大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第12/13世代CoreやArc、Xeon Max……新製品ラッシュが続いたインテルの2022年を振り返る

インテル 執行役員常務 第二技術本部本部長の土岐英秋氏

 2022年を振り返ると、インテルからは、数多くのテクノロジーが発表された1年だった。クライアントコンピューティング分野では、第13世代Coreプロセッサを市場投入。インテル初のゲーミングGPUとなるArcなどを発表。さらに今後は、データセンターおよびAI分野向けの第4世代インテルXeonプロセッサ、HPC向けのXeon CPU Maxシリーズなどにより、各分野におけるリーダーシップ製品をラインアップする計画だ。

 加えてAIの未来や量子コンピューティングの未来についても提言。10年後に向けて1兆トランジスタをパッケージに集積するという目標も発表し、今後もムーアの法則が維持されることを明確にした。

 インテル 執行役員常務 第二技術本部本部長の土岐英秋氏に、テクノロジーの観点から、2022年の取り組みを振り返ってもらった。

クライアント向けはCPUもGPUも大躍進した2022年

 パット・ゲルシンガー氏が、2021年2月にインテルに復帰し、CEOに就任してから、異例の速度で、施策やテクノロジー、新製品が発表されている。それは、量という観点だけでなく、質の観点からも同様であり、IT市場へのインパクトだけでなく、社会にも大きな影響を与えるものばかりだ。そして、2022年もその勢いを持続。むしろ、加速した格好といえるだろう。

インテルの戦略的方針

 まずは、2022年に発表された主要製品と技術を振り返ってみよう。

 2022年1月5日には、史上最速のモバイルプロセッサであるとともに、世界最高のモバイルゲーミングプラットフォームとなるCore i9-12900HKプロセッサを発表。2月23日には、薄型軽量ノートPCの進化を支える第12世代Core プロセッサ Pシリーズ/Uシリーズを発表。3月28日には、世界最速のデスクトップ向けプロセッサとして、第12世代Core i9-12900KSを発表した。さらに、5月10日には、世界最高レベルのモバイル・ワークステーション・プラットフォームとなる第12世代Core HXプロセッサを発表している。

 「Alder Lakeは、性能の高さや、使い勝手の良さが評価されているプロセッサであり、その実績のもとに、世界最高のモバイルゲーミングプラットフォームとなったHKプロセッサを投入したところから2022年は始まった。さらに、薄型ノートPC向けにも第12世代を投入。デスクトップ向けとして世界最速となるKSシリーズも投入した。2022年前半は、Alder Lakeの製品を相次いで投入でき、市場のリーダーシップを取れる強い製品が、インテルのビジネスを牽引した」とする。

 インテルにおいて、最初のゲーミングGPUとなるArc製品の発表も、2022年の大きなトピックスだ。

 3月31日には、Arc Aシリーズ・グラフィックス・ポートフォリオにおいて、ノートPC向けディスクリートGPUの第1弾を発表してみせた。Arcでは、9月27日にはデスクトップ向けArc A770 GPUを発表。また、9月19日には、初めてArcグラフィックスを搭載したNUCとして、インテル NUC 12 エンスージアスト・ミニ PCと同キットを発表した。

 「Arc A770 GPUは、圧倒的なコンテンツ制作性能と、1440p解像度のゲーミングパフォーマンスを提供することができる。ピーク性能は65%向上し、レイトレーシングの性能を強化。AI で強化されたアップスケーリング・テクノロジーであるXeSSでは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって、最適なチューニングを行ない、ワンランク上のゲーム体験を実現する。2023年も、Arc製品のラインアップの広がりを期待してほしい」とする。

 土岐氏は、Arcの開発へのこだわりについても言及した。

 「Arcでは、ソフトウェアのチューニングを重視している。これは、開発を率いたラジャ・コドゥリのこだわりかもしれない。実際、彼自身、ハードウェアよりもソフトウェアへの関心が高いようだ。Intel Architecture Dayでも、ハードウェアは進化しても2割程度の上昇だが、ソフトウェアで最適化が進むと10倍、100倍も性能が上昇することがあると発言している」とコメント。

