■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
ポケットムービーカメラの需要が徐々に高まりつつある。
北米では、すでに1つのブームを形成しようとしているが、日本でも、日本ビクターが2009年9月に携帯電話サイズのハイビジョンムービー「PICSIO(ピクシオ)」シリーズを発売。ソニーは、1月14日に新ブランド「Bloggie(ブロギー)」を立ち上げ、モバイルHDカメラ分野への参入を果たした。さらに、三洋電機もこの分野で先行するXactiに、世界最小、最軽量、最薄を唱った製品を新たに投入する。
日本ビクター、ソニーが投入した製品は2~3万円前後であるのに対して、三洋電機のXactiは、4万円前後とやや割高感がある。だが、「今回の新製品はグレードの高いもの。今後、Xactiシリーズとして、200ドル(日本円で約2万円)近辺の低価格のものも出す」(三洋電機デジタルシステムカンパニーDI事業部DI企画部・豊田秀樹部長)として、より普及価格帯での新製品の投入計画があることを示した。
1月15日に発表された三洋電機の新Xacti |
日本ビクター「PICSIO」 | ソニー「Bloggie」 |
●需要拡大するポケットムービーカメラ
ポケットムービーが注目を集め始めた背景にはいくつかの理由がある。
1つは、自分で撮影した動画コンテンツを、YouTubeをはじめとする動画サイトに投稿したり、ブログに掲載したりといった動きが一般化してきたことだ。
特に2009年11月に、YouTubeが1080pのフルハイビジョン対応したことや、薄型TVでもYouTubeの再生を視野に入れた機能を搭載する機種が増加しており、大画面TVでこれを視聴するような動きも増えている。
こうした動きが、ハイビジョンムービーに対する需要増を下支えしている。
カムコーダーの市場予測 |
国内のビデオカメラ市場は、2008年度は年間約160万台の出荷規模となっており、2009年度も微増になると予測されている。その中でハイビジョンモデルの構成比は、2008年度には約70%だったものが、2009年度には約90%を占めるとみられており、ハイビション化の動きは急速に進展している。また、グローバルで見ても、2009年度には約4割だったハイビジョン比率が、2013年度には市場全体の91%を占めると予測されている。小型ムービーにもハイビジョン化の波が訪れようとしているわけだ。
2つ目には、企業のプレゼンテーションなどでも、積極的に動画が活用されるようになったことだ。実際、記者会見の場でも動画のプレゼンテーション資料が増加している。
PC新製品の会見では、堅牢性を実証する落下試験や振動試験の様子などを動画で見せるといった具合だ。ここにも手軽に使えるポケットムービーカメラの需要がある。
マイクロソフトが2010年6月に出荷を予定している次期OfficeスイートとなるOffice 2010では、PowerPoint 2010で動画の活用を手軽に行なえるように機能を強化しており、プレゼンテーションの場で動画を利用することが、今後増えていくことになるだろう。
そして、これらの需要に応えるため、PCとの親和性を追求した製品が登場している点も大きな要素となる。
例えば、三洋電機が発表した新Xactiも、PCとの親和性の高さを前面に打ち出す。
Windows 7との親和性 |
同社では、「単なる撮影、観賞、保存のためのツールとしてではなく、ネットやPC環境での取り扱いに便利なムービーフォーマットであるMPEG-4 AVC/H.264を採用することにより、Webでの動画配信、共有サービスや、iPodなどの携帯端末での利用に便利な商品として、撮影後の新しい楽しみ方も同時に提案していく」とする。
MPEG-4 AVC/H.264は、2009年10月に発売されたWindows 7でも標準でサポート。ムービーファイルを静止画ファイルと同じようにサムネイル表示したり、Windows Media Playerによるダイレクト再生、Windows Live ムービーメーカーを使用した編集など、PC上での取り扱いが快適になる。
さらに、三洋電機では、撮影データのPCへの自動送信、保存が可能な無線LAN内蔵SDカード「Eye‐Fi」連動機能を搭載。この点でも、PCとの連動性に配慮している。
一方、ソニーでもモバイルHDスナップカメラ「bloggie」で、「ケーブルを使わなくても本体に搭載したUSB端子から、PCに直接接続することが可能」としたほか、「記録した動画・静止画は、内蔵のアプリケーションソフトのPMB(Picture Motion Browser)ポータブルを使用することで、動画共有サービスやSNSへ簡単にアップロードできる」と、やはりPCとの連動性を前面に打ち出す。
