire Strike」
【グラフ14】3DMark v2.10.6799「Night Raid」
【グラフ15】3DMark v2.10.6799「Sky Diver」

 VR性能を測定するVRMarkでは、もっともCPUがボトルネックになりやすい軽負荷テストのOrange Roomで、第3世代Ryzen Threadripperが第2世代製品を2~3割ほど上回っており、コア当たりの性能が向上したZen 2アーキテクチャの優れたゲーミング性能が発揮されている。

 一方、Cyan Roomでは32コアCPUが明らかに低い性能に留まっている。同じコア数同士で比較した場合、第3世代と第2世代の間には約8%の差がついてはいるが、アプリケーション側のメニーコアCPU対応が不十分だと性能が発揮できない場合がある点は、第3世代も第2世代も変わりないという結果だ。

【グラフ16】VRMark v1.3.2020「スコア」
【グラフ17】VRMark v1.3.2020「平均フレームレート」

 ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークでは、描画設定「最高品質」でフルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。結果としては、フルHDとWQHD解像度で1割弱ほど第3世代Ryzen Threadripperがリードしている。

 性能は確かに向上しているが、同じGPUを利用して先日行なったRyzen 9 3950XのテストではフルHD解像度で17,318を記録しており、これは今回の最高スコアであった3970Xの13,876を約25%上回る。

 FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画設定「高品質」でフルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。こちらでは、各CPUのスコア差は2%以下に留まっており、とくに有意と言えるだけの差はついていない。

【グラフ18】ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
【グラフ19】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク v1.2

 「Forza Horizon 4」、「F1 2019」、「フォートナイト」、「レインボーシックス シージ」、「オーバーウォッチ」の5タイトルでは、描画設定を最高にしてフルHDから4Kまでの画面解像度でのテストに加え、フルHD解像度で描画品質を低くした「高fps設定」でのテストも実施した。

 GPU負荷の高くなるWQHD解像度以上ではCPUの違いによる差はついていないが、フルHD解像度や高fps設定では第3世代Ryzen Threadripperが第2世代を上回るフレームレートを記録しているタイトルが多く、とくに高fps設定では2~3割ほど高いフレームレートを記録している場合もある。

【グラフ20】Forza Horizon 4 (v1.361.362.2)
【グラフ21】F1 2019 (v1.16)
【グラフ22】レインボーシックス シージ (Build 4302347)
【グラフ23】オーバーウォッチ (v1.42.0.0.63778)

 「アサシン クリード オデッセイ」と「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」では、描画品質を最高に設定してベンチマークモードを実行した。

 アサシン クリード オデッセイでは、解像度ごとにやや優劣の一貫性に欠ける結果となっているが、間違いなく有意な差がついているのはフルHD解像度で、ここでは第3世代Ryzen Threadripperが第2世代に10~21%のリードを築いている。この結果から、ゲームによっては60fps付近でも第3世代Ryzen Threadripperが有利になる場合があることを示すものだ。

 シャドウ オブ ザ トゥームレイダーでは、WQHD以上では全CPUがほぼ横並びの結果を記録する一方で、フルHD解像度では8~11%の差で第3世代Ryzen Threadripperが第2世代製品を上回っている。

【グラフ24】アサシン クリード オデッセイ (v1.5.1)
【グラフ25】シャドウ オブ ザ トゥームレイダー (v1.0/build 296.0_64)

システムの消費電力とCPU温度

 アイドル時と各ベンチマーク実行中のピーク消費電力を測定した結果を紹介する。ここで測定した消費電力とは、ワットチェッカーを用いて測定したシステム全体の消費電力だ。

 まずはアイドル時とCPUベンチマーク実行時のピーク消費電力だ。アイドル時の消費電力は第3世代Ryzen Threadripperが105Wで横並びとなった一方、第2世代Ryzen Threadripperは96~98Wを記録しており、第3世代Ryzen Threadripperのほうが7~9Wほど高い結果となっている。

