■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
パナソニック AVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部・奥田茂雄事業部長と、Let'snote 9シリーズ |
「今回の製品投入によって、第3世代Let'snoteがいよいよ出揃った」。パナソニックは、Let'snote R9をはじめとするLet'snote 9シリーズを2月17日から出荷する。
パナソニック AVCネットワークス社 システム事業グループITプロダクツ事業部・奥田茂雄事業部長は、「外見はまったく変わらない。しかし内部はまったく別の製品ともいえるほどの進化を図った。軽量、長時間、堅牢に加えて、高性能を実現したのが今回の9シリーズ。まさにプロフェッショナルのためのツールが提供できる」と意欲的な製品であることを強調する。奥田事業部長に、新Let'snoteの製品化への取り組みを聞いた。
--パナソニックは、1月25日にLet'snote R9、F9、N9、S9の4つの新製品を発表しました。いわゆる9シリーズと呼ばれる製品群です。8シリーズから9シリーズへの進化のポイントは、どんなところにありますか。
奥田 Let'snoteは、2002年にモバイル領域に特化する方針を掲げて以来、軽量化、長時間駆動といったモバイルPCに求められる要素を追求してきました。さらに、その進化の過程で堅牢性を追求し、最先端のモバイルPCを目指し、相反する要素も高いバランスで実現してきました。
そして、昨年(2009年)秋に発表したN8、S8では、モバイルPCでありながらも、デスクトップPC並の高性能を実現することで、それまでの課題だったストレスのない利用環境をモバイルPCでも実現しました。このように、Let'snoteは、軽量化、長時間駆動を目指した第1世代、それに堅牢性を加えた第2世代、そして、高性能を追求した第3世代へと進化してきたわけですが、今回の9シリーズの発売によって、すべての製品が第3世代の要素を持ち、Let'snoteが目指すプロフェッショナルモバイルのラインアップが出揃ったといえます。
昨年4月に、原点回帰を目指すと宣言しましたが、これは軽量、長時間駆動というモバイルPCに求められる基本的要素を常に追求し続けるという姿勢を示したものです。今回の9シリーズでは、筐体の大きさを変えずに、しかも、長時間駆動を維持しながら、Let'snote R9ではCore i7、その他の9シリーズではCore i5を搭載し、高性能化を図った。原点回帰の考え方は今回の製品でも踏襲しています。Let'snote R9はCore i7を搭載した世界最小のPCとなります。
--パナソニックが第3世代Let'snoteで、そこまで高性能化を追求する理由はなんですか。
奥田 Let'snoteユーザーにアンケートを取ると、96%の人が満足していると回答するものの、その一方で過半数の人がさらなるパワーを要求しているという結果があります。Let'snote R8も、10.4型のモバイルPCとはいえ、やはり性能で見劣りしていた部分はあった。Let'snoteが追求しているのは、ネットブックのようなセカンドマシンではなく、これ1台ですべて済むというPCです。だからこそ高性能が必要になる。その課題に対して、Core i7およびCore i5を搭載することで、パワーの面から解決することができます。
しかし、Let'snoteが実現する高性能の意味とは、Core i7やCore i5があるから、それを搭載すればいいという発想ではありません。Let'snoteを使う人たちの環境が変わってきており、それに対してLet'snoteに対して高いパワーが求められている。そのパワーを最大限に実現しようという考え方がベースにあります。
小型ながらCore i7を搭載し、Turbo Boostを有効に活用できるようになったR9 |
例えば、PCの現在の利用環境を見ると、ExcelやWordといった複数のアプリケーションを起動させ、さらにネットに接続して、メールをみたり、複数のウェブサイトを閲覧している。また、セキュリティソフトも同時に動かしているという場合もあり、とにかくパフォーマンスを求める使い方をしているわけです。その解決に、Core i7およびCore i5の搭載は有効な手段となります。
特に、IntelのTurbo Boostテクノロジーは、より高性能化を実現する機能として大きな意味を持ちます。しかし、単にCore i7およびCore i5を搭載しただけでは、ユーザーが求めるパワーを実現できない。一例をあげるならば、Turbo Boostテクノロジーは、放熱性能が悪いと、その機能が十分に生かされません。求められるタイミングに、この機能を機動させるには、放熱性が鍵となりますから、そのために内部の設計を大幅に変更する必要がある。ここにLet'snoteならではのノウハウとこだわりがあります。
Let'snote F9でも、従来の低電圧版からCore i5の標準電圧版とし、そのために内部構造を大幅に設計変更し、放熱性などの問題を解決しています。Let'snoteが追求しているのは、あくまでもユーザーの利用環境に求められる高性能化を実現することであり、Core i7およびCore i5を搭載することではない。ユーザーが求めるレベルに性能を到達させることに、開発のポイントを置いているというわけです。
--今回の9シリーズは、従来の8シリーズとまったく外観が変わっていませんね。例えば、Let'snote R9では、そこに超低電圧版のCore i7-620UMを搭載した。内部構造はどれぐらい変わっているのですか。
左がR8シリーズ、右がR9シリーズ。筐体には変化はなし。R8ではベースユニットに小型ファンが搭載されていた |
