大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Let'snote N8/S8で、パナソニックが打ち出す第3世代ビジネスモバイル



パナソニック AVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部・奥田茂雄事業部長

 パナソニックは、新たなLet'snoteシリーズとして、Let'snote N8およびS8の2製品を発売した。パナソニック AVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部・奥田茂雄事業部長は、「ビジネスモバイルとして、原点回帰を実現した製品。軽量化、長時間駆動、堅牢性における進化とともに、モバイルPCだからといって諦められていた性能についてもこだわった」と語る。新Let'snoteシリーズはどんな進化を遂げたのだろうか。

 6月に奥田事業部長に取材をした際、同氏は「原点回帰」という言葉を何度も繰り返した。振り返ってみると、その言葉は、今回の新Let'snoteの登場を踏まえたものであり、同商品に結実させた要件だといってもいい。

 「軽量化、長時間駆動、堅牢性というビジネスモバイルに要求される基本要素は、さらに強化した。これが原点回帰への取り組み。そして、今回の製品では、さらに高性能の要素を付加した。これこそが、ビジネスモバイルに求められる新たな本質を追求した結果である」と、奥田事業部長は語る。

 パナソニックは、2002年にCF-R1を投入して、ビジネスモバイル市場に本格参入した。この際に追求したのが、軽量・長時間駆動である。持ち運んで、外出先で利用するために最適化する、基本要素ともいえるものだ。これを第1世代とすれば、2005年に投入したCF-W4で実現した耐荷重100kgによる頑丈設計は、まさに第2世代のものといえる。軽量、長時間駆動に加えて、堅牢性を加えることで、タフモバイルという世界を創出したのだ。

第3世代のビジネスモバイルとするLet'snote N8およびS8

プロモーション活動でもプロフェッショナルモバイルを訴求する

 そして、今回のLet'snote N8およびS8では、高性能という要素を付加し、「プロフェッショナルモバイル」という世界を提案した。Let'snoteシリーズとしては、これが「第3世代への進化」ということになる。

 「ビジネスモバイルに求められる要素が変わってきている。それにあわせて、Let'snoteも進化する。いま求められるのは、プロフェッショナルモバイルの提案である」と奥田事業部長は語る。

 パナソニックでは、モバイルでの利用シーンが二極化していくと見ている。

 1つは、モバイル環境でネットを見る、あるいはEメールを行なうという、いわばビューアに近い使い方だ。この分野は、携帯電話やスマートフォン、あるいはネットブックなどが得意とする分野といえよう。

 もう1つは、社内でPCを活用している環境と同じ状況を、モバイル環境でも再現し、利用するという使い方だ。

 「タブブラウジング機能が広がっていることもあり、複数のサイトを一度に立ち上げるという使い方が一般化している。また、PowerPointで動画を利用するといった使い方も出てきている。さらに、今後のクラウドの広がりとともに、常にネットに接続して利用するという使い方がさらに増えてくるだろう。こうした処理をモバイル環境でも、ストレスなく行なうことが求められようとしている。そのためには、これまではモバイルだからといって、半ば諦められていた高性能化が、必要不可欠な要素となってきた」。

 Let'snote N8およびS8で、クロック周波数2.53GHz/2.66GHzの標準電圧版のCPUを採用したのも、こうしたビジネスモバイルに対する要求変化に対応したものだ。ここに「プロフェッショナルモバイル」としての提案、そしてビジネスモバイルとしての「本質追求」という意味があるのだ。

 プロフェッショナルモバイルを構成する要素がもう1つある。それは、通信環境の進化にあわせた対応力の強化だ。

 無線LANスポットの広がり、3G通信環境の整備、そして、7月から本格サービスが始まっているWiMAXサービスなど、モバイルにおけるブロードバンド環境は急ピッチで整備されている。これらの通信環境に対応した仕様となっていることもプロフェッショナルモバイルを実現するためには不可欠な要素だ。

 Let'snote N8およびS8では、WiMAXを標準機能として装備。さらに、従来モデルから継続する形で、無線LAN、ワイヤレスWAN、Bluetoothにも対応している。

 「IntelがCentrinoを発表したときにも、いち早く全モデルで無線LAN対応を図ったのがLet'snote。モバイルビジネスを実現するPCとして、今回もいち早くWiMAXに対応した」というわけだ。

