Hothotレビュー
まるでWindows版iPad Pro。ASUSの2in1「TransBook 3 T305CA」を試す
2017年9月27日 12:36
ASUSは9月13日、12.6型3Kディスプレイ搭載Windowsタブレット「ASUS TransBook 3 T305CA」を発表、9月15日より販売を開始した。
本製品にはキーボードカバーが標準で同梱されており、1,024段階の筆圧感知機能に対応するスタイラスペン「ASUS Pen」(直販価格6,980円)をアクセサリとして用意。本体サイズや重量もアップルの12.9型iPad Proに非常に近く、その存在を強く意識したモデルとして開発されたと思われる。
今回ASUSよりT305CAの実機を借用したので、詳細スペック、使い勝手、AV機能、性能などについてレビューしていこう。
Core i5/m3の2モデルを用意、Core i7モデルは日本未発売
T305CAは日本向けに、第7世代(Kaby Lake)のCore i5-7Y54/メモリ8GB(LPDDR3-1866)/256GB SSD(M.2 Serial ATA 6Gbps)を搭載する「T305CA-7Y54」、Core m3-7Y30/メモリ4GB/128GB SSDを搭載する「T305CA-7Y30」の2モデルが用意されている。グローバル向けのT305CAに用意されているCore i7-7Y75、512GB SSD搭載モデルは販売されていない。
iPad Proを強く意識したと思われるT305CAには、3K(2,880×1,920ドット、275ppi)、輝度450cd/平方m、NTSC比85%、sRGB比121%、視野角170度と、一般的なWindowsタブレットよりも高精細、高輝度、広色域のディスプレイが採用されている。またサウンド面においても、左右に2Wスピーカーを合計4つ搭載するなど、同社のほかのタブレット端末よりも強化が図られている。
本体カラーはアイシクルゴールド(Icicle Gold)の1色のみ。グローバル向けに販売されているチタニウムグレイ(Titanium Grey)は残念ながら選べない。筐体はアルミニウム合金製で、1枚の板から100以上の工程を経て削り出されているとのこと。
背面にはASUS製品でおなじみのスピン加工、エッジ部分にはダイヤモンド加工、側面にはサンドブラスト加工が施されている。またディスプレイ面には硬度9HのCorning Gorilla Glass 3が採用されている。
本体サイズは303×202×6.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約695g。薄型・軽量に作られているが、端を持って強く揺さぶってもたわみなどはほとんど感じない。剛性はしっかりと確保されているという印象だ。
ボタン・端子類は、指紋認証センサー一体型電源ボタン、ボリュームボタン、USB Type-C/Thunderbolt 3×1、マイクロフォン/ヘッドフォンコンボジャックのみ。一般的なWindowsタブレットのようにmicroSDカードスロットは用意されていない。
その代わりにUSB Type-C/Thunderbolt 3端子に接続する「ASUS ユニバーサル ドック」(直販価格13,980円)がアクセサリとして用意されている。これを接続すれば、SDメモリカードリーダ、Ethernetポート、ミニD-Sub15ピン、HDMI端子、USB 3.0 Type-A×2、USB 3.1 Type-C×1を利用可能だ。
なおASUS ユニバーサル ドックは付属のACアダプタを接続しなければ利用できない。つまり電源を確保できる場所で据え置き利用するための周辺機器であることに注意してほしい。電源供給なしに屋外で使用するなら、コンパクトなUSB Type-Cハブを別途用意したほうがいい。
T305CA-7Y54 | T305CA-7Y30 | |
---|---|---|
OS | Windows 10 Home 64bit | |
CPU | Core i5-7Y54(1.2~3.2GHz) | Core m3-7Y30(1~2.6GHz) |
GPU | Intel HD Graphics 615(300~950MHz) | Intel HD Graphics 615(300~900MHz) |
メモリ | LPDDR3-1866 SDRAM 8GB | LPDDR3-1866 SDRAM 4GB |
ストレージ | 256GB SSD(M.2 Serial ATA 6Gbps) | 128GB SSD(M.2 Serial ATA 6Gbps) |
ディスプレイ | 12.6型ワイドTFT液晶(2,880×1,920ドット、275ppi、光沢、タッチ対応、輝度450cd/平方m、NTSC比85%、sRGB比121%、視野角170度) | |
通信 | IEEE 802.11ac、Bluetooth 4.2 | |
インターフェイス | USB Type-C/Thunderbolt 3×1、マイクロフォン/ヘッドフォンコンボジャック、1,279万画素背面カメラ/491万画素前面カメラ | |
バッテリ容量 | 39,039mWh(Battery reportで表示された設計上のバッテリ容量) | |
バッテリ駆動時間 | 本体:約5.5時間、本体+キーボードカバー:約4.6時間 | 本体:約5.1時間、本体+キーボードカバー:約4.3時間 |
バッテリ充電時間 | 本体:約2.6時間、本体+キーボードカバー:約2.6時間 | 本体:約2.4時間、本体+キーボードカバー:約2.5時間 |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)/重量 | 本体:303×202×6.9mm/約695g、本体+キーボードドック:303×210×17mm/約1235g | |
