Hothotレビュー
普通のマウスよりもスイッチが3倍速くて重量も69gしかない「Razer Viper」で新感覚を味わってみた
2019年9月6日 11:00
光学式スイッチ採用の軽量ゲーミングマウス
Razerが8月22日に発売した新型ゲーミングマウス「Razer Viper」には、2つのユニークな点がある。
1つは、本体が69gと軽量であること。マウスが軽ければ動き出しが速くなり俊敏な操作が可能になるし、長時間の使用で知らず知らずたまる疲労も少なくて済むはず。
もう1つは、マウスの左右ボタンに光学式のスイッチを採用した点。従来のマイクロスイッチは物理的な接点があったが、本機は赤外線をシャッターで開閉することで信号を得る。これによって高速応答性と高耐久性を備えたという。Razerの公式Facebookでは、この光学式スイッチについて解説した動画が掲載されている。
説明を聞いていると従来とはレベルの違う製品のように思えるが、滑らせて使うマウスが数十グラム軽いからといって、どこまで差があるものか。また光学式のスイッチは、Razerは「応答速度は最高速で0.2ms、これは従来のメカニカルスイッチの3倍の速さ」としているが、1msに満たない世界ははたして体感できるのか。
マウスの使い勝手は、軽さやスイッチだけでは決まらない。税別で8,980円の価格に見合った製品かどうか、実際に使ってチェックしてみたい。
軽さはゲームでもオフィスでも圧倒的なメリットになる
まずは「Razer Viper」のスペックを見ていこう。
【表】Razer Viperのスペック | |
---|---|
解像度 | 100~16,000dpi(50dpi刻み) |
最大速度 | 450ips(11.43m/s) |
最大加速度 | 50G |
スイッチ耐久性 | 7,000万回 |
ボタン数 | 8(すべてプログラム可能) |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 66.2×126.73×37.81mm |
ケーブル長 | 2.1m |
重量 | 69g(ケーブル含まず) |
税別価格 | 8,980円 |
解像度は最大16,000dpiで、最近のゲーミングマウスとしては標準的。最高の16,000dpiを使用する人は少ないと思うが、筆者のようにOS側のマウス速度を下げて、マウスの解像度を高めにするのが好きな人なら、好みのフィーリングを探す幅が広がるという意味はある(ちなみに筆者は2,000dpiで使用)。
左右対称の形状で、ボタンは左右クリック、ホイール、サイドボタンが左右それぞれ2つずつ、底面のDPI切り替えで計8つ。ホイールはやや大きめで、表面はデコボコしたラバー素材になっている。回転は比較的軽めで回しやすい。
本製品の売りである69gという軽さに対して、本体サイズは標準的。持ったときの感覚は、筆者が普段使う約110gのゲーミングマウス(ロジクール G9x Laser Mouse)とはまったく違い、素直な印象として「中身がスカスカなのでは?」と感じる。ただ筐体がヤワで頼りないということはなく、どこかにたわみやズレを感じることもない。
ちなみにG9x Laser Mouseは2009年発売の年代物なわけだが、チャタリングを起こしても修理して使っているほど気に入っている。そのさいのレポートも記事化されているので、よければご覧いただきたい(チャタってしまった10年物マウスが3,000円で完全復活!)。
Viperはボタン部分を含めた筐体表面が適度なざらつきのあるプラスチック素材で、側面はラバー素材が貼られている。軽いことも相まって、持ち上げたときのホールド感はとてもいい。ここでふと筆者愛用G9x Laser Mouseを持ち上げると、「え、こんなに重かった?」と驚いたほどだ。
マウスが軽いということは、長時間の利用のさいにも疲労度が下がるはず……と最初に書いたのだが、それどころではない。マウスをちょっと持ち上げるときの動きの快適さがまったく違う。ゲーム中の快適性や俊敏性もさることながら、オフィスワークでもちょっとしたマウスの上げ下げがぐっと快適になり、作業のストレスが想像以上に下がっているのを感じる。長時間の仕事ならなおさらだ。
ゲーミングマウスが世に出始めたころには、マウスのなかにウェイトを入れて重量バランスを調整するものが多くあった。筆者はどちらかと言えば軽いほうがいいのであまり使わなかったが、そういう意味でも本製品が筆者のフィーリングに合ったというのはありそうだ。何にせよ、軽いゲーミングマウスを使ったことがない人にはぜひ一度体験してもらいたいと強く思う。1時間も使ったら、もうもとのマウスには戻れない(これは借り物なので返却せねばならないが……)。
高速応答性はゲームにどれだけのメリットになるか
