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メモリ増量でレスポンス向上。「Fire HD 8(第12世代)」2024年発売モデルを試す

「Fire HD 8(第12世代、2024年発売)」。実売価格は1万5,980円から

 「Fire HD 8(第12世代、2024年発売)」は、Amazonが販売する8型のメディアタブレットだ。2022年に発売された第12世代モデルをベースに、メモリの増量を図った1台だ。

 AmazonのFireタブレットにおける「第〇〇世代」は発売年を表すとされており、2011年に発売されたのが第1世代、2023年に発売された「Fire HD 10」は第13世代となるわけだが、今回発売されたFire HD 8は本来ならば第14世代と呼称されるべきところ、従来モデルと同じ第12世代とされている。

 これは変更点がメモリ容量のみという事情によるものとみられるが、今回新たに登場した2モデルはストレージ32GBモデルがメモリ3GB、ストレージ64GBモデルがメモリ4GBと、メモリ容量が異なっている上、本稿執筆時点では2022年モデルも併売されているせいで、実にややこしいラインナップとなっている。

 今回は筆者が購入したメモリ3GB/ストレージ32GBモデルについて、2022年発売の同じ第12世代モデル(メモリ2GB/ストレージ32GBモデル)との比較を中心に紹介する。

同じ「第12世代」だけで4つのモデル

 まずはラインナップの比較から。

Fire HD 8(第12世代 - 2024年発売)メモリ4GBモデルFire HD 8(第12世代 - 2024年発売)メモリ3GBモデルFire HD 8(第12世代 - 2022年発売)
発売年月2024年10月2024年10月2022年10月
サイズ(最厚部)201.9×137.3×9.6mm201.9×137.3×9.6mm201.9×137.3×9.6mm
重量337g337g337g
CPU2GHz 6コアプロセッサ2GHz 6コアプロセッサ2GHz 6コアプロセッサ
RAM4GB3GB2GB
画面サイズ/解像度8型/1,280×800ドット(189ppi)8型/1,280×800ドット(189ppi)8型/1,280×800ドット(189ppi)
通信方式802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ64GB (ユーザー領域54GB)32GB (ユーザー領域25GB)32GB (ユーザー領域25.2GB)
64GB (ユーザー領域54.5GB)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)13時間13時間13時間
スピーカーステレオステレオステレオ
microSDカードスロット○(1TBまで)○(1TBまで)○(1TBまで)
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
価格(2024年10月現在)1万7,980円1万5,980円1万3,980円(32GB)
1万5,980円(64GB)

 従来のFire HD 8は、メモリ容量が2GBの通常モデルと、メモリ容量が3GBでワイヤレス充電機能も搭載した「Fire HD 8 Plus」の2種類がラインナップされていたが、今回のモデルチェンジでこのPlusモデルが消滅。またメモリ容量は3GB/4GBへと底上げされた。

 本稿執筆時点では従来のメモリ2GBモデルも併売されているため、メモリ2GB/3GB/4GBという3つのモデルが存在していることになる。このうちメモリ2GBモデルはストレージ容量が32GBのモデルと、64GBのモデルとがある。ここまでややこしいラインナップもなかなかない。

 さてこれらのモデルの違いだが、率直に言って「メモリ容量とストレージ容量が異なるだけ」だ。本体サイズや重量、ボタンやポートの配置はもちろん、画面解像度をはじめとする表示まわりや、バッテリ持続時間、メモリカードの対応容量、Wi-Fiのスペックまでもそっくりだ。外観で見分ける方法については後述する。

 ちなみに本製品の兄弟モデルにあたる10.1型の「Fire HD 10」は、2023年に発売になった第13世代モデルでスタイラスによる手書き入力に対応したが、本製品はそうした付加価値も特にない。こうした機能面でのトレンドからも取り残されているのは、少々悲しいものがある。

外観は2022年発売のメモリ2GBモデルと違いはない。横向きでの利用を前提としたデザインで、前面カメラは上部に配置されている
ベゼル幅は均等なので、カメラが横位置になることさえ許容すれば、縦向きでの利用にも違和感はない
背面は細かな凹凸がある。これはFire HD 8 Plus譲りの意匠で、2022年発売のメモリ2GBモデルにはなかったもの
電源ボタン、音量調整ボタン、USB Type-Cポート、イヤホンジャックは右側面に集中している。左側面には何もない
底面にはスピーカー2基を備える
最大1TBのmicroSDをサポートする
重量は実測332g。公称ベースでは337gで従来と同じ

