大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通がWindows 7時代に「タッチ」で先行する理由



 富士通が、Windows 7の発売にあわせて投入したPC新製品は、Windows 7の大きな特徴であるWindowsタッチ機能の搭載を前面に打ち出したものとなった。Windows 7搭載PCでは、デスクトップPCはもとより、ノートPCのBIBLO MTシリーズでもタッチ機能を採用。さらに、同社が初心者向けPCとして展開する「らくらくパソコン」においても、タッチ機能を搭載することで、より操作性を高めてみせた。

タッチ機能を搭載した富士通のWindows 7搭載PC

 Windows 7時代において、富士通のPCはどう変化していくのか。中期的目標に掲げる年間1,000万台に向けた取り組みを含め、同社のPC事業への取り組みを、富士通パーソナルビジネス本部・齋藤邦彰本部長に聞いた。

--10月22日にWindows 7搭載PCを発売しましたが、手応えはどうですか。

富士通パーソナル ビジネス本部 齋藤邦彰本部長

齋藤氏 極めていい手応えを感じています。Windows 7発売以降は、対前年同期比で19%増という実績になっていますし、タッチ機能を搭載したデスクトップPCの「DESKPOWER F」シリーズも、品薄の状況になっています。Windowsタッチという、新たなユーザーインターフェイスを積極的に採用することで、Windows 7時代の新たな提案が可能になる。そこに富士通の強みを発揮しようと考えています。

 富士通は、Windows 7を搭載した新製品の魅力を伝える際に、「使ってみないとわからない」という表現をしています。スペックなどで評価してもらうのも1つの手ですが、とにかく使ってもらえれば、富士通のPCの良さが実感できる。Windowsタッチの機能はその1つであり、富士通はWindows 7以降のPCには、タッチ機能が可欠な要素になると捉えています。

--ただ、タッチ機能はWindows 7の標準機能の1つです。そこにどうやって富士通の強みを発揮しようと。

齋藤氏 これも「使ってみないとわからない」要素の1つなのですが、指で操作する速度に対しての違和感がない、あるいは画面の隅を指で操作する場合にも違和感がないといった点で、富士通のタッチ機能はは完成度が高いと自負しています。

 なぜ、富士通だけがこれを実現できるのか。それは、富士通が'92年から長年に渡り、ペンPCに取り組んできた経緯があるからです。ペンPCでは、医療分野や流通分野などのプロフェッショナル用途で活用することを前提に技術の改良を図り、北米では第2位のシェアを獲得している。その長年の経験が完成度の高さに直結しているのです。

 これまでは、キーボード、マウスという入力装置しかなかったが、これでは操作が難しいという人も居たわけです。キーボードやマウスに比べて、より直感的に操作できるヒューマン・セントリックな機能であるタッチが、Windowsという最も普及しているOSに標準搭載されたことは、大きな革新であるといえます。富士通にとっては、プロフェッショナル用途で培ってきたノウハウを、いよいよコンシューマ領域にも展開できるようになったというわけです。

--初心者向けのPCとして位置づけている「らくらくパソコン」にもタッチ機能を搭載しましたね。

齋藤氏 「らくらくパソコン」は、初めてパソコンに触れる人に対して、とにかく優しいPCを作ろうという発想で生まれたもので、シニア層などにも使っていただきやすい製品とした。ただ、使いやすさばかりを追求して、キーボードやマウスを専用のものにしてしまうと、孫が使っている標準のパソコンを、おじいちゃんが使えないと状況を生んでしまう。ですから、標準のキーボードでありながら、よく使うキーだけを色分けするというような工夫を施して、使いやすい環境を提案する程度に留まっていました。

 ところがタッチ機能は、初心者にも、中上級者にも使いやすいユーザーインターフェイスですから、これを標準的に利用する世界がすぐにやってくるのは明らかです。らくらくパソコンにタッチ機能をいち早く採用したのは、初心者こそ、使いやすいインターフェイスであり、使いやすいPCを実現するには不可欠な要素だと判断したからです。こちらも反応は上々です。タッチ機能を搭載したことで、量販店店頭でも、「らくらくパソコン」の特徴が説明しやすくなったということもあり、大手量販店のなかでは全店で展示するという例も出ています。タッチ機能による進化が最もはっきりと打ち出せる製品ですから、これまでの「らくらくパソコン」に比べて、2~3倍の出荷台数を見込んでいます。

タッチおじさん

--富士通は、Windows 95時代に「タッチおじさん」というキャラクターを使っていましたね。まさに「富士通=タッチ」の時代が訪れたと(笑)。

齋藤氏 当時は、まだPCの普及黎明期であり、「来て、見て、触って」というコンセプトを打ち出し、量販店などを訪れて、多くの人にPCにタッチしてもらいたいという狙いからタッチおじさんが登場しました。その点では、「タッチ」の意味が違うのですが(笑)、まさに、いまの富士通のPCにこそ、最適なネーミングであり、キャラクターであるといえるかもしれませんね。ただ、これは2000年代の前半で終了したキャラクターですから、いま持ち出すわけにはいきせんから(笑)。

--富士通のPC事業では、中長期の目標として、ライフパートナーを目指すという方針を掲げています。Windows 7の機能が、この方針にどう影響することになりますか。

齋藤氏 富士通が目指すライフパートナーとは、言い換えれば、1日24時間のなかでどれだけ多くの時間、PCを利用してもらうか、多くの人に役立つことができるのか、といったことへの挑戦なのです。あらゆるシーンに対応し、あらゆる人に使ってもらうためには、ユーザーの利用シーンに最適化した専門特化型のPCと、1つのPCであらゆるシーンに対応できるようなPCと、両方のPCを製品化していく必要がある。

