Hothotレビュー
Core m3-8100Y搭載モデルで8型2in1「CHUWI MiniBook」を再評価する
2019年10月23日 11:00
中国CHUWIは、クラウドファンディングサイトIndiegogoで出資を募っていた8型2in1「MiniBook」を出荷開始した。日本国内のクラウドファンディングサイトMakuake分も、2020年初頭に出荷開始する予定だ。
PC Watchでは以前にCeleron N4100版を評価したのだが、今回CPUにCore m3-8100Yを搭載した日本語キーボード搭載版を入手できたので、改めてテストをしたい。Makuakeで現時点で出資可能なCore m3-8100Y/メモリ16GB/ストレージ128GB+512GBモデルの最小出資額は78,130円となっている。
外観は一緒だがそれなりに仕様が変更されているCore m3-8100Y版
まずは外観と仕様の違いについて見ていく。パッケージはN4100と同じくしてシンプルな箱に入っており、特筆すべき点はない。CHUWIのコストパフォーマンスを追求した姿勢は変わらないと言っていいだろう。
付属するACアダプタは、USB Type-Cケーブル一体型で12Vしか出力できないタイプ(しかもPSEなし)のものから、ケーブルとアダプタ部が分離していて、複数の電圧で出力が可能なPSEマーク(届出事業者はMarshal)つきのモデルに変更された。PSEつきになったのは、日本のユーザーにとって嬉しいポイントだろう。
なお、このアダプタをテスターで調べてみたところ、USB PD 3.0に加え、Apple、Samsung、Battery Charge 1.2、VIVO Dual Flash、Quick Charge 2.0/3.0、Samsung AFC、さらにFCPおよびSCPという、かなりのプロトコルを網羅するものとなっていることがわかる。つまりUSB PDの仕様に準拠していない点に注意されたい。N4100の量産モデルもこのACアダプタになるかどうか不明だ。
本体に目を移すと、今回送られてきたモデルが日本語配列であるという点を除いて、デザイン上に大きな変更はない。ぱっと見た感じでは、N4100と8100Y版の区別はできない。
ただ、機能面では大きな隔たりがある。たとえばクラウドファンディングのストレッチゴール達成で新たに実装されると発表されたデジタイザペンへの対応については、8100Yのみの特権で、N4100モデルには実装されない。このあたりは情報公開時にもう少しクリアにしてほしかった。
また、指紋センサーについては同じFocalTech製の電源ボタン一体型のものが採用されているのだが、N4100モデルはWindowsのログイン画面でないと認証できないのに対し、8100Y版は電源ボタン押下と同時に指紋情報を一時的に保持し、Windowsログイン画面になると自動的にその情報を引き渡すタイプとなっていた。よって、利便性は8100Yモデルのほうが圧倒的に上だ。
Celeron N4100版とは細かい点でかなり相違点が。騒音はかなり増大
続いて使い勝手を見ていきたい。と言っても、筆者はすでにCeleron N4100を搭載した英語キーボード版を評価しており、おおまかな使い勝手の変更はない。1,920×1,200ドット表示対応で見やすい8型液晶、Continuum対応センサーの内蔵、Webカメラの内蔵、8型ながら19mmフルピッチを確保したキーボード、光学式ポインティングデバイス、ステレオスピーカーといった特徴は共通で。
あえて相違点を挙げるとすれば、M.2 SSDスロットがNVMeに対応した点と、1,024筆圧レベルのペンに対応した点、そして先に述べたとおり指紋センサーの使い勝手が改善された点だ。
M.2 SSDのNVMe対応は、ハイエンドユーザーにとって福音だろう。ただし本製品のM.2スロットは2242タイプ、すなわち42mmのカードしか刺さらず、かつNVMe接続となると選択肢はかなり限られる。日本国内だと、Netacの「N930ES」、KingSpecの「NE」シリーズなどが入手しやすいだろう。もっとも、Core m3-8100Yの性能や製品の用途を考えると、SATA接続SSDのほうが他パーツとのバランスが取れるだろう。
