配信修行僧

Stream Deck +がオーディオインターフェイスに変身!「XLR Dock」を試す

左から「USB Hub」、「Stream Deck +」、「XLR Dock」

 Elgatoがまたユニークな製品を投入した。「Stream Deck +」用の拡張アダプタとなる「XLR Dock」と「USB Hub」だ。XLR Dockを使うと、XLR端子と3.5mmヘッドフォンジャックが、USB Hubを使うと4ポートのUSBハブとSDカード、microSDカードスロットがStream Deck +に付与される。今回、両製品をElgatoより提供いただいたので、試用してみた。

 Elgatoと聞くとおそらくStream Deckシリーズを真っ先に思い浮かべる人が多いと思うが、それ以外にもマイクや照明、カメラ、キャプチャデバイスなども手がける配信機材の総合メーカーだ。同社はこれまでも、足で踏んで使う「Stream Deck Pedal」や、小型モニターとしても使える「Teleprompter」など、新しい利用シーンやニーズを開拓する製品を出してきた。その点で今回の2製品についても、発表された時筆者は「そう来たか!」と膝を打った。

 Stream Deck +自体も、既存のStream Deckシリーズにダイヤルという新機能を加えることで、Stream Deckに音量調整など新たな機能性をもたらした。筆者はこの製品はすでに完成された製品だと思っていた。しかし、その台座を取り替える、あるいは台座に新しいパーツを取り付けることで、ElgatoはStream Deck +の機能性をさらに発展させてきたのだ。

 新製品を利用するにあたっては、ドライバーでStream Deck +の台座部のネジを外し、いったん台座を取り外す必要がある。メーカーの完成品で、購入後にユーザーにこういった分解とも言える行動をさせるものは少なく、そうやって使わせることにも驚いた。同時に、ネジさえ外してしまえば簡単に台座が取り外せることや、もともとのUSB端子の位置を見ると、もしかしたらElgatoは2022年のStream Deck +発売当初からこういった機能拡張を想定していたのかもしれないということにも感心した。

 では、両製品を紹介しよう。

XLRマイクを取り付け可能にする「XLR Dock」

XLR Dock。USB Type-C、ヘッドフォン端子、XLR端子を装備
上にあるType-CはStream Deck +に接続するためのもの
側面
底面
Stream Deck +の元の台座を取り外したところ。ネジを外すだけで簡単に取れる
Stream Deck +に取り付けたところ。元からこういう製品だったかのような一体感

 XLR Dockを使うことで、Stream Deck +にXLR接続マイクと、ヘッドフォンを接続できるようになる。Elgato製品に詳しい人なら分かるとおり、この製品はStream Deck +に「Wave XLR」の機能をそのまま付与するものだ。

 前述のとおり、Stream Deck +は、基本的にはOBS Studioを始めとした各種ソフトのマクロ操作を行なうホットキーデバイスだが、ダイヤル機能と、ミキシングソフト「Wave Link」により、高機能な音量制御デバイスとしても使える製品だ。しかし、音声の入力と出力をするデバイス、つまりマイクやヘッドフォンは、別途PCにつなぐ必要があった。そこを補完するのがXLR Dockというわけだ。

 XLR端子についてはファンタム電源にも対応するので、ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの両方を接続できる。XLR端子は75dBまでのゲインに対応しているので、ほとんどのマイクに対応できるだろう。なお、すでにStream Deck +を利用している場合は、アプリをバージョン6.7以降にアップデートしておく必要がある。

XLR Dockを接続すると、Stream Deckソフトの「Stream Deck +」の横に「XLR Dock」と表示される
システムのサウンドデバイスとしても「Elgato XLR Dock」のヘッドフォンとマイクとして認識されているのが分かる

 マイクの基本設定については、Stream Deckソフトではなく、Wave Linkを利用する。こちらもバージョン1.11以降にアップデートしておこう。マイクをつないだら、「入力」で「Elgato XLR Dock」を選ぶ。

 ちなみに、Wave Linkのメイン画面で各入出力用に表示されている左側のスライダーは自分のモニタリング(モニターミックス)用のレベルとミュートボタン(ヘッドフォン型のアイコン)で、右側は配信に載る音(ストリームミックス)用のレベルとミュートボタン(人型のアイコンは)となる。