 繰り返しになりますが、Windows 7で搭載されたWindowsタッチ機能は、あらゆる人に利用してもらうという意味では不可欠な機能です。また、マルチメディア機能の強化は、コンシューマエレクトロニクス機器との垣根を無くし、ホームネットワーキングを実現することができる。かつては、リビングには薄型テレビを置くのか、それともPCを置くのかという議論もあり、どちらかというと競合関係の製品であったものが、Windows 7時代になり、ホームサーバーとコンシューマエレクトロニクス機器の親和性が高まり、お互いが協調する製品へと変わることになります。この変化も確実に捉えていきたい。

 Windows 7は、富士通がライフパートナーを実現する上で必要とされる数々の機能が搭載されており、ライフパートナー戦略を加速するものになると考えています。

--前回のインタビューでは、TEOに関しても、2009年度は大きく進化させたいという意欲を見せていましたが、これはWindows 7によってどう変化しますか。

齋藤氏 Windows 7で提供されるホームネットワーキングなどのマルチメディア機能には大きな期待を寄せています。ようやくコンシューマエレクトロニクスを強く意識した製品へと進化ができる。リモコンをはじめとする、ユーザーインターフェイスの大幅な改良も視野に入れています。ただ、TEOの進化は、来年(2010年)1月以降の話になります。これは、ぜひ来年を楽しみにしていてください。

--富士通は、富士通テクノロジーソリューションズ(FTS)の完全子会社化に伴って、PCの設計、開発、生産体制を大きく変更しようとしています。具体的には、これからどう変化しますか。

齋藤氏 まずは、プラットフォームを大きく見直します。富士通には、現在、ノートPCだけで33種類のプラットフォームがあります。これを来年半ばには、ワングローバルプラットフォーム化を図り、15種類にまで削減します。

 富士通は、全社規模で「Think Global, Act Local」の方針を掲げています。ワングローバルプラットフォームは、この方針に則ったものだといえます。世界統一プラットフォームという「Think Global」をベースに、各国ごとに異なる仕様やデザイン、色など嗜好にあわせ、「Act Local」という形で味付けを行なう。日本の「らくらくパソコン」は、まさに日本の市場にあわせたAct Local型の製品です。

 一方で、デスクトップは、各国ごとに要求が異なりますから、ノートPCのようなワングローバルプラットフォームが図りにくいという事情がある。例えば、日本ではコンシューマ向けデスクトップの7割が一体型であるのに対して、企業向けでは90%以上がスモールフォームファクターの製品。また、海外では7割が大型のタワーモデルとなる。それぞれの市場特性にあわせた形で、プラットフォームを残すことになります。

--ノートPCだけで15種類というプラットフォーム数は、適正な数ですか。

齋藤氏 液晶パネルだけでも、5.6、8.1、10.1、11.6、12.1、13.3、14.1、15.6、18インチというように9種類ある。それを考えると適正水準だと思います。15.6インチのノートPCを例にすれば、このプラットフォームを活用した製品の部品共有率は90%以上となります。

 PCの平均単価は、この2年間で約2割も下がっている。これから先の2年間を考えると、さらに2割下落する可能性もあります。もはや不況だから価格が下がる、好況だから価格が維持されるという考え方は通用しません。価格は下がっていく方向にあるというのがグローバルの流れです。富士通がグローバルで戦う上では、それに耐えうることができる事業体質を作らなくてはならない。プラットフォーム数の削減、部品の共有化率の向上、そして、生産拠点の再編といったことは避けては通れない取り組みとなります。

 現在、ノートPCの生産台数の約半分はFTSで生産していますが、2010年1月から徐々に島根富士通での生産へとシフトしていきます。一部にはODMを利用した生産も残ることになりますが、日本に生産を集約しても、ノートPCの場合、ロジスティックによるハンデがでにくい領域でもありますし、ボリュームを背景にしたバイイングパワーも発揮でする。そして、なににも増して、日本で設計し、開発、生産する仕組みは、付加価値や品質という点で競合他社と大きな差別化につながる。メイド・イン・ジャパンの強みは、これからますます発揮されると考えています。

--10月に開催されたCEATECのパネルデティスカッションにおいて、富士通では、「フレームゼロ」と呼ばれる将来のPCの形を提示しました。将来の富士通のPCはどうなっていくのでしょうか。

齋藤氏 社内では、将来のPCの形はどんなものかということに関して、さまざまな検討を行なっています。時代がやってくるのを待つのではなく、顧客がどんなものを望んでいるのかを先取りして、提案をしていく努力が必要です。

 富士通にとって、フロントエンドのインターフェイスとなる製品は、PCと携帯電話です。そして、この2つの製品が融合していく方向も間違いない。富士通はこれまでにも、1つの組織で、PC事業と携帯電話事業を統括する体制としていましたが、方向性は出ていたものの、なかなか成果には結びついていなかった。そこで、今年(2009年)10月1日から、ユビキタスビジネス戦略室を20人体制で設置して、具体的な成果を出すことを目指した。PCと携帯電話の事業部門から精鋭を集めましたから、1年後にはなにか成果を期待したいですね。

--PCと携帯電話が融合した製品がなにかしら登場すると。

齋藤氏 最終的な製品として投入できるかどうかはわかりませんが、PDCAサイクルのなかで、きちっとした成果を期待しています。PCと携帯電話の融合というと、どうしても、その中間的な画面サイズの製品を考えがちですが、そうではなく、フロントエンドの製品としてどんなものが求められているのか、ライフパートナー戦略のなかで、どんなものが必要か、ヒューマンセントリックな製品とはどういうものか、という原点に立ち返って、製品、サービスの観点から新たなものを創出していきたいと考えています。中長期に渡って、富士通から、今後どんな製品が登場するのか、楽しみにしてください。