Hothotレビュー
テキスト入力が捗るE Inkの13.3型ディスプレイ「Paperlike HD」を使ってみた
2018年8月31日 11:00
「Paperlike HD」は、13.3型のE-Ink電子ペーパーを採用した、HDMI接続のモノクロディスプレイだ。バックライトのない反射型画面ゆえ目が疲れにくく、PCのサブディスプレイとして、テキスト入力やコーディングに最適としている。
この「Paperlike」シリーズは、2016年にIndiegogoで出資を募るところからスタートした製品で(世界初のPC用13.3型E Inkディスプレイ参照)、初代モデルは目標額の12倍もの資金調達に成功。その後モデルチェンジを重ねて、現在にいたっている。発売元は中国Beijing Dasung Tech(以下DASUNG)だ。
今回の「Paperlike HD」は、中国で「Paperlike 3」として発売済みの製品で、国内ではE Ink汎用タブレット「Boox」シリーズと同じSKTが代理店として取り扱う(コーディングや長時間のWebブラウズ向けの13.3型E-Inkディスプレイ参照)。今回、機材を借用できたのでレビューをお届けする。
HDMI接続の13.3型ディスプレイ。アスペクト比は4:3
まずはざっと製品の特徴を紹介しておこう。
PCとの接続はHDMI。初代「Paperlike」はUSBディスプレイとして世に出たが、本製品はそうではないので注意が必要だ。付属のケーブルは本製品側がMini HDMI、PC側がHDMIおよびUSBの二股で、USBポートからの給電で動作する仕組みだ。
画面サイズは13.3型で、アスペクト比はこのサイズのディスプレイにはめずらしい4:3。解像度は2,200×1,650ドット(207ppi)で、そのまま等倍で表示すると文字サイズが小さすぎるので、表示を200%にした上で実質1,100×825ドットで使ったほうが、テキスト入力などでは快適に利用できる。詳しくは後述する。
画面にはE Ink(Carta&フレキシブル)を採用する。バックライトは搭載しないので暗所での利用には向かない。またタッチ画面も搭載しない。
画面左下には3つのボタンと、2つのサブボタンを搭載している。左端の「C」ボタンは残像を消す(Clear)ためのボタン、中央の「M」ボタンは後述する動作モードを切り替える(Mode)ためのボタンだ。ちなみに「C」ボタンと「M」ボタンを同時に押すと本体の再起動も行なえる。
「C」ボタンの上下にある三角形の2つのボタンは、コントラスト調整のボタンで、コンテンツに合わせてコントラストを変更できる。右端にあるのは電源ボタンで、これのみPC本体に付属ソフトをインストールしなくても動作する。そのほかのボタンは付属ソフトなしでは動作しない。
背面にあるネジ穴には、スティック状のスタンドを差しこむことができるが、見るからにひ弱な構造である上、角度の調整もできないことから、個人的には利用をおすすめしない。本製品の重量(650g)に耐えられるタブレットスタンドを、別途調達したほうがよいだろう。
背面には、VESAマウント75mmの穴が開いており、ディスプレイアームに取りつけることも可能だ。100mmではなく75mmを採用するのはめずらしいので、VESAマウント対応のアームを選ぶにあたっては、対応をきちんと確認したほうがよいだろう。
表示する対象によって複数のモードを切り替えて利用
本製品はE Ink電子ペーパーを採用しているとはいえ、製品自体はごく一般的なHDMI接続のディスプレイなので、HDMIケーブルを接続するだけで表示が可能だ。USBディスプレイではないため、PC起動時にBIOS画面を表示するプライマリディスプレイとして使えるのも利点だ。
ただし、単に接続しただけでは、E Inkならではの残像が残り続けるので、リフレッシュなどの設定が行なえる付属ソフトをPC側にインストールしてやる必要がある。これによって残像がクリアできるようになるほか、本体の画面左下にある各種ボタンが使えるようになる。
