山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
メモリ増量でレスポンス向上。「Fire HD 8(第12世代)」2024年発売モデルを試す
2024年10月18日 06:11
「Fire HD 8(第12世代、2024年発売)」は、Amazonが販売する8型のメディアタブレットだ。2022年に発売された第12世代モデルをベースに、メモリの増量を図った1台だ。
AmazonのFireタブレットにおける「第〇〇世代」は発売年を表すとされており、2011年に発売されたのが第1世代、2023年に発売された「Fire HD 10」は第13世代となるわけだが、今回発売されたFire HD 8は本来ならば第14世代と呼称されるべきところ、従来モデルと同じ第12世代とされている。
これは変更点がメモリ容量のみという事情によるものとみられるが、今回新たに登場した2モデルはストレージ32GBモデルがメモリ3GB、ストレージ64GBモデルがメモリ4GBと、メモリ容量が異なっている上、本稿執筆時点では2022年モデルも併売されているせいで、実にややこしいラインナップとなっている。
今回は筆者が購入したメモリ3GB/ストレージ32GBモデルについて、2022年発売の同じ第12世代モデル(メモリ2GB/ストレージ32GBモデル)との比較を中心に紹介する。
同じ「第12世代」だけで4つのモデル
まずはラインナップの比較から。
Fire HD 8(第12世代 - 2024年発売)メモリ4GBモデル | Fire HD 8(第12世代 - 2024年発売)メモリ3GBモデル | Fire HD 8(第12世代 - 2022年発売) | |
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発売年月 | 2024年10月 | 2024年10月 | 2022年10月 |
サイズ(最厚部) | 201.9×137.3×9.6mm | 201.9×137.3×9.6mm | 201.9×137.3×9.6mm |
重量 | 337g | 337g | 337g |
CPU | 2GHz 6コアプロセッサ | 2GHz 6コアプロセッサ | 2GHz 6コアプロセッサ |
RAM | 4GB | 3GB | 2GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac |
内蔵ストレージ | 64GB (ユーザー領域54GB) | 32GB (ユーザー領域25GB) | 32GB (ユーザー領域25.2GB) 64GB (ユーザー領域54.5GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 13時間 | 13時間 | 13時間 |
スピーカー | ステレオ | ステレオ | ステレオ |
microSDカードスロット | ○(1TBまで) | ○(1TBまで) | ○(1TBまで) |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C |
価格(2024年10月現在) | 1万7,980円 | 1万5,980円 | 1万3,980円(32GB) 1万5,980円(64GB) |
従来のFire HD 8は、メモリ容量が2GBの通常モデルと、メモリ容量が3GBでワイヤレス充電機能も搭載した「Fire HD 8 Plus」の2種類がラインナップされていたが、今回のモデルチェンジでこのPlusモデルが消滅。またメモリ容量は3GB/4GBへと底上げされた。
本稿執筆時点では従来のメモリ2GBモデルも併売されているため、メモリ2GB/3GB/4GBという3つのモデルが存在していることになる。このうちメモリ2GBモデルはストレージ容量が32GBのモデルと、64GBのモデルとがある。ここまでややこしいラインナップもなかなかない。
さてこれらのモデルの違いだが、率直に言って「メモリ容量とストレージ容量が異なるだけ」だ。本体サイズや重量、ボタンやポートの配置はもちろん、画面解像度をはじめとする表示まわりや、バッテリ持続時間、メモリカードの対応容量、Wi-Fiのスペックまでもそっくりだ。外観で見分ける方法については後述する。
ちなみに本製品の兄弟モデルにあたる10.1型の「Fire HD 10」は、2023年に発売になった第13世代モデルでスタイラスによる手書き入力に対応したが、本製品はそうした付加価値も特にない。こうした機能面でのトレンドからも取り残されているのは、少々悲しいものがある。
メモリの増量でレスポンスは大きく向上
セットアップの手順は、細かく見ていくと従来とは順序が入れ替わっている箇所もあるが、フロー自体は一般的で、迷うところはない。
外観で従来の2022年発売モデルと唯一異なるのは背面の加工だ。2022年発売モデルはプラスチック感の強いツルツルとした表面だったのに対して、本製品はFire HD 8 Plusで見られた、細かい凹凸が表面に施されている。
従って2022年発売モデルと2024年発売モデルを見分けるには、この背面の加工を見るのが手っ取り早く、その上でストレージ容量を確認したければ、設定画面でストレージ容量を見ればよい。後年、これら製品の買い替えにあたってモデルを特定しなくてはいけないシーンでは、これら情報が役に立つはずだ。