 一方、CPUベンチマーク実行中のピーク消費電力でもっとも高い数値を記録したのは3970Xで、最大値を記録したx264のバッチエンコードでは448Wに達している。3960Xも同じテストで最大443Wを記録しており、どちらもTDP 280Wに違わない大きな電力を消費している。安全な電力供給を行なうためにも、電源ユニットには相応の容量と複数系統のEPS12Vを備えた製品を選びたい。

 また、注目すべき結果となっているのが、CPU使用率が100%に届かないCINEBENCH R20のSingle Coreと、x264の通常エンコード時の消費電力で、これらのテストでは第3世代Ryzen Threadripperのほうが明らかに大きな電力を消費している。これは第3世代Ryzen Threadripperがこれまでよりもアグレッシブなブースト制御によって高クロック動作を実現しているためだ。

【グラフ26】システムの消費電力 (CPUベンチマーク)

 3Dベンチマーク実行中の消費電力でもっとも高い数値を記録したのは、3DMark Fire Strike実行中の3970Xの491Wで、同テスト実行中の3960Xが記録した3960Xの466Wが比較製品中2番目に高い消費電力となっている。

 かなりアグレッシブなブースト動作を行なう第3世代Ryzen Threadripperは3Dベンチマークでも消費電力が高くなりがちで、スコアが振るわなかったVRMark Cyan Roomでも3970Xは2970WXに近い消費電力を記録している。

【グラフ27】システムの消費電力 (3Dベンチマーク)

 モニタリングソフトの「HWiNFO v6.14」を使ってCPU温度「CPU (Tctl/Tdie)」を測定した結果を紹介する。

 CPU負荷にはソースファイルの長さをCPUテスト時の6倍にしたx264のバッチエンコードを利用し、CPUクーラーであるオールインワン水冷クーラー「NZXT KRAKEN X62」のファンスピードを100%と50%に設定したさいのピーク温度を測定した。

 結果としては、3970XのピークCPU温度が83.3~83.9℃、3960Xは79.6~82.8℃を記録した。ファンスピード50%で処理実行中の最低動作クロックは、3970Xが約3,743MHz、3960Xが約3,893MHzであり、いずれもベースクロックを超えるブースト動作を維持している。これはつまり、どちらのCPUも十分以上に冷却できている状態であると言える。

【グラフ28】CPU温度

洗練された設計で汎用性とマルチスレッド性能を兼ね備えた第3世代Ryzen Threadripper

 アーキテクチャとプラットフォームを刷新して投入される第3世代Ryzen Threadripperは、きわめて強力なマルチスレッド性能を実現したCPUだ。第2世代以前のRyzen Threadripperを所有しているユーザーであっても、あるいはそうであればこそ、乗り換えを検討するに値するCPUであると言える。

 第3世代Ryzen Threadripperはシングルスレッド性能も向上しており、3DMarkやVRMarkでは性能を発揮できないケースがあったものの、実際のゲームを用いたテストにおいては高fps設定でも優れた性能を発揮している。マルチスレッド性能一辺倒ではない、多くのシーンで高い性能を発揮できるCPUに仕上がっている。

 とは言え、第3世代Ryzen Threadripperはどちらも高価なCPUであり、その真価を発揮するにはCPUコアを使い切る処理をユーザーが用意しなければならない。メインストリームに強力な第3世代Ryzenが存在することもあり、第3世代になってもRyzen Threadripperが使い手を選ぶCPUであることには変わりない。だからこそ、第2世代以前のRyzen Threadripperを使うほどにCPUパワーを求めるユーザーであればこそ、検討に値するCPUであると言えるのである。

ライブ配信告知

11月26日(火)20時より、改造バカ高橋敏也氏と、KTU:加藤勝明氏がライブ配信で32コア/64スレッドのRyzenThreadripper 3970Xを解説!30日の発売を前に、生ベンチマーク実演を含めた実機の動作をいち早くお見せします。ゲストに日本ギガバイトの渡辺氏をお招きし、対応マザーボードのGIGA-BYTETRX40 AORUS XTREMEも紹介して頂く予定です。