さて、本製品を使いこなすには、2つのモードについて知っておく必要がある。まず最初に起動した段階では、「Variable resolution mode(以下Variableモード)」という、デバイスに合わせた可変解像度のモードで起動する。本製品はアスペクト比4:3なので、ワイド画面のノートPCにつなげた場合、このモードで、上下に黒帯が入った状態で画面の複製が表示される。
その後、Windows側のディスプレイ設定を「複製」から「拡張」へと変更すると、もう1つのモードである「1100*825 A5 mode(以下1100×825モード)」が選べるようになる。これは本製品の解像度(2,200×1,650ドット)のちょうど半分に当たる1100×825ドットに解像度を固定したモードで、言うなれば本製品のポテンシャルを最大限に活かすためのモードだ。
そしてこの「1100×825」、「Variable」という2つのモードの下に、子モードとでも呼ぶべき各3つの選択肢がある。それぞれの特性をざっとまとめると以下のとおりだ。公式なものではなく筆者の見解をまとめたもので、言い回しもわかりやすさを優先しているので、そのつもりで見てほしい。
1100*825 A5 mode(解像度固定) | Variable resolution mode(解像度可変) | 特徴 | |
---|---|---|---|
4階調? | A5 | Floyd | バランス良し、A5モードは全モード中もっとも高速 |
白黒2値 | A2 | A2 | 高速だが階調なし |
グレースケール | A61 | A16 | 階調表現に強いが低速。A61は階調なめらか、A16は階調に段差あり |
「A5(Variableモードでは「Floyd」)」はもっともバランスが取れたモードで、階調もそれなりに表示でき、なかでもA5モードは全モードのなかでも最高速とされる。ちなみに「A5」は白黒4階調のようでグラデーションに段階があるが、「Floyd」は点描のようなパターンでグラデーションを表現しており、描写力はこちらのほうが高い。
「A2」は名前からもわかるように白黒2値で、「1100×825」、「Variable」どちらでも利用可能だ。中間調が完全に飛んでしまうため漢字変換の候補が著しく読みにくくなったり、テキスト選択時に反転表示にならずに真っ黒に塗りつぶされるなどの弊害があり、使いどころが難しい。レスポンスもメーカーいわく前述のA5モードのほうが高速とのことで、出番があるとすれば、なんらかの事情でA5およびFloydモードが使えない場合のみだろう。
「A61(Variableモードでは「A16」)」はグレースケールで、階調表現には優れるがレスポンスが遅く、画面に入力した文字を目で追いながら続きを入力するという一般的な操作に向かない。マウスポインタの追従性も低く、スクロールもコマ送りのようになるので、用途としてはグラフィカルな資料を表示しておき、ごくたまにページをめくるといった用途くらいだろう。
これら各モードごとのレスポンスについては、やや数が多くなってしまうが、実際の動画を見てもらうのがよいだろう。いずれも「マウスポインタで円を描く」および「画面をスクロールする」デモを連続して行なっている。前述の画質比較で評価の高いモードほど、レスポンスが遅いことをご理解いただけるはずだ。違いがわかりやすいのは、A5とA61あたりだろうか。
なお「A5」および「A2」モードにかぎり、本体の+-ボタンを使って、コントラストの調整が9段階で行なえる。画像が潰れて背景に溶け込んでしまったときに全体を明るくしてディティールを浮き上がらせたり、シンタックスハイライトの色の区別がつくように濃淡を調整するなどの用途に使える。
このコントラストの設定は、起動中のソフトごとに自動的に切り替えることも可能だ。たとえばテキストエディタを起動したさいはコントラスト「5」、ブラウザだとコントラスト「2」といった具合だ。本製品に表示するソフトが決まってくれば、それぞれについて設定しておくとよいだろう。
E Inkらしからぬ高速なレスポンス(ただしモードによる)
ここまで本製品のモードを紹介してきたわけだが、本製品は表示するコンテンツに応じ、これらの表示モードを切り替えて使うことになる。切替操作は、本体の「M」ボタンか、もしくは付属ソフトで行なう。
