山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Googleの6.8型ハイエンド大画面スマホ「Pixel 9 Pro XL」、電子書籍での使い勝手は従来モデルとどう変わった?

「Pixel 9 Pro XL」。今回筆者が購入したのはSIMフリーの256GBモデル、カラーはPorcelain

 Googleの「Pixel 9 Pro XL」は、Android 14を搭載した6.8型のスマートフォンだ。新たに発表された「Pixel 9」シリーズの中ではもっともハイエンドかつ大画面のフラグシップモデルで、同社のAIサービス「Gemini」に最適化されているのが大きな目玉だ。

 AIまわりの機能が何かとクローズアップされる本製品だが、実際の利用においてはすべてにAIが関わるわけではなく、それらを省いた従来モデルからの純粋な進化が気になるという人も多いだろう。特に電子書籍ユースにおいては、AIによる直接的な恩恵を被るわけではないのでなおさらだ。

 今回は筆者が購入した実機を用い、電子書籍ユースにおける使い勝手を、従来モデルに当たるPixel 8 Proと比較する。

筐体デザインが一新。ハードウェアスペックは順当に向上

 まずは従来モデルにあたるPixel 8 Proとの比較から。

Pixel 9 Pro XLPixel 8 ProPixel 7 Pro
発売年月2024年8月2023年10月2022年10月
サイズ76.6×162.8×8.5mm76.5×162.6×8.8mm76.6×162.9×8.9mm
重量221g213g212g
CPUGoogle Tensor G4
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
Google Tensor G3
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
Google Tensor G2
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
RAM16GB12GB12GB
ストレージ128/256/512GB128/256/512GB128/256/512GB
画面サイズ/解像度6.8型/2,992×1,344ドット(486ppi)6.7型/2,992×1,344ドット(489ppi)6.7型/3,120×1,440ドット(512ppi)
Wi-FiWi-Fi 7(802.11be)802.11ax802.11ax
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
防水防塵IP68IP68IP68
生体認証指紋認証(画面内)、顔認証指紋認証(画面内)、顔認証指紋認証(画面内)、顔認証
駆動時間/バッテリ容量最小4,942mAh
標準5,060mAh
最小4,950mAh
標準5,050mAh
標準 5,000mAh

 従来のPixelシリーズは、無印が標準モデル、「Pro」がつくのが大画面かつハイエンドモデルという位置づけだったが、今回のPixel 9はハイエンドの標準サイズが「Pro」、ハイエンドの大画面モデルが「Pro XL」という表記に改められた。従ってPixel 9 Proではなく、今回紹介するPixel 9 Pro XLこそが、従来のPixel 8 Proの後継ということになる。

 そんな本製品は、筐体のデザインが従来から一新されている。背面のカメラ部は、側面から連なる曲線主体のカメラバーが廃止され、段差をむしろ強調するような、レンズ部が突出したデザインへと変更されている。従来よりも大きくなった段差をなるべく目立たせないという意図もあるのかもしれない。

 サイズや重量は多少の違いはあるが、これはデザイン変更に起因するもので、使い勝手に影響を与えるレベルではない。とはいえ、重量がさらに増し(公称221g。従来は213g)、ライバルとなるiPhone 15 Pro Max(公称221g)と横並びになったのはマイナスだ。わずかであっても軽いというアドバンテージを、自ら潰してしまった格好だ。

 そのほかは順当なスペックアップで、CPUはTensor G3からG4へと変更されているほか、Wi-Fiは802.11be(Wi-Fi 7)に初対応。またUSB PDによる急速充電も最大37Wへと高速化されている。ちなみにメモリも12GBから16GBへと増量されているが、この増加分は本製品の売りであるAI処理に割り当てられているようで、パフォーマンスへの影響はあまりみられない。詳しくはベンチマークの項で後述する。

 なお従来モデルでは、USB Type-Cポートを挟んでスピーカーらしき穴が左右に配置されていたが、本製品は右側の穴がSIMカードスロットへと変更されている。これだけ見るとスピーカーが2基から1基になったように見えるが、実は従来のPixel 8 Proでも右側の穴からは音が出ておらず、また本体を横向きにした場合は上部のスピーカーと合わせてステレオ再生が可能なので、機能が後退したわけではない。

左が本製品、右がPixel 8 Pro。サイズはミリ単位では変わっているが、ほとんど判別はつかない
背面。カメラバーのデザインが大きく変わっているのが外見上の最大の相違点だ
上が本製品、下がPixel 8 Pro。カメラ部だけでなく側面のデザインも大きく変更されている。電源ボタン、音量ボタンはやや上へと移動している
本製品(上)はUSB Type-Cポートの隣にSIMスロットが配置されている。底面のスピーカーが1基なのは従来モデルと変わらない
重量は実測223g。従来は実測213gで、さらに重くなったことになる

ベンチマークスコアは数%~十数%の微増。見た目はiPhone?