Arc GPU

 「ハードウェアと、それを活かすソフトウェアとの組み合わせが、Arcの特徴であり、この考え方がレイトレーシングの強力な環境を提供することにもつながっている。また、XeSSにおいても、同様の考え方を用いて、AIのアルゴリズムの進化により、解像度を高めていくことになる。インテルがCPUでやってきた設計手法は、周波数を高め、ハードウェアの観点からアクセラレーションを強化するという考え方だったが、GPUでは、ハードウェアと、そのハードウェアを最大限に活かすソフトウェアの組み合わせによって、この分野で先行する2社に挑むことになる。妥協をしない開発姿勢と、GPUの進化においては理にかなった仕組みを採用しており、今後、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによる進化が、インテルのGPUの強みになるはずだ」と述べた。

 実際、Arc A770 GPUの発売から2カ月を経過した2022年12月には、ドライバをアップデートし、ゲートタイトルの利用において、最大1.8倍のパフォーマンス向上を実現した。今後、こうしたソフトウェアによる進化が起こることになりそうだ。

インテルが発表した第12世代CoreやArc GPU

Wi-Fi 7や第13世代Core、そして次世代Xeonも続々発表

 2022年の振り返りに戻ろう。

 8月24日には、データセンター向けGPUのFlexシリーズを発表。9月9日には、Broadcomとともに、業界初となるWi-Fi 7のデモストレーションを行ない、5Gbpsを超える無線通信速度を実現。10月17日には、新たにリリースされたUSB4 v2とDisplayPort 2.1の仕様に基づいた次世代Thunderboltテクノロジーの初期プロトタイプを公開している。

 「Flexシリーズは、ビデオ配信などの用途で、データセンターでもGPUを活用する機会が増加することを想定して投入した製品である。そして、次世代Thunderbolt といったI/Oの部分も着実に進化させていく姿勢を示すことができた」と振り返る。

 9月27日には、いよいよ第13世代Coreプロセッサ(開発コードネームはRaptor Lake)を発表した。

 「まずはデスクトップ向けプロセッサを投入し、コアの高速化などにより、世界最高峰のゲーミング体験を実現した。たとえば、ゲームをしながら、配信、録画を同時に実行することが可能になる。さらに、この高い性能をクリエイターが利用すると、高度なデザイン、ビデオ編集、CADなどに最適な環境を提供することができる。最大8個のP-coreとともに、E-coreでは最大16個まで増やすことができる設計により、マルチスレッドの性能向上が貢献している」とする。

 さらに、「オーバークロックを利用するにはパラメータを操作する必要があるが、第13世代では、パラメータの設定を簡素化し、多くのユーザーが利用できるようになった。eスポーツのプロからビギナーまで、あらゆるユーザーに対して、オーバークロックの最適な体験が可能になる」という。

第13世代Coreプロセッサ

 また、土岐氏は、「Raptor Lakeは、Alder Lakeの後継であり、アーキテクチャはほぼ同じであるが、一部には大幅な改良を施している部分がある」と前置きし、「一般的に、CPUコアは最高のものを目指して設計をしているが、評価をしてみると、さまざまな障害が発生する場合がある。それをマイクロコードアップデートでエラーを抑えたり、完全に動くように、タイミングを調整したりといったことを行なう。

 だが、設計段階で、ハードウェアによるクリティカルパスを整備することで、ソフトウェアのパッチを当てずに速度を上げることなどができ、効率よくCPUを回すことができる。Raptor Lakeでは、クリティカルパスを新たなものにしている」と発言。