 つまり、各入出力ごとに個別に音量調節とミュート/アンミュートができる。Wave Linkに当初からあるものだが、配信のオーディオをミキシングする上で非常に強力な機能だ。また、上の⊂⊃のアイコンをクリックすると、スライダーを動かした時、両方の音量がセットで変わるようになる。

Wave Linkの入力は「Elgato XLR Dock」を選ぶ。2つあるスライダーの左は自分のモニタリング用、右側は配信用

 入力のElgato XLR Dockのところをクリックすると、別ウィンドウが現われ、「入力ゲイン」調節と、「48Vファンタム電源」、「ローカットフィルタ」、「Clipguard」のオン/オフを選択できる。Clipguardは、マイク入力が大きくなりすぎると、内部でもう1つの信号パスにルーティングすることで音割れ(クリッピング)を防ぐ機能だ。

 XLR Dockにイヤフォン/ヘッドフォンをつないでいる場合は、それらに対する「出力音量」の調節と、「マイク音とPC音のミックス」の割合変更、「低インピーダンスモード」機能も設定できる。

入力のElgato XLR Dockのところをクリックすると、マイクの詳細設定ができる

 イヤフォン/ヘッドフォンをつなぐと、PCで鳴る音だけでなく、マイクのモニタリングもできるのだが、この設定はかなり分かりにくい。まず、Wave Linkのメイン画面に表示されている「Elgato XLR Dock」での音量調節は、ソフトウェアモニタリングに関してのものとなる。そして、デバイス名をクリックして表示される別ウィンドウでの「マイク/PCミックス」は、ハードウェアモニタリングとソフトウェアモニタリングのバランスとなる。

 どういうことかと言うと、マイク/PCミックスのスライダーを一番左に持って行くと、マイクのハードウェアモニタリングの音(自分の声)のみが聞こえるようになる。逆に一番右に持って行くとPCが再生している音とマイクのソフトウェアモニタリングの音のみが聞こえるようになる。

 と言うことで、自分の声もゲームなどの音も聴きたいのであれば、スライダーを右に持って行けばいいと思うかもしれない。しかし、そうするとマイクのモニタリングはかならずソフトウェアモニタリングがミックスされてしまう。

 ソフトウェアモニタリングには、一定の遅延が発生する。デフォルト状態のソフトウェアモニタリングの遅延は体感で10~20ms程度なので、特に支障はない。しかし、VSTプラグインでノイズ除去などをかけると0.1秒ほど遅延してくる。こうなると、話していると自分の声が0.1秒くらい遅れて聞こえてくることになるので、しゃべり続けるのが相当困難になる。

 こういう時は、マイク/PCミックスを50%/50%程度にした上で、メイン画面でマイクのモニタリングをオフにすると、ハードウェアモニタリングのマイク音とPCが再生する音の組み合わせで聞こえるようになる。

VSTプラグインとして「NVIDIA Broadcast Noise Removal by Elgato」を追加したところ。環境ノイズをばっちり消してくれるが、モニタリングすると0.1秒くらい遅延が発生するので、しゃべるのが難しくなる

 マイクの基本設定ができたら、Stream Deckアプリに「Wave Link」プラグインを追加し、Stream Deck +のダイヤルに「入力」をドラッグアンドドロップで追加し、「入力」で「Elgato XLR Dock」を選び、「出力」は「ストリームミックス」あるいは「すべて」を選ぶ。

 これで、Stream Deck +で必要に応じて配信に載せるマイク音量の変更やミュート/アンミュート操作ができるようになる。「出力」で「モニターミックス」を選んだ状態だと、マイクをミュートにしても、聞こえないのは自分だけで配信にはバッチリ載ってしまうので気をつけよう。

 そして、ここでは細かい説明は割愛するが、Wave LinkでMusicやGame、ChatなどWave Linkの仮想オーディオデバイスに任意のアプリを割り当てておき、Stream Deckソフトで先ほどと同様に「入力」をドラッグアンドドロップで追加し、「入力」から適切なデバイスを選ぼう。これでStream Deck +でマイク以外の音も制御できるようになる。