次はもう1つの注目点である光学式スイッチ。センサーに物理的な接点がないことで、高速応答性と高耐久性を実現したという。ボタンを押してシャッターを開くという可動部分は存在するので、無限の耐久性が得られるわけではない。それでもスイッチの接点不良や静電気による影響などは出ないはずで、一般的なマウスよりは耐久性が上がると思われる。もっとも、まだ知られていない光学式ならではの弱点はあるのかもしれないが……。
スイッチがまったく違うものになって、クリック感はどうなったのか。一言で言えば、まったく違いがわからない。通常のマイクロスイッチと同じくカチカチというクリック感があり、押し込みが浅いというわけでもない。これはスイッチの仕組みよりもボタン部分の設計の都合なのだろう。もっと静かな感触でもよかったと思うが、何にせよ従来のマウスとなんら違いを感じない。
言い方を変えれば、ユーザーとしては、光学式スイッチだと身構える必要はなにもない。「なんだか新しい仕組みで、今までよりすごいらしい」くらいのアバウトな認識で使用しても差し支えない。
では高速応答性についてはどうなのか。公式発表として、「最高で従来の3倍速い0.2ms」としているので、計算すると最高で0.4ms速く入力できるということになる。0.4ms、すなわち1万分の4秒は、その間隔で連打すれば秒間2,500回になる速さだ。
もう少しゲーマー的に踏み込んで考えてみる。よく言われる1フレームは60分の1秒。これに対して、0.4ms入力が速くなった場合に、その入力が1フレーム先行できる可能性は、1フレームの時間に対して0.4msがどのくらいの割合になるかで求められる。
(4/10,000)÷(1/60) = 0.024
つまり、2.4%の確率で入力が1フレーム速くなる。こうなると結構バカにできない数字に見えてくるが、そもそもの数字が通常のマイクロスイッチにおけるワーストケースを想定しているので、実際にはもっと小さな差になるとは思われる。それでもeスポーツなどのシビアな環境では無視できない値だ。
念のため、マウスのクリック反応速度を計測できるアプリを使い、本製品とG9x Laser Mouseでかわるがわる繰り返し計測してみたところ、平均時間は1msだけ本製品のほうが速かった。スイッチのおかげとも誤差とも見える程度の違いで、最大0.4msの違いを測るテストには不向きだ。ただスイッチ部分以外の設計でクリック速度が落ちるようなことはないと確認はできた。
左右対称で左利きにもスムーズに対応可能
軽さと光学式センサーという2点について評価してきたが、ここからはそれ以外の部分にも目を向けていく。まず最初にパッケージから取り出して感じたのは、本体の軽さはもちろんだが、ケーブルがとても柔らかいこと。
このケーブルは「Razer Speedflex」と名付けられている。網組で耐久性を高めたケーブルは、硬くて曲がりにくいという印象があるが、このケーブルはとても柔らかくてよく曲がる。網目がとても細かく、網組の被覆と内部ケーブルの間にやや空洞があるような感触がある。硬いケーブルは押されたときにばねのように反発して、マウスが余計な動きをすることがあるが、このケーブルでは本体が軽量にも関わらず、そういったことは起きなかった。
次に本製品をPCのUSB端子に挿し込んで、公式サイトにドライバを取りにいこうか……と思ったら、勝手にダウンローダが起動して最新のドライバを取ってきてくれたので手間いらずだった。
接続が終わって手に持ってみる。左右対称の筐体に、サイドボタンも左右に2個ずつある。またサイドボタンを含むすべてのボタンは、ドライバとともにインストールされる「Razer Synapse」で機能を変更できる。小指側になるサイドボタンを無効化すれば誤操作も発生しないし、左利き用に左右のクリックの機能の入れ替えも簡単にできる。すべてのボタンはマクロなどの特殊機能を好みに応じて割り当ても可能だ。
「Razer Synapse」による設定も便利。解像度の設定を100~16,000dpiまで、X軸とY軸を個別に50dpi刻みで変更でき、5つの解像度をプリセットしてマウス底面にあるボタンで切り替えられる。
またマウスパッドに合わせてセンサー精度を上げる補正機能もあり、Razer製のマウスパッドは設定がプリセットされているほか、そのほかのマウスパッドも簡単な操作で補正ができる。リフトオフディスタンス(マウスが机などの表面から離れたと認識する距離)の設定も可能だ。
本体のロゴ部分に仕込まれたLEDの色や光り方もカスタマイズできる。光らなくていいという人は消灯も可能だが、使用時は手で隠れるロゴ部分以外は発光しないので、動作確認程度に光らせておくといい。ほかにもプロファイル機能を使えば、特定のゲームを起動したときのマウス設定や光り方などを自動で呼び出すこともできる。さすがは長年ゲーミングデバイスを手掛けてきただけあって、ソフトウェアも洗練されている。
使い慣れたマウスよりもFPSのスコアが向上!