 また、「E-coreを増やすことで、マルチスレッドの性能が一気に高まり、デスクトップでは41%も性能が向上している。普通、世代が変わっても10~15%の性能向上に留まるが、Raptor Lakeはそれ以上の性能向上となっている。また、P-coreとE-coreのそれぞれのキャッシュを増やしており、CPUが待たされることがなくなった。これも、Raptor Lakeの性能向上に大きく貢献している」と述べた。

 なお、11月18日には、第13世代Coreプロセッサを搭載した「NUC 13エクストリーム・キット」も発表している。9月に第12世代プロセッサを搭載したNUCを投入してから、2カ月後には、第13世代プロセッサを搭載したNUCを投入するというスピード感だ。

Wi-Fi 7や第13世代Core、そのほかの技術など

 このように、2022年は、さまざまな技術や製品が発表されたわけだが、同時に、今後のロードマップについても公表。あらゆる市場領域でリーダーシップ製品を投入する意思を感じることができる。

 クライアントコンピューティング向けには、今後、デスクトップ向けに加えて、第13世代Coreモバイルプロセッサを投入するほか、データセンター&AI向けには第4世代インテル Xeonスケーラブルプロセッサ(開発コードネームはSapphire Rapids)を年明けに投入。アクセラレータの強化により、AIパフォーマンスを最大30倍向上させることができる。

 さらに、HPCおよびAI向けのXeon CPU Maxシリーズ(開発コードネームはSapphire Rapids HBM)では、チップレット方式による4つのタイルで構成し、EMIBを活用し、シリコン同士を接続。最大56個のP-coreを1つのプロセッサの中で接続できる。アクセラレイテッドコンピューティング向けには、インテル データセンターGPU Maxシリーズ(開発コードネームはPonte Vecchio)を製品化。1,000億を超えるトランジスタを、47タイルのパッケージの中に組み込み、最大128GBの広帯域幅メモリを内蔵する。

 「Maxという力がこもったネーミングからも分かるように、HPCおよびAI分野において最大の性能を目指す。CPU(Sapphire Rapids HBM)では、最大56個のP-coreとEMIBの採用、TDPは350Wに抑え、最新のCXL1.1による接続を行なっている。また、20個のインテル アクセラレーターエンジンを内蔵している点も高性能化に貢献している。

 一方、GPU(Ponte Vecchio)では、EMIBに加えて、3Dダイスタッキング技術のFoverosを使用することで、最先端のパッケージングを実現。それによって、1,000億トランジスタを達成することができる。HPC対応のXe-coreを最大128個搭載し、スループットは52TFLOPSのピークパワーを実現。GPU同士の通信を行なうXe Linksを16本用意している。単一ソケットでの計算密度では世界最高になる。これがマックシリーズのGPUとして最初の製品になる」と説明した。

 インテルでは、Intel Innovationの中で、Intel Developer Cloudを発表。第4世代XeonスケーラブルプロセッサやData Center GPUなど、今後展開予定のハードウェアプラットフォームの開発とテストを発売前に実現できるようにしており、こうした取り組みも、新たなプロセッサの普及を下支えすることになる。

データセンター向けCPU/GPUも続々投入

プロセス技術を力強く推進するTick Tockモデル

 土岐氏に、技術本部長という立場から、2022年の3大ニュースを挙げてもらった。

 「あくまでも個人的感想」としながら、「1つ目はAlder Lake。E-coreとP-coreが組み合わさったアーキテクチャを実現し、インテル スレッドディレクターが想像以上にうまく動いている。インテリジェントなワークロードの割り当てが、より熟成することも期待している。

 2つ目は、GPUの登場。かつてのIntel 740を含めると2世代目ともいえるが、Arcという形で、ディスクリート向けのグラフィックチップをいよいよ出したというのは大きなトピックスとなる。

 3つ目は、Maxシリーズ。とくに注目したいのは、ここに使われているバッケージ技術。EMIBとFoverosによって、タイルを使った製品が、いよいよ実用化される段階に入ってきたことは大きなニュースであった」と述べた。

