大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

レッツノートを基幹事業の一角に据えるパナソニック。年間100万台への挑戦に追い風と逆風

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部神戸工場

 パナソニックは、2019年度のPC事業において、同社初となる年間100万台突破を目指す。2018年度実績は、96万台と過去最高を更新。Windows 7のサポート終了や消費増税に伴う需要拡大を追い風に大台突破に挑む。

 パナソニックは、2021年度を最終年度とする中期戦略において、PCを含む現場プロセス事業を「基幹事業」に位置づけており、ここ数年、各社がPC事業をノンコア事業としてきたのとは一線を画すものとも言える。同社のPC事業への取り組みを追った。

パナソニックの中期戦略

 パナソニックは、2021年度を最終年度とする中期戦略を発表した。経営目標には、具体的な売上高や営業利益を掲げることはしなかったが、2021年度以降に、ROE(自己資本利益率)で10%以上を目指すほか、基幹事業において、EBITDA成長率で5~10%、EBITDAマージンで10%以上を目指すとした。

 ここでいう基幹事業とは、パナソニックの利益額を拡大する事業と位置づけており、「空間ソリューション」、「現場プロセス」、「インダストリアルソリューション」の3つの事業を区分している。基幹事業は、2021年度に、売上高で4兆2,000億円、営業利益で2,800億円、EBITDAで3,900億円を目指す。

パナソニックは基幹事業に「空間ソリューション」、「現場プロセス」、「インダストリアルソリューション」の3つの事業を区分

 中期戦略では、基幹事業とは別に、収益性改善を重視する「再挑戦事業」と、地域や他社連携を通じて、競争力の強化を図る「共創事業」を設定し、ここに各事業を分類。パナソニックの津賀一宏社長は、「これによって、ポートフォリオマネジメントを実行する。新中期戦略では、低収益から脱却し、利益を成長軌道に戻すことが重要だと考えている」と語っている。

パナソニックの津賀一宏社長

 中期戦略において、基幹事業の1つに区分された「現場プロセス」は、コネクティッドソリューションズ社が取り組んでいる「現場プロセスイノベーション」が中軸となる。

現場プロセスイノベーションのターゲット
POS端末なども現場プロセスイノベーションを支える

 現場プロセスイノベーションは、パナソニックが製造業で培ってきたノウハウを、外部企業に対して提案。つくる、運ぶ、売るというサプライチェーンプロセス全体を支えるものになる。パナソニックが持つ顔認証技術やロボティクス技術、次世代通信技術、自動化技術などを活用。「単品で販売するのではなく、困りごとから逆算して、技術や製品を組み合わせた提案を行なうことができるのがパナソニックの強みであり、それによって、現場における課題解決を図る」(パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長)という。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

 POS端末や決済端末、ハンディターミナルのほか、レッツノートやタフブックも、現場プロセスイノベーションを支えるデバイスの1つになる。

 コネクティッドソリューションズ社では、社内に現場プロセスイノベーション本部を設置し、20社以上の企業とプロジェクトを進めている段階だ。

 樋口社長は、「PC事業そのものを基幹事業と位置づけているわけではない」と前置きしながらも、「PC事業を含む、現場プロセス事業が基幹事業に区分されたという言い方はできる」として、PC事業が全社の利益拡大の一翼を担うことになる。その点でも、PC事業の収益性はこれまで以上に重視されることになるだろう。

 じつは、パソナニックでは、この1年の間に、レッツノートとタフブックのSKUを大幅に減らしている。正確に言えば、モデル数は減らしていないが、部品などの組み合わせバリエーションを減らしているといったほうがいい。同社によると、すでに半分程度にまで減少。最終的には、3分の1程度にまで減らすという。

 「幅広いニーズに対応するために用意したが、結果として、1台出荷しただけで、そのあとはまったく出ないという構成も多い。そうしたものを削減した」(パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口社長)という。

レッツノートおよびタフブックの基本姿勢
タフブックやレッツノートは顧客の要望をもとに進化を遂げてきた

 こうした取り組みも収益改善には寄与する。さらに、同社の部品倉庫には、子会社化したベルギー本社のゼテスの配送見える化ソリューションを導入したほか、工場内には積極的なロボットの導入などにより効率化を促進。これらも収益改善に貢献することになる。

神戸工場ではロボット化が進んでいる

PC出荷100万台を目指す

 一方、パナソニックは、2019年度のPCの出荷計画を、100万台以上に設定した。達成すれば、同社初の年間100万台突破となる。

 樋口社長によると、2019年度は、レッツノートで42万台以上、タフブックで54万台以上と、いずれも過去最高の更新を目指し、合計で100万台突破を目指す。

 2018年度実績は、レッツノートは42万台、タフブックは54万台の合計96万台と過去最高を更新しており、今年度の事業計画は、これを超えることを目標としている。

 2019年度は、2020年1月のWindows 7のサポート終了に伴う買い替え需要や、2019年10月に見込まれている10%への消費増税前の駆け込み需要、そして、2019年4月から施行されている働き方改革法により、テレワークやモバイルワークに最適化したノートPCの需要増が見込まれるなど、モパイルワーカーに高い支持を得ているレッツノートには追い風とも言える状況が生まれている。