セキュリティ | 指紋認証 | |
Microsoft Office | なし | |
直販価格 | 96,984円 | 75,384円 |
ノートPCと遜色ないキーピッチ、ストロークを備えたキーボードカバー
前述のとおり、T305CAにはキーボードカバーが同梱されている。このキーボードカバーは87キーの日本語仕様で、キーピッチは19.24mm、キーストロークは1.4mm。
一般的なノートPCと遜色ないキーピッチ、キーストロークを備えているので、多くの人にとってはiPad Proのキーボードカバー「Smart Keyboard」より入力しやすいはず。ディスプレイ面の角度を2段階に変更できる点、バックライトを内蔵している点も、Smart Keyboardに対するアドバンテージだ。
ただし、1つ注意したいのがキーボード面に傾斜をつけられないこと。同社の「TransBook T304UA」やSurface Proシリーズとは異なり、背面も保護する構造のT305CAのキーボードカバーは角度をつけられない。キーボード面の傾斜自体、そして傾斜をつけているときの独特のたわみを好んでいる方は、慣れるのに多少の時間は必要だ。
スタイラスペン「ASUS Pen」での書き心地は、2in1 PCとしては標準的だ。第2世代のiPad Proや新型Surface Proに比べればレイテンシーは大きいし、傾き検知機能も搭載されていないが、その差に不満を感じる人はごく一部だろう。
しかし本気でイラストを描きたい方たちにとっては、物足りないスペックであることも事実。そろそろASUSをはじめとするPCメーカーには、21msのレイテンシ、傾き検知機能、4,096段階の筆圧感知機能に対応した「新型Surfaceペン」と同等のスタイラスペンを採用してほしいところだ。
7万円台スタートのタブレット端末としては文句なしのAV性能
次にAV性能をチェックしていこう。まず3K(2,880×1,920ドット、275ppi)解像度については文句は出ないはずだ。Windowsのスケーリングは200%が推奨されている。100%に設定すれば広大なデスクトップスペースを確保できるが、字が小さすぎて見づらいし、それほどの広さを必須とするアプリケーションも存在しない。
色域については、T305CAのICCプロファイルをディスプレイキャリブレーション機器「i1Display Pro」で作成して、色度図を作る「ColorAC」で確認してみた。
結果は、NTSC比が83.7078%、sRGBカバー率が99.6%、sRGB比が118.2%、Adobe RGBカバー率が84.2%、Adobe RGB比が87.6%と、ほぼスペックシートどおりの値が得られた。
ノートPCやタブレット端末のディスプレイであればsRGBカバー率は90~95%が平均的だ。T305CAのsRGBカバー率99.6%という結果は、7万円台スタートのタブレット端末としては相当優秀な部類に入る。
サウンド機能も非常に高いレベルだ。T305CAには2Wスピーカーが左右側面に合計4つ内蔵されており、端末の向きに応じて上側のペアが高域を、下側のペアが低域を再生する。実際さまざまなジャンルの音楽を聴いてみたが、薄さ6.9mmのタブレット端末から再生しているとは思えないほど音に厚みと広がりがある。
音質には定評のある12.9インチiPad Proと比較してみても、正直甲乙つけがたいレベルだ。音の伸びやかさや解像感はiPad Proが勝っているが、音場の奥行きや迫力はT305CAのほうが優れているように感じる。もちろん、そもそも音の味付けに違いがある両者だが、どちらを選んでもイコライザーで調整できるレベルの差だ。
3Kディスプレイ搭載の代償として少々物足りない連続動作時間
最後にベンチマークスコアを見てみよう。今回は下記ベンチマークを実施している。
- 総合ベンチマーク「PCMark 10 v1.0.1275.0」
- 総合ベンチマーク「PCMark 8 v2.7.613」
- 総合ベンチマーク「PCMark 7 v1.4.0」
- 3Dベンチマーク「3DMark v2.3.3732 64」
- CPU、OpenCLのベンチマーク「Geekbench 4.1.1」
- CPUのベンチマーク「Geekbench 3.4.1」
- CPU、OpenGLのベンチマーク「CINEBENCH R15」
- ゲーミングPCベンチマーク「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」
- ゲーミングPCベンチマーク「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」
- ゲーミングPCベンチマーク「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」
- ゲーミングPCベンチマーク「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」
- ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 5.2.2」
- 「Adobe Photoshop Lightroom CC」RAW画像の現像時間を計測
- 「Adobe Premiere Pro CC」フルHD動画の書き出し時間を計測
- 「BBench」連続動作時間を計測
比較対象としては同じく第7世代(Kaby Lake)の上位プロセッサー「Core i7-7500U」を搭載する「ASUS TransBook T304UA-7500S」のスコアを掲載した。