モードごとの用途は、特性を考えるとおおむね決まってくるだろう。たとえば、テキスト入力などレスポンスを優先するのであればメーカーが最速をうたっている「A5」、Webの表示は、スクロールが必須で、かつ最低限の濃淡が必要なことを考えるとこちらも「A5」か、あるいは「Floyd」だろう。
一方、グラフィカルな資料を参照するならば、階調表現が得意な「A61」、「A16」が適するが、こうした資料の参照用途で本製品を購入するニーズは少ないはずで、となるとA5モードを基本線に、必要に応じモードを切り替えて使うというのが、多くのユーザーに共通する使い方になるだろう。
ちなみにレスポンスだけで言うと、A5>A2(1100×825)>A2(Variable)>Floyd>>>(越えられない壁)>>>A16>A61といったところで、全体的に1100×825モードのほうが高速だ。よほどの事情がないかぎり、Variableモードは使わなくてよいのではという気がする。
では実際、どのくらい「使いものになる」のだろうか。筆者は職業柄、こうした表示装置の評価にシビアなほうだが、最速のA5モードを使うかぎり、原稿やレポートの執筆、テキストの推敲などの用途にはじゅうぶん利用でき、実用性も高いというのが率直な評価だ。
実のところ、これまでE Ink電子ペーパー採用のデバイスを長く使ってきた経験から言って、E Inkでのテキスト入力は実用に耐えられないだろうと予想していたのだが、本製品は一部のモードのみとはいえ、レスポンスは高速で、いい意味で裏切られたかたちだ。体感的には、以前紹介したポメラのE Inkモデル(DM30)よりもストレスは少ない。
ただし同じテキスト入力でも、テープ起こしのように、耳から入ってきた内容をひたすら(ときには漢字変換を後回しにしてでも)文字に直していくような、入力速度がなによりも優先される用途は、A5モードであってもキーの反応が追いつかず、やや厳しい印象だ。実用に耐えられる/耐えられないの分岐点は、だいたいそのあたりにあるようだ。
ちなみにこれらの特性は、本製品と同じくE Inkを採用するポメラDM30に近いものがあるが、本製品に対する筆者の評価は、ポメラDM30よりもはるかに上だ。というのも本製品は、用途に応じて前述の表示モードを切り替えられる上、どうしてもがまんできなければ、より高性能なPCと組み合わせたり、PC側のスペックを強化して高速化を図ることも可能だからだ。
今回、2台のPCで本製品を試用したが、PCのスペックは本製品のレスポンスにかなり露骨に影響するようで、Core i7/メモリ8GBのPCでは問題なく動作していたのが、Atom/メモリ4GBの2in1との組み合わせでは動作自体おぼつかなかった。代理店であるSKTのサイトでも「PC側の能力で使い勝手が変わります」とあるので、性能に与える影響は少なからずあるようだ。
このことは、ロースペックのPCでは本製品のポテンシャルが活かせないことを意味する反面、組み合わせるPCを代えたりスペックを強化することで、レスポンスの改善が図れることを意味する。つまりユーザー側で対処のしようがあるわけで、同じE Inkデバイスでもハードウェアを変更できないポメラDM30とは、この点が大きく異なる。
またこれに加えて本製品では、付属ソフトにある「Senior performance setting」のような高速化機能や、システムの負荷を軽減するためにデスクトップの壁紙を外して一時的に真っ白にする機能など、いくつかのオプションが用意されている。また筆者は実機で確認していないが、キーボードを無線から有線に変えることでも、レスポンスを向上させられるようだ。
なおVariableモードは1100×825モードに比べてレスポンスが悪いと書いたが、Variableモードは組み合わせるPCに応じて解像度を下げるなどの方法により、高速化を図れる可能性はある。本製品を購入した方はVariableモード=遅いと決めつけずに、自身の環境でのレスポンスを確認してほしい。
リフレッシュの挙動はやや派手すぎ?