Xeon CPU Maxシリーズ
Datacenter GPU Maxシリーズ

 なお、インテルでは、最先端プロセス技術を活用した新たなCPUのロードマップを明らかにしている。

 ゲルシンガーCEOが就任してから打ち出されたものであり、このロードマップは、発表当初から、大きな話題を集めた。これにより、インテルは、最先端プロセス技術のリーダーシップへの復権に向けて、Tick Tockの開発モデルによってイノベーションを遂行。その結果、4年間で5つの節目を実現するという驚くべき進化を遂げることになる。

 そして、その第一歩となるIntel 7は、Alder Lakeによって、2022年に計画通りに達成。また、2022年後半に製造を開始する予定としていた4nm相当のIntel 4についても、Meteor Lake CPUへのタイル製造プロセスが最終設計段階に入り、今後、製品化に向けた動きが加速することになる。

 2023年後半には、Intel 3の製造を開始。これがFinFET世代の集大成となる。ここから先は、オングストローム世代に入り、2024年前半にはIntel 20Aが製造を開始、2024年後半にはIntel 18Aの製造が開始されることになる。「全周ゲート型となることで、それまでとはまったく違う性能を発揮し、大きな進化を図ることができる」とする。

 ちなみに、Tick Tockモデルは、インテルがCPUの進化において、かつて使っていた言葉だが、プロセスにおけるTick Tockモデルを新たに打ち出した格好だ。

製造プロセス技術のリーダーシップへの復権

 「たとえば、Intel 4とIntel 3は、別々のチームが同時に開発しており、このように並行して開発している様子をプロセスにおけるTick Tockモデルとしている。共通技術については、専門チームが開発し、それを活用して、Intel 4とIntel 3向けにそれぞれチューニングを行なう。これまでは、プロセス技術の世代が変わるのに2年~2年半を要していたが、Tick Tockモデルでは、それが大幅に短縮することになる。Intel 20AとIntel 18Aも別々のチームが開発しているTick Tockモデルを採用している」という。

 インテルは、2022年12月に、今後10年で単一パッケージ上に1兆個のトランジスタを実装するという目標を発表。今後もムーアの法則が継続するとの見通しを示した。土岐氏は、「1兆個のトランジスタが1つのパッケージに集積することで、私たちの予想を超える使い方が起きるだろう。1つのデバイスが、いまのデータセンターと同じような機能を持ったりする可能性もある。3Dパッケージング技術、2Dトランジスタの微細化、超薄素材などの組み合わせによって、指数関数的にトランジスタ数は増えていくことになりそうだ」と期待する。

半導体製造のファウンドリビジネスも注力し続ける

 インテルでは、これまで打ち出していた「Superpowers」を、2022年秋から進化させている。

インテルのSuperpowers

 Superpowersは、世界の仕組みを大きく変えていく基盤技術と位置づけているもので、「コンピューティング」、「コネクティビティ」、「インフラストラクチャー」、「AI」の4つに、新たに「センシング」を加えて、この5つを「Superpowers」に再定義した。

 「データを重視する姿勢は変わらない。だが、これまでの4つのSuperpowersでは、データの増加や、データをどう処理するかといったことにフォーカスが当たっていた。センシングを加えたことで、データを生成する部分にもフォーカスを当てることになる」と説明する。

 また、Superpowersの再定義とともに、インテルの戦略的方針も明確にした。

 インテルでは、生産量を増加させても半導体不足が続いているという、いまの状況を捉えながら、今後も長期的に、旺盛な需要が継続することや、コンピューティングに対するニーズが高まり、ムーアの法則の価値がさらに高まること、開発者などのクリエイティビティを向上させるにはオープンエコシステムによるイノベーションの促進が必要であり、そのために、コンピューティングを民主化すること、世界規模でレジリエンスを持ったサプライチェーンの構築が必要であることなどを示しながら、それらに対するインテルの施策や姿勢を、戦略として打ち出した。