ペンについては今回試作機には付属しなかったが、過去にテストした「Hi13」のものを転用できた。これは、本機はタッチパネル/デジタイザともにHi13と同じGoodix製のものを使っているためだ。タッチの精度については申し分ないが、ペンの精度は相変わらずで画面端のほうはイマイチ。メモ書き用、もしくは根性のあるクリエイター用と割り切ったほうがいいだろう。
ちなみにキーボードの奥にロゴの表記がないLEDインジケータが2つあるが、右は電源インジケータ、左はCapsLockインジケータである。いずれもブルーに発光する。
Celeron N4100モデルからCore m3-8100Yモデルになったことで体験できる最大の違いは騒音だ。スペック上、Celeron N4100はTDPが6W、シナリオ・デザイン・パワー(SDP)が4.8W。一方Core m3-8100YはTDPが5Wだが、上限は8W、下限は4.5Wとなっている。TDPの数字上はCeleron N4100のほうが1W多いが、実際はCore m3-8100Yのほうがはるかに発熱が大きい。
CINEBENCH R20実行中にIntel Extreme Tuning Utilityで監視してみたところ、Core m3-8100Y版は最初の2.7GHzのTurbo Boost終了後、2.3~2.4GHz前後の周波数で推移し、8Wのパッケージ消費電力を維持していた。このため1分過ぎたあたりからファンの回転速度が上昇し、2分後にはかなり耳障りな騒音、テスト終盤ではかなりうるさくなった。
もともとCeleron N4100版の低回転数時でも、ファンの軸音が気になっていたが、回転数が上がらず一定で回していても正常動作温度を保てた。一方、Core m3-8100Yでは回転数が上昇するので、騒音がさらに顕著になる。それほど静かではないオフィス内でもはっきり聞こえてしまうほどだ。
GPDやONE-NETBOOKなどの競合製品は、ファンの軸音よりは風切り音のほうが大きいが、本製品は風切り音より軸音のほうが大きい。小型化のため致し方ない部分もあるのだが、ONE-NETBOOK、GPDともに静音モードが用意されているのがせめてもの救いなのだが、一方で本機にはそのような仕組みがないため、騒音については我慢するしかない。
キーボードのタッチは秀逸だが、日本語配列の必要性については疑問が残る
キーボードについて、配列が英語から日本語になったこともあり、改めて評価しておこう。大まかな使い勝手についてはCeleron N4100版から変更はなく、硬すぎず柔らかすぎず、クリック感の強いキーボードは秀逸だ。8型という制限のなか、主要キーで19mmのピッチを確保している点も素晴らしい。現存するUMPCカテゴリのなかで一番完成度が高いのは間違いない。
さて、もともとニッチなUMPC市場であるにもかかわらず、わざわざ日本語配列のキーボードを用意している点には、頭が下がる思いしかないが、配列を追っていくとしよう。
まず目立つのは「ね」、「る」、「め」の3文字はキーは幅8.5mmと小さくなり、アイソレーションではなくなって、かつ「ろ」はEnterの下に配置されている点。この列に関してはレイアウトを維持しているが、3文字だけかなり窮屈、といったところ。とくに動詞を締めくくり、かつShiftキーと同時押しで出力される「。」が多用される「る」が真ん中なのはツライところだ。
本来「り」の右側にある「れ」と「け」は、カーソルキーの左右に割り振られている。こちらのキーの幅は11mmと、「ねるめ」と比較して余裕がある。一方「わ」の右側にある「む」、「ほ」、「へ」は、それぞれ「ゆ」、「よ」、「わ」の上に割り振られている。こちらのキーの幅は15mmと、主要キーの15.5mmからわずかに小さいが、奥行きは9.5mmと短い。また、Qの列にあるべき濁音と半濁音は、それぞれ「お」と「や」の上部に配置される。
もっとも日本語かな入力をするうえで致命的なのは、ぬ~わの列のキーの奥行きが9.5mmと、そのほかのキーの15.5mmと比較して約4割弱短い点だろう。ローマ字入力なら数字の列を使う頻度がかなり低いが、かな打ちではそのようなこともない。とくに使用頻度が高そうな「う」もその列に入っているのは残念だ。
MiniBookは英語配列に特化した配列設計(主要キーピッチ19mm)なわけだが、逆に言えばかな入力には適していない。もしかな入力に最適化するのなら、まったく違うキーボードに仕上げるべきだろう。