ホーム画面以下の構成も従来と同様だが、Fireはホーム画面以下のフォントやアイコンが比較的大きいせいで、特に画面を横向きに使う場合は、天地が窮屈に感じられることが多い。必要に応じてこれらの設定を変更しておくことで、画面を広く使えるようになる。
具体的な項目としては、フォントおよびアイコンなどのアイテムサイズの変更、天地を圧迫している「3ボタンナビゲーション」から「ジェスチャーナビゲーション」への変更が挙げられる。またホーム画面の上部にある「続き」のコンテンツを非表示にするのも効果大だ。
いずれにせよ、こうした設定変更ができなかった過去のFireOSと異なり、現行のFireOS 8はずいぶんと融通が利くようになっている。以下のスクリーンショットは縦向きでの画面を紹介しているが、天地が圧迫される横向き表示では、これらの設定変更はより効果的だろう。ジェスチャーナビゲーションだけは人によって好き嫌いが分かれそうなので、試すに当たっては留意してほしい。
さてメモリが増えたことで、操作の快適性はどの程度向上するのだろうか。試しにベンチマークを取ってみたが、従来のメモリ2GBモデル、および上位のメモリ4GBモデルとの差は微々たるもの。CPUが4コアから6コアへと進化した従来モデルではかなりの差が出たが、メモリ容量が増えただけの本製品では、ベンチマークではあまり差が出ないようだ。
ただし実際に操作していると、レスポンスの違いははっきりと分かる。具体的には、アプリを開いたり、アプリを閉じて別のアプリを立ち上げたり、画面を回転させたり、また電子書籍ユースであれば本を閉じてストアを開くといった操作において、2GBモデルが操作から反応までにツーテンポ遅れるところ、本製品はワンテンポで済む。
このあたり、それでもワンテンポは遅れてしまうというのが評価を難しくしているのだが、世代がより古いモデルからの買い替えであれば、今回紹介している3GBモデルでも、体感できるだけの差は十分にある。より明確にレスポンスの向上が目的なのであれば、上位の4GBモデルを狙ったほうがよいだろう。
スマホ以上の大画面を求める人向け。見開き表示にもギリギリ対応
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。
解像度は189ppiと、電子書籍向けのデバイスの中ではもっとも低いレベルに当たり、画像型のコンテンツはもちろんのこと、テキストがメインのコンテンツであっても、表示が粗いと感じることは多い。スマホのように300~400ppiが当たり前の高解像度デバイスに目が慣れてしまっていると、かなりキツいだろう。
もっともスマホでは画面が小さすぎて疲れるというユーザーにとっては、たとえ解像度は低くても、スマホよりもはるかに大きい本製品の画面サイズはメリットだろう。自宅でリラックスして使うにはちょうどよい。
また本製品よりもさらに一回りコンパクトな7型の「Fire 7」は、コミックの見開き表示は現実的に難しいので、ギリギリ見開き表示が可能なデバイスを探しているユーザーにもよい選択肢だろう。ただしあくまでエントリー向けの域を出ず、予算さえ工面できるようならば本製品の2倍近い326ppiという解像度の「iPad mini」などを選んだほうが満足度が高いであろうことは言うまでもない。
ちなみに本製品は、画面の分割表示にも対応している。最近のタブレットではよく見かける機能で、電子書籍を見ながらブラウザでWikipediaを参照したり、Webページを表示しながらSNSのタイムラインを参照するといった使い方ができるのだが、さすがに本製品の画面サイズと解像度では、厳しいと言わざるを得ない。利用シーンはかなり限られると考えたほうがよいだろう。
購入時にモデルを取り違えないように注意
本製品は2024年発売ながら2022年モデルと世代名が同一というイレギュラーな製品だが、相違点がメモリ容量だけという点から、新しい世代名を冠したくなかったのは確かに理解できる。
ただややこしいのは、本稿で用いた「メモリ3GB/ストレージ32GBモデル」といった個別のモデルを識別できる名前を公式が用意していない上、本稿執筆時点では2022年発売モデルも併売されていることだ。一応メモリ2GB/3GB/4GBモデルという分け方は可能だが、この場合、2GBモデルはストレージ容量が2種類あるときている。将来的にラインナップを振り返った時、混乱するのは必至だ。
こうした場合にユーザーにとっては重要なのは、購入時にモデルを取り違えないことだろう。現時点での実売価格は、メモリ2GB/ストレージ32GBモデルが1万3,980円、メモリ2GB/ストレージ64GBモデルが1万5,980円(ここまで2022年発売モデル)、メモリ3GB/ストレージ32GBモデルが1万5,980円、メモリ4GB/ストレージ64GBモデルが1万7,980円。
以上のように実売価格はきちんとスペックを反映して辻褄の合う額になっているが、それでもここにセール価格などが絡んでくると、メモリ3GB/4GBモデルだと勘違いしてメモリ2GBモデルを買ってしまうなどのミスは十分に起こり得る。コスパのよさが失われると元も子もないので、購入にあたってはメモリとストレージの容量をしっかりと確認することをおすすめしておきたい。