メモリの増量でレスポンスは大きく向上

 セットアップの手順は、細かく見ていくと従来とは順序が入れ替わっている箇所もあるが、フロー自体は一般的で、迷うところはない。

セットアップ開始。まずは言語を選択
Wi-Fiを選択したのち、パスワードを入力して接続する
国と地域を選択する。新たに追加された画面で、言語選択の画面とは別に用意されている
Amazonのアカウントを入力して登録する。このあと機能紹介動画が流れる
位置情報や写真の自動保存などのオプションを選択する。以前とは画面の順序が若干入れ替わっているが、理由は不明
アップデートを実行したあと、子ども向けプロフィールを作るか否かを尋ねられる
ロック画面を解除するためのPINかパスワードを設定するよう求められる。このあとAudibleの無料体験画面が挟まる
Alexaのハンズフリーモードを使うか尋ねられるので必要に応じて選択。以上でセットアップは完了

 外観で従来の2022年発売モデルと唯一異なるのは背面の加工だ。2022年発売モデルはプラスチック感の強いツルツルとした表面だったのに対して、本製品はFire HD 8 Plusで見られた、細かい凹凸が表面に施されている。

 従って2022年発売モデルと2024年発売モデルを見分けるには、この背面の加工を見るのが手っ取り早く、その上でストレージ容量を確認したければ、設定画面でストレージ容量を見ればよい。後年、これら製品の買い替えにあたってモデルを特定しなくてはいけないシーンでは、これら情報が役に立つはずだ。

左が本製品、右が2022年発売のメモリ2GBモデル。外観は同じで、設定画面でのモデル名も同一なので判別がつかない
外見面の唯一の相違は背面のパターンの有無。これで見分けるのがベターだ
背面のアップ。本製品(左)は細かい凹凸が施されている
2022年発売のメモリ2GBモデルはちょっとした摩擦で跡が残ることもしばしばだったので今回のモデルのように凹凸があると目立ちにくくプラスだ
同梱品一覧。USB Type-A→Type-Cケーブル、充電器が付属する
USB充電器の型番は「FANA7R」。5W仕様、ポートはUSB Standard A

 ホーム画面以下の構成も従来と同様だが、Fireはホーム画面以下のフォントやアイコンが比較的大きいせいで、特に画面を横向きに使う場合は、天地が窮屈に感じられることが多い。必要に応じてこれらの設定を変更しておくことで、画面を広く使えるようになる。

 具体的な項目としては、フォントおよびアイコンなどのアイテムサイズの変更、天地を圧迫している「3ボタンナビゲーション」から「ジェスチャーナビゲーション」への変更が挙げられる。またホーム画面の上部にある「続き」のコンテンツを非表示にするのも効果大だ。

 いずれにせよ、こうした設定変更ができなかった過去のFireOSと異なり、現行のFireOS 8はずいぶんと融通が利くようになっている。以下のスクリーンショットは縦向きでの画面を紹介しているが、天地が圧迫される横向き表示では、これらの設定変更はより効果的だろう。ジェスチャーナビゲーションだけは人によって好き嫌いが分かれそうなので、試すに当たっては留意してほしい。

設定を変更することでホーム画面が広く使えるようになる。左がデフォルトのホーム画面、右が設定変更後のホーム画面
まずは設定の「ディスプレイ」を開く
「フォントサイズ」が、2段階目になっているのを1段階目に変更する
「表示サイズ」も、2段階目になっているのを1段階目に変更する
続いて設定画面で「端末オプション」を開く
「システムナビゲーション」で、「3ボタンナビゲーション」を「ジェスチャーナビゲーション」に変更する
さらに「アプリと通知」→「Amazonアプリケーションの設定」を開く
「ホーム画面」を開き、「おすすめ」および「続き・もっと見る」のチェックを外す

 さてメモリが増えたことで、操作の快適性はどの程度向上するのだろうか。試しにベンチマークを取ってみたが、従来のメモリ2GBモデル、および上位のメモリ4GBモデルとの差は微々たるもの。CPUが4コアから6コアへと進化した従来モデルではかなりの差が出たが、メモリ容量が増えただけの本製品では、ベンチマークではあまり差が出ないようだ。

ベンチマークスコアの比較。左から2022年発売の2GBモデル、今回発売の3GBモデル、今回発売の4GBモデル(以下同じ)。「Google Octane」ではスコアはメモリ容量に比例している
「GeekBench 5」では誤差レベルの違いしかない

 ただし実際に操作していると、レスポンスの違いははっきりと分かる。具体的には、アプリを開いたり、アプリを閉じて別のアプリを立ち上げたり、画面を回転させたり、また電子書籍ユースであれば本を閉じてストアを開くといった操作において、2GBモデルが操作から反応までにツーテンポ遅れるところ、本製品はワンテンポで済む。

 このあたり、それでもワンテンポは遅れてしまうというのが評価を難しくしているのだが、世代がより古いモデルからの買い替えであれば、今回紹介している3GBモデルでも、体感できるだけの差は十分にある。より明確にレスポンスの向上が目的なのであれば、上位の4GBモデルを狙ったほうがよいだろう。