その一方で、もう少し楽観的な見方をすると、日本語キーボード版は数字キーとShiftキーのコンビネーションで入力できる記号や、「@」記号を単体で用意しているなど、普段日本語キーボードでローマ字を入力するユーザーに馴染みやすい側面もある。おそらくCHUWIの真のターゲットはここだろう。ともすれば、かな表記を省いてスッキリとさせたキートップがあっても良かったのではないかと思う。
なお、日本語キーボード版には、英語キーボード版にはない「PrtSc」キーがあり、Fnキーと「ろ」の同時押しで動作する(英語キーボード版はShiftキー)。ただ、このPrtScはWindowsキーと同時押しで動作しない点には注意されたい(つまりFn+Windows+ろで画面全体をキャプチャして保存できない)。また、Insert/Pauseキーは半角/全角となり、InsertはFn+Deleteで動作するようになったと思われるが、試作機ではInsertが機能しなかった(大半の人は不要だと思うが)。
eMMC搭載ながらNVMe SSD採用モデルと遜色ない総合性能を発揮
それでは最後にいつものベンチマークで性能を見てみたい。Celeron N4100版に加え、OneMix 3とGPD P2 Maxの結果も加えてある。OSはOneMix 3とCeleron N4100版のみWindows 10 Home 1809、残りは1903ベースの計測である。
結果を見ればわかるとおり、本製品はとくにGPU周りの性能を中心にCeleron N4100版と大きな差をつけている。また、CPUのマルチコア性能こそCeleron N4100版に肉薄されるが、シングルコア性能が重視されるPCMark 10などでも大きな差をつけている。
MiniBookのストレージはeMMCのため、そこでOneMix 3やGPD P2 Maxに水を開けられてしまっている。これは大きなファイルを保存するPCMark 10の「Video Editing」の項目でも差は顕著だ。その一方で本機は液晶解像度がWUXGAで、P2 MaxやOneMix 3のWQHDより低く、それに伴いGPU負荷も軽減されるため、一部スコアでは競合を引き離している。
誤差のため今回は掲載していないが、MiniBookは本体が完全にクールダウンした起動直後にCINEBENCH R20を実施すると、スコアが600を超えることもあった。これはP2 MaxやOneMix 3では再現できなかったスコアだ。ファンの騒音がやや大きい分、回転数が高く冷却性能が高いため、性能が若干有利になると予測される。
なおバッテリ駆動時間だが、輝度50%、キーバックライトオフ、高パフォーマンス設定、無線LANがオンの状態で、PCMark 10のModern Officeで計測したところ、残量100%から4%まで約3時間54分駆動した。Celeron N4100版よりだいぶ短くなったが、性能が向上とのトレードオフといったところだ。
悩むCeleron N4100版との選択
MiniBookはすでに国内のMakuakeでクラウドファンディングを開始している。10月21日時点で入手できる最廉価のCeleron N4100版は、メモリ8GB、ストレージに128GB eMMC+256GB SSDを搭載し、レザーカバーが付属した仕様で57,085円。一方Core m3-8100Y版はメモリ16GB、ストレージに128GB eMMC+512GB SSDを搭載し、レザーカバーやペンが付属しない仕様で78,130円となっており、約22,045円の差がある。
両モデルの大きな違いはシングルコア性能、GPU性能、メモリ/ストレージ容量、ペン対応の有無となるわけだが、総合的に考慮するとやはり8100Y版のほうがお買い得感が高い。メインPCを所持していて、それとほぼ同じ性能をモバイルしたいのなら、8100Y版をおすすめとしたい。
その一方で、8100Y版は騒音とバッテリ駆動時間がトレードオフとなっており、オールマイティーに対応できる純粋な上位モデルと断言はできず、N4100版の存在価値がないわけではない。テキスト入力や軽作業がメインならN4100版、画像編集を含めて快適に使いたいなら8100Y版といったように、自分の使い方を改めて分析し、どちらに出資するか判断したほうがよいだろう。