Stream Deck +のダイヤルに「Elgato XLR Dock」を追加したところ
ダイヤルに仮想オーディオデバイスの「Music」を追加したところ

クリエイターに便利な「USB Hub」

「USB Hub」。USB Type-Aが2ポート、Type-Cが4ポートあるが、Type-Cの1つはPCとの接続用、もう1つは他のUSBポートへ給電するためのACアダプタ用
左側面にSDカードスロットとmicroSDカードスロット
上にあるType-CはStream Deck +に接続するためのもの
底面のフィルムを剥がすと粘着性があり、これで元の台座に固定する
取り付けたところ

 USB Hubの方は単純明快で、本製品を取り付けると、USB Type-Aが2ポート、Type-Cが2ポート、そしてSDカードスロットとmicroSDカードスロットが追加される。USB Type-Cは4つあるが、1つはPCとの接続用(アップリンク)、もう1つは他のUSBポートへ給電するためのACアダプタをつなぐためなので、周辺機器をつなげられるType-Cは2ポートとなる。

 なお、ACアダプタなしでも動作するが、これだと電力が足りなくなることがあるため、ACアダプタ(別売)の取り付けが推奨されている。

 取り付け方はXLR Dockと違って、台座部分はStream Deck +に元々付いている台座をそのまま使う。USB Hubの底面のシールを剥がすと粘着性があるので、これで台座に固定する形となる。

 配信をやると、各種周辺機器でUSBポートが足りなくなりがちなので、本製品は配信者にも好適だが、SDカードスロットがあるので、カメラで撮影した動画を本製品からPCに取り込みつつ、Stream Deck +のダイヤル操作で動画編集ソフトを編集するスタイルにも向いていると感じた。

Stream Deckソフトで、Stream Deck +の右に「USB Hub」と表示されている
こういった動画編集ソフト用プラグインを使うクリエイターに向いていそうだ

Stream Deckソフトに追加機能も

 先に書いたとおり、XLR DockやUSB Hubを利用するには、Stream Deckアプリを6.7以降にアップデートする必要があるのだが、このアップデートはこれらのハードウェア対応以外にも機能強化が盛りこまれている。

Stream Deckアプリのバージョン6.7には「アクションウィール」という新機能も追加された

 その1つが「アクションウィール」。これをダイヤルに割り当てると、1つのダイヤルに複数のアクションをセットできるようになる。ダイヤルを回すと、順番にそのアイコンが変わっていき、パネルタッチかダイヤルプッシュで機能を実行できる。たとえば、複数のアプリを登録しておき、ランチャー代わりに使ってもいいし、似たような機能を1まとめにしておけば、数が少なめなStream Deck +のボタンをより有効活用できる。

 また、Volumu Controllerプラグインも強化され、ダイヤルで任意のアプリケーションの音量を調節できるようになったほか、OBSプラグインがチャプターマーカー機能に対応した。

このように1つのダイヤルに複数のアクションを登録できる
ダイヤル(左下)を回して選択して、プッシュで機能を実行

 今回のレビューを通じて、XLR Dockについて感じたことは、音声の入力も出力も1つのデバイスに集約したいという人にはお勧めできるものということだ。日本での価格はまだ不明だが、実はアメリカのAmazonだと、Wave XLRは140ドル程度なのに対し、XLR Dockは150ドルとなっており、XLR Dockの方が高い。しかし、狭くなりがちな卓上にStream Deck +とWave XLRを1つのデバイスとしてまとめられることを考えると、この価格でも割高ではないだろう。

 ただ、欲を言えばXLR端子とヘッドフォン端子以外に、外部入力とスピーカー出力も欲しかったと思う。と言うのも、筆者は普段TC Heliconのオーディオインターフェイスである「GoXLR」を使っていて、この製品には、マイク入力としてXLRと3.5mmがあり、このほかライン入力、ヘッドフォン出力、S/PDIF入力がある。

 ヘッドフォンとライン出力があることで、それぞれにイヤフォンとスピーカーをつないでおき、普段はスピーカーで再生して、配信時やビデオ会議などヘッドフォン出力が不要な時はそれをミュートしている。個人的にこのイヤフォンとスピーカーの切り替えは必須の機能なので、将来的に端子が多いXLR Dockの上位モデルを期待したい。

 なお、Stream Deck +とXLR Dock/USB Hubのセットモデルも発売されるそうなので、そちらだと単体購入より割安になるのではと思われる。配信向けオーディオインターフェイスを探している人には、このセットモデルをオススメしたい。