 では実機を見ていこう。本製品はカメラバーまわりのデザインが大きく変更されていることに加えて、従来は丸みを帯びていた側面が、垂直にカットされたデザインへと変更されている。これはかつてiPhone 12→13にかけて起こったデザインの変更に酷似している。

 もっともそのせいで、数値上は8.9mm→8.5mmと薄くなっているはずの筐体が、実際に手に持つとむしろ厚みが増したように感じてしまう。従来モデルは側面が丸みを帯びていることで、背面全体を薄く錯覚させる効果があったということだろう。背面中央付近だけを比較すると、確かに本製品のほうが薄いことから、体感的な厚みはデザインに大きく左右されることを実感させられる。

 一方で側面が垂直にカットされたデザインになったことで、うつ伏せの状態から持ち上げる時に指先でつまみやすくなっている。ツルッと滑って落とすことも減り、ハンドリング面はより容易になった。

上が本製品、下がPixel 8 Pro。側面から背面にかけてカーブしていたのが、本製品はほぼ垂直にカットされている
左が本製品、右がPixel 8 Pro。本製品のほうが厚みがあるように見えるが、これはデザイン上の錯覚で、ロゴのある中央付近の厚みで比較すると本製品のほうがわずかに薄い

 こうしたデザイン変更の結果として、本製品はiPhone 15 Pro Maxと酷似した外見を持つに至っている。カメラ周りこそまったく異なるデザインだが、垂直にカットされた側面はもちろん、継ぎ目部分の樹脂パーツ、さらに厚みなどは、見るからにそっくりだ。画面を消灯した状態で正面から見ると、まったく見分けがつかないほどで、両者さまざまなデザインを試した結果たどり着いた先がほぼ同じというのは興味深くはある。

iPhone 15 Pro Max(右)との比較。前面カメラ部などの違いはあるが、サイズ感やベゼルまわりの見た目は酷似している
背面。カメラまわりのデザインはまったく異なる
断面の比較。厚みも含めてよく似ていることが分かる
側面は本製品(上)が光沢、iPhone 15 Pro Max(下)は非光沢という違いはあるが、垂直であることや、継ぎ目部分の樹脂パーツなど、見た目はそっくりだ

 ベンチマークについては、どのアプリやツールを使ってもスコアはおおむね数%~十数%の微増といったところ。ラインナップの中ではハイエンドだが、パフォーマンスよりもAIの処理速度にフォーカスした製品ということで、このスコアはある意味で納得がいく。

Google Octane 2.0での比較は「54262」。従来モデルの「52263」に対して3.8%増
3DMark Wild Lifeでの比較は「8909」。従来モデルの「8252」に対して8.0%増
Geekbench 6(CPU)の比較は、シングルコアが「1975」、マルチコアが「4403」。従来モデルの「1740」「3792」に対してそれぞれ13.5%増、16.1%増
Geekbench 6(GPU)での比較は「6567」。従来モデルの「5502」に対して19.4%増

単ページ表示に適したサイズ・解像度。気になるのは重さ

 さて本題、電子書籍ユースにおける使い勝手について見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。

 画面サイズは6.8型。電子書籍においてはコミックの単ページ表示は可能だが、見開き表示には厳しいサイズだ。解像度は486ppiと高精細なので、クオリティ面の問題はまったくない。雑誌など判型が大きいコンテンツを表示した場合でも、細かい文字を拡大せずに読むこともできる。

 画面の明るさも3,000cd/平方m(ピーク輝度)と十分。もっとも直射日光下で読書するのでもない限り、電子書籍ユースでここまで輝度を高くすることは考えにくいので、最大輝度が低い他製品と比較して、強力なアドバンテージになるというわけでもない。最大輝度が明るいぶん輝度を下げた時のバッテリの持ちがよくなる可能性はあるかもしれない。