TransBook T304UA-7500Sは、Core i7-7500Uのクロック周波数が2.7~3.5GHz、TDPが15W、T305CAの搭載するCore i5-7Y54のクロック周波数が1.2~3.2GHz、TDPが4.5Wとそもそも基本性能が異なるので、結果は明らかだ。しかし冷却ファン搭載スタンダード2in1 PCと、高さ6.9mmのファンレス2in1 PCでどの程度性能が異なるのかを見るために選出した。
さて下記が検証機の仕様と、その結果だ。
ASUS TransBook 3 T305CA | ASUS TransBook T304UA-7500S | |
---|---|---|
OS | Windows 10 Home 64bit | |
CPU | Core i5-7Y54(1.6~3.2GHz) | Core i7-7500U(2.7~3.5GHz) |
GPU | Intel HD Graphics 615(300~950MHz) | Intel HD Graphics 620(300MHz~1.05GHz) |
メモリ | LPDDR3-1866 SDRAM 8GB | LPDDR3-1866 SDRAM 16GB |
ストレージ | 256GB(Serial ATA 6Gbps) | 512GB SSD(Serial ATA 6Gbps) |
ディスプレイ | 12.6型、2,880×1,920ドット(275ppi) | 12.6型、2,160×1,440ドット(206dpi) |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 303×202×6.9mm | 298.8×210.1×8.85mm |
重量 | 約695g | 約830g |
ASUS TransBook 3 T305CA | ASUS TransBook T304UA-7500SPCMark 10 v1.0.1275.0 | |
---|---|---|
PCMark 10 Score | 2,303 | 3,212 |
Essentials | 5,839 | 7,617 |
App Start-up Score | 7,222 | 9,548 |
Video Conferencing Score | 5,403 | 6,908 |
Web Browsing Score | 5,104 | 6,701 |
Productivity | 4,134 | 5,841 |
Spreadsheets Score | 4,694 | 6,907 |
Writing Score | 3,641 | 4,941 |
Digital Content Creation | 1,374 | 2,023 |
Photo Editing Score | 1,646 | 2,730 |
Rendering and Visualization Score | 802 | 1,116 |
Video Editting Score | 1,969 | 2,720 |
PCMark 8 v2.7.613 | ||
Home Accelarated 3.0 | 2,589 | 3,311 |
Creative Accelarated 3.0 | 3,485 | 4,448 |
Work Accelarated 2.0 | 3,569 | 4,441 |
Storage | 4,821 | 4,883 |
PCMark 7 v1.4.0 | ||
PCMark score | 4,401 | 5,466 |
3DMark v2.3.3732 64 | ||
Time Spy | 計測不可 | 301 |
Fire Strike Ultra | 120 | 187 |
Fire Strike Extreme | 253 | 343 |
Fire Strike | 485 | 860 |
Sky Diver | 2,002 | 3,223 |
Cloud Gate | 3,280 | 5,018 |
Ice Storm Extreme | 23,101 | 32,739 |
Ice Storm | 34,131 | 47,372 |
CINEBENCH R15 | ||
OpenGL | 30.00 fps | 43.08 fps |
CPU | 179 cb | 273 cb |
CPU(Single Core) | 95 cb | 110 cb |
Geekbench 4.1.1 | ||
32-bit Single-Core Score | 2,965 | 3,732 |
32-bit Multi-Core Score | 4,843 | 7,521 |
64-bit Single-Core Score | 3,269 | 4,163 |
64-bit Multi-Core Score | 5,339 | 8,114 |
OpenCL | 15,702 | 19,984 |
Geekbench 3.4.1 Intel(32-bit) | ||
Single-Core Score | 2,605 | 3,367 |
Single-Core Score Integer | 2,808 | 3,490 |
Single-Core Score Floating Point | 2,288 | 3,266 |
Single-Core Score Memory | 2,833 | 3,323 |
Multi-Core Score | 4,815 | 7,008 |
Multi-Core Score Integer | 5,326 | 8,315 |
Multi-Core Score Floating Point | 5,131 | 7,425 |
Multi-Core Score Memory | 3,161 | 3,562 |
Geekbench 3.4.1 Intel(64-bit) | ||