 レッツノートは、約1年前の2018年3月には、企業の年度末需要が集中したことで、品薄状況に陥ったことがあったが、その後の生産体制の強化によって、年間を通じて安定的に供給できる体制を確立。2019年3月に迎えた年度末需要では、前年同期を上回る実績を達成しながら、品薄状況を回避することができたという。

 さらに、現場プロセスイノベーションの提案にあわせて需要が拡大している5型ディスプレイを搭載した頑丈ハンドヘルドの生産増加にあわせて、中国・北京で、同製品の生産を行なう準備を進めており、増産に向けた取り組みにも余念がない。

 2018年度からは、わずか4万台の増加で、年間100万台を達成することになるが、これだけの追い風があれば、まさに射程距離とも言える。

 だが、懸念事項もある。

 とくに、IntelのCPUの供給不足は、PCメーカー各社の出荷台数にも大きな影響をおよぼすと見られている。

 実際、パナソニックにとって、CPU不足が大きく影響した2018年7月~12月は、国内におけるレッツノートのシェアが減少するという事態を引き起こした。

 年間100万台という規模は、パナソニックにとっては初の大台となる規模だが、2018年実績で、NECパーソナルコンピュータや富士通クライアントコンピューティングを含むLenovoグループは約5,900万台の規模を誇るほか、HPは約5,600万台、デルは約4,200万台を出荷。名実ともに「桁違い」となる規模を背景にした部品調達力では大きな差が生まれている。言い換えれば、品不足となっているCPUの調達においては、もともと調達量が少ないパナソニックは、不利な立場にあると言わざるを得ない。

 さらに、2020年1月以降は、特需後の反動によって、市場が縮小するのは明らかで、業界関係者の間では、2020年度のPC需要は、前年比7~8割程度にまで減少すると見られている。

 こうした状況を考えると、2019年度の100万台達成も、需要はあってもCPUの調達次第という外部要因に影響される可能性があること、さらには、2019年度に年間100万台を達成できても、2020年度以降の100万台の規模を維持することが難しいとの見方も出てくる。100万台は、パナソニックにとって、大きな目標であることがわかる。

 先に触れた需要が拡大している5型ディスプレイを搭載した頑丈ハンドヘルドや7型タブレットは、Androidを搭載するとともに、クアルコムのCPUを搭載。IntelのCPU不足の影響を受けないこと、また、日本での出荷減少をカバーするために、タフブックが高い評価を得ている欧米をはじめとする海外での需要拡大によって、成長を維持するといったことも視野に入れている。

 樋口社長は、「これまでは、数字を追わないのがレッツノートおよびパナニックのPCビジネスのやり方だった。だが、2019年度は、需要が集中する今年は、100万台という切りのいい数字にはこだわる」と述べた。だが、その一方で、「2020年度も100万台という数字にこだわるわけではない」とする。

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部長の坂元寛明氏は、「今後、非常にすばらしい製品の投入を予定している。引き続き、尖ったレッツノート、尖ったタフブックを、顧客がもっとも満足できる製品として開発していく」とし、先頃発表した夏モデルとは別に、今年度中に投入する新製品についても期待を持たせる。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部の坂元寛明事業部長

 そして、「オンリーワンと言ってもらえるソフトウェアやサービスを組み合わせることで、圧倒的ナンバーワンと言ってもらえることを目指す」と続け、法人向けサービスの提案による差別化も図る考えだ。

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部では、働き方改革支援サービスとして、PCの操作ログをもとに勤務状況や仕事内容などを見える化することで、働き方を変えることができる「しごとコンパス」を提供。すでに約1万3,000台で利用されているという。また、5月28日には、ストレス推定サービス「きもちスキャン」を、「しごとコンパス」のオプションサービスとして提供することを発表(パナソニック、Webカメラで「こころと身体の元気度」を測定するサービス)。これも、ハードウェアに、ソフトウェアやサービスを組み合わせた提案の1つとなる。

 「ソフトウェアやサービスによって、リカーリング型ビジネスを強化していく。これは、お客様にとっても価値を提供できるだけでなく、収益の安定化においてもプラスになる」(樋口社長)とする。

レッツノートの月額サブスクリプションサービス

 さらに、パナソニックでは、サービスの検討開始をすでに明らかにしている残価設定プランを組み合わせた、月額でのサブスクリプションモデル「レッツノートLCMサービス」も、検討が最終段階に入っており、遅くとも、2019年度内には、サービスを開始する予定だ。早ければ、この夏にもその詳細が明らかになるかもしれない。月額数1,000円で利用できるこの仕組みが導入されれば、2019年度のレッツノートの販売には弾みがつきそうだ。