コミックを表示した状態。天地に大きな余白が生じるが、これは従来モデルも含め、昨今のスマホに共通する傾向だ
左が本製品、右が従来のPixel 8 Pro。表示サイズも同等だ
iPhone 15 Pro Max(右)との比較。表示サイズは本製品のほうがわずかに小さいが、あくまでも誤差レベルだ
画質の比較。左から、本製品(486ppi)、Pixel 8 Pro(489ppi)、iPhone 15 Pro Max(460ppi)。いずれも解像度は高く、目視で分かるような差はない
画面幅は70mm。これは従来のPixel 8 Proと同等だ
見開き表示は、解像度的には無理というわけではないが、表示サイズが小さすぎて実用性は低い

 テキストコンテンツについては、画面が縦に長いせいで視線の移動距離も長く、そのままでは目が疲れやすい。上下に余白を設け、視線移動が短距離で済むよう調整してやるとよいだろう。このあたり、上下の余白が大きいとせっかくの大画面が無駄に見えるが、天地いっぱいまで表示すると視線移動に疲れるという、相反した性質があるのは、昨今のどのスマホも同様だ。

 やや気になったのが、画面の四隅が従来モデルよりも丸みを帯びており、そのぶん非表示部分が広くなっていることだ。実際には、この四隅ギリギリまで電子書籍のページが表示されることはあまりないので、実害はほぼないのだが、画面が真四角であれば表示されるはずの部分が見えないこと、またその面積が今回のモデルチェンジで広くなったのはやや気がかりだ。

テキストの比較。従来モデル(右)と違いは見られない。画面が上下に長いため、1行の文字数が多くなり、視線移動の距離が長くなるのが玉に瑕だ
iPhone 15 Pro Max(右)は本製品よりも天地がわずかに短く表示される。クオリティ自体は同等だ
左が本製品、右が従来のPixel 8 Pro。本製品のほうが画面隅が丸みを帯びているため、ページの角で隠れる部分の面積が増している。あまりよい傾向ではない

 以上のように、雑誌のような大判のコンテンツは別にして、電子書籍を楽しむことに大きな支障はないのだが、やはり気になるのは公称221gという重量だ。画面の大きさが求められるコミックはさておき、読書の対象が主にテキストであれば、もう少し小型かつ軽量な端末をチョイスしたほうが、快適な読書が楽しめるかもしれない。

 また本製品はMagSafeと互換性があるワイヤレス充電規格「Qi2」の搭載が見送られており、背面にマグネットで吸着させられるMagSafe互換のベルトやバンドなどのツールは利用できない。搭載されていればほかのAndroidスマホとの差別化要因になり得たポイントを自ら手放しているのは、少々もったいない。端末の保持しやすさが重視される電子書籍ユースではなおさらだ。

設定画面の比較。左が本製品、右が従来のPixel 8 Pro(以下同じ)。従来と同じく、リフレッシュレートを最大120Hzへと変更するスムーズディスプレイに対応している
タッチの感度は、新たに「アダプティブタッチ」なる項目が追加されている。このほかタッチに不具合があった時に対処法を探せる「タッチ診断」なる画面も追加されている
解像度は従来と同じく、デフォルトの高解像度だけでなく、最大解像度も選択できる。本稿では設定を後者に変更した上で試用している

電子書籍ユースで致命的な欠点はなし。ネックは価格か

 以上のように、電子書籍ユースにおいては基本性能は高く、またiPhoneと比べると音量ボタンでのページめくりが可能だったり、指紋認証でこまめにロック解除できる強みもある。本製品にしかない特徴はなく、積極的に選ぶべき理由は見当たらないが、致命的な欠点があるわけではないので、総合的に判断して本製品をチョイスするのであれば、電子書籍を楽しむことに障害はない。

指紋認証および顔認証は、項目としては変化していないが、指紋認証はよりスムーズに行なえるよう改良されている

 ネックとなるのは価格だ。最小容量の128GBモデルは17万7,900円ということで、従来のPixel 8 Pro(15万9,900円)との比較ではプラス1万8,000円。このPixel 8 Proにしても、その前のPixel 7 Pro(12万4,300円)から見てプラス3万5,600円アップしているので、2世代前との比較では5万円以上も値上がりしており、かつてのリーズナブルさは見る影もない。このあたりを納得して購入できるかどうかが、1つの分岐点となるだろう。

 なお本製品の売りであるAIを用いた機能だが、電子書籍ユースにおいては特に関与する部分は見られない。今後AIがより浸透してくれば、電子書籍ユースでも何らかの恩恵を被る可能性はあるが(たとえばKindleで登場人物やキーワードを本文から抜き出して整理できるX-ray機能などはそれに近いだろう)、それはまだまだ先の話と言えそうだ。