続いては、いくつかのゲームを試してみた。まずはFPSのエイミングトレーニングソフト「Aim Lab」で、基本となる「Spidershot」をプレイ。ちなみに筆者は最近、あまりシビアなエイミングが求められるFPSをプレイしなくなっていて、昔よりエイミングが下手になっている上に、やたら腕が疲れた。
G9xと交互に持ち替えながらプレイしていると、最初はやはり普段使っているG9xのほうが快適に感じた。しかし3周目にもなるともう疲労を感じてきて、マウスを動かす手が重く感じるように。こうなるとViperの軽さが強みになり、操作がとても楽に感じられた。
結果を比較してみると、G9xでは最初のうちは反応速度と正確度が悪く、だんだんと上がっていく傾向があった。しかしViperでは、最初から反応速度と正確度が高く、回数を重ねても安定していた。最後の試行では反応速度と正確度はどちらも同等の結果になったのだが、スコアは常にViperが1割ほど上回っていた。
筆者が長年使っているマウスよりも、Viperのほうが高いスコアが出続けたことには驚いた。筆者にはその軽さが合っているということだろうが(筋力の衰えを感じて悲しい)、最初からスコアが安定していたというのは、実はマウスの重さに体が馴染むまでに毎回時間がかかっていて、軽いと馴染む時間が要らないのかもしれない。
ほかのゲームも試してみた。FPSほど繊細なマウス操作が求められないアクションゲームの「Diablo III」だと、どちらのマウスを持ってもマウスカーソルの動きの違和感はほぼない。しかし軽さは明確に違い、滑りの良さと持ち上げるときの軽さのおかげで、操作は快適に感じられる。またRazer Synapseにゲームを登録しただけで、マウスのロゴの光がDiablo IIIのイメージカラーである赤に固定されるようになっているのもおもしろい。
普段からFPSを遊び慣れている方や、筋力に自信のある人は重いマウスのほうがいいかもしれないが、筆者のように筋力に自信がない方、あるいは女性には軽いマウスは恩恵が大きいかもしれない。好みや個人差は大きいと思われるが、これだけ重さに違いがあるなら試す価値は十分にある。
万人にすすめたいオールマイティさだが、地味なのが弱点?
ここまでの原稿を書く間も本製品を使用しているが、やはり軽量である点はとてもすばらしい。一時的な使用なのでケーブルの取り回しも乱雑にしているが、ケーブルが柔らかいおかげで操作になんら支障をきたさない。軽くとも堅牢な筐体で、すぐ壊れそうなもろさはまったく感じられない。軽量のコンセプトを守りつつ、ゲーミンググレードなりの高品質もしっかり保った、よくできた製品だ。
ネガティブに感じる点があるとしたら、クリック音がカチカチとやや大きめなこと。従来製品と比べて違和感がないものを設計したのだと思うが、今後はもっとユニークなタッチの製品が出てきてもいいのではないかと思う。
また本体の軽さは、さんざん書いてきたようにとても大きなメリットではあるのだが、持ったときの軽さからくるスカスカ感はオモチャっぽく、安っぽい印象を抱かせる点は否めない。税込で1万円近い製品なりの、小さなところに部品を詰め込んだデジタルガジェットならではの重みというのはない(それこそが本製品の価値なのだが)ので、そこを理解できている人が本製品を選んでほしい。
なにが言いたいかというと、本製品はなんの前情報もなく、たださわっただけだと、その価値がとてもわかりにくい。単に軽いだけのマウスならゲーミング以外の製品で安いものが山ほどあるし、先進的な光学式スイッチも、何気なくさわって違いに気づく人はおそらく誰もいない。左右対称の形状も、右利きの人にはさしたる魅力ではない。先進的な製品にも関わらず、店頭でほかの製品とむき身で並べられると、じつに地味なのだ。
軽量で左右対称なので誰にでもすすめられるが、光学式スイッチやゲーミンググレードのセンサーなどの意味を理解して、はじめて値段以上の価値が感じられる。本製品の魅力が少しでも多くの方に理解してもらえるようにと切に願って、この記事をお届けしたい。