 もう1つ、今年度の取り組みのなかで注目しておきたいのが、パナソニックが、間接販売ルートの拡充に取り組む姿勢を示している点だ。

 パナソニックは、レッツノートやタフブックの事業においては、大手法人向けの一括販売などを得意としてきた経緯もあり、これまでグループ会社であるパナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)による直販体制が強かった。

 実際、パナソニックからのメッセージも、「ダントツの顧客密着度」、「営業だけでなく、すべての職能者がお客様との接点を持つ」といった表現を用いるなど、主要法人顧客と直接的な接点を持つ強みを強調。主要顧客に直接訪問したり、新技術や新製品を紹介するイベントやコンファレンスを独自に随時開催し、そこから、課題や要望などのフィードバックを得て、次の新製品に反映するといったモノづくりによって、製品を進化させてきた。

パナソニックのレッツノートは顧客との直接接点が強みだ

 パナソニックが早い段階で欧米でのビジネス地盤を築くことができたのも、顧客の要望を反映した堅牢性や軽量化にいち早く着手。それが他社の大きな差別化になった点が見逃せない。

 だが、それは裏返せば、直販指向へと直結し、ディストリビューターやシステムインテグレータを通じた間接販売の展開に、影響をおよぼしてきたとも言える。

 樋口社長は、「現場プロセスイノベーションを推進する上では、パナソニックだけではなにもできない。パートナーとの連携をより強化する必要がある。PCの販売においてもそれは同様である」と語り、「今後、レッツノートやタフブックの間接販売の強化にも乗り出していくことになる」とする。

JCSSAとの取り組み

 先ごろ、レッツノートの生産拠点である兵庫県神戸市のパナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部神戸工場に、法人向けのシステムディーラーやディストリビューター、システムインテグレータなどが加盟している一般社団法人日本コンピュ-タシステム販売店協会(JCSSA)の幹部など18人が訪れ、初めて視察を行なったのも、そうした動きの1つだ(PC販売店協会がパナソニック神戸工場のモノづくりを視察)。

 本誌でも既報のとおり、参加したのは、同協会の大塚裕司会長(=大塚商会社長)や、今年(2019年)6月の次期会長への就任が内定している林宗治副会長(=ソフトクリエイトホールディングス社長)などであり、参加者はパナソニックの国内生産を通じたこだわりのモノづくりや、柔軟なカスタママイズ対応、365日のサポート体制などを見学し、パナソニックの取り組みについて理解を深めた。その成果は大きく、大塚会長は、自らが社長を務める大塚商会から参加した幹部の名前をあげながら、「今後の商談の窓口はそちらに」と、場を和ませながらも、本気とも受け取れる発言をして見せた。

2019年5月にはJCSSAが神戸工場の視察を行なった

 大塚商会は、2018年度実績で、年間118万台のPCを取り扱っている。これは、国内PC市場全体の年間出荷が約1,200万台と言われるなかで、約1割を占める規模だ。法人市場だけを取れば、1社で約15%を占める規模に達する。実際、パナソニックの年間出荷台数よりも多い規模を取り扱っている。それだけの影響力を持った会社が、レッツノートやタフブックを本気になって取り扱うようになれば、業界シェアにも影響をおよぼすことになるだろう。

 パナソニックがJCSSAに加盟したのは、2018年1月のこと。それも、間接販売を重視する姿勢を裏付けるものとなる。

 「中堅、中小企業に、レッツノートやタフブックの価値を伝えるには、チャネルの支援が不可欠だと考えている。今後は、間接販売のパートナーとの緊密な関係を築きたい」と、樋口社長は語る。
 今後は、直販ビジネスとなるPSSJと、間接販売ルートによるパートナーとの関係強化のバランスをどう取っていくのかが、レッツノートおよびタフブックの成長戦略を左右することにもなりそうだ。

 レッツノートシリーズは、1996年6月の第1号製品「AL-N1」を発売以来、23年を経過。その歴史のなかで、モバイルノートPCの代名詞として定着。13型未満のノートPC市場では15年連続でナンバーワンシェアを獲得している。2018年度は、この分野で72%という圧倒的なシェアを維持している。

レッツノートの歴史

 そして、タフブックも、1996年9月に発売した「CF-25」を皮切りとして、利用環境が厳しい現場で利用できる堅牢ノートPCという市場を確立したパイオニアであり、全世界で高い評価を得ている。

 レッツノートとタフブックが、年間100万台という大台を初めて視野に入れるなかで、「現場プロセスイノベーション」や「ソフトウェア/サービス」を軸にした事業戦略と、パートナーとの連携強化によって、次のステップに向けた変化に挑んでいる。