Single-Core Score | 2,757 | 3,514 |
Single-Core Score Integer | 3,027 | 3,729 |
Single-Core Score Floating Point | 2,461 | 3,404 |
Single-Core Score Memory | 2,812 | 3,306 |
Multi-Core Score | 5,021 | 7,245 |
Multi-Core Score Integer | 5,783 | 8,810 |
Multi-Core Score Floating Point | 5,206 | 7,527 |
Multi-Core Score Memory | 3,128 | 3,552 |
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】 | ||
1,280×720ドット | 2,794 | 3,954 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト | ||
1,280×720ドット | 3,720 | 7,307 |
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク | ||
1,280×720ドット 高品質(ノートPC) | 1,414 | 2,048 |
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク | ||
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC) | 1,402 | 1,670 |
1,280×720ドット 高品質(ノートPC) | 1,108 | 1,359 |
1,920×1,080ドット 標準品質(ノートPC) | 1,119 | 1,597 |
1,920×1,080ドット 高品質(ノートPC) | 737 | - |
SSDをCrystalDiskMark 5.2.2で計測 | ||
Q32T1 シーケンシャルリード | 547.878 MB/s | 557.592 MB/s |
Q32T1 シーケンシャルライト | 350.469 MB/s | 455.786 MB/s |
4K Q32TI ランダムリード | 152.744 MB/s | 264.773 MB/s |
4K Q32TI ランダムライト | 110.105 MB/s | 239.435 MB/s |
シーケンシャルリード | 520.765 MB/s | 477.355 MB/s |
シーケンシャルライト | 318.977 MB/s | 434.320 MB/s |
4K ランダムリード | 21.885 MB/s | 26.303 MB/s |
4K ランダムライト | 74.831 MB/s | 52.223 MB/s |
Adobe Photoshop Lightroom CCで50枚のRAW画像を現像 | ||
4,912☓3,264ドット、自動階調 | 5分13秒72 | 2分2秒24 |
Adobe Premiere Pro CCで実時間5分のフルHD動画を書き出し | ||
1,920×1,080ドット、30fps | 13分47秒69 | 9分3秒78 |
BBenchにより連続動作時間を計測(ディスプレイの明るさ40%) | ||
バッテリ残量5%まで | 5時間12分7秒 | 8時間19分24秒 |
ベンチマークスコアはおおむねCPUの性能差が順当に現われた結果と言える。ただし実際の操作感としては両者に大きな差はない。体感スピードはストレージの速度に大きく依存する。ほぼ同等の性能のストレージを搭載しているので、ベンチマークスコアほど使用感に決定的な違いはない。
意外な結果に終わったのが連続動作時間。T305CAはT304UAよりも連続動作時間が約3時間も短いのだ。バッテリ容量は、T305CAが38.5Wh、T304UAが39Whと大きな差はない。ディスプレイサイズも12.6型でまったく横並び。となると連続動作時間の大きな差が生じた原因は、T305CAがT304UAより高解像度な3K液晶パネルを採用しているので消費電力が多いためだろう。ここまで大きな差があるとは予想していなかった。
なお、高負荷時の発熱をサーモグラフィカメラ「FLIR ONE」でチェックしてみた。室温25℃の部屋で、「CINEBENCH R15」の「CPU」を連続で5回実行したさいの最大温度は、表面が41.4℃、裏面が37.3℃だった。発熱に関しては表面が43.2℃、裏面が43.3℃だったT304UAよりも明らかに低い結果となった。
かぎりなくタブレット端末寄りの2 in 1 PC
T305CA最大の魅力はAV性能。高解像度、高輝度、広色域の3Kディスプレイと、2W×4のサウンド機能の組みあわせは、Windowsタブレットのなかで高いレベルにある。
このAV性能を備えたWindowsタブレットが、キーボードカバーとセットで直販価格75,384円から入手できるのだから、直販価格93,744円からの12.9インチiPad Proに対してコストパフォーマンスは高い。
もちろんiPad Proには豊富なアプリケーション資産があるが、T305CAにもWindowsアプリケーションが動く、ほとんどのWebサービスを利用できるというメリットがある。連続動作時間はやや物足りないが、その弱点はモバイルバッテリで補える。
クリエイティブ系アプリケーションを利用するなど、PC寄りの用途におもに使うならT304UAや新型Surface Proのほうが選択肢としては有力だ。しかしタブレット端末としておもに活用するなら、T305CAはiPad Proと同じぐらい魅力的な候補と言える。