 だが、高性能化および無線接続環境への対応を実現すると、その一方で、バッテリ駆動時間が短くなるという、ビジネスモバイルにとってマイナス要素が発生することになる。この課題を解決することで、初めて「プロフェッショナルモバイル」という冠をつけることができるのだ。

 奥田事業部長は、2009年初め、社内に対して厳しい号令を発した。

 「バッテリ駆動時間を2倍にしろ! それができなければプロジェクトは解散だ!」--。

 これまでのLet'snoteシリーズでは、JEITA規格で、約8時間から約11時間の駆動時間を実現していたが、ここで最低限のレベルとして設定していたのが8時間駆動。これを2倍の16時間にまで引き上げるというわけだ。

 「1日使いっぱなしにするには、8時間の駆動時間を必要。だが、高性能CPUを利用し、ネットワークに接続した環境で利用するためには、JEITA規格の基準値では、いまの2倍の駆動時間が必要になる。そのためには、小手先の改革ではなく、回路そのもの、構造そのものを見直す必要がある。Let'snote N8およびS8は、新たな世代のビジネスモバイルとして、これまでの延長線上ではない考え方で設計し直したもの」というわけだ。

 実際、Let'snote N8およびS8は、標準バッテリで16時間という連続駆動時間を実現。これは世界最長となっている。

数々の部品における改良が約2倍というバッテリ駆動時間を実現した

 パナソニックでは、長時間バッテリ駆動を実現できた理由について、あまり明確には言及しようとはしない。そこにはブラックボックスといえる技術が集約されているからだ。

 奥田事業部長は、「基本的には『気合』に尽きる」と冗談を交えながらも、「あえてあげるとするならば、ファンやバックライトモジュール、ドライブ、電池技術など、多岐に渡る部品それぞれに工夫を施し、これが積み重なって実現したもの。大きな企業、小さな企業を問わず、技術力を持った企業との連携や、部材メーカーとの緊密な関係、グループ企業との強固な関係を構築することによって実現している。1つのテクニックで2倍もの駆動時間を実現するのは不可能」とする。続けて、「日本の企業が持つすり合わせ技術があるからこそ、実現できた」と、守口で設計し、神戸で生産する“MADE IN JAPAN”の強みを訴える。

 「モバイルビジネスユーザーが、オフィスで利用する高性能PCと、モバイルで利用する軽量のPCの2つを所有するという方法、あるいは、どちからの機能性をあきらめて、我慢して1台を持つという選択肢ではなく、どちらの用途も1台でカバーできるプロフェッショナルモバイルを実現すことを狙った」というのが、第3世代のLet'snoteということになる。

 パナソニックは、2009年度のPCの出荷計画を、年度初めの段階では前年比18%増の80万台としていた。

 だが、企業におけるIT投資抑制の影響を受け、上期は前年比横ばいという状況で推移した。企業向け市場だけを捉えれば、マイナス成長だともいえる。

 それでも、企業向けPC市場全体が、前年比30%~40%減で推移していることと比較すると、パナソニックの伸び率は高い。

 「通期では前年実績の68万台を上回る、70万台を目標としたい。1件あたりのまとまった案件が数百台単位だったものが、数十台単位に減少するなかで、より多くの顧客を訪問し、Let'snoteの良さを知っていただきたい」と営業展開の強化に乗り出す姿勢をみせる。

 同社では、2009年4月から月1,000件の新規顧客への訪問を開始している。さらに、5月からは、SAMURAI JAPANの名称で、Let'snoteのプロモーションセットを持って、直接企業を訪問し、Let'snoteが持つ性能の高さ、ビジネスモバイルとしての完成度の高さを訴求する活動を開始している。

 「商談で負けて、他社製品に決まった企業に対しても、改めてLet'snoteの良さを訴えている。4年後のリプレースに向けての訴求をいまから開始し、さらに部門での試験導入など、少しでもビジネスチャンスがあれば、それを獲得するといった泥臭い活動を開始している」というのだ。

 SAMURAI JAPAN用のプロモーションセットは、PC本体のほか、カットモデル、部品などで構成され、全世界で5セットが用意されている。日本では、約半年間で30社程度の提案活動が行なわれた。

 「Let'snote N8およびS8によって、新たな顧客獲得に向けた提案がさらに加速できる。売りにつながる活動も泥臭く展開していきたい。そして、リードタイムを短くし、商品の質も高めたい」。

 第3世代のビジネスモバイルという新たな武器による提案によって、回復基調に転じ始めた企業向け需要を取り込むことで、下期の事業拡大に意欲を見せている。