 ここでは、最新のコンピューティングパワーを多くの人に利用してもらうための「リーダーシップ製品の提供」、多くのステークホルダーが参加する環境において、セキュアなプラットフォームを提供する使命を明確にした「オープンでセキュアなプラットフォーム基盤」、供給能力を維持、拡大するとともに、効率化を図り、地球環境に優しい形で実行する「大規模でサステナブルな製造能力の活用」、インテルの戦略を実行するための人材、セキュリティを文化として定着させるための取り組みなどを指す「インテルの人材と文化が生み出す大きな可能性」を打ち出している。

 さらに、インテルが得意としている「クライアント」、「データセンター&AI」、「ネットワーク&エッジ」という3つの領域に対する「行動」に加えて、ソフトウェアやセキュリティに大きく踏み出す姿勢を強調。

 また、「アクセラレイテッドコンピューティング」を、汎用的な仕組みとして、システムやグラフィックス分野に提供。半導体生産に関しては、自社製品を生産するためのファブに加えて、自社製品以外のものを生産したり、自社工場以外で生産したシリコンも活用したりする「ファウンドリ」を推進。Superpowersに新たに加えたセンシングを活かす分野として「自動運転&モビリティ」を打ち出し、これらによって、「IDM 2.0」によって目指す姿を、新たにアップデートしてみせた。

 2022年のインテルの動きで世界中から注目されたのが、生産拠点への投資である。

 2022年1月に発表したオハイオ新工場には200億ドルを投資。3月に発表したドイツの新工場やEUにおける研究開発拠点の設置に365億ドルの巨額の投資を行なうことを明らかにしている。それと同時に既存工場の拡張についても発表。半導体の製造能力を一気に高め、将来に渡って、市場への安定した供給体制を実現する計画だ。

製造設備への投資

 一方で、2022年になってから、ゲルシンガーCEOは、「システムファウンドリ」という言葉を使い始めた点も見逃せない。

 システムファウンドリは、ウェハ製造とパッケージング技術、ソフトウェア、チップレットのエコシステムを組み合わせたもので、「パッケージ上にシステムを組み上げるイメージがベースになる」(土岐氏)とする。その上で、「チップレット方式になり、さまざまなシリコンがパッケージ上でシステムのようにつながり、提供ができるような世界がやってくる。インテルはプラットフォームを担ってきた企業であり、クライアントコンピューティング、データセンター、HPCでも、マザーボード上のシステムや、ラック内に搭載されたシステムを提供してきた実績と知見がある。それらを活かして、パッケージの上にシステムを組み上げることができる」とコメント。

 さらに、「インテルだけでは、すべてのシリコンができるわけではない。そこにもチップレット方式の挑戦がある。最先端のインテル製シリコンのほか、さまざまなファウンドリが製造したシリコンがあり、必要なシリコンを調達してくることができるなど、調達面でのメリットもある。これは、システム構築において、コンポーネントごとに調達するのと近い状態になる」とする。

 まだ現時点では、システムファウンドリの詳細や目指す方向性は明らかではないが、今後、システムファウンドリとはなにか、どんなアドバンテージを生むことができるのかといったこと明らかになるだろう。

量子コンピュータやAIについても言及

 インテルは、テクノロジーの観点から、未来に向けた取り組みに言及することが多い。

 2022年は、量子コンピューティングとAIの未来について提言している。

 量子コンピューティングについては、2020年12月に、超伝導方式の量子コンピュータの開発に向けて、極低温量子制御チップ「Horse Ridge」を開発し、2021年3月には、量子ビット数を計測して量子ノイズの発生源と量子ドットの品質に関する情報を数分で収集するテスト装置「クライオプローバー」を開発してきた経緯があるが、2022年は、これまでとは異なる方向性を打ち出した点が特徴だ。