奥田 ご指摘の通り外観はまったく変わっていません。コネクタの位置も、すべて変更していません。Let'snoteユーザーには企業ユーザーが多いですから長期間に渡って導入する場合が多いので、モデルが変わったからといってコネクタの位置を変えないで欲しいといった要望も多いのです。筐体の大きさ、コネクタの位置が同じですから、もちろん基板も従来モデルと同じ形状です。
しかし、Core i7-620UMでは、従来のCPUが10Wの熱であったものが、性能が高まった分、18Wにまで拡大しました。これを効率的に放熱することが求められます。そこで、基板に大型のファンを搭載しました。R8ではベースユニット側に搭載していたファンを、2枚羽根とし、大型化。これを基板上に移動させることで、排気口のサイズを変えずに約3倍の風量を実現し、冷却性能を50%向上させました。さらに静音性も実現しています。この冷却性能の高さは、先に触れたように、Turbo Boostテクノロジーの効果的な利用に繋がっています。
これだけの大型ファンを搭載するわけですから、当初、単純にシミュレーションしたら、部品が基板を40%もはみ出してしまいました(笑)。これをどうするんだ、というところからスタートしました。基板レイアウトはゼロからスタートしたのと同じです。しかも、さらにコネクタ位置は先に決まっているという制限がありました。かなり苦労を伴いました。あとは我々のノウハウで詰め込んでいくということになります。最終的に基板レイアウトが決定したのは昨年10月のことです。最後は気合いで完成させた、という感じですね。
R9のマザーボード。S8の技術をベースにした大型ファンが搭載されている | これまでのR8シリーズのマザーボード | 左がR8シリーズ、右がR9シリーズのマザーボード。基板の形状は同じだ |
--そのほかに進化したポイントはありますか。
奥田 起動時間を大幅に短縮するFast Boot Modeを搭載したことが大きな進化だといえます。これはパナソニック独自の技術となります。S9を例にあげますと、電源を入れてからHDDにアクセスするまでの時間が、従来のS8では14秒かかっていたものが、S9の通常起動では、並列処理などを行なうことで6秒に短縮。さらに、セットアップユーティリティから設定するFast Boot Modeでは3秒にまで短縮しました。R9でも同様の機能を搭載しています。起動時間を速めるというのは、モバイル環境では大きな意味を持ちます。これも利用者の使用環境を考えた進化だといえます。
また、細かい工夫ですが、ワイヤレス環境においても、切れにくいようにするにはどうするか、またS9では、パフォーマンスを1.4倍にしながらも、バッテリ駆動時間を従来の16時間から、14時間への短縮に留めるといった工夫を施しています。R9でも、R8の8時間に対して、7.5時間で留めることに成功しました。さらに、OSはWindows 7 Professionalを搭載し、リカバリから32bit/64bitの選択可能にしています。
--9シリーズでは、本来ならば、ダウンロードとインストールが必要な「Windows XP Mode」を標準でサポートしていますね。マイクロソフトでは、「Windows XP Modeは仮想化の知識が必要であり、あくまでも最終手段」という言い方をしていますが、これを標準サポートしているのはなぜですか。
奥田 企業ユーザーではやはりWindows XPの環境が多いからです。Windows XP Modeによって、こうした環境をフォローできること、仮想化環境でも9シリーズのパフォーマンスであれば、それほどストレスなく利用できるであろうという読みもあります。Let'snoteは、大手企業や中堅、中小企業のほかにも、個人やSOHOで利用しているユーザーもいますが、Let'snoteユーザーを広く見てみると、ITに関する知識を持っている人が多い。その点も考慮して、Windows XP Modeを標準搭載しています。
--旧製品では、機能を削減して価格を抑えた廉価版も投入していましたが、今回の新製品では、そうしたモデルがないですね。
奥田 これは、やってみたものの、残念ながらうまくいかなかったという反省があります。Let'snoteユーザーの裾野拡大を目指した施策の1つでしたが、やってみてわかったのは、ユーザーがLet'snoteに望んでいるのは、機能を削った製品ではないということでした。プロフェッショナルのためのツールである限り、やはり十分な機能を搭載することが求められます。
企業の一括商談の中で、この機能はいらないということで、結果として低廉なモデルになるということはありますが、それはそうした需要、用途がある中での話であり、量販店で展開する上では、機能を削って安くすることは、Let'snoteにとって意味のある展開ではなかった。ですから、今回の製品では、そうしたモデルは用意していません。ただし、今後、機能を削らない形で低価格化を図っていくという努力はしていきます。
--まもなく年度末を迎えますが、2009年度の出荷見通しはどうなりますか。
奥田 かなり厳しい状況にあります。企業のIT投資意欲が減少したのが大きく影響していのは事実です。また、我々も、「Let'snoteによって、こうした効率化ができます」といった具体的な提案を行なうことができなった反省があります。年間出荷は、前年割れの60万台前後というところに落ち着きそうです。
2010年は、原点回帰をもっと徹底していきたいです。また、形を変える必要があれば、変えていくといったとこもやりたいですし、もっと業務や業種に特化した製品を投入することも必要でしょう。大手ユーザーに対しては、かなり早い段階で動作サンプルを持ち込んで、実際の利用者の声を製品に反映していくといった取り組みも積極化したい。一例ですが、営業部門に最適なLet'snote、製薬会社に最適なLet'snoteといったことも可能性はあるでしょう。2010年はさまざまな観点から、よりアグレッシブな事業展開を行なっていきたいと考えています。