E Inkにつきものの残像の有無、およびそのクリア方法もチェックしておこう。本製品は、付属ソフトで設定を行なうことで、3種類のリフレッシュ(ゴースト除去)方法が選択できる。具体的には以下の3つで、それぞれ併用も可能だ。
- 60~600秒の間での自動リフレッシュ
- 別のウィンドウにフォーカスが移動したタイミングでの自動リフレッシュ
- ボタンもしくはキーボードショートカットでの手動リフレッシュ
このリフレッシュ、本体の電源ごとオフ→オンしたかのような派手な反応なので、テキストを入力中に自動実行されると、驚いてキーを打つ手が止まりかねないほどだ。せっかく目への負担が少ないことが売りの製品でありながら、これは少々いただけない。本製品を1点だけ改良するならばどこかと問われれば、筆者はこの点を挙げる。
ただ、本製品はスマートクイックなるDASUNG独自のゴースト除去技術が搭載されているせいか、一般的なE Inkに比べて残像自体がひかえめなので、ウィンドウのフォーカスが切り替わるタイミングで自動実行されるよう設定しておき、あとは必要に応じてショートカットで手動実行すれば、ほぼ支障はない。テキスト入力が中心ならばこの運用で問題ないだろう。
なお説明書に詳しい記述を発見できなかったのだが、本製品のリフレッシュには画面全体のリフレッシュと、ウィンドウ単位でのリフレッシュ、どうやら2種類が用意されているようだ。
本体Cボタンを押した場合は画面全体、付属ソフトで設定できるのはおもにウィンドウ単位だ。付属ソフトにはショートカット「Alt+X」で画面全体のリフレッシュが可能との記述があるが、筆者環境ではうまく動作しなかった。
それゆえ付属ソフトでのリフレッシュばかりに頼っていると、ウィンドウを動かした場合の周囲の残像や、漢字の変換候補一覧のようにウィンドウからはみ出て表示されたエリアの残像がいつまでも残り続ける。こうした場合は、本体Cボタンでリフレッシュを実行するとよい。
最後に、ここまでふれられなかった機能に語ろう。付属ソフトで設定しておきたいのが、マウスポインタの位置を表示する機能だ。本製品はモノクロ表示ということもあり、マウスポインタの位置を見失いやすい。本機能を使えばCtrlキーを押すことでマウスポインタの位置を強調表示できるので(実際にはWindows側の標準機能のようだが)、有効にしておくとよい。
もう1つ、アンチブルーライト機能もおもしろい。これはブルーライトを発しない本製品に合わせて、本製品以外に接続されているディスプレイ、たとえばノートPCの本体ディスプレイなどでの色味を調整し、ブルーライトを弱める機能だ。試したかぎりでは、DisplayLinkのドライバを使った拡張ディスプレイには適用できないようだが、本製品の導入に合わせてなるべくブルーライトを減らしたい場合は意義があるだろう。
テキスト入力にのみ集中できる環境を作り出せる製品
本製品の価格は149,800円と、このサイズのディスプレイにしてはかなり高価だが、実用レベルの性能に加えて、反射型ならではの目の疲れにくさや見やすさなど、ほかの製品にない特徴がある。典型的な「よいものには出資を惜しまない人向け」の製品で、既存のUSBサブディスプレイと比べて価格を云々するようなユーザーは、そもそもターゲットに入っていないということだろう。
もちろん、それにしたって価格の限度はある、という意見はあるだろうが、かと言ってケタが2つ違うわけでもなく、せいぜい液晶タイプの2~3台分の額だ。マルチディスプレイ環境を構築するためにそこそこハイエンドな液晶ディスプレイを2台購入するならば、手持ちのディスプレイをそのまま活かしつつ、本製品を1台プラスするという選択肢があってもよいだろう。
こうした高額な製品で気になるのは、投資をペイできるだけの年数にわたって壊れずに使えるかどうかで、こればかりは今回のような試用ではわからない。見たかぎり品質面の不安はとくになく、また過去のモデルで壊れやすいといった話も聞かないが、そのあたりの判断は個人にゆだねられるだろう。気をつけたいのは最適な動作温度が「15~35℃」とややせまいことで、日本国内においては、エアコンのない部屋での運用は避けたほうがよさそうだ。
なお本製品は、テキスト入力用途で導入されるケースが多いと予想されるが、今回2週間ほど試したかぎりでは、ポメラのような単機能ツールと同様、テキスト入力にのみ集中できる環境を作り出す効果は非常に高い。こうした点もまた本製品ならではの、一般的なディスプレイにはないアドバンテージと言えそうだ。