量子コンピュータへの取り組み

 2022年4月に、インテルの300mm研究開発ファブ装置で製造された業界初のシリコンスピン量子デバイスを開発したと発表。インテルの資産を活かすことができるシリコンスピン量子デバイスに取り組む姿勢が強調されたといってもいいだろう。

 2022年9月には、フルスタックのソフトウェア開発キット(SDK)として、インテルQuantum SDKを提供し、インテルの量子コンピューティングスタックを利用できるように開発者をサポート。2022年10月には、量産工場内で極端紫外線(EUV)リソグラフィーを用いて、300mmシリコンウェハ上に量子ビットを大量生産し、単一のウェハに、1万の小規模量子ドットアレイを配置することに成功したという。

 一方、量子コンピューティングによって生まれる課題についても指摘。「現在の暗号化技術で保護されているデータが、量子コンピューティングの技術によって、一気に解読されてしまう時代が訪れる可能性がある。格納しているデータは暗号化されているから安心だという考えのままではだめで、量子コンピューティングにより、そのデータが10年後には破られてしまう危険性があることを知っておくべきである。

 専門家の間では、2000年問題を『Y2K』と呼んだように、2030年には、量子コンピュータが既存の暗号化技術を破る『Y2Q』と呼ばれる問題が生じると予想している。いま利用している暗号化技術が、量子コンピューティングへの耐性があるのかどうかを、検証していく必要がある」と提言。「テクノロジープロバイダーには、量子的な耐性を持つイノベーションにより、顧客をサポートできる豊富な暗号技術のパイプラインの開発が求められる。アルゴリズムやパラメータを増加させた暗号ガイドラインを作成し、量子攻撃に対する耐性の強化が必要である」と述べた。

 もう1つのAIについては、一部は技術が研究段階から実用段階にシフト。ゲノム研究の加速化や、ヘルスケアの向上、農地での収穫逓増に向けた土壌の欠陥特定など、さまざまな企業が複雑な問題の解決にAIを活用しはじめていることを指摘しながら、「たとえば、リモート会議でのバックグランドノイズの消去にAIが活用される例なども出ている。だが、その際に、ソフトウェアで消去するとCPUの使用率の増加や発熱につながる。インテルでは、それらの処理をAIアクセラレータチップに任せ、CPUへの負荷を減少することができるように提案を行っていく。だれもが快適にAIを利用でき、デジタル変革を加速させる『AIの民主化』に向けた取り組みを加速していく」と述べる。

AIや量子コンピューティングの未来

 また、インテルは、アクセンチュアと共同で「Project Apollo」を開始。オンプレミスやクラウド、エッジ環境でのAI利用を促進させる30以上のオープンソースAIリファレンスキットを企業に提供する。「これを活用することで、AIを利用したシステムを、スクラッチから作るのではなく、オープンソースをベースとしたリファレンスキットの活用により、AI活用のハードルを下げ、安価に、安全に、素早く導入ができる」という。

 年次イベントのIntel Innovationでは、コラボレーション型の新しいGetiコンピュータビジョンプラットフォーム(従来のSonoma Creek)により、データサイエンティストから各分野のエキスパートまで、企業の誰もが効果的なAIモデルを、迅速に、容易に開発できる環境を実現。AIの専門知識が不要で、モデルの開発に要する時間とコストの削減にもつなげることができるとしている。

 では、2023年のインテルの取り組みはどうなるのだろうか。

半導体製造の新時代

 土岐氏は、「将来に向けては、3Dパッケージング技術と、2Dのトランジスタの微細化技術が、それぞれに進化することで、高性能化だけでなく、パッケージの小型化などの方向性も見られるだろう。また、より安定して、コストを下げながら、高密度な実装技術を実現するための動きも活発化するだろう。こうした技術進化が進む一方で、インテル全体としては、IDM 2.0に向かって、すべての社員が走り出している。2023年も積極的な発表が続くことになりそうだ」とする。

 2022年のインテルの動きからは目が離せなかったのと同様に、2023年のインテルの動きからも目が離せそうにない。