ちなみに本製品とメモリ容量が同じ「Fire HD 8 Plus」(右)は、「Google Octane」でのスコアは本製品よりかなり高い
一方の「GeekBench 5」ではやはり誤差レベルだ

スマホ以上の大画面を求める人向け。見開き表示にもギリギリ対応

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。

 解像度は189ppiと、電子書籍向けのデバイスの中ではもっとも低いレベルに当たり、画像型のコンテンツはもちろんのこと、テキストがメインのコンテンツであっても、表示が粗いと感じることは多い。スマホのように300~400ppiが当たり前の高解像度デバイスに目が慣れてしまっていると、かなりキツいだろう。

 もっともスマホでは画面が小さすぎて疲れるというユーザーにとっては、たとえ解像度は低くても、スマホよりもはるかに大きい本製品の画面サイズはメリットだろう。自宅でリラックスして使うにはちょうどよい。

 また本製品よりもさらに一回りコンパクトな7型の「Fire 7」は、コミックの見開き表示は現実的に難しいので、ギリギリ見開き表示が可能なデバイスを探しているユーザーにもよい選択肢だろう。ただしあくまでエントリー向けの域を出ず、予算さえ工面できるようならば本製品の2倍近い326ppiという解像度の「iPad mini」などを選んだほうが満足度が高いであろうことは言うまでもない。

画面は単行本サイズ。テキストコンテンツは縦表示が望ましい
テキストコンテンツは横表示も可能だが、1行の文字数が少なく見慣れないため読みづらい
コミックは縦向きだと単行本とほぼ同じサイズになる
コミックは画面を横向きにして見開き表示もギリギリ可能
コミックの見開き表示では、1ページのサイズはiPhone 16 Pro Max(右)の単ページ表示よりもひとまわり大きいので、決して小さいわけではない
ただし残念ながら解像度はいまいち。左が本製品(189ppi/見開き表示時)、右がiPhone 16 Pro Max(460ppi)
とはいえFire 7(下)だと、見開き表示でのページサイズはスマホ以下になってしまうので、それよりははるかにマシだ

 ちなみに本製品は、画面の分割表示にも対応している。最近のタブレットではよく見かける機能で、電子書籍を見ながらブラウザでWikipediaを参照したり、Webページを表示しながらSNSのタイムラインを参照するといった使い方ができるのだが、さすがに本製品の画面サイズと解像度では、厳しいと言わざるを得ない。利用シーンはかなり限られると考えたほうがよいだろう。

画面を2分割して表示できる。最近のタブレットでは多く搭載されている機能だ
分割比率は2:1、1:1、1:2の3通り。境界線は指先でドラッグして動かす
分割手順。まずタスクボタンを押して起動中のアプリを表示し、上部のアイコンから「画面を分割」を選択
境界線が出現し、起動中のアプリが左側に追いやられるので、右側の画面で新たにアプリを起動する
起動完了。なお同じアプリを2つ起動することはできない
試した限り、片方のアプリを終了した時に余白がそのまま残ってしまう場合がある。画面をいったん縦向きにして元に戻すと正常な状態になる

購入時にモデルを取り違えないように注意

 本製品は2024年発売ながら2022年モデルと世代名が同一というイレギュラーな製品だが、相違点がメモリ容量だけという点から、新しい世代名を冠したくなかったのは確かに理解できる。

 ただややこしいのは、本稿で用いた「メモリ3GB/ストレージ32GBモデル」といった個別のモデルを識別できる名前を公式が用意していない上、本稿執筆時点では2022年発売モデルも併売されていることだ。一応メモリ2GB/3GB/4GBモデルという分け方は可能だが、この場合、2GBモデルはストレージ容量が2種類あるときている。将来的にラインナップを振り返った時、混乱するのは必至だ。

 こうした場合にユーザーにとっては重要なのは、購入時にモデルを取り違えないことだろう。現時点での実売価格は、メモリ2GB/ストレージ32GBモデルが1万3,980円、メモリ2GB/ストレージ64GBモデルが1万5,980円(ここまで2022年発売モデル)、メモリ3GB/ストレージ32GBモデルが1万5,980円、メモリ4GB/ストレージ64GBモデルが1万7,980円。

 以上のように実売価格はきちんとスペックを反映して辻褄の合う額になっているが、それでもここにセール価格などが絡んでくると、メモリ3GB/4GBモデルだと勘違いしてメモリ2GBモデルを買ってしまうなどのミスは十分に起こり得る。コスパのよさが失われると元も子もないので、購入にあたってはメモリとストレージの容量をしっかりと確認することをおすすめしておきたい。