ポケットムービーにとって、PCとの親和性、連動性は必須の要素となっている。
●ポケットムービーカメラの新たな利用形態ポケットームービーの登場は、新たな購入層と利用形態を生んでいる。
Xactiユーザーの使用頻度 |
三洋電機の調べによると、一般的なビデオカメラの使用頻度では、68%のユーザーが「2カ月に1回」となっているのに対して、Xactiユーザーの場合は、ほぼ毎日が9.0%、週に数回が27.9%、月に数回が31.1%、月に1回が14.8%となっており、8割以上の購入者が、月に1回以上使用していることになる。
また、Xactiユーザーの使用シーンでは、レジャーが29.4%、旅行が22.4%といっているほか、日常のひとコマの撮影が19.4%にも達しており、気軽にポケットムービーカメラで映像を撮影するという使い方が広がっていることが浮き彫りになっている。
「従来のカムコーダーが特別な時や場所、イベントなどでの撮影が中心となり、遠くから固定してしっかり撮るという使い方であったのに対して、Xactiはさりげない日常のワンシーンを撮影したり、小旅行に持っていくなど、いつも持ち歩き、気軽に撮影を楽しむという使い方になっている。家族に1台から、1人に1台という使い方を提案していきたい」(三洋電機デジタルシステムカンパニーDI事業部・田渕潤一郎事業部長)と語る。
だが、ポケットムービーの市場は、まだ日本では確立していると言い難い。
BCNの調べでも、デジタルビデオカメラのうち、3万円以下の製品構成比は、2009年12月実績で、わずか2%となっている。しかも、このなかの製品構成を見ると、ビデオカメラの在庫処分品などが含まれており、純粋な意味でのポケットムービーの構成比はさらに下がることになる。
3万円未満(%) | 3万円以上(%) | |
09年06月 | 2.7 | 97.3 |
09年07月 | 1.7 | 98.3 |
09年08月 | 1.5 | 98.5 |
09年09月 | 1.5 | 98.5 |
09年10月 | 2.0 | 98.0 |
09年11月 | 1.8 | 98.2 |
09年12月 | 2.0 | 98.0 |
とはいえ、少しずつ増加傾向が見られているのも確かだ。
GfKマーケティングジャパンでは、「デジタルビデオカメラ市場を活性化するには至っていない」とするものの、日本ビクターがPICSIOシリーズを投入して以降、ポケットムービーカメラの販売が増加傾向にあることが、同社の調査結果からも明らかになっている。
GfKマーケティングジャパンでは、デジタルスチルカメラの中で、光学ズーム倍率1倍(ズーム無し)、動画圧縮方式がMPEG-4、価格が25,000円以下といったカテゴリを「フリップカメラ」として集計しているが、2009年1月の販売実績を1とした時、2009年10月には1.5、11月には1.2、12月には1.3と、伸張しはじめているのがわかる。
09年1月 | 09年2月 | 09年3月 | 09年4月 | 09年5月 | 09年6月 | 09年7月 | 09年8月 | 09年9月 | 09年10月 | 09年11月 | 09年21月 | |
数量指数(09年1月を1とした数値) | 1 | 0.3 | 0.5 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 1.5 | 1.2 | 1.3 |
数量前年比(%) | - | - | - | - | - | - | - | 1,343 | 9,167 | 5,167 | 913 | 459 |
三洋電機でも、2010年度には、全世界で200万台の出荷を目指すと発言。今後のポケットムービーカメラの市場拡大は、メーカー各社に共通した認識だといっていい。
三洋電機の予測によると、PVC(ポケットビデオカムコーダー)の販売台数は、2009年度には全世界で7,620万台だったものが、2010年度には9,500万台にまで増加。2013年度には1億3,000万台にまで到達し、市場全体の約6割を占めるものと予測している。
いわば、ビデオカメラ市場全体の成長を支える製品がPVCになると見ているのだ。
その点でも、2010年に、ポケットムービーカメラの販売台数がどのような成長曲線を描くのかが、業界における注目点の1つとなるだろう。メーカー各社の今後の製品投入からも目が離せない1年となりそうだ。